時差出勤とは、1日の所定労働時間は変えずに、始業時刻と終業時刻だけを前後にずらす働き方です。
所定労働時間が変わらないため、たとえば8時間勤務なら8時始業17時終業、10時始業19時終業のように、ずらした時間帯できっちり所定の時間を働きます。通勤ラッシュの回避や育児・介護との両立を目的に広がる一方、フレックスタイム制と混同されやすく、導入には就業規則の変更や法的な確認が欠かせません。
本記事では、時差出勤の仕組みとフレックスタイム制との違い、メリット・デメリット、就業規則への記載例、導入手順と法的な注意点までを人事・労務担当者向けに解説します。
目次
- 時差出勤とは
- 時差出勤の仕組みと勤務時間の例
- 時差出勤が注目される背景
- 時差出勤とフレックスタイム制の違い
- 時差出勤と変形労働時間制の違い
- 時差出勤を導入するメリット
- 時差出勤のデメリットと向かないケース
- 時差出勤の導入手順
- 対象者と適用事由を決める
- 始業・終業時刻のパターンを決める
- 就業規則に記載する
- 従業員に周知する
- 時差出勤導入時の法的注意点
- 一斉休憩の適用除外には労使協定が必要
- 早朝勤務では深夜割増賃金が生じる
- 実労働時間を個別に把握する
- 育児・介護中の従業員と時差出勤
- 時差出勤の申請と運用のポイント
- 申請書に記載する項目
- 不公平感やトラブルを防ぐ運用ルール
- まとめ
- 勤怠管理をカンタンに行う方法
- よくある質問
時差出勤とは
時差出勤は、1日の所定労働時間を固定したまま、始業と終業の時刻だけを早めたり遅らせたりする勤務制度です。
労働時間そのものは増減せず、出退勤する時間帯だけが動く点に特徴があります。この章では、時差出勤の仕組みと勤務時間の例、広がってきた背景、混同されやすいフレックスタイム制や変形労働時間制との違いを順に整理します。
時差出勤の仕組みと勤務時間の例
時差出勤は所定労働時間を変えないため、始業を早めれば終業も早まり、始業を遅らせれば終業も遅くなります。労働時間の総量は通常勤務と同じで、ずらすのはあくまで時間帯だけです。
たとえば所定労働時間が8時間で休憩1時間の会社なら、8時始業17時終業、9時始業18時終業、10時始業19時終業のように、どのパターンでもきっちり8時間働きます。一般的な運用では、会社が複数の始業・終業パターンをあらかじめ用意し、従業員がその中から選ぶ形をとります。
ここで注意したいのは、時差出勤は始業・終業時刻をずらす制度であり、所定労働時間そのものを延ばす制度ではない点です。業務の都合で残業が発生することはありますが、早く出勤した分だけ終業時刻が変わらず、結果として所定労働時間が恒常的に長くなる運用は、時差出勤の趣旨から外れてしまいます。制度を適切に運用するには、所定労働時間を前提とした勤務時間の管理が重要です。
時差出勤が注目される背景
時差出勤が広がった背景には、通勤ラッシュの回避と多様な働き方への対応があります。出勤時間帯を分散させれば、混雑の緩和や従業員の負担軽減にもつながるためです。
国土交通省も、時差出勤を通勤の集中を前後の時間帯にシフトさせ、渋滞時間や渋滞長を削減する手段と位置づけています。新型コロナウイルス感染症の拡大時には、人との接触機会を減らす対策としても活用が進みました。
時差出勤は新たな設備投資をほとんど伴わず、就業規則の整備と運用ルールの設計だけで導入できます。資金面の負担が小さいため、中小企業でも取り入れやすい柔軟な働き方として注目されています。
時差出勤とフレックスタイム制の違い
時差出勤とフレックスタイム制の最大の違いは、1日の労働時間を従業員が変えられるかどうかにあります。時差出勤は所定労働時間を固定して時間帯だけを選ぶのに対し、フレックスタイム制は一定期間の総労働時間の枠内で日々の労働時間を増減できます。
フレックスタイム制では、必ず勤務すべきコアタイムと、出退勤を自由に選べるフレキシブルタイムを組み合わせるのが一般的です。
導入には労使協定の締結が要件となり、清算期間を1ヶ月とする場合は労働基準監督署への届出は不要ですが、清算期間が1ヶ月を超える場合は届出が必要になります。両者の違いは次の表のとおりです。
<時差出勤とフレックスタイム制の比較>
| 項目 | 時差出勤 | フレックスタイム制 |
|---|---|---|
| 1日の労働時間 | 固定(所定労働時間どおり) | 総労働時間の枠内で増減できる |
| 始業・終業時刻 | 用意されたパターンから選ぶ | フレキシブルタイム内で従業員が決める |
