創業融資の基礎知識

「資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度)」とは? 公庫出身の専門家が対象や返済期間、留意点について徹底解説

資本性ローンとは? 公庫出身の専門家が対象や返済期間、留意点について解説

日本政策金融公庫(以降「公庫」とします)が実施する創業融資、また各融資に伴う特例制度は、政府が行う政策に基づき複数の種類があります。

創業まもない企業に対して支援をするという点は共通しているものの、創業者の年齢や業種、その他諸々の条件によって、それぞれ異なる融資や特例が適用されることになります。

この記事では、それらの融資・特例制度のなかでもひときわ特殊な性質を持つ「資本性ローン(正式名称:挑戦支援資本強化特例制度)」について解説します。

目次

資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度)とは? 概要と特徴

資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度)とは、公庫が行う新規開業融資、女性、若者/シニア起業家支援資金等の各種融資において一定の条件に該当する場合に適用が可能な特例制度のことで、以下の2つの特徴があります。

金融検査上「自己資本」とみなすことができる

この融資制度の最大の特徴として挙げられるのが、「金融検査上『借入金』としてではなく『自己資本』としてみなすことができる債務である」ということ。

資本性ローンを利用すれば自己資本比率を下げることなく(信用力に悪影響を与えることなく)資金調達ができるため、追加融資において問題視されづらいという利点があります。

ただし、これは金融検査上の取り扱いの話であって、会計上の分類はあくまで「借入金」となることに注意が必要です。

なお、借入金ではなく自己資本としてみなすことができる金額は、返済期限までの残存期間によって以下のように変わります。

返済までの残存期間自己資本としてみなせる金額
5年以上100%
5年未満4年以上80%
4年未満3年以上60%
3年未満2年以上40%
2年未満1年以上20%
1年未満0%

法的倒産手続きのとき、すべての債務に劣後(優先順位が低い)する

この特徴により、「融資金ではあるものの、性質は資本に近いもの」として扱われ、自己資本とみなせることになっています。

ほかにも償還期間が長期であること、企業の業績によって利子負担が変動することも自己資本としてみなせる理由として挙げられます。

制度の対象となる人

この制度は日本政策金融公庫の「国民生活事業」と「中小企業事業」両方の事業部で利用できます

「国民生活事業」は個人企業や小規模企業向けの小口資金融資が中心で、融資額の平均は約700万円です。ベンチャー企業やスタートアップ段階の企業が当てはまります。

「中小企業事業」は中小企業向けの長期事業資金を融資しており、融資額の平均は約1億円となっています。新規事業や企業再建に取り組む比較的規模が大きい中堅企業が当てはまります。

以降は、一般的な創業者の創業資金を対象としている「国民生活事業」での資本性ローンについて解説します。

資本性ローンの対象となる人は次の2つの条件を満たす必要があります。

1. 次の融資対象である人

以下の融資の対象となる必要があります。

  • (1)新規開業資金(注1)
  • (2)女性、若者/シニア起業家支援資金(注2)
  • (3)再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)(注2)
  • (4)新事業活動促進資金
  • (5)中小企業経営力強化資金(注3)
  • (6)食品貸付(注2)
  • (7)一般貸付(ただし、前(6)の対象者にかかる運転資金に限定)
  • (8)海外展開・事業再編資金(注4)
  • (9)事業承継・集約・活性化支援資金
  • (10)企業再建資金(注5)
  • (11)生活衛生新企業育成資金(注2)
  • (12)生活衛生企業再建資金

(注1)「技術・ノウハウ等に新規性がみられる者(※)」、「独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合から出資を受けている者」、「事業に新規性及び成長性がみられる者(※)」のいずれかに限定

(注2)「技術・ノウハウ等に新規性がみられる者(※)」に限定

(注3)「新商品・新役務の事業化に向けた研究・開発、試作販売を実施するため、商品の生産や役務の提供に6ヵ月以上を要し、かつ3事業年度以内に収支の黒字化が見込める者」で、「新たに事業を始める方や事業開始後おおむね7年以内の者」に限定

(注4)「海外直接投資(転貸資金を除く)」に限定

(注5)「シンジケートローン特例」を適用しない貸付に限定

(※)一定の要件を満たす必要があります。後述の「注意点」の項で解説します。


一見、公庫における融資の大半が該当するように見えますが、注意書きにある条件はかなり限定的です。技術・ノウハウに新規性が見られる場合のみ利用できる、あくまでも一般融資の例外と捉えたほうがいいでしょう。

2. その他の条件

以下の2つの条件をいずれも満たす必要があります。

  • (1)地域経済の活性化にかかる事業を行うこと
  • (2)税務申告を1期以上行っている場合、原則として所得税等を完納していること

注意点

上記の(注1)「技術・ノウハウ等に新規性がみられる者(※)」とは、たとえば特許権などの知的財産権を利用して事業を行うケースが考えられます。

「事業に新規性及び成長性がみられる者(※)」については、

  • 中堅企業向けの融資制度である「新事業育成資金」利用の際の条件
  • 「成長新事業育成審査会」における「新規性」「成長性」の審査基準

が以下のように公庫から公表されています。この基準が参考となるでしょう。

日本政策金融公庫の新規性・成長性に関する判断基準と審査会認定のフロー

以上のように「技術・ノウハウ等の新規性」、事業の「新規性」「成長性」が認められる必要がありますので、事前に十分対策をとって申し込みをするのがいいでしょう。自分で自信がなければ専門家の手を借りるのもひとつの手です。

