
属人化とは、特定の業務を遂行できるのが一部の従業員に限定されている状態のことです。専門性の高い業務では属人化が進みやすい傾向にあり、担当者の急な退職や休職によって業務が滞ってしまう可能性があります。また、担当者に依存するあまり、長時間労働を強いてしまうことも起こり得るでしょう。
属人化を解消して複数の従業員が同様に対応できる状態になれば、業務の遅れや品質低下のリスクを軽減できます。本記事では、属人化が生じる原因やリスク、解消する手順などを紹介します。
目次
- 属人化とは
- 属人化の対義語
- 属人化とスペシャリストの違い
- 属人化が生じる原因
- 多忙で情報共有ができていない
- 業務の専門性が高い
- 個人の成果が評価される体制になっている
- ノウハウ共有や教育の体制が整っていない
- 属人化のデメリットとリスク
- 退職や休職で業務が滞る可能性がある
- 顧客満足度が低下する恐れがある
- 社内にノウハウが共有されない
- 適正な評価をするのが難しくなる
- 業務負荷のバランスが悪化する
- 属人化のメリット
- 担当者の専門性が高まる
- 担当者のモチベーションが向上する
- 属人化を防ぐべき業務
- バックオフィス業務
- トラブル・クレーム対応業務
- 商品・サービス説明業務
- プロジェクト管理業務
- 属人化を解消する手順
- STEP1.属人化を解消する目的を共有する
- STEP2.属人化している業務を洗い出す
- STEP3.業務マニュアルを作成する
- STEP4.定期的に業務フローを見直す
- STEP5.ツールの導入を検討する
- まとめ
- よくある質問
属人化とは
属人化とは、特定の業務を遂行できるのが一部の従業員に限定されている状態のことです。組織内でスキルやノウハウが共有されず、業務が特定の従業員に集中することで属人化は発生します。属人化が生じると業務内容がブラックボックス化し、他の従業員が対応・評価できなくなってしまいます。
確かに、属人化によって担当者の専門性が高まるメリットも考えられるでしょう。しかし、担当者の退職や長期休暇の際には、業務が滞ったり品質が低下したりするリスクも大きいと考えられます。
属人化の対義語
属人化の対義語は「標準化」です。標準化とは、業務が特定の従業員に依存せず、誰が担当しても一定の品質を維持できる状態を指します。
標準化が進むと、特定の従業員への過度な負担が軽減されます。また、急な休職や退職が発生しても、他の従業員がスムーズに業務を引き継ぐことができるでしょう。その結果、組織としての安定性が高まり、業務の継続性を確保できる状態になります。
属人化とスペシャリストの違い
属人化が特定の業務をある従業員に依存している状態であるのに対し、スペシャリストとは特定の分野において高い専門性や技術を持った人材のことです。スペシャリストは自らの知識やスキルを可視化し、他の従業員に共有することもできます。
また、スペシャリストが担う業務とは異なり、属人化している業務は必ずしも高度な専門性を必要とするものではありません。情報共有などが不足しているために、特定の従業員しか業務を行えない状況になっている可能性もあります。
属人化が生じる原因
属人化が生じる原因を把握できれば、適切な解決策を講じることが可能です。属人化が生じる原因を4つ紹介します。
多忙で情報共有ができていない
属人化を防ぐためには、業務に関する情報やノウハウを社内で共有し、複数の従業員が対応できる状態にすることが必要です。しかし、日々の業務に追われていると、目の前のタスクをこなすことで精一杯になり、情報共有に割く時間を確保できなくなります。
特に、人手不足によって1人で複数の業務を担当せざるを得ない状況では、属人化が起きやすくなります。また、経理における月末・月初のように繁忙期が決まっている職種の場合、仕事量が増えてからではさらに情報共有の時間を確保しにくくなるので気をつけましょう。
【関連記事】
経理は忙しすぎる!?忙しさを解消する方法や経理業務の繁忙期をわかりやすく解説
業務の専門性が高い
