オンコール勤務(呼び出し勤務)とは、勤務時間外に自宅などで待機し、職場からの緊急連絡に備える勤務形態です。
オンコール勤務は、医療・介護現場における緊急時対応に必要な制度ですが、運用方法を誤ると、職員の離職や労使トラブルに発展しかねません。管理者が制度における労働時間の基準や手当額を正しく把握することが重要です。
本記事では、オンコール勤務の基礎知識や具体的な労務リスク、スタッフの負担を軽減する制度設計のポイントまで、経営者や労務管理者が知るべき情報を解説します。
目次
- オンコール勤務とは
- オンコール勤務と当直の違い
- オンコール勤務の手当・回数の相場
- オンコール待機手当の支払い義務
- 待機手当・出動手当の支給状況と平均金額
- 職種や施設形態ごとの手当の相場
- スタッフが担当する平均回数
- オンコール勤務制度に潜む労務リスク
- 労働時間認定による未払割増賃金が発生するリスク
- 36協定違反による罰則が適用されるリスク
- 不適切な勤怠管理により労使トラブルが起きるリスク
- オンコール勤務スタッフが抱えやすい負担
- いつ鳴るかわからない電話に精神的ストレスが溜まる
- 行動制限によりプライベートの時間が減少する
- 不公平なシフトにより人間関係に影響を及ぼす
- オンコール勤務の待遇を設定するポイント
- 近隣施設の待遇を調査して基準を設ける
- 休日や代休とのバランスを考慮する
- スタッフへの丁寧な説明で納得感を得る
- オンコール勤務スタッフの負担を軽減する施策
- 明確な運用ルールを策定する
- 複数人体制の公平なシフトを作成する
- ICTツールの活用で連絡・報告業務を効率化する
- 定期面談や相談窓口などサポート体制を構築する
- オンコール勤務に関わるバックオフィス業務の効率化にはfreee会計
- まとめ
- よくある質問
オンコール勤務とは
オンコール勤務(呼び出し勤務)とは、勤務時間外に自宅などで待機し、職場からの緊急連絡に備える勤務形態です。主に、医師・看護師・介護職員・ITエンジニアなど、緊急対応が求められる職種で導入されています。
オンコール勤務は基本的に事業所の外で待機するため、待機時間そのものは原則として労働時間とみなされません。
しかし、担当者は緊急時にすぐ対応できるよう、遠出や飲酒が制限されるといった行動制約を受けます。また、いつ呼び出されるかわからない精神的な負担も考えられます。
そのため、多くの企業では「オンコール手当」を支給し、実際に呼び出されて出勤した場合は、その時間分の給与や出動手当が支払われます。
オンコール勤務と当直の違い
当直は院内の当直室など指定場所での待機が義務付けられるため、原則として労働時間に含まれます。
一方、オンコール勤務は場所の指定がなく、待機中の過ごし方に比較的自由があるため、待機時間は労働時間とみなされないのが一般的です。
| オンコール勤務 | 当直 | |
|---|---|---|
| 待機場所 | 自宅など | 職場内 |
| 拘束の程度 | 比較的弱い | 強い |
| 労働時間の扱い | 労働時間ではない | 労働時間 |
ただし、オンコール勤務でも、使用者の指揮命令下にあると判断されれば労働時間となります。たとえば、「30分以内に必ず出勤する」「待機中でも指定の場所から離れられない」などのように、厳しい行動制限があるケースです。
施設の勤務形態が単なる待機なのか、業務時間にあたるのかを、勤務の実態に即して正確に判断しなければなりません。
オンコール勤務の手当・回数の相場
オンコール勤務制度を適切に運用するには、法的義務の理解と業界水準を反映した待遇設定が重要です。
ここでは、手当の支払い義務から、職種別の手当・回数の相場まで、管理者が把握しておくべき客観的なデータを解説します。
オンコール待機手当の支払い義務
オンコールの待機時間は、労働基準法上の労働時間には該当しないため、その時間全体に賃金を支払う法的な義務はありません。ただし、呼び出しに応じて業務に従事した時間は労働時間とみなされるため、その分の賃金を支払う必要があります。
オンコール勤務における待機手当の支払い義務は、「待機時間が労働時間として認定されるかどうか」で変わります。
労働基準法では、「使用者の指揮命令下にある時間」が労働時間です。たとえば、「オペ室看護師が30分以内に病院へ駆けつける義務があり、飲酒や遠出が禁止されている」場合は、労働時間と判断される可能性があります。
一方、自宅待機で電話対応が主であり出動義務の強制力が弱い場合は、労働時間とみなされにくいでしょう。
待機手当・出動手当の支給状況と平均金額
