介護福祉におけるアセスメントとは、利用者の生活状況や心身の状態、家族環境などを総合的に把握し、支援に必要な情報を整理する重要なプロセスです。
単なる情報収集ではなく、利用者の希望や課題を明確にし、最適なケアプランを作成するための基盤となります。
本記事では、アセスメントの基本的な意味や目的、具体的な書き方から注意点までをわかりやすく解説します。アセスメントを理解することで、介護職や相談員は質の高い支援を提供し、利用者の生活の質向上につなげられるでしょう。
目次
介護福祉で使われるアセスメントの意味は?
介護福祉におけるアセスメントとは、利用者の生活状況や心身の状態、家族環境などを多角的に把握し、支援に必要な情報を整理・分析を目的としたプロセスのことです。
介護サービスは画一的ではなく、ひとり一人のニーズに応じたケアが求められるため、個々人の情報をまとめるアセスメントが欠かせません。
正しくアセスメントを実施することで、適切なケアプラン(サービス計画書)を作成でき、利用者のQOL(生活の質)向上や自立支援につながります。
アセスメントのメリット
アセスメントは 利用者と職員の双方にメリットがあります。
たとえば、利用者にとっては、自分の希望や課題が正しく理解され、適切なケアやサービスを受けやすくなります。
一方で職員にとっては、支援の優先順位が明確になり、根拠に基づいたケアを提供できる点がメリットです。また、アセスメントで得られた情報をチームで共有することで、職員間の連携ミスを防ぎ、支援の質を高められます。
さらに、計画に沿って支援を行うため、改善点や成果も評価しやすく、利用者の生活の変化を的確に把握できるでしょう。
アセスメントとモニタリングとの違い
アセスメントとよく似た言葉として、モニタリングがあります。が、アセスメントが現状を知るための作業であるのに対し、モニタリングは実施内容を振り返り、改善につなげる作業です。
アセスメントとモニタリングの違いは、以下のとおりです。
【アセスメント】
支援のスタート時点で行う利用者の状態把握であり、支援方針やケアプランを立てるための基礎情報を収集・分析するプロセス
【モニタリング】
実際にケアプランに基づいた支援を行った後、その効果や課題を継続的に確認・評価する取り組み
どちらが優れているわけではなく、それぞれを組み合わせることで、利用者にとって最適なケアの提供や、身体能力・QOLの維持向上につながります。
介護福祉におけるアセスメントの流れ
介護福祉の現場で質の高い支援を行うためには、アセスメントを適切な流れに沿って実施することが大切です。
準備から実施、振り返りまでを体系的に行うことで、利用者の真のニーズを引き出し、ケアプランに的確に反映できます。
ここでは、アセスメント前・当日・その後の対応の段階に分け、それぞれのポイントを解説します。
アセスメント前にすること
まず、アセスメントを行うインテーク(初回面談)の日程調整を行います。日程だけでなく、面談の目的や必要書類、所要時間の目安も一緒に伝えておくようにしましょう。
また、事前に可能な範囲で主治医や地域包括支援センターなどから情報を収集しておくとよりスムーズに進めることができます。
アセスメント当日にすること
アセスメント当日は、実際に利用者に会う前から観察が始まります。事前に得た利用者の身体状況を念頭に置きながら、自宅周囲や玄関までのアプローチ、段差などを確認しましょう。
挨拶を済ませたら、まずは利用者本人や家族の困りごと、生活上の不安について丁寧に聞き取りをします。その後、家の中を案内してもらい、移動動線や浴室の段差、トイレの使いやすさなどをチェックしておくことが大切です。
情報収集が済んだら、整理した内容をその場で簡単にまとめて共有します。移動や入浴、食事など項目ごとに区切りながら確認し、訂正や追加の希望がないかを聞きながら行うと、利用者や家族も安心して話を進められます。
どのようなサービスを誰がしてくれるのかを確認し、わかりやすく伝えましょう。たとえば、午前中は訪問看護師が来て、健康状態をチェックしてくれますといったような具体的な内容です。
アセスメントの所要時間は1〜2時間を目安に、利用者や家族に負担をかけすぎないよう配慮することも重要です。
アセスメント後にすること
アセスメントが終わったら、集めた情報をもとにケアプランの原案を作成します。この段階では、本人の希望や家族の意向を反映しつつ、介護サービスや医療との連携内容を具体化していきます。