高度な専門性を要する業務は、遂行できる従業員が限られてしまうため、属人化が進みやすい傾向にあります。専門性が高いと特定の知識や経験が必要となり、マニュアルを作成しても読んだだけで対応するのは困難です。
たとえば、プログラミングやセキュリティ分野の業務は、技術的な知識だけでなく状況に応じた判断が必要となります。このような業務は習得に時間がかかり、教育コストも高くなりがちです。専門性の高い業務では、計画的な人材育成や複数人で担当する体制の構築が欠かせません。
【関連記事】
経理の仕事は難しい?業務内容や業務を効率化する方法について解説
個人の成果が評価される体制になっている
評価制度も属人化を生む原因になります。個人の成果や実績が評価の中心となる組織では、従業員が自分のスキルや専門性を高めることに注力する可能性があります。その結果、知識やノウハウを他の従業員と共有することが後回しとなり、属人化が進んでしまいます。
また、自分にしかできない業務を持つことが評価につながると考える社員が出てくるかもしれません。このような状況を防ぐためには、個人の成果だけでなく、課や部署単位での成績を評価する制度を取り入れることが効果的です。
ノウハウ共有や教育の体制が整っていない
属人化を防ぐためには、マニュアルや教育体制を整えることが大切です。しかし、属人化が生じている多くの組織ではこのような体制が十分に整っていません。たとえマニュアルが作られていても、定期的に更新されていなければ、業務に活かしにくくなります。
また、マニュアルの内容が分かりにくかったり、必要な時にすぐ見つけられない場所に保管されていたりする状態も避けましょう。口頭での説明やOJTによる実践的な指導に加え、わかりやすいマニュアルを整備することで、担当者でなくても業務を滞りなく進められる環境を構築できます。
属人化のデメリットとリスク
属人化が進むと、組織にさまざまな影響をもたらします。属人化が進むことで生じるデメリットとリスクを5つ紹介します。
退職や休職で業務が滞る可能性がある
属人化は特定の従業員に業務を依存している状態のため、その社員が退職や休職した場合に業務が滞る可能性があります。また、病気による休職や長期休暇、異動などでも同様の問題が発生するでしょう。
代わりの従業員が対応できたとしても、業務の品質が下がるかもしれません。マニュアルや引き継ぎが不十分な状態では、適切な判断や迅速な対応ができず、業務効率の低下を招きます。業務が滞ることを防ぐためにも、各業務に複数の担当者を配置できると安心です。
顧客満足度が低下する恐れがある
顧客対応や商品・サービスの説明が特定の従業員に属人化していると、担当者が不在の際に対応が遅れ、顧客満足度が低下する恐れがあります。適切な対応ができなかった場合、顧客の信頼を損ない、クレームにつながるケースも考えられるでしょう。
顧客からの信頼を維持するためには、誰が対応しても同じように問題解決できる体制を構築することが大切です。
社内にノウハウが共有されない
属人化が進むと、業務に関する貴重なノウハウや経験が特定の社員だけにとどまり、組織全体で共有されません。その結果、他の従業員の成長機会が失われ、組織力向上を逃してしまいます。
属人化を防いで組織力を高めるためには、マニュアルの整備やナレッジ共有の仕組み化を実施し、個人の知識や経験を組織の財産として残すことが重要です。
適正な評価をするのが難しくなる
業務が属人化していると、上司が業務内容や進捗状況を正確に把握することが難しくなります。担当者の努力や成果が適切に評価されないと、担当者のモチベーションが低下する恐れがあります。
また、評価の不透明さは他の従業員に不公平感をもたらす恐れもあるでしょう。適正な評価をするためには、属人化の解消が欠かせません。業務が標準化されて公平な評価が可能になれば、不透明な評価によるモチベーション低下を防げるでしょう。
業務負荷のバランスが悪化する
属人化が進むと特定の従業員に業務が集中し、担当者の負荷が重くなる傾向にあります。あまりに業務量が増えてしまうと、長時間労働や休日出勤せざるを得ない状況になるかもしれません。