オンコール手当の金額に法的な定めはなく、各事業所の規定に委ねられています。手当の支給方法も「当番1回あたり◯円」とする形式や、「月額◯円」の固定手当とする形式など、事業所によってさまざまです。
介護職におけるオンコール手当の相場は以下のとおりです。
| 種類 | 支給額の相場(1回あたり) |
|---|---|
| 待機手当 | 約1,000~2,000円 |
| 出動手当 | 約1,000~5,000円 |
| 電話対応手当 | 約1,000~1,500円 |
スタッフの定着率を向上させるには、出動時の割増賃金の計算方法や代休制度なども含めた待遇を整備しましょう。
職種や施設形態ごとの手当の相場
オンコール手当の相場は、職種や施設形態、求められる専門性によって変動します。特に緊急性や対応の難易度が高い業務ほど、手当は高額になる傾向があります。
| 職種 | 支給額の相場(1回あたり) |
|---|---|
| 介護職員 | 約1,000~5,000円 |
| 看護師 | 約1,000~10,000円 |
| 医師 | 約10,000~50,000円 |
また、病院や介護施設よりも、訪問看護ステーションのほうが相場が高い傾向にあります。
他施設の支給状況や平均額を参考に、自施設の基準が妥当であるかを判断することが重要です。
スタッフが担当する平均回数
公益社団法人 日本看護協会の調査(2024年度)によると、看護職員におけるオンコール勤務の平均回数は全体で月19.6回でした。なかでも、月5〜9回のオンコール対応をした事業所が最も多いという調査結果があります。
オンコール対応が多くなると、スタッフの疲弊や不満につながっている可能性があります。シフト調整や人員確保でスタッフの負担を軽減できるように心がけましょう。
オンコール勤務制度に潜む労務リスク
オンコール勤務制度の運用を誤ると、未払賃金の発生や法令違反など、重大なリスクを引き起こすおそれがあります。
安定した施設運営のためにも、管理者が特に注意すべき3つの労務リスクを知っておきましょう。
労働時間認定による未払割増賃金が発生するリスク
オンコールの待機時間が労働時間と認定された場合、施設側には過去に遡って多額の未払割増賃金を支払うリスクが生じます。労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。
たとえば、1回3,000円の手当で13時間の待機をさせていたケースを考えてみましょう。もしこの待機が労働時間と認定されれば、時給換算で数万円の賃金支払い義務が発生し、手当との差額が未払い賃金となります。
裁判所の命令によっては、未払い額と同額の「付加金」の支払いが加わるケースもあります。厳しい制限を課す場合は、その時間を労働時間として扱い、法令に基づいた割増賃金を支払いましょう。
36協定違反による罰則が適用されるリスク
オンコール待機時間が労働時間と認定されると、通常の時間外労働に待機時間が加算され、36協定で定められた時間外労働の上限を超過するリスクがあります。
働き方改革関連法により、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間です。
一例として、「時間外労働が月20時間のスタッフが、1回13時間のオンコール待機(労働時間と認定)を月4回担当した」場合を考えてみましょう。時間外労働は合計で72時間(20時間+52時間)となり、月45時間の上限を超過します。
36協定に違反した場合、管理者には「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
オンコール担当者の総労働時間を正確に把握し、上限を超過しないようなシフト管理や人員配置が重要です。
不適切な勤怠管理により労使トラブルが起きるリスク
オンコール勤務の勤怠記録が不適切な場合、スタッフとの間で未払い賃金をめぐる労使トラブルや訴訟に発展するリスクが高まります。
事業者は労働時間を客観的な方法で記録し、賃金台帳などの関連書類を保管しなければなりません。
しかし、オンコールの当番表を作成するだけで、「待機開始・終了時刻」や「電話対応・出動の時刻と内容」を記録していないケースも考えられます。その場合、もし退職者から待機時間の賃金について訴えがあった場合、客観的な記録がなければ、施設側は「労働時間ではなかった」という証明が困難になります。
トラブルが起きたときの証明にもなるよう、クラウド勤怠管理システムの導入や、対応記録シートの活用などを検討しましょう。
オンコール勤務スタッフが抱えやすい負担
オンコール勤務は、スタッフに見えない負担を強いりやすい勤務形態です。この負担を放置すると、スタッフの離職やサービスの質の低下に陥りかねません。
