経営管理の基礎知識

クリニックM&Aとは?流れや価格相場、成功事例について詳しく解説

クリニックM&Aとは?流れや価格相場、成功事例について詳しく解説

後継者不足や経営の先行き不安から、近年「クリニックのM&A」に関心が高まっています。

地域医療を存続させつつ、事業をスムーズに引き継ぐための有効な手段として、M&Aを選択する院長や医療法人が増えているのです。

M&Aが適切に進めば、経営の安定化やスタッフの雇用維持といったメリットが期待できますが、その手続きや評価方法には専門的な知識が不可欠です。

本記事では、クリニックM&Aの基礎知識から主な手法、手続きの流れ、成功事例までをわかりやすく解説します。

目次

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クリニックM&Aとは

クリニックM&Aとは、クリニックの経営権や事業を第三者に引き継ぐ手法のことです。

そもそもM&Aとは「Merger(合併)」と「Acquisition(買収)」の略であり、企業同士が合併したり、一方が他方の事業を買い取ったりすることを指します。

近年、経営者の高齢化や後継者不足を背景に、クリニックでもM&Aを活用した事業継承が注目されています。

医療業界では「医業承継」や「医院継承」とも呼ばれ、単に経営権を移すだけでなく、地域医療や患者へのケアを継続するという点が重視されるのが特徴です。

なお、医療法ではクリニックを「病床を有しない、または19床以下の医療施設」と定義しています。クリニックは個人経営も多いため、一般企業のM&Aとは異なる法的な規制や配慮が必要となります。

クリニックM&Aが活発化している背景

近年、クリニックのM&Aが活発化している主な原因は、経営者の高齢化と後継者不足です。

厚生労働省の調査(2022年)によると、クリニック勤務医師の平均年齢は60.4歳で、60〜69歳の層が最も多いと報告されています(ただし、この調査では経営者かどうかは区別されていません)。

経営者の健康問題や引退後の引き継ぎ手が見つからないために、廃業を選択するケースも少なくありません。

さらに、個人経営のクリニックでは、老朽化した建物や医療機器の修繕・更新費用の確保も経営上の大きな課題となります。

こうした経営不安から、事業の譲渡を検討する動きも増えています。

クリニックM&Aの4つのスキーム

クリニックのM&Aは、目的や状況に応じて適切な方法を選ぶことが大切です。

① 事業譲渡

事業譲渡とは、クリニックの運営に必要な資産・人材・患者情報などを、個別に第三者へ引き継ぐ手法です。

主に個人経営のクリニックや持分なし医療法人で用いられ、譲渡の際は一度クリニックを廃止し、買い手が新たに開設手続きを行うのが一般的です。

そのため、不動産・医療機器・従業員の雇用契約・行政への届け出などを、買い手側が改めて締結・申請し直す必要があります。

許認可の再取得といった手間はかかりますが、不要な負債を引き継がず、必要な資産だけを選択して継承できるのがメリットです。

② 持分譲渡

持分譲渡は、2007年の医療法改正前に設立された「持分あり医療法人」の出資持分を、第三者に引き継ぐ手法です。

法人格は維持されるため、許認可や各種契約を再取得する必要がありません。

経営権の移転は、出資者であることが多い社員の交代によって行われます。

内部留保を退職金として活用できる利点がある一方、法人が抱える債務もそのまま引き継ぐ必要があります。

また、少数出資者との調整が必要になる場合がある点も、デメリットとして認識しておきましょう。

③ 合併

合併とは、複数の医療法人をひとつの法人に統合する手法です。

多くの場合、既存の法人が他の法人を取り込む「吸収合併」が用いられ、M&Aの対象はクリニック自体ではなく運営母体の医療法人です。

合併により、診療圏の拡大や、病床・人材・設備の共有による経営効率化、医療サービスの質向上が期待できます。

ただし、実施には都道府県知事の認可が必要で、手続きが複雑になりやすい傾向があります。吸収した法人の債務なども引き継ぐため、事前のデューデリジェンス(財務・法務調査)を徹底することが重要です。

④ 分割

分割とは、ひとつの医療法人が保有する事業や資産を複数の法人に分ける手法で、「持分なし医療法人」にのみ適用されます。新たに法人を設立して事業を移す「新設分割」と、既存の法人に引き継ぐ「吸収分割」があり、いずれも都道府県知事の認可が必要です。

