日本政策金融公庫(以降「公庫」とします)が実施する創業融資、また各融資に伴う特例制度は、政府が行う政策に基づき複数の種類があります。
創業前、もしくは創業まもない企業への融資支援であることは共通していますが、創業者の年齢や業種、その他諸々の条件によって、それぞれ異なる融資や特例が適用されることになります。
この記事ではそれらの融資・特例制度の中で最もポピュラーである「新規開業資金」について解説します。
目次
新規開業資金とは? 概要と特徴
新規開業資金とは、これから新たに事業を始める者や、事業を始めてからおおむね7年以内の者を対象として公庫が行なう創業関連融資のひとつです。
「新規開業資金」制度の対象となる人
この制度は、別記事で解説した創業融資の特例制度である資本性ローンと同様に、日本政策金融公庫の「国民生活事業」と「中小企業事業」両方の事業部で取り扱っています。(*1)
「国民生活事業」は個人企業や小規模企業向けの小口資金融資が中心で、融資額の平均は約700万円です。ベンチャー企業やスタートアップ段階の企業が当てはまります。
「中小企業事業」は中小企業向けに長期事業資金を融資しており、融資額の平均は約1億円となっています。新規事業や企業再建に取り組む、比較的規模が大きい中堅企業が当てはまります。
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*1:「資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度)」とは? 公庫出身の専門家が対象や返済期間、留意点について徹底解説
以降は、一般的な創業者の創業資金を対象としている「国民生活事業」での新規開業資金について解説します。
新規開業資金の対象となるためには、公庫が取り扱う全融資制度共通の条件を満たすことと、新規開業資金特有の条件を満たす必要があります。
1. 全融資制度共通の条件
2. 新規開業資金特有の条件
以下の要件いずれかに該当する必要があります。
(後述の「注意点・例外」に要約、注意点についてまとめています)
- 現在勤務する企業と同じ業種の事業を始める者で、次のいずれかに該当すること
- 現在勤務する企業に継続して6年以上勤務している
- 現在勤務する企業と同じ業種に通算して6年以上勤務している
- 大学等で修得した技能等と密接に関連した職種に継続して2年以上勤務していて、その職種と密接に関連した業種の事業を開始する者
- 技術やサービス等に工夫を加え多様なニーズに対応する事業を開始する者
- 雇用の創出を伴う事業を開始する者
- 産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業(注1)を受けて事業を開始する者
- 地域創業促進支援事業又は潜在的創業者掘り起こし事業の認定創業スクール(注2)による支援を受けて事業を開始する者
- 公庫が参加する地域の創業支援ネットワーク(注3)から支援を受けて事業を開始する者
- 民間金融機関(注4)と公庫による協調融資を受けて事業を開始する者
- 前1~8までの要件に該当せず事業を始める者であって、新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると公庫が認めた者で、1,000万円を限度として本資金を利用する場合
- 1~9のいずれかを満たして事業を始めた者で事業開始後おおむね7年以内
- (注1)市町村が作成し、国が認定した創業支援事業計画に記載された特定創業支援等事業のこと
- (注2)経済産業省(中小企業庁)が認定した創業スクールのこと
- (注3)各支店に問合せ要
- (注4)都市銀行、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫または信用組合のこと
注意点・例外
前項「創業融資制度特有の条件」のうち、条件1~8は、要約すると以下の通りです。
- 創業する業界での勤務歴や修得技能があること
- 事業に新規性があること
- 雇用を創出すること
- 各種公的支援を受け事業を開始すること
- 民間金融機関と公庫を同時に利用すること
一方、条件9で「1~8の条件を満たさなくても、適正な事業計画が策定され、その計画を遂行する能力があると公庫が認め、新規開業融資利用金額が1000万以内であれば対象となる」と明記されています。
したがって、創業予定者の場合1~8に該当しなくても、新規開業融資利用額が1000万円以内であれば、融資対象となり得ます。
ただし、適正な事業計画の策定と、遂行能力が公庫に認められることは必要ですので、注意しましょう。適正な事業計画の策定と遂行能力について上手く自己アピールする自信がなければ、専門家の手を借りることも検討するとよいでしょう。
創業融資を受けるにあたって必須となる事業計画・創業計画書の書き方については以下の関連記事をご参照ください。公庫の融資審査における担当者の判断基準やポイントについて解説しています。
新規開業資金の融資限度額と返済期間、返済方法と利率
融資限度額
融資限度額は7200万円、うち運転資金の限度額は4800万円です。
具体例を挙げると、設備資金単独で7200万円を利用した場合、運転資金の利用枠はないことになります。一方、設備資金での利用がなくても、運転資金としての利用は4800万円を超えることはできません。
この限度額は制度上の限度額という意味であり、実際には担保や連帯保証人の状況で融資額が変わります。
無担保での融資実行は300万円から700万円がもっとも多く、特別なノウハウがある場合や資産状況が良好なケースであれば、まれに1000万円~1500万円程度実行されることもあります。
返済期間
返済期間は設備資金で20年以内、運転資金で7年以内です。通常の融資の場合(設備資金10年以内、運転資金7年以内)より設備資金において優遇されています。
上記の返済期間は最長期間です。希望により短縮できることもできますし、設備の償却期間に対応させた期間を指定されることもあります。
また、融資実行後の当初利息のみの支払(据置期間といいます)が設備資金、運転資金とも制度上最長2年設定できます。とはいえ、2年間据置期間が認められることは少なく、特別な事情がない限りは半年程度認められることがほとんどです。
利率
利率は基本的に基準利率(担保提供の有無や融資期間により変動)となりますが、以下の要件に該当する時は特別利率となります。
特別利率はその時々で基準金利や政策金利をもとに決定されますので、その都度公庫のホームページで確認するといいでしょう。