| コアタイム | なし | 設けられる |
| 主な目的 | 通勤分散・両立支援 | 労働時間配分の自由度向上 |
| 労使協定 | 一斉休憩を外す場合に必要 | 制度の導入に必要 |
時差出勤は時間帯を選ぶだけで労働時間が固定されるため、勤怠管理は比較的シンプルにとどまります。フレックスタイム制の仕組みを詳しく知りたい場合は、「フレックスタイム制とは?メリット・デメリット、残業代の計算方法などを解説」も参照してください。
時差出勤と変形労働時間制の違い
時差出勤と変形労働時間制は、労働時間を動かす対象が異なります。変形労働時間制は繁忙期と閑散期で日や週ごとの労働時間の配分を変える制度で、時差出勤のように毎日一定の労働時間をたもつわけではありません。
時差出勤が1日の労働時間を一定にしたまま時間帯をずらすのに対し、変形労働時間制では特定の日に労働時間を長く、別の日に短く設定します。変形労働時間制の仕組みについては、「変形労働時間制とは?1年・1ヶ月・1年単位の違い、メリット・デメリットについて解説」も参照してください。
時差出勤を導入するメリット
時差出勤の導入は、従業員の働きやすさと企業の運営の双方に効果が期待できます。主なメリットは次の3点です。
時差出勤を導入するメリット
- 通勤負担の軽減につながる
- 育児・介護との両立を支援できる
- 人材の採用と定着で評価されやすい
時差出勤の代表的な効果は、混雑する時間帯を避けて通勤できることです。満員電車での移動が減れば、通勤による心身の負担も和らぎます。
保育園の送迎や家族の介護といった事情に合わせて始業時刻を調整できるため、仕事と家庭の両立も後押しできます。柔軟な働き方を求める求職者にとって時差出勤は魅力となり、採用力の向上や離職の抑制にもつながるでしょう。
設備投資をほとんど伴わずに導入できる点も、資金的な余裕が限られる企業にとって取り入れやすい利点といえます。
時差出勤のデメリットと向かないケース
時差出勤には注意すべき側面もあり、業務の性質によっては効果が出にくいケースもあります。主なデメリットは次の3点です。
時差出勤のデメリット
- 従業員ごとに勤務時間帯がずれ、連携や会議設定が難しくなる
- 始業・終業が一律でなくなり、勤怠の集計が煩雑になる
- 接客や製造など時間帯を動かせない業務には適用しにくい
時差出勤を導入すると、従業員によって在席する時間帯が変わるため、打ち合わせや情報共有のタイミングを合わせにくくなります。
始業・終業時刻が人ごとに異なることで、勤怠の集計や残業代の計算も複雑になりがちです。店舗の営業時間や工場の稼働時間が決まっている業務では、そもそも時間帯をずらしにくく、制度を適用できる職種が限られてしまいます。
早く出勤しても退勤が早まらず労働時間が延びてしまえば、従業員から制度の意味がないと受け止められかねません。こうした課題には、全員が在席すべき時間帯をあらかじめ定め、対象業務を限定し、勤怠管理を自動化することで対応できます。
時差出勤の導入手順
時差出勤は、対象範囲を決めてから就業規則に落とし込み、従業員へ周知するという流れで進めます。導入は次の4つのステップで整理できます。
時差出勤の導入手順
- 対象者と適用事由を決める
- 始業・終業時刻のパターンを決める
- 就業規則に記載する
- 従業員に周知する
対象者と適用事由を決める
最初に、時差出勤を全社員に一律で認めるのか、特定の事情がある従業員に限るのかを決めます。対象範囲があいまいだと、利用条件をめぐる不公平感やトラブルの原因になりかねません。
育児や介護を抱える従業員に限定する、特定の部署や職種に絞るなど、適用する対象と事由を具体的に定義します。誰がどのような場合に利用できるかを明確にしておけば、後の就業規則への記載や申請ルールの設計もスムーズに進みます。
始業・終業時刻のパターンを決める
次に、所定労働時間を固定したまま選べる始業・終業の組み合わせと、休憩をとる時間帯を設計します。あくまで労働時間の総量は変えないことが前提です。
たとえば7時始業16時終業、8時始業17時終業、10時始業19時終業のように、複数のパターンを用意して従業員が選べるようにします。このとき、何回まで利用できるか、何日前までに申請するかといった適用回数や申請単位も仮置きしておくと、後の運用ルールへ落とし込みやすくなります。
就業規則に記載する
始業・終業の時刻は、労働基準法で就業規則に必ず記載すべき絶対的必要記載事項とされています。時差出勤を導入する場合は、選択できる始業・終業時刻のパターンを就業規則に明記しなければなりません。
