通勤手当とは、従業員が自宅から勤務先まで通勤するためにかかる交通費を補助する目的で、勤務先が支給する手当です。
法律上の支給義務はなく就業規則で要件を定めて運用しますが、所得税は一定額まで非課税になる一方で社会保険料は非課税分も含めた総額で計算するなど、税と社会保険で扱いが異なり実務でつまずきやすい項目でもあります。
本記事では、交通手段別の計算方法と相場、非課税限度額と2026年の改正、社会保険料や残業代との関係、支給時の注意点までを解説します。
目次
- 通勤手当とは
- 通勤手当と交通費・旅費交通費の違い
- 通勤手当の支給に法律上の義務はない
- 通勤手当の計算方法
- 電車・バスなど交通機関で通勤する場合
- マイカー・自転車で通勤する場合
- 交通機関とマイカーを併用する場合
- 通勤手当の支給額の相場と決め方
- 通勤手当の非課税限度額と2026年の改正
- 交通機関の非課税限度額
- マイカー・自転車の距離別非課税限度額
- 令和8年4月からの改正内容
- 通勤手当と課税・社会保険料・残業代の関係
- 非課税限度額を超えた分は所得税の対象
- 社会保険料は非課税分も含めて算定する
- 残業代の計算基礎からは除外される
- 通勤手当を支給するときの注意点
- 就業規則・賃金規程で支給要件を定める
- パート・有期雇用労働者への支給
- 廃止・減額やテレワークへの対応
- まとめ
- 入退社管理や給与計算などをカンタンに行う方法
- よくある質問
通勤手当とは
通勤手当とは、自宅と勤務地の間を行き来する通勤にかかる交通費を、勤務先が補助する手当です。給与の一部として毎月支給するのが一般的で、似た言葉との違いや支給義務の有無で混同が起きやすい項目でもあります。
通勤の実費を補助するという性格から、税制上も一定の優遇が設けられています。「通勤手当の非課税限度額と2026年の改正」で扱う非課税限度額までは所得税がかからない扱いが、その代表例です。
通勤手当と交通費・旅費交通費の違い
通勤手当と交通費・旅費交通費は、どちらも移動にかかる費用ですが対象が異なります。通勤手当は自宅と勤務地の間の通勤費用を補助する手当であるのに対し、旅費交通費は出張や取引先訪問など業務上の移動でかかる費用です。
会計処理や税の扱いも、次の表のように両者で分かれます。
<通勤手当と交通費・旅費交通費の違い>
| 項目 | 通勤手当 | 交通費・旅費交通費 |
|---|---|---|
| 対象となる移動 | 自宅と勤務地の間の通勤 | 出張・取引先訪問など業務上の移動 |
| 性格 | 毎月支給する手当 | 実費の精算 |
| 主な勘定科目 | 給与手当(通勤手当) | 旅費交通費 |
| 所得税の扱い | 非課税限度額まで非課税 | 実費精算であれば給与課税の対象外 |
通勤手当は給与とあわせて支給する手当として扱う一方、業務上の移動費は旅費交通費の勘定科目で精算します。
交通費の会計処理は「交通費の勘定科目は?旅費交通費との違いや具体的な仕訳例をわかりやすく解説」の記事も参照してください。
通勤手当の支給に法律上の義務はない
通勤手当の支給を勤務先に義務づける法律はありません。支給するかどうか、いくら支給するか、誰を対象にするかは、勤務先が任意で決められます。支給する場合は、就業規則や賃金規程にその内容を定めて運用するのが基本です。
一方で、いったん制度として支給を定めると、通勤手当は労働条件の一部になります。勤務先の都合による一方的な廃止や減額は、不利益変更として制約を受ける点に注意が必要です。廃止や減額の進め方は「廃止・減額やテレワークへの対応」で解説しています。
通勤手当の計算方法
通勤手当の支給額は勤務先の規定によって決まりますが、実務では交通手段ごとに算定方法が分かれます。交通機関で通勤する場合、マイカーや自転車で通勤する場合、両者を併用する場合の順に確認します。
電車・バスなど交通機関で通勤する場合
電車やバスなど公共交通機関で通勤する場合は、最も経済的かつ合理的な経路の運賃を基準に支給するのが一般的です。多くの勤務先は1ヶ月の定期券相当額を支給しています。
