高知県にある五月会須崎くろしお病院は、グループに「介護老人保健施設」「訪問看護ステーション」「グループホーム」「小児リハビリ特化型事業所」を擁し、300名超の職員一丸となって、地域密着型の医療・介護を提供しています。しかし、そのバックオフィスは、旧態依然としたオンプレミス型のシステム、施設ごとにバラバラの会計処理、膨大な手作業と、多くの課題を抱えていました。『freee会計』『freee人事労務』の導入を経て、どのように状況が変化したのか。DX化を推進したバックオフィスのキーパーソンにお話を伺いました。
DXがはじまる前の、状況
「更新に数百万かかるオンプレミス型システム 〜旧態依然のバックオフィスが迎えた限界
――まずは、freee導入前のバックオフィスの状況について教えてください
田村さん(以下、田村): freee導入前、一番の課題は、長年使ってきたオンプレミス型の業務システムにありました。
搭載機能が限定的だったにもかかわらず、業務実態に合わせて機能を更新しようとすると、数百万円という莫大な費用がかかります。
それに、経理担当の職員が、1台のPCを共有して使っていた時期もありました。誰かが入力している間は、他の人は待っているしかない。また、そのPCでしか作業ができないので、業務が属人化してしまう。担当者が不在だと、誰も状況がわからない、作業が進まない、ということが当たり前でした。
また、顧問の社労士や税理士の方々とのやりとりもアナログなやりとりが多く、時間と手間がかかっていました。この状況も、既存のオンプレミス環境のままでは解決しないなと考えていました。
――会計処理面はどうでしたか?
田村: キャッシュ・マネジメントも大きな課題でした。病院本体と関連施設で、別の口座で支払いを行っていたんです。なので、法人全体の収支はリアルタイムではわかりません。正確には月末の集計を待って把握している状況でした。
ですから、どうしても各施設で「バッファ」として多めに預金を確保する必要がありました。そうなると、それぞれの施設にバッファが散らばり、 全体で見るとかなりの金額になる。今思えば、非常に無駄の多い状態でしたね。
それに、手作業が多い状態でしたから、どうしてもヒューマンエラーが発生します。Excelで集計した数字が合わない、どこで間違えたかわからない、という「間違い探し」に多くの時間を費やしていました。
職員は、ミスしないようにと常に緊張を強いられ、精神的な負担も大きかったと思います。
そこで、3年ほど前に本格的にDX化推進の話が出て、複数のクラウドシステムを比較検討していました。
DX推進の、第一歩
なぜfreeeだったのか?「まるっと」一元管理が決め手
――DX化検討の中で、最終的にfreeeになった決め手は何だったのでしょうか?
田村: 一番の理由は、会計から人事労務まで「まるっと」一元管理できる点です。
私たちは、「会計だけ」「勤怠だけ」という部分的な解決を求めていませんでした。バックオフィス業務全体を連携させて、効率化の相乗効果を生み出したかった。
たとえば、「人事情報」「給与計算」「会計情報」がバラバラのシステムに存在していれば、結局どこかで手作業での転記や集計が発生します。
freeeであれば、「従業員情報」という一つの核をもとに、「勤怠」「給与」「会計」「年末調整」といった情報がすべてつながっている。この「まるっと」一元管理が非常に魅力的でした。「ここだけは手作業で」という部分が限りなく少なくなるだろうと感じたんです。freeeを起点に、バックオフィスの効率化を進めていきたいと考えました。
――導入の意思決定はスムーズに進みましたか?
田村: スムーズだったと思います。理事長をはじめとした経営層がDX推進に前向きだったことが大きいです。バックオフィスチームの提案を、しっかり受け止めてくれました。
もちろん、顧問の社労士さんや税理士さんとの調整は必要でした。でも、最終的に「バックオフィス全体のコストパフォーマンスを上げていく」という大きな方針のもとで、導入を進めていくことができました。
freeeがもたらした、変化①
「リアルタイム経営」のインパクト
――freee導入後、最もインパクトが大きかった変化は何ですか?
田村: 一番は、リアルタイムの経営状況把握が可能になったことですね。本当に画期的でした。施設ごとに「預金のバッファ」を持たせる必要がなくなりました。
法人全体の資金の流れがクリアになったので、どこにどれだけの資金を置いておくべきか、最適化できるようになりました。キャッシュ・マネジメントが健全化されたと思います。
2つ目に、「確認コスト」が減ったことも、地味ですが大きな変化です。以前は「あの支払いはどうなりましたか?」といった確認が日常的に発生していました。でも今は、freeeを見れば誰でも わかる。担当者がエッセンシャルな作業に集中できる時間が増えました。
――経営層からフィードバックはありましたか?