記載方法には、用意した全パターンを列挙する方式と、一定の幅で繰り上げ・繰り下げができると定める方式があります。なお、常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則を作成または変更した際に労働基準監督署への届出が必要です。
<時差出勤の就業規則 記載例>
| 記載方式 | 記載例 |
|---|---|
| パターン列挙方式 | 業務上の必要または従業員の申請により、始業・終業時刻を次のいずれかに変更することがある。 ①始業8時・終業17時 ②始業9時・終業18時 ③始業10時・終業19時 (休憩はいずれも12時から13時までの1時間とする) |
| 幅指定方式 | 業務上の必要または従業員の申請により、始業・終業時刻をそれぞれ2時間の範囲内で繰り上げまたは繰り下げることがある。 この場合も1日の所定労働時間および休憩時間は変更しない。 |
記載例はあくまで一例であり、実際の運用や対象範囲に合わせて文言を調整します。
就業規則の変更手続きについては、「就業規則を変更するには?就業規則の変更届の作成方法」も参照してください。
従業員に周知する
就業規則は、作成・変更しただけでは効力が生じず、従業員への周知が効力発生の要件です。労働基準法も、就業規則を従業員がいつでも確認できる状態に置くことを求めています。
時差出勤を導入する際は、制度の趣旨、対象となる従業員、申請の方法、利用にあたっての運用ルールをあわせて共有します。周知の手段としては、書面の交付や社内システムでの掲示など、全員が内容を確認できる方法が適切です。
時差出勤導入時の法的注意点
時差出勤では始業・終業時刻が従業員ごとに異なるため、通常勤務とは別の法的な確認が必要になります。特に押さえておきたい論点は、一斉休憩の扱い、深夜割増賃金、実労働時間の把握の3つです。
一斉休憩の適用除外には労使協定が必要
労働基準法は、休憩を全従業員に一斉に与えることを原則としています。時差出勤で始業時刻がばらつくと休憩を一斉にとれなくなるため、原則どおりでは制度を運用できない場合があります。
一斉に休憩を与えない運用にするには、労使協定を締結して一斉付与の原則の適用を除外しなければなりません。協定で定めるのは、休憩を一斉に与えない従業員の範囲と、その従業員に休憩をどのように与えるかの2点です。
ただし運輸交通業・商業・金融広告業・映画演劇業・通信業・保健衛生業・接客娯楽業などの一部業種は、労使協定がなくても一斉休憩の例外が認められています。
早朝勤務では深夜割増賃金が生じる
労働基準法は、午後10時から翌日午前5時までの深夜に労働させた場合、2割5分以上の割増賃金を支払うよう定めています。深夜割増は時間外労働とは別の規定であり、所定労働時間内であっても深夜の時間帯に働けば対象になります。
早朝の始業や遅い終業のパターンを設けると、勤務時間がこの深夜帯にかかる場合があるので注意が必要です。たとえば早番として午前5時前から勤務する設計や、遅番として午後10時を超えて勤務する設計では、深夜割増賃金の支払いが生じます。
時間帯のパターンを決める段階で深夜帯にかからないかを確認しておくと、後の賃金計算でつまずきにくくなります。深夜割増賃金の計算については、「深夜手当(深夜割増賃金)とは?割増率や計算方法、注意点をわかりやすく解説」も参照してください。
実労働時間を個別に把握する
時差出勤では始業・終業時刻が従業員ごとに異なるため、一人ひとりの労働時間を正確に記録する仕組みが欠かせません。記録があいまいだと、賃金の未払いや過払いにつながります。
打刻時刻のずれや集計ミスは残業代の計算を誤らせるほか、本人の申請による始業時刻なのか単なる遅刻なのかの区別もつきにくくする要因です。勤怠管理システムを使って始業・終業時刻と深夜帯の労働を自動で集計すれば、こうしたリスクを抑えられます。
育児・介護中の従業員と時差出勤
時差出勤は、育児・介護休業法が定める仕事と家庭の両立支援措置の一つとしても位置づけられています。2025年10月1日に施行された改正により、企業が選択すべき措置の枠組みが変わりました。
改正後は、3歳から小学校就学前の子を養育する従業員に対し、企業は柔軟な働き方を実現するための措置として、次の5つから2つ以上を選んで講じる義務を負います。
柔軟な働き方を実現するための措置
- 始業時刻の変更(フレックスタイム制または時差出勤の制度)
- テレワーク等(月10日以上利用できるもの)
- 保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与
