債権・債務の基礎知識

「債権」と「債務」の違いをわかりやすく解説|債権者と債務者がやるべきこととは

「債権」と「債務」の違いをわかりやすく解説|債権者と債務者がやるべきこととは

「債権」や「債務」という言葉は知っているものの、「具体的に何を指しているのかわからない」「どう違うのかを正確に説明できない」という人は意外に少なくないかもしれません。

本記事では、債権・債務の概要や債権と物権との違い、契約種類別に見る債権・債務の具体例、債務に対する債権の効力などを解説していきます。

目次

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債権と債務の違いは?

債権と債務の違いは、前者が「権利」、後者が「義務」であることです。債という漢字には「借金」や「果たすべき約束」といった意味があり、債権は「特定の人に対して借金の返済や約束の履行を求める権利」、債務は「特定の人に対して借金の返済や約束の履行を果たす義務」といい換えることができます。

お金を貸し借りする場面では、お金を貸した人は「債権者」となり、お金を返してもらう権利(債権)があります。一方で、お金を借りた人は「債務者」となり、債務者には借りたお金を返す義務(債務)が発生します。

日常生活の中で発生する債権・債務の例としては、以下のものが挙げられます。


債権債務
金銭の貸し借りお金を貸した相手から、お金を返してもらう権利お金を借りた相手に、お金を返す義務
雇用契約における労働雇用相手(使用者)から、給料を受け取る権利労働の対価として、給料を支払う義務

「債権」や「債務」といった用語は契約の際に使われることが多いため、正しく認識しておくことが必要です。

債権と物権の違い

債権と似た言葉に「物権」があります。物権は「財産(物)を自分のものとして支配する権利」を指す言葉で、自宅、車、スマートフォンなど、自身が所有していて自由に使用できる物は「自身の物権の対象」です。不動産や動産に対する所有権や占有権、抵当権なども物権に該当します。

債権と物権の違いは、権利の対象です。債権は「人」を対象とした請求権(要求できる権利)であるのに対し、物権は「物」を対象とした直接的な支配権(所有する権利)を指します。


債権債務物権
定義他者に対し、特定の行為を請求する権利他者に対し、特定の行為を提供する義務財産(物)を自分のものとして支配する権利
具体例Aさんが貸したお金をBさんから返してもらう権利BさんがAさんから借りたお金を返す義務自分の家や車を自由に使用する権利

物権には「一物一権主義」(ひとつの物には同一内容の物権はひとつしか成立しない)という考え方があります。そのため、「自身の物権の対象」についてであれば、誰もがすべての人に対して権利を主張することが可能です。これを「排他性」といい、原則として排他性を有する物権のほうがそうでない債権よりも優先されます。

ここで、家の所有者であるAさんがBさんに家を売却した場合の債権、債務、物権についてそれぞれ考えてみましょう。

◆家の所有者であるAさんがBさんに家を売却した場合の例

AさんBさん
債権Bさんから家の売却代金を受け取る権利Aさんから家の所有権を受け取る権利
債務Bさんへ家の所有権を渡す義務Aさんへ家の購入代金を支払う義務
物権物権(所有権)の消滅物権(所有権)の発生

上記の例では、AさんはBさんから家の売却代金を受け取る権利(債権)が発生し、Bさんへ家を渡す義務(債務)が発生します。また、Aさんは家を売却した時点で家の物権(所有権)を失うため、以降は他人へその家を貸したり売却したりすることができなくなります。

一方、Bさんは家の購入代金を支払った段階で物権(所有権)が発生するため、それ以降であればBさんは誰に家を貸したり売ったりしても問題ありません。

契約種類別に見る債権・債務の具体例

以下では、4つの契約の種類による債権・債務の関係性について具体例を紹介します。

  • 双務契約
  • 片務契約
  • 相殺
  • 相続

双務契約

双務契約(そうむけいやく)とは、売買契約や労働契約に代表される、契約の当事者である双方がそれぞれ債権者にも債務者にもなる契約形態のことです。双務契約では、原則として互いが同時に債務を履行する(同時履行)必要があります。

