プロジェクト管理の基礎知識

プロジェクト管理のフレームワーク「PMBOK」の基礎知識と資格

プロジェクト管理のフレームワーク「PMBOK」の基礎知識と資格

業務を円滑に進めながら品質の維持やコストの管理を行うためには、経験や勘に頼るだけではなく、プロジェクト管理に関する知識を得ることが重要です。特に、プロジェクト管理に関するノウハウが体系的にまとめられた「PMBOK」について基礎的な知識を押さえておくことが大切です。

プロジェクトを遂行するうえでPMBOKがどのような役割を果たすものなのか、詳しく見ていきましょう。

目次

PMBOKとは

PMBOK(ピンボック)とは、「Project Management Body Of Knowledge」の頭文字をとった略語であり、プロジェクト管理に関する知識やノウハウを体系的にまとめたものです。アメリカの非営利団体であるPMIが、プロジェクト管理に関する手法を普及する目的で作ったものであり、プロジェクトを10の知識エリアと5のプロセスに細かく分類している点が大きな特徴です。

PMBOKの意義と目的

PMBOKの意義は、プロジェクト管理に関する知識が初めて体系化されたことにあります。プロジェクト管理にはさまざまな側面があるため、これまでは人によってスケジュール管理をメインに考えていたり、コスト面のバランスを重視したりとバラつきがありました。

しかし、PMBOKによって1つにまとめられたため、プロジェクト管理に関する幅広い概念を言語化して共有できるようになりました。また、知識や手法が体系化されたことによって、プロジェクト管理の確かな基礎のもとにしてノウハウを蓄積して発展させることも可能となっています。

PMBOKを活用するメリット

PMBOKのメリットは、効率的にQCD(品質・費用・納期)を管理できることです。数多くのデータをもとに築かれた知識を取り入れていけば、実務において効率的にプロジェクトを進められるようになります。

また、プロジェクトのプロセスそのものを管理することにも大きなメリットがあります。従来のプロジェクト管理では、QCDの管理のみが中心で、その目標に向かってさまざまな要素をコントロールすることが大きな役割でした。

しかし、PMBOKを取り入れることで、ゴールに至るプロセス自体も細かくコントロールできるようになります。1つずつのプロセスが明確になっているため、管理の精度がより高まるうえ、改善点も洗い出しやすくなります。

PMBOK で気をつけるべき点

PMBOKではプロジェクト管理のノウハウが標準化されるため、想定外の事態への対応は難しい面があります。明確な枠組みによって管理が効率化される反面、柔軟性や突発的な対応力が損なわれてしまう恐れもあるでしょう。

また、プロセスが細かく標準化されることで、個人の力量が反映されにくい面もあります。そのため、実際に運用するうえでは、実態に合わせて少しずつ改善しながら活用していく余地を持つことが大切です。

10種類の知識エリア

PMBOKでは、プロジェクト管理を行ううえで必要となる知識が10種類の知識エリアに分けられています。それぞれの知識エリアについて見ていきましょう。

1.統合マネジメント

統合マネジメントとは、ほかの9つの知識エリアのプロセスを統合し、調整を行う活動です。具体的な内容としては、プロジェクトの立ち上げ、管理計画書の作成、プロジェクトの実行や監視、終結と評価などがあげられます。

それぞれの知識エリアを横断的に確認し、プロジェクトの全体像を把握しながら監視やコントロールを行うことが主な役割です。

2.スコープマネジメント

プロジェクトの範囲を定め、目標達成のために必要な成果物やタスクを明確化する分野がスコープマネジメントです。具体的な活動としては、要求事項の収集やWBSの作成、成果物の検証などがあげられます。

WBSとは作業分解構成図とも呼ばれ、目標達成に必要なタスクを段階的に細かく砕いていき、全作業を漏れなく洗い出す目的で作られるものです。そのため、スコープマネジメントは、確実に目標を遂行するために重要な項目を担っていると言えます。

3.スケジュールマネジメント

QCDのうち、納期に関する分野を管理する知識エリアがスケジュールマネジメントです。WBSによって洗い出されたタスクをもとに、作業の順序や所要時間を見積もり、具体的なスケジュールを作成するのが主な役割となっています。

スケジュールマネジメントの最大の目的は、時間当たりの生産性を高めながら、納期を守ることにあります。そのため、進捗状況を適切に把握するだけでなく、遅れがあれば迅速な対応を行えるような柔軟性が必要です。

4.コストマネジメント

コストマネジメントは、QCDのうちの費用を管理する分野の知識エリアです。予算内でプロジェクトを完了させることが目的であり、必要なコストの見積もり、資金調達、財源確保など費用のコントロールをするのが主な役割です。

見積もりの方法には、「類推見積もり」や「ボトムアップ見積もり」などがあります。類推見積もりは初期段階での概算として、ボトムアップ見積もりはプロジェクトが進行するなかでの詳細として使用されます。

5.品質マネジメント

QCDのうち、品質に関する管理を行う知識エリアが品質マネジメントです。品質の基準を明確化し、品質を保つための実現計画を立てることが主な役割であり、成果物が要求に一致しているか、使用に適しているかなどのチェックも行います。

6.資源マネジメント

プロジェクトを達成するために必要な人材や物的資源を調達・管理して、確実に遂行できる組織を作る分野が資源マネジメントです。チームの編成や人材の育成、物的資源の使用率の管理なども行います。

7.コミュニケーションマネジメント

コミュニケーションマネジメントとは、スポンサーやユーザーといったステークホルダー(利害関係者)との適切なコミュニケーションを行う分野の知識エリアです。具体的な内容としては、ステークホルダーとの関係性の明確化、プロジェクト情報の生成・配布、進捗や実績の報告文書作成などがあげられます。