事業譲渡に比べて手続きが簡素で、従業員の雇用契約を維持したまま承継できるのが特徴です。

また、一定の条件を満たせば、譲渡益への課税が繰り延べられるなど、税制上の優遇措置を受けられる可能性もあります。

クリニックM&Aのメリット・デメリット

クリニックM&Aのメリット・デメリットは以下のとおりです。


メリットデメリット
・事業を継承できる
・売却益を得られる
・従業員の雇用を維持できる
・交渉や手続きに費用・時間がかかる
・従業員や患者が離れる可能性がある

クリニックM&Aのメリットは、後継者がいなくても事業を継承でき、地域医療を守れる点にあります。

特に、クリニックが生活に不可欠な地方では、住民の通院先を維持する上で重要な選択肢となります。

また、売却益によって引退後の生活資金を確保したり、従業員の雇用やチーム体制を維持したりできるのも大きな利点です。

一方でデメリットとして、交渉や契約に時間と費用がかかる点が挙げられます。

また、新しい経営者との方針の違いから、従業員や患者が離れてしまうリスクも考慮しなければなりません。

クリニックM&Aの事例

院長の高齢化や経営課題を背景に、円満な事業継承を実現する手段として、クリニックのM&Aが活用されています。

たとえば、都内で長年地域に根ざしてきた小児科クリニックでは、院長が引退を見据えて後輩医師が所属する医療法人へ持分譲渡を行いました。

このクリニックでは、一定期間、新旧院長が並走して診療にあたることで引き継ぎはスムーズに進み、スタッフの雇用や患者との信頼関係も維持されたとのことです。

また、設備の老朽化を抱える歯科クリニックでは、法人化と事業譲渡によって大手医療グループへ参入しました。

新体制のもと診療体制や予約管理を刷新し、元院長も勤務医として診療を継続。地域医療の質を保ちながら経営効率化を実現した事例です。

クリニックM&Aの流れ

クリニックのM&Aをスムーズに進めるには、全体の流れを把握しておくことが大切です。

1. 目的・方針の決定

最初に「なぜ譲渡するのか」という目的を明確にしましょう。

後継者不足の解消・地域医療の継続・自身の引退準備など目的を整理することで、どのような相手に、どのような形で事業を引き継いでほしいかという方針が定まります。

この方針は、後の交渉における判断基準にもなります。

2. 専門家への相談

クリニックのM&Aは、医療法をはじめとする特有の法規制や契約関係が関わるため、専門知識をもつプロへの相談が欠かせません。

医療機関のM&A実績をもつ仲介会社や、医療法人の会計・法務に詳しい弁護士、公認会計士などに早い段階で依頼することで、手続き上のリスクを最小限に抑えられます。

専門家の助言を受けながら進めることで、相手先選定や契約内容の確認、行政手続きなどもスムーズに行えるため、円満な継承を実現しやすくなります。

3. 譲受先の選定・交渉

M&Aを進める際は、仲介会社などを通じて買い手候補の医療機関や事業者とのマッチングを行い、譲渡条件をすりあわせます。

交渉では譲渡価格だけでなく、診療方針の継承やスタッフの雇用条件、地域医療への影響なども重要な項目です。

とはいえ、すべての希望が通るとは限りません。事前に「何を優先し、どこまで譲歩できるか」を整理しておくことで、双方が納得できる合意形成につながります。

4. デューデリジェンスへの協力

譲受先が決まった後は、買い手側によるデューデリジェンス(財務・法務・労務などの調査)が行われます。これは、クリニックの経営状況やリスクを正確に把握するための重要な工程です。