新幹線や特急を使う場合は、最も経済的かつ合理的な経路・方法に該当するかどうかで判断します。特急料金はこの条件を満たせば対象に含められますが、グリーン料金はこれに当たらないため対象外とするのが通例です。
マイカー・自転車で通勤する場合
マイカーや自転車で通勤する場合は、通勤距離に応じて支給額を決める方法が代表的です。片道距離の区分ごとに定額を支給する方式と、1kmあたりの単価に通勤距離を掛けて計算する距離単価方式があります。
距離単価方式では「1kmあたりの単価×片道距離×2×出勤日数」で1ヶ月分を算出する例があり、1kmあたりの単価は勤務先が任意に定めるものです。
法律で計算式が決まっているわけではありませんが、「マイカー・自転車の距離別非課税限度額」で扱う税の非課税限度額を意識して規定する勤務先が多く、距離区分と金額のバランスは税の扱いとあわせて検討します。
交通機関とマイカーを併用する場合
最寄り駅まで自家用車で行き、そこから電車で通勤するなど交通機関とマイカーを併用する場合は、交通機関分の運賃とマイカー分の距離別の額を合算して支給額を算定します。
ただし、所得税で非課税になる金額には上限があります。交通機関分とマイカー分を合計して1ヶ月あたり15万円が非課税の限度額であり、距離別の限度額と交通機関分がそれぞれ別枠で青天井に非課税になるわけではありません。
通勤手当の支給額の相場と決め方
支給額に法律上の基準はなく、勤務先が決め方を選べます。実務で多いのは、交通機関は定期券相当額の全額を支給し、マイカーは距離単価や距離別の定額表で支給する運用です。
決め方には、上限や対象の絞り込みもあります。「片道2km未満は支給しない」「支給上限を1ヶ月あたり数万円に設定する」といった要件を就業規則で定める勤務先もあり、自社の通勤実態やコストに合わせて設計するのが現実的です。
公的な平均額の統計は限られるため、特定の平均額を基準にするより、こうした決め方のパターンから自社に合う方式を選びます。マイカー通勤の1kmあたり単価をガソリン代の水準を踏まえて決める勤務先が多いのも、相場を直接示す統計がないなかで実費の補助という性格に沿わせるためです。
通勤手当の非課税限度額と2026年の改正
所得税では通勤手当に非課税の枠が設けられ、交通手段によって限度額が異なります。令和8年4月からは自動車などの交通用具を使う場合の限度額が改正されました。交通機関とマイカーの限度額、改正内容を順に確認します。
交通機関の非課税限度額
電車やバスなど交通機関で通勤する場合の非課税限度額は、最も経済的かつ合理的な経路・方法による運賃等の額で、1ヶ月あたり15万円が上限です。この範囲内であれば所得税はかかりません。
15万円を超えて支給した分は、給与所得として所得税の課税対象になります。通勤用の定期乗車券を現物で支給する場合も、同じく1ヶ月あたり15万円が非課税の上限です。
マイカー・自転車の距離別非課税限度額
マイカーや自転車など交通用具で通勤する場合の非課税限度額は、片道の通勤距離に応じて1ヶ月あたりの金額が段階的に定められています。距離が長くなるほど限度額が高くなる仕組みです。
<マイカー・自転車通勤者の片道距離別 非課税限度額(1ヶ月あたり)>
| 片道の通勤距離 | 非課税限度額(月額) |
|---|---|
| 2km未満 | 全額課税(非課税分なし) |
| 2km以上10km未満 | 4,200円 |
| 10km以上15km未満 | 7,300円 |
| 15km以上25km未満 | 13,500円 |
| 25km以上35km未満 | 19,700円 |
| 35km以上45km未満 | 25,900円 |
| 45km以上55km未満 | 32,300円 |
| 55km以上65km未満 | 38,700円 |
| 65km以上75km未満 | 45,700円 |
| 75km以上85km未満 | 52,700円 |
