スーパービジョンとは、介護・福祉業界での実務経験が浅い従業員に対して、豊富な知識をもつ指導者が業務上の指導を行うことです。
スーパービジョンによって従業員のスキルを高め、サービスの品質向上やトラブルの早期解決につなげます。一口にスーパービジョンといっても複数種類があり、場面によって使い分けることが大切です。
本記事では、スーパービジョンの種類や進め方、実施時のポイントなどを紹介します。介護福祉施設で教育係を担当している方は、最後までご覧ください。
目次
- スーパービジョンとは
- スーパーバイザーとは
- スーパーバイジーとは
- スーパービジョンを行うメリット
- 新人スタッフや経験の浅いスタッフのスキルアップになる
- 利用者に高品質なサービスを提供できる
- 早期離職の防止につながる
- スーパービジョンの機能
- 管理的機能
- 教育的機能
- 支持的機能
- スーパービジョンの種類と特徴
- 個別スーパービジョン
- グループスーパービジョン
- ピアスーパービジョン
- ライブスーパービジョン
- セルフスーパービジョン
- スーパービジョンを行う流れ
- 1. スーパーバイジーに自己診断してもらう
- 2. スーパービジョンを実施する
- 3. サポートとアドバイスを繰り返す
- スーパービジョンを行う際のポイント【スーパーバイザー向け】
- スーパービジョンを受ける際のポイント【スーパーバイジー向け】
- まとめ
- よくある質問
スーパービジョンとは
スーパービジョンとは、介護・福祉業界に就職した新入社員、他の部署から異動してきた職員など、実務経験の浅い人に対して業務上の指導やサポートをすることです。
社会福祉士の業務内容は、公的制度の活用支援や地域包括ケアの推進など、多岐にわたります。1人で業務をこなせるようになるために、スーパーバイザーと呼ばれる経験豊富なスタッフが指導者となり、業務上のアドバイスやサポートを行います。
出典:日本社会福祉士会「スーパービジョンとは」
スーパーバイザーとは
介護福祉業界におけるスーパーバイザーとは、実務経験が浅い新入社員に対し、業務に関するアドバイスやメンタルケアを行う指導者です。
スーパーバイザーは誰もが務められるわけではなく、以下のいずれかの条件を満たした人のみがスーパーバイザーを務めることができます。
- 認定上級社会福祉士の資格を取得し、認定機構にスーパーバイザー登録を済ませている者【第1号】
- 認定社会福祉士を最低でも1回は更新し、認定機構にスーパーバイザー登録している者【第2号】
- 認定上級社会福祉士に準ずると認められた上で、認定機構にスーパーバイザー登録している者【第3号】
- 認定機構が認める者で認定機構にスーパーバイザー登録している者【第4号(1)(2)(3)】
スーパーバイザーは新人スタッフの研修以外にも、チーム全体の進捗管理や働きやすい環境を維持するための業務を担当します。一般的な業務内容は以下のとおりです。
- ワークフローの管理
- 新人スタッフの研修・育成
- チームスケジュールの作成と管理
- 人事部や上級管理職への報告
- 業績の評価とフィードバックの提供
- キャリアアップの機会の特定と活用
- 従業員の問題解決や対立解消の支援
スーパーバイジーとは
スーパーバイジーとは、介護・福祉業界で働き始めたばかりの新入社員、人事異動で未経験の業務に就く人など、業務上のサポートを必要とする人のことです。
スーパーバイジーは1人で業務をこなせるよう、スーパーバイザーからの指導を受けて、通常業務の内容や流れを覚えていきます。
スーパービジョンを行うメリット
スーパービジョンを実施することで、新人スタッフのスキルアップや、介護福祉サービスの品質向上などにつながります。
スーパービジョンを行うことによりメリットは主に以下の4つです。
スーパービジョンを行うメリット
新人スタッフや経験の浅いスタッフのスキルアップになる
スーパービジョンは、介護・福祉業界での実務経験が浅い新入スタッフや、人事異動で介護未経験の人などのスーパーバイジーを対象に行います。
担当業務の内容を覚えるまでには一定の時間が必要です。スーパービジョンを行うことで、経験豊富なスーパーバイザーからの直接的な指導やアドバイスを受けることができるため、スキルアップにつながります。