売り手には、会計帳簿・契約書・従業員情報など必要な資料を速やかに提供し、正確な情報を開示することが求められます。

誠実に対応することで信頼性が高まり、買い手との交渉も円滑に進みやすくなります。

5. 基本合意・最終契約

交渉を経て大枠の条件で合意できたら、まず「基本合意書」を締結します。

ここは譲渡価格の目安や独占交渉権の有無などを定め、最終契約に向けた方向性を固める段階です。

その後、デューデリジェンスの結果を反映させた「最終契約書」を結び、M&Aが正式に成立します。

最終契約は法的な拘束力を持つため、弁護士など専門家の確認を経て慎重に進めることが重要です。

6. 譲渡の実行・引き継ぎ

最終契約後は、資産や運営権の引き渡し、行政への届け出や許認可の名義変更といった実行手続きに移ります。

この際、従業員や患者へ新体制を丁寧に説明し、安心感を与えることが大切です。

信頼関係を維持するため、元院長が一定期間サポートに入り、診療や経営の引き継ぎを行うことが望ましいでしょう。

クリニックM&Aの価格相場

クリニックM&Aにおける価格算定では、個人経営が多いという特性から、簡便な評価方法として「時価純資産+年間利益の数年分」がよく用いられます。

これは、クリニックが持つ資産の時価に、直近の年間利益の3〜5年分を目安として加算し、企業価値を算出する方法です。

ただし、医療法人の場合はこの目安が当てはまらないケースもあり、院長交代による収益変動や、地域医療のニーズといった要素が価格に影響します。

さらに、知名度・営業権・診療科目・患者数・立地・設備の状態など、目に見えない無形資産を含めた多角的な評価が必要です。

正確な評価額を算出するには、クリニックM&Aに精通した専門家による企業価値評価を受けましょう。

クリニックM&Aを成功させる3つのポイント

クリニックM&Aを円滑に進めるには、単に譲渡契約を結ぶだけでなく、継承後の運営まで見据えた準備が欠かせません。

患者・スタッフとの信頼関係を丁寧に引き継ぐ

クリニックのM&Aでは、医師の交代による患者離れやスタッフの退職が大きなリスクです。

特に地域に密着した「かかりつけ医」が引退すると、患者が不安を感じて通院をやめてしまうことがあります。

また、経営方針の変更でスタッフが離職すれば、院内の雰囲気が変わり、患者の不安をさらに煽る恐れもあります。

こうした事態を防ぐには、前院長が一定期間、非常勤として診療を続けるなど、スムーズな移行期間を設けることが大切です。

スタッフや患者に対しても、M&Aの目的や今後の方針を丁寧に説明し、信頼関係を維持するよう努めましょう。

行政手続き・許認可の確認を怠らない

クリニックM&Aでは、行政手続きや許認可の確認を怠ると、継承後の運営に支障をきたす恐れがあります。

例えば、地域の病床数が基準を超えていると新たな認可が下りず、病床を引き継げないケースや、保健所への届け出の不備で許認可の効力を失うリスクも考えられますし、過去の事業報告書の未提出などが原因で、法人名の変更が遅れることもあります。

保健所や都道府県への事前確認と、これまでの行政履歴の精査を徹底することが、円滑な継承には不可欠です。

クリニックM&Aに強い専門家に頼る

クリニックM&Aでは、法務・税務・行政手続きに関する高度な専門知識が求められます。

特に医療機関の継承には、医療法や病床数に関する行政基準など特有の制度が関係するため、医療分野に精通した専門家のサポートが欠かせません。

相談先としては顧問税理士や弁護士、取引金融機関、クリニックM&Aに強い仲介会社などが挙げられます。

早い段階で専門家に相談することで、手続きの見落としや税務上のトラブルを防ぎ、安心して継承を進められます。

よくある質問

クリニックM&Aとは何ですか?

クリニックM&Aとは、医療機関の事業や資産を、ほかの医療法人や個人に譲渡・継承する手法です。後継者不足や経営者の高齢化、その他の経営課題を解消する手段として用いられます。

単に経営を引き継ぐだけでなく、これまで通りの医療を続け、患者との関係も守るという点が重要です。

クリニックM&Aによって、診療体制やスタッフの雇用を維持しながら、地域医療を途絶えさせることなく次世代へ引き継ぐことができます。

詳しくは「クリニックM&Aとは」をご覧ください。

医療法人のM&Aの相場はいくらですか?

M&Aの価格算定では、年間利益の2〜3年分が一般的な目安とされます。

しかし医療法人の場合、院長交代による収益の変化や地域のニーズなども価格に大きく影響するため、この基準だけでは正確な価値は測れません。

最終的な評価額は、収益性・患者数・立地・設備の状態など、さまざまな要素を総合的に評価して決まります。正確な評価のためには、医療業界のM&Aに精通した専門家に相談しましょう。

医療法人のM&Aの相場の詳細は「クリニックM&Aの価格相場」をご覧ください。

クリニックが潰れる原因は何ですか?

クリニックが廃業に追い込まれる主な原因として、後継者不在・資金繰りの悪化・建物や医療機器の修繕費不足・診療報酬の減少などが挙げられます。

特に個人経営のクリニックでは、経営者の高齢化により事業継続が難しくなるケースも少なくありません。

また、地域の医療ニーズと診療方針が合わなくなると、患者数の減少につながることもあります。

こうした課題に対し、新たな担い手と資本を確保できるM&Aは有効な選択肢です。

まとめ

クリニックM&Aは、後継者不足などの経営課題を解決し、地域医療を未来へつなぐ有効な手段です。

事業を継承できる・売却益を得られる・従業員の雇用を守れるといったメリットがある一方、交渉に時間や費用がかかる・患者やスタッフが離れる可能性があるといったリスクも伴います。

クリニックM&Aを成功させるには、スキームや継承の流れ、価格相場などを理解した上で自院に合ったM&A戦略を立てることが大切です。

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