完成したプランは利用者本人と家族に提示し、内容を丁寧に説明したうえで同意を得ることが必要です。内容を説明し了承を得ることで、はじめて正式なケアプランとなり、サービスの提供が可能となります。
支援開始後は、ただ進めるのではなく、定期的な振り返りであるモニタリングを行います。最初のモニタリングは支援開始から1ヶ月後を目安に行い、サービス利用による利用者の変化を確認することが重要です。
利用者の状況やサービス内容などを踏まえ、必要に応じてプランを修正し、今後の支援に反映させます。
モニタリングやケアプランの修正などは定期的に行い、利用者にとって最適なケアを継続的に提供できる仕組みを整えていきましょう。
介護福祉におけるアセスメントシートの書き方と具体例
利用者や家族から聞き取った情報をまとめるアセスメントシートを作成しましょう。アセスメントシートはケアプランの基礎資料にもなる重要な書類です。
ここでは、アセスメントシートの様式について解説します。また、基本情報や課題分析に関する項目などについて、書き方と具体例をわかりやすく解説するので参考にしてください。
アセスメントシートの様式
アセスメントシートに定められた書式は特にありません。厚生労働省が示す課題分析標準項目(23項目)を満たしていれば、事業所ごとに独自の様式を作成・使用して問題ありません。
そのため、現場では次のような様式の中から、利用者の状態や事業所の方針に合わせて選ぶことが一般的です。
- 包括的自立支援プログラム
- 居宅サービス計画ガイドライン
- MDS-HC方式
- R4方式
- ケアマネジメント実践記録方式
- 日本介護福祉会方式
- 日本訪問介護振興財団版方式
アセスメントは紙で作成しても、介護ソフトでクラウド管理しても構いません。介護ソフトを使うと情報共有や保管がスムーズになり、業務効率の向上につながるでしょう。
基本情報に関する項目
アセスメントシートでは、支援の方向性を定めるために、まず利用者に関する9つの基本情報を整理します。一見事務的な作業ですが、生活状況や家族の支援力、認知症の程度、本人の希望などを正しく把握するための重要なステップです。
たとえば、下記のように簡潔に記載します。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 基本情報 | 85歳/女性/長男夫婦と同居 |
| 生活状況 | 日中はほぼ独居、家事は一部自立 |
| 利用者の被保険者情報(介護保険) | 第1号被保険者/保険者:市町村 |
| 現在利用しているサービスの状況 | デイサービス週2回利用 |
| 障がい老人の日常生活自立度 | B:屋内移動は自立・入浴は見守り必要 |
| 認知症である老人の日常生活自立度 | IIb:時間・場所の誤認が時々あり |
| 主訴 | 「できる限り自宅で過ごしたい」 |
| 認定情報 | 要介護2/更新予定:◯年◯月〇日 |
| 課題分析(アセスメント)理由 | 入浴・服薬・買い物に不安があるため支援が必要 |
基本情報は単なるプロフィールではなく、利用者の生活をどう支えるか考える際の出発点となる重要な情報です。ここで得られた情報や本人の意向が、支援内容や適切なサービスの選択につながっていきます。
課題分析に関する項目
基本情報の整理ができたら、次に課題分析を行います。ここでは、心身機能や生活動作、家族支援力など14の視点から、利用者の状態を具体的に整理します。
できないことだけでなく、できることや支援があれば可能なことを区別することが重要です。課題分析に関する項目と、記入例は下記のとおりです。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 健康状態 | 高血圧に対して内服治療中だがその他は安定 |
| ADL | 入浴と更衣で一部介助が必要 |
| IADL | 買い物・調理・金銭管理などが困難 |
| 認知機能や判断能力 | 意思疎通は可能・日時や人、場所などの認識は困難 |
| コミュニケーションにおける理解と表出の状況 | 単純な会話の理解と短文での応答は可能 |
| 生活リズム | 起床5時・就寝21時・昼間は |
| 排泄の状況 | トイレの声かけと排便確認必要(失禁なし) |
| 清潔の保持に関する状況 | 入浴時の介助と洗面・口腔ケアへの促しが必要 |
| 口腔内の状況 | 部分義歯使用と義歯清掃のサポートが必要 |
| 食事摂取の状況 | 刻み食でのむせ込みなしも飲水量の不足傾向 |