また、業務面だけでなくメンタルケアもスーパーバイザーが行うため、スーパーバイジーが抱える不安や悩みの早期発見ができ、解決に向けて動くことができます。
利用者に高品質なサービスを提供できる
スタッフのスキルやホスピタリティの水準が高くなると、施設利用者に高品質なサービスを提供することができます。
利用者への対応以外にも、施設内の衛生面や備品の管理などに対する意識をスタッフで統一することで、施設全体の品質向上につながります。
また、現場では臨機応変な対応を求められる場面も多いです。
スーパービジョンを受けることで、適切な対応を常に学ぶことができ、イレギュラーな場面に遭遇しても焦らずに対処できるようになります。
早期離職の防止につながる
新しい職場環境や仕事に慣れるまでには一定の時間が必要です。周囲からのサポートが乏しい状況だと、業務を覚えるスピードも鈍く、コミュニケーション不足によるミスが発生するかもしれません。
働きやすい環境に人間関係は大きく影響します。
スーパービジョンを行うことで、スーパーバイザーが業務面だけでなく、他のスタッフとも関わるきっかけを作ることができます。それにより、スタッフ間でのコミュニケーションが増え、良好な関係構築につながります。
仕事へのモチベーションが高い人の希望が失われないように、スーパーバイザーを中心に職場全体でのサポートが必要です。
スーパービジョンの機能
介護や福祉施設におけるスーパービジョンは「管理的機能」「教育的機能」「支持的機能」の3つに分けられます。
管理的機能
管理的機能の役割は、スーパーバイジーが自身の能力を最大限発揮できるよう、職場環境の整備に努めることです。
担当業務の量・内容が適切か、効率的に行われているかなどを確認することで、従業員が活躍できるよう働きかけます。
また、施設の方針や関連法規などを守って、適切なサービスを提供できるよう管理・調整する機能も担います。
具体的な施策は、以下のとおりです。
- 業務量の調整
- 能力や適性に応じた仕事の割り振り
- 人間関係を考慮したチーム編成 など
教育的機能
教育的機能は、介護福祉での専門性や対人援助の理論確立に加え、学習意欲を促す役割を担います。
具体的には、以下のような施策が挙げられます。
- 目標設定のサポート
- スーパーバイジーの知識や経験を共有
- 業務での課題や不足している知識を指摘 など
支持的機能
支持的機能は、仕事の悩みや課題を抱えている人のケアを行い、メンタルヘルス不調や離職を防ぐ機能です。
主な施策は、以下のとおりです。
- メンタルケア
- 有給休暇の取得推進
- 業務負担軽減 など
介護・福祉施設での業務は神経をすり減らす場面も多く、ストレスがかかりやすい傾向にあります。従業員のモチベーション低下や離職を防ぐには、状況に応じてスーパービジョンの機能を使い分けることが重要です。
スーパービジョンの種類と特徴
スーパービジョンは以下の5種類に分けられます。
スーパービジョンの種類
スーパービジョンの種類ごとに頻度や実施時間が異なるため、個々の特徴や違いを把握し、状況ごとに使い分けることが重要です。
個別スーパービジョン
個別スーパービジョンは、スーパーバイザーとスーパーバイジーが1対1で面談を行う方法です。
個別スーパービジョンはコミュニケーションが取りやすいため、スーパーバイザーが課題解決に向けて指導しやすい点が特徴です。
個別スーパービジョンの場合、実施頻度は1年間に6回以上、1回1時間以上が目安となります。
【個別スーパービジョンのメリット】
- 課題にじっくり向き合える
- スーパーバイジーが悩みを相談しやすい
- 信頼関係を築きやすい
【個別スーパービジョンのデメリット】
- スーパーバイザーに高い能力が求められる
- 信頼関係がないと形式的な面談になる
グループスーパービジョン
グループスーパービジョンとは、1人のスーパーバイザーが複数人のスーパーバイジーと面談する方法です。
グループスーパービジョンは、スーパーバイザーからのアドバイスや、指導内容を参加者がその場で共有できます。複数人に個別スーパービジョンを行う際と比べて、短時間で終えられるため、業務への支障を避けられます。