8.リスクマネジメント

プロジェクトに影響を与え得るリスクを洗い出し、原因や対応策などを明らかにする知識エリアがリスクマネジメントです。この場合のリスクは必ずしも危険性を指しているわけではなく、影響を与える可能性のある不確実な事柄を意味しています。

そのため、まずは未知のリスクを識別し、発生する確率などをもとに対応の優先度を明確にすることが重要です。また、時間の経過によって影響が増減する場合もあるため、プロジェクトが進行するうえで細かく監視やコントロールを行う必要があります。

9.調達マネジメント

プロジェクトの遂行に必要なサービスや製品を外部から取得または購入する際に、管理を行う知識エリアが調達マネジメントです。主に調達のために生まれた契約を管理するとともに、対象物の選定や納品の進捗管理、検収なども行います。

10.ステークホルダーマネジメント

ステークホルダーマネジメントは、PMBOKが改良されていく過程で、コミュニケーションマネジメントから独立した知識エリアです。クラウド技術の発展などにより、ステークホルダーの範囲が一気に広がったことから、2012年に独立した分野として新設されました。

ステークホルダーマネジメントは、幅広いステークホルダーと良好な関係を築いたり、関心の薄い層に働きかけたりしながら、協力者を広げていくことが主な役割となっています。

5つのプロセス

PMBOKはプロジェクトの開始から終結までの流れを5つのプロセスに分類し、それぞれを細かく定義しています。10種類の知識エリアをプロジェクトの縦軸と捉えたとき、5つのプロセスは横軸にあたり、それぞれの知識エリアの役割はプロセスごとに変化していきます。

たとえば、立ち上げの段階において、統合マネジメントの領域ではプロジェクト憲章を作成し、ステークホルダーマネジメントの領域ではステークホルダーの特定を行うといった具合です。ここでは、5つのプロセスについて解説していきます。

1.立ち上げ

プロジェクトの開始にあたって、必要な情報を集めたり定義したりするプロセスを指します。この段階で特に重要な過程は、プロジェクト憲章を作成することです。

プロジェクト憲章とは、プロジェクトの正式な承認、プロジェクト管理者の特定や責任の範囲・権限の明確化、ニーズや結果の明確化などを目的とした重要な文書です。その間、ステークホルダーマネジメントの領域では、ステークホルダーの明確化を行います。

2.計画

プロジェクトの目的を達成するための作業計画を立案し、作成するプロセスです。10の知識エリアのうち、すべての領域において計画が必要となるため、この段階ですべきことは多岐にわたります。

たとえば、スコープマネジメントの領域ではWBSの作成を行い、コストマネジメントの領域ではコストの見積もりや予算の設定を行います。

3.実行

実行プロセスは、計画に基づいて人材や物的資源を調整し、プロジェクトを実行する過程を指します。この段階においては、たとえば資源マネジメントの領域ではチームの結成・育成や物的資源の管理、コミュニケーションマネジメントの領域では情報の配布などが行われます。

4.監視・コントロール

プロジェクトが進行するなかで、計画とのズレをチェックし、必要に応じて軌道の修正を行うプロセスです。それぞれの領域において、進捗の度合いと事前の計画を比較しながら、的確に問題点を洗い出していくことが重要となります。

5.終結

終結プロセスは、計画されたプロセスが完了しているかどうかを検証し、プロジェクトを公式に締めくくる過程を指します。この段階においては、着実にプロジェクトを終結させるとともに、実行段階において得られた情報や経験を保管し、次のプロジェクトへ活かす準備を進めることが重要です。

PMBOKの資格を取ろう!

PMBOKとの関連性が深く、プロジェクト管理の能力を客観的に示す資格として、PMPがあります。PMI本部が提供している国際資格であり、業種や職種を問わずに活かせる世界的な評価基準となっていることから、重要性が高まっている資格です。

PMPの受験資格や概要について解説していきます。

PMP(プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル)

PMP(Project Management Professional)の受験資格を満たすためには、プロジェクトリーダーとしての実務経験が必要です。4年制大学卒以上の経歴、もしくは相当する資格を持っている人は、36ヶ月のプロジェクト管理経験と4,500時間を超えてプロジェクトの指揮をとった実務経験が求められます。

高卒以上の資格を持っている人であれば、60ヶ月以上のプロジェクト管理経験と、7,500時間以上のプロジェクト指揮の経験が必要です。なお、これらの実務経験として認められるのは、試験申し込み日からさかのぼって8年以内に行われたものに限ります。

さらに、35時間以上の公式なプロジェクト管理の研修を受講していることが受験資格の条件です。研修に関しては、履修する内容や研修を行う期間についても条件があります。

また、試験はコンピューターによる4択問題によって行われ、QCD管理を達成するための5つのプロセスに関する分野が200問出題されます。PMPの取得によって、プロジェクト管理能力を客観的に証明できるため、評価の向上やキャリアアップへとつながる重要な足がかりだと言えます。

まとめ

PMBOKでプロジェクトを成功に導くためには、10の知識エリアと5つのプロセスを体系的に理解したうえで、実践に活かしていく工夫が必要となります。プロジェクトの進行を標準化できるシステムであるため、ある意味では組織を硬直化させてしまう恐れもあるでしょう。

そのため、プロジェクトに参加するメンバーの状態や組織の状況に合わせて、柔軟に改善を続けていく姿勢が大切となります。PMBOKのメリットをうまく活かしながら、効率的なプロジェクトの遂行に努めましょう。