ここでは、管理者が把握すべき具体的な負担の内容を解説します。
いつ鳴るかわからない電話に精神的ストレスが溜まる
オンコール待機中は実際の呼び出しがなくても、スタッフに精神的ストレスを与えます。いつ連絡が来るかわからない緊張によって、睡眠の質の低下や自律神経の乱れを引き起こしかねません。
精神的ストレスが慢性化すると、不眠や燃え尽き症候群につながり、長期的な休職や離職のリスクを高めます。施設側は、見えない負担が経営に与える影響を正しく認識しなければなりません。
行動制限によりプライベートの時間が減少する
オンコール勤務には飲酒や遠出の禁止といった行動制限があるため、スタッフのプライベートな時間が減少します。
休日も30分以内で出勤できる範囲から出られず、家族や友人との予定を立てることが難しくなるでしょう。このようなプライベートの制約は、スタッフの働く意欲を削いで、優秀な人材が離職を選択する原因となり得ます。
オンコール勤務手当を支払っていても、プライベート時間の質の低下を軽視しないようにしましょう。
不公平なシフトにより人間関係に影響を及ぼす
オンコール当番の回数や負担が特定のスタッフに偏ると、職場内に不公平感が生まれ、人間関係の悪化を招く可能性があります。
不公平感から生じる人間関係の悪化は、業務上の情報共有の遅れや連携ミスを誘発し、提供サービスの質を低下させてしまうことも考えられるため、事業者はオンコール勤務制度のルールを明確にした上で、スタッフに周知することが大切です。
オンコール勤務の待遇を設定するポイント
スタッフの定着率を高めて採用競争力を維持するには、オンコール勤務の待遇を業界水準やスタッフの負担に見合う内容に設定することが重要です。
ここでは、他施設との比較や休日とのバランスなど、具体的な待遇設定のポイントを解説します。
近隣施設の待遇を調査して基準を設ける
オンコールの待遇を設定する際は、近隣の同業施設や同規模事業所の手当相場を調査し、地域の実態に即した基準を設けましょう。
手当額に法的な定めはないものの、地域の相場より著しく低い待遇は、スタッフの不満や転職リスクを招くおそれがあります。
客観的なデータから手当の平均額を算出し、自施設の財務状況と照らし合わせます。平均水準以上の待遇を設定できれば、スタッフの満足度も一定担保できるでしょう。
休日や代休とのバランスを考慮する
オンコール勤務制度を設計する際は、スタッフの休日や代休とのバランスを考慮し、心身を十分に回復できる時間を確保しましょう。
労働時間等設定改善法の改正に伴い、2019年から事業主は「勤務間インターバル制度」の導入が努力義務となっています。
この考え方を参考に、以下のような休息時間を設けましょう。
- 夜間22時から翌朝5時に実出動したら、翌日の勤務開始時刻を3時間遅らせる
- 休日のオンコール勤務の翌月曜日は、午後から勤務開始とする
オンコール勤務手当と休暇の両面から負担を軽減する制度設計が、スタッフの満足度と定着率の向上につながります。
スタッフへの丁寧な説明で納得感を得る
オンコール勤務制度を新たに導入する場合には、オンコール勤務手当の金額や計算根拠、代休のルールなどを書面で明示し、スタッフ一人ひとりへ丁寧に説明しましょう。
制度の透明性を確保し、スタッフの納得感を得ることが、不要な不信感や労使トラブルを防ぎます。
具体的には、以下のような方法があります。
- 具体的な計算例や近隣施設の相場データを示しながら、個別説明会を実施する
- 誰でも確認できるよう、わかりやすいガイドブックを作成・配布する
- 給与明細に手当の内訳を明記する
オンコール手当は、待機・出動・時間外割増など複数の要素で構成されるため、スタッフにとってわかりにくい勤務形態です。「なぜこの金額なのか」「移動時間は賃金に含まれるのか」といった疑問に対し、明確な基準を示しましょう。
オンコール勤務スタッフの負担を軽減する施策
スタッフの負担を軽減し、安心して働き続けられる環境を整えることは、人材の定着とサービスの質を維持するうえで欠かせません。ここでは、明日からでも着手できる具体的な4つの施策を紹介します。
明確な運用ルールを策定する
オンコール勤務の対応範囲や、緊急度の判断基準を明記した運用ルールを策定しましょう。ルールがあれば、スタッフの「1人で正しい判断ができるか」という不安を解消し、精神的負担を軽減しやすくなります。
たとえば介護施設の場合、下記のようなルールを策定しましょう。
- 対応すべき案件の範囲
- 緊急度の具体的な判断基準
- 連絡フロー
- 対応後の記録方法
スタッフへ周知した後も、年1〜2回は実際の対応事例を基にルールを更新するのが大切です。