グループスーパービジョンの場合、実施頻度は1年間に8回以上、実施時間は1回90分以上が目安となります。
【グループスーパービジョンのメリット】
- さまざまな角度から意見交換できる
- 効率的に進められる
- 客観的な視点から考えられる
【グループスーパービジョンのデメリット】
- 課題を深堀りしにくい
- 参加者の相性によっては発言しにくい
ピアスーパービジョン
ピアスーパービジョンとは、同僚同士がスーパーバイジーとスーパーバイザーの役に分かれて行う面談方法です。
ピアスーパービジョンは上下関係や利害関係を気にせず、同僚同士でコミュニケーションを交わせる点が特徴です。
【ピアスーパービジョンのメリット】
- 意見を交わしやすい
- 参加者同士の結束が深まる
【ピアスーパービジョンのデメリット】
- 経験や知識に基づく意見が得られない
- 極端な意見が出るおそれがある
ただし、スーパーバイザーから意見を得られないため、面談を実施しても課題解決につながらない可能性があります。
また、頻度や実施時間は、従業員同士が話し合って決めるのが望ましいといえるでしょう。
ライブスーパービジョン
ライブスーパービジョンとは、スーパーバイザーの指導を適宜受けながら、実際の業務を進めていく方法です。
ライブスーパービジョンは業務でわからない点があった際にすぐ聞けるため、疑問点を早期に解決できます。ただし、スーパーバイザーが対応できる時間で行うため、スケジュール調整が必要になります。
スーパーバイザーの業務量に応じて、適宜実施するのが望ましいでしょう。
【ライブスーパービジョンのメリット】
- 業務をこなしながら指導を受けられる
- わからない点をすぐに聞ける
- スーパーバイザーの手本を確認できる
【ライブスーパービジョンのデメリット】
- 常に見られているため、精神的に疲れる
- スケジュール調整が必要
セルフスーパービジョン
セルフスーパービジョンとは、スーパーバイジーが自身の置かれた状況や感情、行動などを記録し、自らの仕事ぶりを振り返る手法です。
セルフスーパービジョンは、自身の仕事ぶりを自ら評価・分析するため、客観的に物事を見る習慣が身に付きます。ただし、スーパーバイザーは不在であることから、豊富な経験に基づく指導やアドバイスは得られず、視野も狭くなりがちです。
自身で解決できない課題に直面する可能性もあるため、他の方法と併用するのが望ましいといえます。
また、セルフスーパービジョンは他の手法と異なり、スーパーバイザーを必要としないため、好きなタイミングと頻度で実施できます。
【セルフスーパービジョンのメリット】
- 客観的に自身を評価する習慣が身に付く
- 後で業務内容を振り返りやすい
- マネジメント能力が身に付く
【セルフスーパービジョンのデメリット】
- 経験に基づく意見が得られない
- 視野が狭くなりやすい
- 自分だけでは解決できないおそれがある
スーパービジョンを行う流れ
スーパービジョンは以下の流れに沿って進めていきます。
スーパービジョンを行う流れ
スーパービジョンの有効性を高めるには、スーパーバイジーが入念に準備を重ねておくことが重要です。相談したい内容が明確であれば、スーパーバイザーが指導しやすくなります。
1. スーパーバイジーに自己診断してもらう
スーパーバイジーには仕事の悩みや状況などを整理してから、スーパービジョンを受講するように依頼します。
スーパーバイジーの自己診断結果を踏まえ、スーパーバイザーがスーパービジョンの方法を決定します。
2. スーパービジョンを実施する
スーパーバイジーの解決すべき課題や悩みが明確になったら、事前に決めた方法にもとづいてスーパービジョンを実施します。
スーパーバイザーはスーパーバイジーの話を聞きながら、解決方法を一緒に探していくスタイルです。
また、スーパービジョンは単発ではなく、定期的な実施が必要です。一度だけ実施しても、スーパーバイジーの悩みを解決できるとは限りません。
なお、スーパービジョンの種類によって、回数や頻度、実施時間は変動します。認定社会福祉士認定・認証機構では、個別スーパービジョンを1年間に6回以上、1回1時間以上実施するよう、定めています。