民法で定義されている13種類のうち、以下の契約が双務契約になります。

双務契約になる契約

  • 売買契約(民法555条~585条)
  • 賃貸借契約(民法601条~622条の2)
  • 請負契約(民法632条~642条)
  • 有償の委任契約・準委任契約(民法643条~656条)
  • 有償の寄託契約(民法657条~666条)
  • 雇用契約(民法623条~631条)

出典:e-Gov法令検索「民法 第一編第二章」

それぞれの事例について見ていきましょう。

◆AさんがBさんに時計を1万円で販売した場合の債権と債務の例(売買契約)

AさんBさん
債権Bさんから代金1万円を受け取る権利Aさんから時計を受け取る権利
債務Bさんに時計を渡す義務Aさんへ代金を1万円を支払う義務

AさんがBさんに時計を渡す(債務)と同時に、BさんはAさんへ代金1万円を支払う(債務)必要があります。これを、同時履行と呼びます。双務契約においては、相手が債務を履行するまで自分も履行しないと主張することが可能です。

同時履行の抗弁

双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

また、当事者が何らかの理由で債務を履行できない状態になった場合、もう一方の当事者は債務の履行を拒否できる場合があります。

債務者の危険負担等

当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

ただし、契約時に債務を履行するタイミングを指定している場合(報酬の支払い期日を決めている業務委託契約など)には、同時履行をする必要はありません。

片務契約

片務契約(へんむけいやく)とは、契約を締結した当事者のいずれか一方だけが債務を負う契約形態のことです。一方が「債権者」、他方が「債務者」となるため、それぞれの立場と義務・権利がはっきりと分かれます。

民法で定義されている13種類のうち、以下の契約が片務契約になります。

片務契約になる契約

  • 贈与契約(民法549条~554条)
  • 消費貸借契約(民法587条~592条)
  • 使用貸借契約(民法593条~600条)
  • 無償の委任契約・準委任契約(民法643条~656条)
  • 無償の寄託契約(民法657条~666条)
  • 対価がない終身定期金契約(民法689条~694条)

ビジネスにおいては、秘密保持契約(NDA)も片務契約に該当します。

◆AさんがBさんに1万円を貸した場合の債権と債務の例(金銭消費貸借契約)

AさんBさん
債権Bさんから1万円を返してもらう権利なし
債務なしAさんへ1万円を返す義務

片務契約の場合、原則として同時履行の問題は発生しません。また、片務契約では、使用貸借契約のように経済的な支出が発生しない無償契約のケースもあります。

◆AさんがBさんに無償で家を貸した場合の債権と債務の例(使用貸借契約)

AさんBさん
債権なしAさんの家を使用する権利
債務Bさんに使用させる義務なし

上記のように無償で家を貸した場合、Aさんの賃料を受け取る権利とBさんの賃料を支払う義務は発生しないため、片務契約および無償契約となります。一方、有償で家を貸す賃貸借契約の場合は、以下のように双務契約および有償契約となります。

◆AさんがBさんに有償で家を貸した場合の債権と債務の例(賃貸借契約)

AさんBさん
債権Bさんから賃料を受け取る権利Aさんの家を使用する権利
債務Bさんに使用させる義務Aさんへ賃料を支払う義務

相殺

相殺とは、双方が同じ種類の債権を有しているときに、互いの債権を相手の債務と帳消しにする行為です。

例として、AさんがBさんから800万円を借りている状態を考えてみましょう。同時に、BさんはAさんから700万円の商品を買う約束をしていました。

通常であれば、BさんはAさんへの支払いとして700万円を用意する必要がありますが、現金を準備するには一定の時間や手間がかかります。このような状況で、AさんもしくはBさんが「相殺する」ことを提案して相手方が承諾すれば、Aさんの800万円の借金から700万円を差し引き、残りの100万円をBさんが支払えばよいという状況になります。

