介護職員の夜勤の過ごし方は、施設の離職率や事故リスクを左右する経営課題です。
慢性的な人材不足が深刻化する中、職員が健康で長く働き続けられる環境を整備することが、施設の安定した運営に欠かせません。
本記事では、職員の体調・パフォーマンスを高める具体的な支援策から、環境改善に使える助成金の情報まで、管理者が知るべきポイントを網羅的に解説します。
目次
- 夜勤前の過ごし方を改善する経営側のメリット
- 介護の質が向上してヒヤリハット・事故減少につながる
- 職員満足度が向上し、離職率低下につながる
- 生産性向上により、人件費を最適化しやすくなる
- 夜勤前の仮眠環境を整備するためのポイント
- 理想的な仮眠に関する知識を周知する
- 夜勤前の仮眠の質を高める備品や設備を導入する
- 労働基準法を遵守しつつ、休憩を取りやすいシフトを組む
- 食事補助や弁当の提供で福利厚生を充実させる
- 避けるべき夜勤前の過ごし方|施設の信用を守るNG行動の防止策
- 前日の寝だめや当日の長すぎる昼寝
- 心拍数や体温を上昇させる激しい運動
- 勤務直前の食事や多量のカフェイン摂取
- 夜勤スタッフはメンタルケアも重要
- 定期面談によって孤独感や不調のサインを早期発見する
- 上司や同僚に相談しやすい環境を整える
- 産業医や外部カウンセラーと連携した相談窓口を設置する
- 介護施設の職場環境改善に役立つ助成金・補助金
- 働き方改革推進支援助成金
- 人材確保等支援助成金
- 介護施設のバックオフィス業務を効率化するならfreee会計
- まとめ
- よくある質問
夜勤前の過ごし方を改善する経営側のメリット
職員の夜勤前の過ごし方は個人の問題と思われがちですが、企業が支援することで多くの経営メリットがあります。
夜勤前の過ごし方を改善する主なメリット
組織の安定につながる具体的な利点を把握し、職場環境の改善に活かしましょう。
介護の質が向上してヒヤリハット・事故減少につながる
夜勤による睡眠不足は「睡眠負債」として心身に蓄積し、集中力や判断力を低下させます。それにより、利用者の体調の小さな変化を見落としたり、投薬ミスをしたりといったヒューマンエラーが発生しかねません。
夜勤前の過ごし方が向上することでヒヤリハットや事故の発生の低減につながります。
施設側が「勤務開始3時間前までに消化のよい食事を摂る」といった具体的な知識を周知すると、職員はコンディションを整えられるでしょう。
職員満足度が向上し、離職率低下につながる
夜勤前に過ごす仮眠室や休憩室など、施設の設備環境を整えることは職員の職場に対する満足度を高め、離職率の低下に結びつく可能性があります。
具体的には、仮眠室のカーテンを遮光カーテンに変えたり軽食を用意したりといった、リラックスできる設備や制度の導入を検討しましょう。
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生産性向上により、人件費を最適化しやすくなる
職員の夜勤前の過ごし方を改善すると、チーム全体の生産性が高まり、人件費の最適化につながります。
職員一人ひとりの心身のコンディションは、業務のスピードや正確性に影響を及ぼします。とくに夜勤業務では、1人のパフォーマンス低下がほかの職員の負担増や、全体の業務遅延を招きかねません。
職員が十分な休息と適切な食事を取れていれば、定められた時間内に介助や記録業務を遂行できるでしょう。
結果的に無駄な人件費を抑制し、持続可能な人員計画を立てやすくなります。b
夜勤前の仮眠環境を整備するためのポイント
夜勤スタッフのコンディションには、仮眠の質が影響します。仮眠の質を高めるには、施設側が環境を整えることが重要です。ここでは、施設側が取り組むべき3つのポイントを詳しく解説します。
理想的な仮眠に関する知識を周知する
効率的に仮眠をとるために、科学的根拠に基づいた知識を共有するのも1つの手段です。
たとえば、夜勤前には「予防的仮眠」で90分または180分の仮眠が良いとされています。これはレム睡眠とノンレム睡眠が約90分のサイクルで繰り返されるという知識のもとに推奨されている仮眠方法です。