属人化によって労働環境が悪化すると、担当者のストレスや不満が蓄積し、最悪の場合は退職につながる可能性もあるでしょう。企業としても業務の平準化と負荷の分散を図り、従業員一人ひとりの労働環境と満足度を向上させることが重要です。
属人化のメリット
属人化のデメリットやリスクを紹介しましたが、それでも多くの組織で生じてしまうのは、一定のメリットも存在するためです。ここでは、属人化がもたらすメリットを2つ紹介します。
担当者の専門性が高まる
属人化のメリットは、担当者の専門性が高まることです。同じ業務を継続的に担当することで、その分野に関する深い知識や経験を蓄積できます。
また、属人化が進んだ業務では、担当者が1人であらゆるシチュエーションに対応することになります。その結果、担当者の臨機応変な対応力や問題解決能力が磨かれるでしょう。
特にデザイン業務のような創造性が求められる分野や、法務・税務といった専門知識が必要な領域では、高い専門性が強みとなります。
担当者のモチベーションが向上する
特定の業務が担当者に一任されることで責任感が生まれ、仕事へのモチベーションが高まるケースがあります。無事に遂行できれば自分の仕事に対する評価も高まり、達成感を得やすくなるでしょう。
特に自律的な従業員にとって、自分の裁量で業務を決められることは大きな魅力です。また、特定の業務に精通していることで「あの人に任せておけば安心」と取引先からの信頼を得ることもできます。
属人化を防ぐべき業務
数多くある業務の中には、属人化が生じると組織全体に影響を与えるものもあります。ここでは、特に属人化を防いだほうがよい業務を4つ紹介します。
バックオフィス業務
経理や人事総務などのバックオフィス業務は正確性が求められるため、担当者によって進め方が異なったり、品質にばらつきがあったりすることは避けなければなりません。
特に経理業務は会社の財務に直結するため、ミスが許されない領域です。経理には決算や税務申告など期限が定められている業務も多く、担当者の不在によって業務が滞ると、法令違反や罰則の対象となる可能性もあります。
わかりやすいマニュアルの作成や、経理システムなどのツール導入によって標準化されている環境を整えておきましょう。
【関連記事】
経理の仕事はきつい?向いている人の特徴や解決策をわかりやすく解説
トラブル・クレーム対応業務
顧客からのトラブルやクレームへの対応は、会社の信頼を左右する重要な業務です。クレーム対応が属人化すると、担当者不在時に適切な対応ができず、問題解決が遅れて企業の評判や信頼を損なう可能性があります。また、対応する人によって説明や対応が異なると顧客の混乱や不満を招き、さらなるクレームにつながることもあるでしょう。
トラブルやクレーム対応の属人化を防ぐためには対応フローを明確にし、全社員で共有することが重要です。どのような状況でも迅速かつ適切に対応できる体制を整えることで、顧客の信頼を失わずに済みます。
商品・サービス説明業務
顧客への商品・サービス説明も、属人化を防ぐべき業務です。説明内容が人によって異なると顧客に誤った情報や期待を与えてしまい、後々のトラブルやクレームの原因となります。
商品知識を特定の従業員しか持っていない状態では、担当者が不在の際に顧客の質問に適切に答えられず、売上を逃す可能性もあります。このような事態を防ぐためにも、商品やサービスに関する基本情報を整理し、全社員に周知しましょう。全従業員が自社の商品・サービスについて正確に理解し、一貫した説明ができる状態になれば、クレームなどを軽減できます。
プロジェクト管理業務
複数の従業員やチームが関わるプロジェクトでは、進捗管理や調整が成功の鍵を握ります。しかし、プロジェクト管理が属人化してしまうと、管理者不在時に進捗状況の把握や意思決定ができません。その結果、プロジェクトの進行が停滞し、品質低下を招く可能性もあるでしょう。
プロジェクト管理の属人化を防ぐためには、定例会議などの仕組みを確立し、情報共有を促進することが大切です。また、プロジェクトの計画段階から複数の担当者を立てておけば、誰かが不在になっても滞りなくプロジェクトを進行できます。