複数人体制の公平なシフトを作成する
オンコール勤務の当番は1人体制ではなく、複数人体制にしましょう。1人体制では判断に迷った際に相談できないため、精神的なプレッシャーが増大します。
たとえば、以下の点を考慮してシフトを作成しましょう。
- 1次担当と2次担当に分けて、対応範囲やエスカレーション基準を明確にする
- 各スタッフの月間・年間の当番回数を可視化し、定期的にバランスを確認する
- シフト作成は2週間前に確定し、全スタッフに公開する
また、家庭の事情や健康状態に配慮して柔軟に調整し、スタッフが遠慮なく相談できる雰囲気を作ることも重要です。
ICTツールの活用で連絡・報告業務を効率化する
電話と紙のメモを用いた連絡・報告業務は、、記録漏れや転記ミスのリスク、情報共有の遅れなど、課題が多いです。
スタッフの負担軽減・正確な報連相ができるようにICTツールの導入を検討しましょう。
【ICTツールの例】
- オンコール勤務専用の連絡システム
- ビジネスチャットツール
なお「介護テクノロジー導入支援事業」などの補助金を活用すると、ICTツールの導入費用を抑えられます。一定の要件を満たす必要があるので、下記の記事で詳細をご覧ください。
【関連記事】
介護テクノロジー導入支援事業とは?補助額や要件、申請の流れをわかりやすく解説
定期面談や相談窓口などサポート体制を構築する
オンコール勤務による心身の負担は時間とともに蓄積するため、スタッフの心身の不調を早期発見できるようサポート体制を整えましょう。
具体的には、上長との定期的な面談や第三者とのカウンセリングサービスなどがあります。
また、年1回の法定ストレスチェックに加えて、四半期ごとの簡易ストレスチェックも実施し、高ストレス者を早期発見できるようにしましょう。
オンコール勤務に関わるバックオフィス業務の効率化にはfreee会計
オンコール勤務の適切な運用には、法令を遵守した勤怠管理と、待機・出動手当などの複雑な給与計算が必須です。しかし、手作業や複数のツールを組み合わせた管理では、計算ミスや未払い賃金といった労務リスクが高まり、管理者の負担を増大させるでしょう。
freee会計を導入すれば、このようなバックオフィス業務の課題解決につながります。
勤怠データと連携させることで、オンコール手当を含んだ人件費を正確に管理し、経営状況をリアルタイムで可視化できます。手作業による転記ミスを防いで、法令違反のリスクを低減しやすいのがメリットです。
実際、freee会計を導入した特定非営利活動法人 湖国福祉会から、次のような声がありました。
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出典:フリー株式会社「月10時間かかった仕訳作業がたったの2分に!freeeが支える介護事業所の一人バックオフィス管理術」
煩雑な事務作業から解放され、生まれた時間を施設運営の改善やスタッフとの対話など、より付加価値の高い業務に充てられるようになります。
適切な労務管理と業務効率化を両立するため、ぜひfreee会計の詳細をご確認ください。
まとめ
オンコール勤務は緊急時の対応に欠かせない制度ですが、待機時間の法的な扱いやスタッフへの精神的負担を軽視すると、未払賃金などの労務リスクや、人材の離職につながるおそれがあります。
管理者がオンコール勤務制度に関する法令を正しく理解し、スタッフの負担に配慮した制度を設計することが、スタッフの安定や働きやすさにつながります。
近隣施設の相場を参考にした待遇設定や明確なルール策定、複数人体制の導入といった施策を検討し、法令遵守と働きやすさが両立した職場環境を目指しましょう。
よくある質問
オンコール勤務は違法ですか?
オンコール勤務という働き方自体は、違法ではありません。しかし、運用方法によっては労働基準法に違反する可能性があります。
たとえば、待機中に厳しく行動を制限しているにもかかわらず、その時間を労働時間にせず、法定の割増賃金を支払っていないケースです。未払い賃金が発生するため違法となります。
詳しくは、記事内「オンコール勤務制度に潜む労務リスク」をご確認ください。
オンコール待機は勤務時間に含まれますか?
オンコール待機が勤務時間(労働時間)に含まれるかは、一律には決まりません。「使用者の指揮命令下に置かれているか」という実態で個別に判断されます。
待機場所の指定などの行動制限があり、労働から解放されていない場合は、労働時間と認定される可能性があります。
一方で、自宅待機で行動の自由度が高く、呼び出しへの応答義務が緩やかな場合は、労働時間とみなされにくいです。
詳しくは、記事内「オンコール勤務の手当・回数の相場」で解説しています。