| 85km以上95km未満 | 59,600円 |
| 95km以上 | 66,400円 |
片道2km未満は非課税分がなく、支給した通勤手当は全額が課税対象です。各区分の限度額を超えて支給した分も、超過分が課税対象になります。
令和8年4月からの改正内容
令和8年度税制改正により、自動車などの交通用具で通勤する人の非課税限度額が見直されました。改正前は片道55km以上が一律で月38,700円でしたが、改正後は片道65km以上の区分が新設され、距離に応じて最大で月66,400円まで段階的に引き上げられています。
あわせて、一定の要件を満たす駐車場等を利用しその料金を負担することを常例とする人は、距離区分に応じた非課税限度額に1ヶ月あたりの駐車場等の料金相当額(上限5,000円)を加算できるようになりました。
一定の要件を満たす駐車場等とは、勤務場所の周辺や通勤に使う駅・停留所などの周辺にある、交通用具を駐車するための施設を指します。
この改正は、令和8年4月1日以後に支払われるべき通勤手当について適用されます。ただし、同日前に支払われるべき通勤手当の差額として追加支給するものは対象外です。
通勤手当と課税・社会保険料・残業代の関係
通勤手当は、所得税・社会保険料・残業代でそれぞれ扱いが異なります。「非課税だから社会保険料もかからない」といった思い込みが、実務ミスの原因になりやすい項目です。次の表で3つの違いを整理します。
<通勤手当の3つの扱いの違い>
| 項目 | 通勤手当の扱い |
|---|---|
| 所得税 | 非課税限度額までは非課税、超過分は課税 |
| 社会保険料 | 非課税分も含めて報酬に算入する |
| 残業代 | 実費・距離に応じた支給分は計算基礎から除外できる |
所得税で非課税でも社会保険では報酬に含まれ、残業代の基礎からは一定の条件で除外される、というねじれが生じます。
非課税限度額を超えた分は所得税の対象
通勤手当は非課税限度額までは所得税も住民税もかかりませんが、限度額を超えて支給した分は給与所得として課税されます。たとえば交通機関で通勤する人に月16万円を支給した場合、15万円を超える1万円が課税対象です。
課税対象になるのは、限度額を超えた当月分からです。月の途中で経路や運賃が変わって限度額を超えたときも、超過した月の超過分が課税の対象になります。課税される時期や手取りへの影響を詳しく知りたい人は、「通勤手当はいつから課税される?非課税限度額と制度の仕組みを解説」の記事も参照してください。
社会保険料は非課税分も含めて算定する
健康保険・厚生年金保険の保険料を決める標準報酬月額は、所得税で非課税となる通勤手当も含めた報酬の総額で計算します。通勤手当は労務の対償として支払われる報酬に含まれるためで、所得税で非課税かどうかは社会保険の計算には関係しません。
つまり「通勤手当は非課税だから社会保険料の対象外」という理解は誤りです。通勤手当が高いほど報酬月額が上がり、標準報酬月額の等級が上がって社会保険料が増える場合があります。遠距離通勤者を新たに採用するときなどは、この点を踏まえて人件費を見込みます。
残業代の計算基礎からは除外される
残業代などの割増賃金を計算する基礎となる賃金からは、家族手当・住宅手当などとともに通勤手当を除外できます。割増賃金は通勤の有無で変わるべきものではないという考え方によるものです。
ただし、除外できるのは通勤の実費や距離に応じて支給する通勤手当に限られます。距離や費用に関係なく全員へ一律に支給する部分は、名称が通勤手当であっても割増賃金の計算基礎に含めなければなりません。一律支給の通勤手当を除外して残業代を低く計算すると、未払いが生じる点に注意が必要です。
通勤手当を支給するときの注意点
通勤手当は任意の制度だからこそ、規定の作り方と運用で差が出ます。就業規則への定め方、パート・有期雇用労働者への支給、廃止・減額やテレワークへの対応を確認します。
就業規則・賃金規程で支給要件を定める