- 養育両立支援休暇の付与(年10日以上)
- 短時間勤務制度
時差出勤は、このうち始業時刻を変更する措置に含まれます。企業がどの措置を講じるかを選ぶ際は、過半数組合または従業員の過半数を代表する者から意見を聞かなければなりません。5つのうち2つ以上を企業が用意し、従業員はその中からひとつを選んで利用する仕組みです。
育児・介護休業法の改正全般については、「【2025年10月施行】育児・介護休業法の改正ポイントをわかりやすく解説」も参照してください。
時差出勤の申請と運用のポイント
時差出勤を申請制で運用する場合は、申請書の項目と運用ルールをあらかじめ整えておくと、現場での混乱を防げます。ここでは、申請書に記載する項目と、不公平感やトラブルを防ぐ運用ルールの2点を押さえます。
申請書に記載する項目
時差出勤を申請制にする場合は、誰がいつどの時間帯で働くのかを申請書で明確にします。記載項目を統一しておけば、承認の判断や勤怠への反映もしやすくなります。
時差出勤申請書の主な記載項目
- 申請者の氏名と所属部署
- 時差出勤を希望する対象期間
- 希望する始業・終業時刻のパターン
- 時差出勤を希望する事由
あわせて、いつまでに申請するかの締切や、誰がどの順序で承認するかの承認フローも決めておくと安心です。申請から承認までの流れが定まっていれば、利用希望が増えても運用が滞りません。
不公平感やトラブルを防ぐ運用ルール
時差出勤は利用できる人とできない人が分かれやすく、不公平だと受け止められることがあります。適用できる事由・対象業務・利用回数や期間の上限を就業規則と申請ルールに明文化し、誰がどの条件で利用できるかを社内に周知すれば、利用者間の納得感を保てます。
会社が業務上の必要から時差出勤を命じられるか、従業員が拒否できるかも、就業規則の定めと申請ルールで整理しておくべき論点です。就業規則に根拠があれば会社は時差出勤を求められますが、育児や介護などの事情がある従業員には配慮が必要です。
命令と申請のどちらの場合も、判断の基準をルールとして示しておくことがトラブルの予防につながります。
まとめ
時差出勤は、1日の所定労働時間を変えずに始業・終業の時刻だけをずらす働き方です。日々の労働時間を増減できるフレックスタイム制とは異なり、労働時間を固定したまま時間帯を選ぶ点に特徴があります。
導入の基本的な進め方は、対象者と事由を決め、始業・終業のパターンを設計し、就業規則に記載して従業員へ周知するという順序です。運用にあたっては、一斉休憩を外す場合の労使協定、深夜帯にかかる勤務での割増賃金、従業員ごとの実労働時間の把握という3つの法的な論点を確認しておきます。
時差出勤を正しく機能させるには、就業規則と申請ルールを整備したうえで、勤怠管理を仕組みで支えることが有効です。始業・終業時刻が人ごとに異なる勤務の集計や深夜割増の計算は、勤怠管理システムを活用すると正確に処理できます。
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よくある質問
時差出勤は何時から何時まで働きますか?
時差出勤は所定労働時間が変わらないため、所定8時間で休憩1時間の場合、8時から17時まで、10時から19時までのように、ずらした時間帯できっちり8時間働くのが基本です。会社が複数の始業・終業パターンを用意し、従業員がその中から選ぶ運用が一般的です。
ただし業務量によって残業が生じる場合は、通常の労働と同様に時間外労働や割増賃金の扱いを就業規則と申請ルールで明確にしておきます。
詳しくは「時差出勤の仕組みと勤務時間の例」で解説しています。
時差出勤を不公平でずるいと感じる社員がいる場合は?
適用できる事由・対象業務・利用回数や期間の上限を就業規則と申請ルールに明文化し、誰がどの条件で利用できるかを社内に周知することで、利用者間の納得感を保てます。利用条件があいまいだと不公平感の原因になるため、判断の基準を明確にしておくことが重要です。
詳しくは「不公平感やトラブルを防ぐ運用ルール」で解説しています。
会社は時差出勤を命じられますか。従業員は拒否できますか?
就業規則に根拠があれば、会社は業務上の必要から時差出勤を求められます。ただし育児や介護などの事情がある従業員には配慮が必要であり、運用は申請と承認のルールに沿った判断が基本です。命令と拒否の扱いも就業規則と申請ルールに定めておくとトラブルを防げます。
詳しくは「不公平感やトラブルを防ぐ運用ルール」で解説しています。