融資金額と返済期間、返済方法と利率

融資限度額は4000万円、返済期間は5年1カ月以上15年以内です。ただし、事業承継・集約・活性化支援資金の融資制度に限り、別枠4,000万円が認められます

資本とみなせるよう、5年1ヶ月以上の長期となっています。返済方法は期限一括返済のみで(利息は毎月払)、期限前の一括返済はできません。この点も資本性ローンの特徴のひとつです。

また、この制度ならではの特徴としてもう一点挙げられるのが、利率が貸付期間と売上高減価償却前経常利益率によって変わるということ。詳細は以下の通りです。


利率 ※令和元年10月1日現在

資本性ローンの利率は貸付期間と売上高減価償却前経常利益率によって変化する

  • 返済期間が長期であること
  • 期間中は元金の返済がなく業績に応じた利息のみを返済すればよいこと

これらの点で、公庫が実質的に出資をしていることと同じと考えられます。まさにこれが記事冒頭で述べた「特殊さ」であり、本制度を資本性ローンと呼ぶ理由となっています。

資金使途

各融資制度で認められた資金使途に準じます。この特例制度独自の資金使途はありません。

具体例

  • 「新規開業資金」における、新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金及び運転資金
  • 「女性、若者/シニア起業家支援資金」における、新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする資金

制度固有の融資条件

事業が返済期間内に軌道に乗り、返済が可能と判断されることが条件ですが、それ以外に制度固有の条件があります。

事業計画書の提出

審査時に事業計画書(挑戦支援資本強化特例制度用)の提出が必要です。公庫のホームページからダウンロードが可能です。記入例も用意されています。

なお、この事業計画書には10年にわたる長期の経営計画(事業収支)を記載する必要があります。


【関連記事】
審査に通る創業計画書の書き方は? 項目別の詳細解説と記入例

経営状況を定期報告する義務

4半期ごとの経営状況の報告等を含んだ特約を締結する必要があります。定期的に報告資料を公庫に提出する必要があります。

担保や保証

無担保・無保証人で利用できます。借入人が法人の場合も代表者個人保証は不要です。

いわゆる「新創業融資」の対象になるケース

新規開業資金や女性、若者/シニア起業家支援資金、再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)、中小企業経営力強化資金等の創業時に利用できる融資において、一定の条件に該当すれば利率を上乗せすることで無担保・無保証人となります。この制度を「新創業融資」といいます。

一定の条件には

  • 税務申告を2期終えていない
  • 雇用を創出する
  • 創業資金の10分の1以上自己資金が確認できる(例外あり)

などがあります。

上記に当てはまれば新創業融資を利用できますが、そのとき資本性ローンは利用できません。そもそもの制度目的(新創業融資は無担保無保証、資本性ローンは自己資本とみなせる資金調達による財務体質の強化)も大きく異なるだけなく、返済条件(新創業融資は分割返済、資本性ローンは一括返済)も異なります。

「資本性ローン」と「新創業融資」の両方の条件を満たす場合、どちらかの制度を選択して利用することになります。

まとめ

資本性ローンは借入でありながら返済期間が長期である点、期間中は利息のみの支払で済む点、業績に応じた利率が適用される点から出資受け入れに近い形態といえます。

また、資本性資金でありながら株式の払い込みを受けないので、既存株主の持ち株比率は低下せず、経営についての意思決定に対する影響もありません。利用する側にはメリットが多い制度です。

一方、融資担当者からすれば長期間元金の返済を受けないだけに、通常の融資より事業の将来性をしっかり見極める必要があります。したがって、融資判断において技術・ノウハウに新規性が認められるか、事業の新規性・成長性が認められるかがより重視されます。

加えて、業績がよければほかの融資制度より利率が高くなってしまうリスク、期限前の返済ができず高い利率を払い続けなければならないリスクもあります。

事業の将来性等をしっかりと問われるハードルが高い制度である反面、スタートアップ時にまとまった資金が必要、かつ実際の資金回収に相当な時間がかかると予測されている場合には非常に有効な制度といえます。

執筆者:杉町 徹
杉町行政書士総合経営事務所 所長
経歴:神戸大学法学部卒業後、国民金融公庫(現在の日本政策金融公庫)入庫。
公庫勤務中は融資審査、返済案内、債権管理など幅広く担当。
22年勤務の後に退職、税理士事務所勤務を経て2017年より公的融資支援を主業務とする現職に従事。
(freee認定アドバイザー、freee認定会計スペシャリスト、freee認定経理コンサルタント)
HP:杉町行政書士総合経営事務所

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