眠りが浅いレム睡眠のタイミングで起きると、倦怠感を防止でき、スッキリとした状態で目覚めることができます。
ほかにも、仮眠の前はスマホをなるべくいじらないなど、職員が実践しやすい方法を仮眠室やスタッフルームなどの目に付くところに記載してみましょう。
夜勤前の仮眠の質を高める備品や設備を導入する
職員の休息の質を高めるには、仮眠室の環境整備が大切です。質の高い睡眠に必要な「暗さ・静けさ・涼しさ」が確保されていなければ、横になっても心身の疲労は回復しません。
具体的な施策としては、以下のようなものが挙げられます。
- 遮光カーテンを導入し、体内時計の乱れを防ぐ
- パーティションを設置し、周囲の目を気にせず休息できるようにする
- リクライニングチェアや簡易ベッドを設置し、短時間での疲労回復を促す
職員が安心して休める環境づくりへの投資は、人材定着にもつながる重要な経営判断です。
労働基準法を遵守しつつ、休憩を取りやすいシフトを組む
法定の休憩時間を確保するだけではなく、休憩のタイミングを考慮したシフト管理もポイントです。
人の眠気は、午前2〜4時にかけて強くなるといわれています。形式的に休憩時間を設けるだけでは、業務中の集中力低下や判断ミスを防ぐことは難しいでしょう。
そのため、シフトを組む際は、職員の疲労・眠気の波を予測し、適切なタイミングで休息を入れることが重要です。
たとえば、利用者が就寝し業務が比較的落ち着く時間帯に、職員が交代で20分程度の短い仮眠を取れるようシフトを組みます。眠気を感じやすい時間帯に脳を休ませることで、夜勤時のコンディションの安定につながります。
管理者が現場の業務フローや状況を深く理解し、職員の状態に配慮しながら休憩を取り入れることが大切です。
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食事補助や弁当の提供で福利厚生を充実させる
職員にとって、夜勤前に健康を意識した食事を自分で用意するのは大変です。休憩時間も限られているため、手軽に購入できる惣菜パンやカップ麺に頼ってしまうケースも少なくありません。
食事は職員の健康に影響する重要な要素であるため、食事補助や弁当の提供といった福利厚生の充実も、職員の食生活を支援する施策のひとつです。
食事に関する福利厚生は「職員を大切にする事業所」としての魅力を高め、人材の採用や定着にもつながります。
東京労災病院 治療就労両立支援センターの「深夜勤務者のための食生活ブック」では、夜勤におすすめのコンビニ食を掲載しています。これを参考にしたり、職員に共有したりしてみるのもよいでしょう。
避けるべき夜勤前の過ごし方|施設の信用を守るNG行動の防止策
夜勤に備えたつもりの行動が、逆に心身を疲れさせてしまい、業務中のパフォーマンスが低下してしまう場合があります。
ここでは、夜勤前の過ごし方で避けるべき行動と、それにともなう職員と施設を守る具体的な防止策を解説します。
夜勤前のNGな過ごし方の例
前日の寝だめや当日の長すぎる昼寝
夜勤前の職員には、上述した「予防仮眠」を推奨しましょう。
長時間の睡眠は体内時計のリズムを乱し、かえってコンディションを低下させてしまうおそれがあります。特に、深い眠りの最中に無理に起きると、激しい倦怠感でスッキリと目覚められません。
正しい睡眠に関する知識やメリットを共有することで、職員の意識向上や夜勤の業務パフォーマンスの安定につながります。
心拍数や体温を上昇させる激しい運動
激しい運動は心拍数や体温を上昇させ、心身を興奮状態にする交感神経を活発にします。身体が活動的な状態のままではスムーズに入眠できず、休息をとっても疲労が回復しにくくなります。
夜勤前に体を動かしたい職員には、リラックス目的のストレッチや軽いウォーキングなどを推奨しましょう。身体をリラックスさせる副交感神経が優位になるため、質の高い休息につながります。
勤務直前の食事や多量のカフェイン摂取
勤務直前の食事は消化のために脳への血流を減らし、強い眠気を引き起こします。