田村: 田村さん: 経営層はとても喜んでいますね。リアルタイムで数字が見えるので、それだけ迅速な経営判断が可能になる。このスピード感は、変化の激しいこの時代において、組織の大きな強みになると感じています。
freeeがもたらした、変化②
「場所に縛られない働き方」が地域の雇用を変える
――「経理」「経営」以外に、何か変化はありましたか?
西村さん(総務、以下 西村): 「働き方」にも大きな変化がありました。freeeがクラウドであることの恩恵を、最も受けた部分だと思います。
freee導入とコロナ禍がほぼ同じタイミングでしたが、在宅ワークへの移行がスムーズだったのは、間違いなくfreeeのおかげです。もし、オンプレミス型のままだったら、誰かが出勤しないと業務が完全にストップしていたでしょうね。
実際に、コロナ禍で通勤困難になった職員もいましたが、在宅での業務継続が可能になりました。
PC1台とインターネット環境さえあれば、どこでも仕事ができる。これは、地域での人材 確保が加速度的に難しくなる中で、また、地域の従業員を雇い続ける責務がある中で、従業員を守るためのセーフティーネットになっています。
――「年末調整」はどうでしたか?多くの法人がとても苦労している部分です。
嶋﨑さん(経理): 劇的に楽になりました。以前は、全職員の書類を紙で集め、チェックし、入力して…と、1カ月以上かかる大イベントでした。それがfreee導入後は、職員が自分でスマホやPCから入力してくれるので、バックオフィスの作業期間は半分以下に短縮されました。もはや年内に余裕をもって終わる業務になっています。
最初は「年末調整の入力をやりたくない」と宣言する職員もいましたが(笑)、freeeは質問に答えていくだけの簡単操作なので、どんな人でも迷わず使えます。
紙やメールのやりとりによる確認作業がなくなったので、結果的に、バックオフィスだけでなく、職員全員の負担軽減につながっています。
――以前の課題だったヒューマンエラーや、それに伴う心理的な負担についてはどうですか?
西村: その部分も大きく改善されました。「常に情報が同期されている」という安心感は絶大です。以前は、提出された書類が本当に正しいのか、常に疑いの目でチェックしなければなりませんでし た。
今は、みんなで同じ画面を見ることができるので、ダブルチェックが容易です。「今入力しているんですけど、ちょっと見てもらえませんか?」と気軽に頼めるし、もし間違いがあってもすぐに発見できる。
お互いを疑うのではなく、「早く見つけてくれてありがとう」「直してくれて助かります」というポジティブなコミュニケーションが生まれるようになりました。職員の心理的安全性が向上していると思います。
freeeとつくる、未来
「クラウドツールはもはやインフラ」〜手作業ゼロを目指して
――今後のバックオフィスの展望や、freeeに期待することがあればお聞かせください。
田村: 私たちの次の目標は、「手作業を限りなくゼロにする」ことです。まだ、行政への報告資料の作成などで、手作業が残っている部分があります。
特に、看護に関する施設基準の計算で重要な「様式9」のような帳票は、非常に細かい職員情報の提出が必要で、これをfreeeのデータから簡単に出力できるようになることを強く期待しています。
将来的には、電子カルテのデータとも連携し、診療報酬の請求なども含めて、あらゆるデータの一元管理と、分析できる状態が理想です。AIなども活用しな がら、分析を容易かつ精緻に行い、より良い病院経営につなげていきたいと考えています。
――最後に、貴院にとってfreeeとはどのような存在でしょうか?また、同じようにDX化に悩む他の病院の方々へメッセージをお願いします。
田村: 私たちにとってfreeeは、もはや「電気や水道のようなインフラ」です。これがないと仕事が成り立ちません。単なるツールではなく、私たちの働き方、そして病院経営そのものを変革してくれたパートナーだと思っています。
他の病院の方々にお伝えしたいのは、「DXは思ったよりも難しくない」ということです。今までのやり方を変えるのは、確かに勇気がいることです。でも、クラウドツールを導入すれば、少ない投資で、大きな変化を生み出せます。私たちのように、バックオフィスが「まるっと」楽になる経験を、多くの病院に味わってほしいです。