1年に6回以上行うには、2ヶ月に1回のペースで実施しなければなりません。
3. サポートとアドバイスを繰り返す
スーパービジョンで出した解決策に対して、スーパーバイジーがどのような姿勢で業務に取り組んでいるかを引き続き観察します。
同じミスを繰り返してしまったり、対応できなかったりする可能性もあるため、スーパーバイザーは中長期的な視点で、スーパーバイジーそれぞれの課題点を把握することが大切です。
サポートやアドバイスを繰り返す中で、解決が難しいものやスキル向上が難しい場合は、ほかのスーパーバイザーと相談し、別の方向からのアプローチも検討してみましょう。
スーパービジョンを行う際のポイント【スーパーバイザー向け】
スーパーバイザーは、日頃からスーパーバイジーとコミュニケーションを交わし、話しやすい雰囲気を作っておくことが重要です。
信頼関係が構築されていないと、スーパービジョンを実施しても悩みを相談される確率が低くなります。スーパーバイジーが抱えている悩みがわからず、時間を割いてもスーパーバイザーは適切なアドバイスや指導ができません。
また、スーパーバイジーへの指導に熱が入りすぎないよう、理解と共感を心がけることも重要です。指導が行き過ぎると威圧感を与えて、相手が萎縮するおそれがあります。
スーパーバイザーは、スーパーバイジーが自力で課題解決の方法を見つけられるように、サポートするのが役目です。最初から答えを提示せず、相手の取り組みを見守りながら、時折ヒントを与えるスタンスでのサポートが求められます。
スーパービジョンを受ける際のポイント【スーパーバイジー向け】
スーパーバイジーは、スーパーバイザーへ相談したい問題を事前に整理しておく必要があります。
相談したい内容が明確になっていないと、どのような点に悩みを抱えているか、スーパーバイザーに伝わらないおそれが生じます。
スーパーバイザーは多忙なため、何度も時間を割けるとは限りません。課題解決につながる的確なアドバイスを得られるよう、スーパービジョンの際は自身の悩みや質問を隠さずに伝えることが重要です。
また、スーパービジョンを行う際は、自身が納得できる答えが得られるまで、質問や対話を繰り返してください。
スーパーバイザーは自身の悩みを解決するため、時間を割いています。特定の内容に関して何度も質問や対話を繰り返すと、スーパーバイザーが自身の悩みを深く理解し、適切なアドバイスを受けられる確率も高まります。
まとめ
スーパービジョンは1対1やグループ、同僚同士での面談など、さまざまな種類が存在します。種類ごとにメリット・デメリットが異なるため、対象者の悩みに応じて使い分けが必要です。
また、スーパービジョンの有効性を高めるには、スーパーバイザーとスーパーバイジーの関係性が重要です。信頼関係が構築されていないと、スーパーバイジーが悩みを相談しにくくなり、時間を取っても根本的な課題解決に至る確率が低下します。
スーパーバイザーは普段から定期的にコミュニケーションを交わし、スーパーバイジーが話しやすい環境を作っておく必要があります。
よくある質問
スーパービジョンとは?
スーパービジョンとは、介護・福祉業界での実務経験が浅い人を対象に、経験豊富な指導者が行う業務上の指導のことです。
詳しくは、本記事の「スーパービジョンとは」をご覧ください。
福祉におけるスーパービジョンの目的は?
従業員のスキルを高め、高品質な介護・福祉サービスを提供するのが目的です。能力が高い従業員が多いほど、利用者のニーズに合ったサービスを提供できる確率が高まります。
ただし、施設ごとに求められる能力や知識は異なるため、スーパーバイザーが適切な指導を行い、スキルアップを促します。
スーパービジョンの目的について、詳しくは「スーパービジョンを行うメリット」をご確認ください。
スーパービジョンの3つの機能とは?
スーパービジョンには、「管理機能」「教育機能」「支持機能」の3つがあります。
管理機能は、施設内で従業員が働きやすい環境を整備し、教育機能は従業員のスキルアップや人材育成を促します。また、支持機能は従業員が離職しないよう、個別でのケアを実施します。
詳しくは記事内「スーパービジョンの機能」をご確認ください。