また、勤務後半でカフェインを摂取してしまうと、退勤後の睡眠を妨げてしまう可能性があります。翌日の勤務パフォーマンスに影響をもたらしてしまうおそれがあるため、カフェイン摂取の時間にも注意が必要です。
職員が常に意識できるように、勤務直前の食事や多量のカフェイン摂取によるデメリットや適切な摂取時間を共有したり、ポスターなどで貼り出したりしてみましょう。
夜勤スタッフはメンタルケアも重要
夜勤前の憂鬱な気持ちは、放置すれば離職につながる危険なサインです。職員が1人で抱え込まないよう、相談しやすい環境づくりのポイントを押さえておきましょう。
定期面談によって孤独感や不調のサインを早期発見する
夜勤スタッフは、日中よりも接する職員が少ないことが多いです。そのため、業務上の悩みや心身の不調を1人で抱え込んでしまう可能性があります。
職員の抱える不安や問題が深刻化する前に、施設側が状況を把握することが重要です。月に1度でも職員の健康状態や現場に対する意見をもらう時間を設けましょう。
定期的な個人面談は、問題の早期発見につながります。
上司や同僚に相談しやすい環境を整える
公益財団法人介護労働安定センターが令和6年に実施した介護労働実態調査では、「現在の職場を辞めずに働き続けることに役立っている勤務先の取り組み」として、『人間関係が良好な職場づくり』が47.2%で最も多い取り組みでした。
新しい職員が働きやすいと感じられるように、上司や先輩職員側から話しかけたり、相談しやすい雰囲気を作ったりすることが大切です。
管理職から歩み寄ることで、「体調管理は共通の課題」という認識が広がり、職員が安心して相談できる環境につながります。
産業医や外部カウンセラーと連携した相談窓口を設置する
職員の悩みには、上司や同僚には相談しにくいプライベートな問題や、専門的な対応が必要な健康問題も含まれます。
産業医や外部カウンセラーと連携し、職員が相談しやすい環境を整えましょう。専門家が介入することで、より具体的に問題解決や再発防止の対策につながります。
また、第三者への相談内容は口外されないことを職員に周知するとより利用しやすくなるでしょう。
介護施設の職場環境改善に役立つ助成金・補助金
職員の働きやすい環境づくりにはコストがかかりますが、国の助成金を活用すれば負担を軽減できます。
ここでは、介護施設の職場環境改善に活用しやすい2つの制度を紹介します。
働き方改革推進支援助成金
夜勤スタッフの長時間労働の是正や休憩時間の確保に役立つのが、「働き方改革推進支援助成金」です。
働き方改革推進支援助成金は中小企業が生産性を高め、時間外労働の削減などを実現するための設備投資を支援します。
たとえば介護施設では、以下の導入費用が対象です。
- 夜間の巡回負担を減らす見守りセンサーや介護記録ソフトウェア
- 身体的負担を減らす介護リフト
- 効率的なシフト作成を支援する勤怠管理システム
助成金を受給するには、助成対象となる取り組みを決めて計画書を作成し、成果目標を達成する必要があります。
人材確保等支援助成金
職員の定着を目的とした職場環境の改善には、「人材確保等支援助成金」の活用も検討しましょう。人材確保等支援助成金は、職員が長く働きたいと思えるような環境づくりへの投資を支援する制度です。
「雇用管理制度・雇用環境整備助成コース」を利用した場合、以下のような制度の導入が対象です。
- 職員の処遇を改善する制度(夜勤手当の増額、キャリアアップ制度の整備など)
- 職場を活性化させる制度(メンター制度、1on1ミーティングなど)
計画書を作成してこのような制度を導入し、離職率を基準値まで低下させる必要があります。
なお、助成金制度は年度によって要件が変更される場合があります。申請を検討される際は、必ず厚生労働省のサイトで最新の公募要領をご確認ください。
介護施設のバックオフィス業務を効率化するならfreee会計
夜勤スタッフの職場環境改善に注力するには、まず土台となるバックオフィス業務の効率化が必要です。施設の管理者が日々の経費精算や給与計算に追われていては、職員との面談や環境整備計画に取り組む時間を確保できません。