属人化を解消する手順

属人化が進んでしまった業務を解消するには、計画的に進めていくことが必要です。ここでは、属人化を効果的に解消するための手順について解説します。属人化を解消して、組織の生産性や柔軟性を高めましょう。
STEP1.属人化を解消する目的を共有する
まずは、属人化を解消する目的を組織全体で共有します。トップダウンで解消を進めると「自分の仕事を奪われるのでは」といった気持ちから、担当者から反対の声があがってしまう可能性があります。
全員が納得して進めるためにも、属人化が組織にもたらすリスクと、解消することによるメリットを説明しましょう。現場からの合意と協力を得ることで、効率的に属人化を解消できるようになります。
STEP2.属人化している業務を洗い出す
組織全体で属人化を解消する方向性が定まったら、実際に属人化している業務を洗い出しましょう。大まかな把握ではなく、できるだけ業務を細分化して考え、属人化している原因の特定まで行います。
また、すべての業務を一度に解消することは負担が大きいため、リスクの大きさや業務の重要度に基づいて優先順位をつけて段階的に取り組むのがおすすめです。
STEP3.業務マニュアルを作成する
属人化を解消する際は、なぜ属人化しているのかを細かく分析し、マニュアルを作成または修正しましょう。マニュアル作成の際は、担当者の協力を得て、ブラックボックス化しているノウハウなどを可視化します。
この際、マニュアルは経験の浅い人でも理解できるよう具体的に記載し、専門用語なども避けるのがおすすめです。
また、マニュアルの作成過程で無駄な業務や改善点が見つかることも多いため、この機会に業務範囲も見直すとよいでしょう。
STEP4.定期的に業務フローを見直す
属人化の解消は一度行えば終わりではなく、継続的な取り組みが欠かせません。業務環境や要件は常に変化しており、時間の経過とともに再び属人化が進む可能性があります。
業務フローを見直す際は担当者だけでなく、管理者や他部署のメンバーなど複数の視点を取り入れることが重要です。複数の視点からの意見を集めることで、より効果的な改善案が生まれやすくなります。定期的な見直しによって業務を標準化すれば、いつ誰が対応しても同じ品質で業務を進められます。
STEP5.ツールの導入を検討する
業務の標準化を進めるには、ツールの導入も効果的です。ツールを活用すればデータの可視化や情報の一元管理などが見込めます。
たとえば、クラウド型の業務管理ツールを導入することで、作業の進捗状況や担当者、期限などを一元管理できます。また、過去の事例や解決策を検索できる状態にすれば、経験の浅い従業員でも適切な対応ができるようになるでしょう。
ツールの導入は、単に属人化を防ぐだけでなく、業務効率の向上や人手不足の解消にも貢献します。ただし、ツール選定の際は、現場の実情や使いやすさを考慮しないと定着が難しくなるので注意が必要です。現場の声も聞きながら、導入を進めましょう。
【関連記事】
経理が人材不足と言われる理由とは?人手が足りない解決策やシステム導入のメリットを解説
まとめ
日々の忙しさで情報共有ができていなかったり、専門性が高い業務だったりすると属人化が生じてしまいます。なかには担当者に責任感が生まれてモチベーション高く業務に取り組むケースもありますが、企業は退職や休職のリスクも考えなければいけません。
また、財務に関わる経理業務や顧客満足に関わるクレーム対応など、属人化を避けるべき業務もあります。さまざまなリスクを回避するためにも、適切な手順に沿って属人化を解消していきましょう。
よくある質問
属人化とは何ですか?
属人化とは、特定の業務を遂行できるのが一部の従業員に限定されてしまう状態のことです。
詳しくは記事内「属人化とは」をご覧ください。
属人化とスペシャリストの違いは何ですか?
属人化が特定の業務をある従業員に依存している状態であるのに対し、スペシャリストとは特定の分野において高い専門性や技術を持った人材のことです。
詳しくは記事内「属人化とスペシャリストの違い」をご覧ください。