| 社会との関わり | 週2回のデイサービス利用時以外は外出機会なし |
| 家族等の状況 | 長女との同居と日中不在による見守り不足 |
| 居住環境 | 段差の少ない平屋と浴室・トイレの手すり設置あり |
| その他留意すべき事項・状況 | 時折見られる気分の落ち込み時は声かけの必要あり |
課題分析は、利用者の生活課題を整理し、支援の方向性を明確にするための重要なステップです。
できること・支援で可能になることを適切に把握しおくのは、自立を促すケアプランの作成につながるため、具体的な状況を丁寧に記載することがポイントです。
介護福祉におけるアセスメントを行うときの注意点
介護福祉におけるアセスメントを行う際の注意点は、以下の3つです。
アセスメントを行うときの注意点
さまざまな情報を具体的に収集する
アセスメントでは、利用者の身体的・心理的・社会的・環境的な状況を、幅広く具体的に収集することが重要です。
たとえば歩行や食事、入浴など日常生活動作の状況だけでなく、本人の希望や不安、家族の介護力などを丁寧に確認します。
情報が曖昧だと課題の抽出や支援計画に偏りが生じ、適切なサービス提供が難しくなります。そのため、観察や聞き取り、資料確認などさまざまな情報収集の方法を組み合わせるのが効果的です。
専門職と連携し課題やニーズを明確にする
アセスメントは、ケアマネジャーや相談員だけで完結するものではなく、医師や看護師、リハビリ職など他職種との連携が欠かせません。
専門的な視点を取り入れることで、身体機能や認知機能、機能低下のリスク評価が正確になり、利用者の課題やニーズをより明確にできます。
また、情報共有を適切に行うことで、チーム全体で支援方針の共通理解が生まれ、サービスの質の向上が期待できるでしょう。
先入観を捨てて可能性を広げる
アセスメントを行う際は、利用者や家族に対する先入観を持たず、柔軟な視点で現状を評価することが大切です。
これまでの経験だけをもとに固定観念に捉われると、本人の能力や希望を見落とし、過剰な支援や制限につながる可能性があります。
本人が自立できる部分や、支援により改善が期待できる部分を正しく把握することで、より自立支援に向けた効果的なケアプランを立案できるでしょう。
目的を把握したうえでアセスメントを実施しよう
介護福祉でのアセスメントは、利用者の課題や希望を正確に把握し、ケアプランに反映させるための重要な手段です。
前準備から当日の聞き取り、後のプラン作成やモニタリングまで、一連の流れを丁寧に行うことで、支援の精度が高まります。
また、アセスメントシートを活用し、専門職と連携しながら多角的に情報を整理することがポイントです。先入観を捨て、利用者の可能性を広げる視点を持つことで、より自立支援につながるでしょう。
よくある質問
障害福祉のアセスメントは介護とは違う?
障害福祉のアセスメントは、介護福祉と似た情報収集の手法を使いますが、目的や着目点が異なります。
障害福祉では、生活能力だけでなく、就労支援や社会参加の可能性、障害特性に応じた環境調整が重視されます。
一方、介護福祉のアセスメントでは日常生活動作(ADL)や認知機能、健康状態の把握に重点が置かれ、必要な支援の程度を明確にすることが目的です。
アセスメントはいつ誰が行う?
アセスメントは、支援やケアを始める前に実施されるのが基本です。
介護福祉の場合は、ケアマネジャーや相談員が中心となり、利用者や家族、必要に応じて医療職や他の支援者とも協力して行います。
初回訪問での情報収集をもとに、定期的な見直し(モニタリング)を通じて、課題やニーズの変化を反映させることで、利用者に最適な支援を継続的に提供できます。
アセスメントの手順については、記事内「介護福祉におけるアセスメントの流れ」を参考にしてください。
アセスメントを実施する際に重要な視点は?
アセスメントでは、利用者を多角的に理解するための、以下4つの視点があります。
- 身体的視点:健康や生活動作
- 心理的視点:気持ちや認知機能
- 社会的視点:家族関係や地域との関わり
- 環境的視点:住居や生活環境の安全性
上記の視点を整理することで、支援が必要な課題や優先順位が明確になり、効果的なケアプラン作りにつながります。
また、利用者本人の意向や生活歴を尊重し、過去と現在の状態を総合的に捉えることが重要です。
アセスメントを実施する際のポイントは、記事内「介護福祉におけるアセスメントを行う際の注意点」を参考にしてください。