クラウド会計ソフト「freee会計」を導入すれば、銀行明細の自動取得による仕訳入力や、請求書発行、給与計算といった事務作業にかかる時間を削減できます。
※ このシミュレーションは一例です。ワークフローや請求書の電子化が行われておらず、紙と押印をベースに業務を行っている場合を想定し試算しております。
※ freeeライセンスの基本料金およびメンバー追加料金は、freee会計 アドバンスプランをもとに試算しております。
※ freeeライセンスのメンバー追加料金は、ワークフロー利用者数と、ワークフロー利用者数から推算した経理担当者数及び会計レポート等の閲覧者数をもとに概算で算出しております。
実際にfreee会計を導入した社会福祉法人 檸檬では、以下の声がありました。
「当法人では、freee会計を導入したことで経営戦略を立てる際に必要な月次データが早く揃うようになり、非常に助かっています。
導入前は手入力だったこともあり、数字の確定までに3〜4ヶ月かかっていましたが、今では1~2ヶ月でデータが揃うようになりました。その分、データをもとに分析して次の一手を打つタイミングも早くなっています。今後、さらにスピードアップを期待しています」
出典:フリー株式会社「社会福祉法人会計の作業が5日から2日に短縮!freee会計で実現したスピーディーな経営判断と脱属人化」
結果的に生まれた時間を、職員一人ひとりの健康と働きやすさを支える活動に充てられるようになります。
夜勤スタッフの「働きがい」と施設の「経営効率」を両立させるためにも、ぜひfreee会計の詳細をご確認ください。
まとめ
夜勤に従事する介護職員の健康を支援し、夜勤前の過ごし方を改善することは、施設の未来を守る重要な投資です。
最前線で働く職員の心身のコンディションは、そのままサービスの質と利用者の安全に直結します。疲労やストレスを抱えたままでは、ヒューマンエラーのリスクが高まり、人材の定着も望めません。
この記事で紹介した仮眠環境の整備や食事・メンタル面のサポート、助成金の活用は、職員がパフォーマンスを発揮できる基盤を整えるための手段です。
まずはひとつでも実践できることから着手し、職員が健康で安心して働き続けられる職場環境を構築しましょう。
よくある質問
夜勤前には何をするべき?
下記のように、「効率的な仮眠」「消化のよい食事」「心身のリラックス」という3つを意識しましょう。
- 勤務中の眠気を抑えるために、質のよい仮眠を取る
- エネルギー切れを防ぐため、勤務開始の3時間前までに消化によい食事を摂る
- 出勤前の不安や憂鬱な気持ちを和らげるため、リラックスタイムを設ける
上記3つを組み合わせると、身体と心を自然に仕事モードへと切り替えられます。
詳しくは、記事内「夜勤前の仮眠環境を整備するためのポイント」をご覧ください。
夜勤前は何時間寝るのがいい?
夜勤前は、90分の仮眠がおすすめです。人の睡眠サイクルに基づいており、眠りの浅いタイミングですっきりと目覚めやすくなります。
もし、まとまった時間が取れないなら、20分程度の仮眠でも脳をリフレッシュさせる効果が期待できます。逆に3時間を超える睡眠は、深い眠りの最中に起きることになるためおすすめできません。
詳しくは、記事内「理想的な仮眠に関する知識を周知する」で解説しています。
夜勤明けにやってはいけないことは?
夜勤明けの職員には、スムーズな入眠を優先して、心身を休ませることを心がけるよう呼びかけることが大切です。
以下のような行為は、質の良い睡眠の妨げになるおそれがあるため、夜勤明けは行わないようにあわせて注意喚起すると具体性があり、取り入れやすいでしょう。
- 何の対策もなく強い朝日を浴びる
- 脂っこい食事を摂る
- 満腹になるまで食べる
- カフェインを摂取する
太陽光は体内時計をリセットし、脳を覚醒させてしまうため、帰宅時はサングラスをかけるなどして光を遮りましょう。
また、スープやバナナなど、軽い食事で済ませるのが理想です。カフェインは帰宅後の眠りを妨げ、疲労を翌日に持ち越す原因になります。
詳しくは、記事内「避けるべき夜勤前の過ごし方|施設の信用を守るNG行動の防止策」をご確認ください。