- 地域おこし協力隊の任期を終了し、地域おこし協力隊として活動した地域において新たに事業を始める場合:[特別利率A](土地取得資金は基準利率)
融資後、活動した地域で1年以内に新規開業することが条件となり、違反が判明すれば基準金利に引き上げとなります。- Uターン等により地方で新たに事業を始める場合:[特別利率A](土地取得資金は基準利率)
- 産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けて新たに事業を始める場合[特別利率A](土地取得資金は基準利率)
- 地域創業促進支援事業又は潜在的創業者掘り起こし事業の認定創業スクールによる支援を受けて新たに事業を始める場合[特別利率A](土地取得資金は基準利率)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合から出資(転換社債、新株引受権付社債、新株予約権および新株予約権付社債等を含む。)を受けた場合[特別利率A]
- 地方創生推進交付金を活用した起業支援金の交付決定を受けて新たに事業を始める場合[特別利率B](土地取得資金は基準利率)
- 技術・ノウハウ等に新規性がみられる場合(注3)[特別利率B](土地取得資金は基準利率)
- 地方創生推進交付金を活用した起業支援金及び移住支援金の両方の交付決定を受けて新たに事業を始める場合[特別利率C](土地取得資金は基準利率)
要約すると、大部分は政府が現在推進している「地方創生」に関わる事業・活動に関連すると「特別利率」が適用され、利率が有利になります。「特別利率」とは政策の目的を実現するために、特別に設定された低い利率のことです。
利率の注意点
公庫の利率の適用は複雑ですが、審査担当者は基本的に要件に該当する最も低い利率を提示します。公的機関として、要件を満たしていながら低い利率を適用しなければ事務処理ミスとされるためです。
といってもすべてを審査担当者に丸投げするのではなく、自分の場合はどんな根拠でどんな利率が適用されるかを、審査担当者にしっかり確認しておきましょう。
資金使途
新規に事業を開始するためや事業開始後に必要となった設備資金および運転資金
- 事業開始前でも、直近で支出が客観的に確認できる場合(領収書や振り込み通知等客観的資料で確認できる場合)は融資対象となる可能性があります
- 事業とは無関係な使途、会社設立のための資本金や増資としての使途、他からの借り入れを返済する使途は対象になりません
具体例
新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする以下の資金
- 設備資金:店舗内装工事費用や賃貸保証金、事業用車両購入費用や事務機器購入費用等
- 運転資金:売上が回収できるまでの仕入れ資金や人件費、店舗または事務所家賃等
制度固有の融資条件
地域おこし協力隊の任期を終了した者であって、地域おこし協力隊として活動した地域において新たに事業を始める場合は、制度固有の融資条件が適用されます。
地域おこし協力隊として活動した地域において活動終了後1年以内に新規開業
この条件を誓約することで[特別利率A](土地取得資金は基準利率)が適用されます。違反すると適用利率が基準利率に引き上げられますので、注意しましょう。
担保や保証
第三者の連帯保証や担保は原則求められなくなってきていますが、融資金額によっては後継者の連帯保証や不動産担保を求められます。
いわゆる「新創業融資」の対象になるケース
新規開業資金において、一定の条件に該当すれば利率を上乗せすることで無担保・無保証人となります。この制度を「新創業融資」といいます。
一定の条件には
- 税務申告を2期終えていない
- 雇用を創出する
- 創業資金の10分の1以上自己資金が確認できる(例外あり)
などがあります。
いわゆる「資本性ローン」の対象になるケース
新規開業融資において、一定の条件に該当すれば金融検査上借入金としてではなく自己資本とみなせることができます。この制度を「資本性ローン」といいます。
一定の条件には
- 技術・ノウハウ等に新規性がみられる
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合から出資を受けている
- 事業に新規性及び成長性がみられる
などがあります。
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「資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度)」とは? 公庫出身の専門家が対象や返済期間、留意点について徹底解説
いわゆる「新創業融資」も「資本性ローン」も対象になるケース
「新創業融資」と「資本性ローン」の両方の条件を満たす場合、どちらかの制度を選択しなければなりません。理由は制度目的や返済条件が大きく異なるためです。
具体的にいうと、新創業融資の制度目的は無担保無保証の実現。対して、資本性ローンは自己資本とみなせる資金調達による財務体質の強化を目的としています。また、返済条件についても新創業融資が分割返済であるのに対して資本性ローンは一括での返済となります。
こうした違いを踏まえ、自社にとって適切な制度を選択する必要があるということです。
まとめ
新規開業資金はこれから創業する者、創業後7年以内の者を対象とする幅広い融資制度です。取り扱われてきた歴史も長く「創業融資といえば、まず新規開業資金」といっても過言ではありません。
公庫側にも、新規開業における融資審査のノウハウがかなり蓄積されており、日本経済の活力維持との政策目的を実現するため、さまざまな角度からできるだけ融資の可能性を追求する姿勢で融資審査を行っています。
さらに、時代のニーズに合わせ「新創業融資」や「資本性ローン」といった特例制度も制定されたことでより一層使いやすい融資制度となっています。
創業時の不足資金調達方法として、あるいは事業計画の実現をたしかなものにするため、検討してみてはいかがでしょう。
執筆者:杉町 徹
杉町行政書士総合経営事務所 所長経歴:神戸大学法学部卒業後、国民金融公庫(現在の日本政策金融公庫)入庫。
公庫勤務中は融資審査、返済案内、債権管理など幅広く担当。
22年勤務の後に退職、税理士事務所勤務を経て2017年より公的融資支援を主業務とする現職に従事。
(freee認定アドバイザー、freee認定会計スペシャリスト、freee認定経理コンサルタント)
HP:杉町行政書士総合経営事務所
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