通勤手当を支給するときは、支給対象・算定方法・交通手段別の取り扱い・上限額・申請方法を就業規則や賃金規程に明記します。要件があいまいなまま運用すると、支給漏れや過大支給、従業員とのトラブルの原因になります。
規定に盛り込む項目は次のとおりです。
就業規則・賃金規程に定める項目
- 支給対象を定める
- 算定方法を定める
- 交通手段別の取り扱いを定める
- 上限額を定める
- 申請方法を定める
これらを定めておくと、交通手段や通勤距離が異なる従業員にも一貫した基準で支給でき、運用の手戻りを防げます。
パート・有期雇用労働者への支給
正社員とパート・有期雇用労働者で職務の内容や責任の範囲などが同じ場合、通勤手当に不合理な差を設けることは禁止されています。同じ場所へ同じように通勤するのに、雇用形態だけを理由に通勤手当を支給しない、または減額するといった扱いは認められません。
一方で、所定労働日数が少ない人について、出勤日数に応じた額を支給することは認められる余地があります。不合理かどうかは個別の事情で判断されるため、一律に「必ず同額」と決めつけず、自社の支給基準が雇用形態による不合理な差になっていないかを確認します。
廃止・減額やテレワークへの対応
制度として定めた通勤手当を廃止・減額することは、労働条件の不利益変更にあたります。原則として労働者の合意を得るか、就業規則の変更に合理性が認められる手続きを踏む必要があり、勤務先の都合で一方的に下げることはできません。
テレワークの普及にともない、通勤手当の見直しも増えています。毎月の定期券相当額を支給する方式から、実際に出社した日数分の交通費を実費で支給する方式へ切り替える例が代表的です。出社頻度に合わせて支給方式を見直す際も、不利益変更にあたる場合は同じ手続きが必要になります。
まとめ
通勤手当は支給義務のない任意の手当ですが、計算方法・相場・非課税限度額・社会保険・残業代で扱いが分かれ、運用を誤りやすい項目です。交通手段別の算定と距離別の非課税限度額、令和8年4月からの改正で65km以上の区分が新設された点を押さえる必要があります。
まず取るべきスタンスは、税と社会保険と残業代の違いを取り違えないことです。所得税では非課税限度額まで非課税でも、社会保険料は非課税分も含めた総額で計算し、残業代の基礎からは実費・距離に応じた分だけ除外できます。支給要件は就業規則や賃金規程で明確にし、雇用形態による不合理な差を設けないことも欠かせません。
実務では、非課税と課税の判定や社会保険の報酬算定を正確に処理することが手取りや保険料の計算ミスを防ぐ鍵になります。給与計算ソフトウェアを使えば、改正後の限度額にもとづく判定や社会保険の算定を自動で処理でき、自社の状況での扱いに迷う場合は社会保険労務士などの専門家へ相談することも有効です。
入退社管理や給与計算などをカンタンに行う方法
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よくある質問
通勤手当が出ないのは違法ですか?
違法ではありません。通勤手当の支給を勤務先に義務づける法律はないため、支給しなくても法律違反にはなりません。支給の有無や金額は、勤務先が就業規則などで任意に定めます。
詳しくは「通勤手当の支給に法律上の義務はない」で解説しています。
通勤手当は非課税だから社会保険料もかからないのですか?
かかる場合があります。所得税は非課税限度額まで非課税ですが、社会保険料を決める標準報酬月額は、非課税分も含めた報酬の総額で計算するためです。通勤手当が高いほど等級が上がり、社会保険料が増えることがあります。
詳しくは「社会保険料は非課税分も含めて算定する」で解説しています。
マイカー通勤の通勤手当は1kmあたりいくらが目安ですか?
法律上の基準はなく、勤務先が任意に決めるものです。実務ではガソリン代などを踏まえ、1kmあたり10〜15円程度で規定する例が見られます。単価や上限を、距離別の非課税限度額を意識して設計する勤務先も少なくありません。
詳しくは「マイカー・自転車で通勤する場合」で解説しています。