ただし、相殺を適用するには、以下の3つの要件が満たされていなければなりません。

相殺が適用される要件

  • 双方が同じ種類の債務を有している
  • 双方の債務返済期限(弁済期)が近い
  • 相殺の意思表示をしている

これらの条件が満たされており、双方の債権が相殺可能な状態にあることを「相殺適状」と呼びます。なお、以下の債権については相殺が禁止されているので注意しましょう。

相殺が禁止されている債権

  • 当事者が相殺を禁止した債権
  • 不法行為により生じた損害賠償債権
  • 差押禁止債権

相続

相続とは、亡くなった人の債権や債務をその相続人が引き継ぐことを指す言葉です。

相続に関しては、故人のことを「被相続人」、債権や債務を引き継ぐ人のことを「相続人」と呼びます。債権や債務を相続すると、相続人が債権者または債務者になります。

たとえば、被相続人が亡くなった時点において「1,200万円の債権を持っていて、1,500万円の債務がある状態」だったとしましょう。この場合、1人の相続人がすべてを相続すると、相続人には差し引きで300万円の支払い義務(債務)が発生します。

債権と債務は、分けて相続することはできません。そのため、すべての財産状況を洗い出したうえで相続するかどうかを決めるという慎重な判断が求められます。

また、被相続人が有していた全債権を相続できるというわけではありません。


相続できる債権相続できない債権
・貸金
・賃貸借の債権
・売掛金
・損害賠償請求権
・養育費
・年金・生活保護の受給権

相続できる債権のうち、貸金や売掛金など分割できる債権は「可分債権」と呼ばれ、法定相続分(被相続人が2人以上いる場合の、それぞれの相続割合)に従って相続します。

たとえば、相続人が配偶者と子ども2人で1,200万円の債権を相続する場合は、以下のようになります。


法定相続分相続する債権
配偶者2分の11,200万円÷2=600万円
子どもA2分の1の2分の11,200万円÷2÷2=300万円
子どもB2分の1の2分の11,200万円÷2÷2=300万円
出典:国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」

不法行為に関する債権・債務

債権や債務は契約によるものだけでなく、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した場合にも発生します。

出典:e-Gov法令検索「民法 第七百九条」

たとえば、車の運転中に交通事故で相手に怪我を負わせた場合は、運転手に債務が、被害者に債権が発生します。

債務に対する債権の効力

債権者が債務者に対して発揮できる法的な効力・法的措置は以下の通りです。

債務者に対して発揮できる法的効力・法的措置

  • 給付保持力
  • 訴求力
  • 執行力
  • 損害賠償請求
  • 契約解除

上記はいずれも法律によって保護されており、裁判所に訴えることで強制力をもって行使できます。

給付保持力

給付保持力とは、債務者から受け取った物やお金を、債権者が自分のものとして保持できる法的な権利です。つまり、法律的な手続きを経て正しく債務履行が行われた場合、もとの所有者(債務者)がそれを戻すよう要求しても、債権者はその要求を拒否できます。

◆AさんがBさんに賃料20万円で家を貸した場合の給付保持力(賃貸借契約)

AさんBさん
債権Bさんから賃料20万円を受け取る権利Aさんの家を使用する権利
債務Bさんに家を使用させる義務Aさんへ賃料20万円を支払う義務

BさんはAさんに賃料20万円を支払うことで(債務履行)、Bさんは家を使うことができます。AさんがBさんに対し家から出て行くように要求しても、Bさんはこれを拒否できます。

一方で、AさんはBさんに家を使用させることで(債務履行)、AさんはBさんから賃料20万円を受け取ることができます。Bさんが家の使用を停止したとしても、Aさんは賃料20万円をBさんへ返還する必要はありません。

訴求力

訴求力とは、債務者が債務を履行しなかった場合(債務不履行)に、裁判所に対して債権が持つ法的な権利を確認できる効力です。

具体的には、以下のような手続きが取られます。

  • 債権回収の民事訴訟を提起する
  • 支払督促を裁判所へ申し立てる
  • 債権回収をするために調停委員に仲介役になってもらう

上記の手続きによって裁判所から債務名義の正本を受け取れば、債務者の財産を強制的に差し押さえられるようになります。

執行力

執行力とは、訴求力による手続きを踏まえて、債務者の財産を強制的に差し押さえられる効力です。

執行力は、以下の2つに分類されます。

  • 債権の内容を「そのままの形」で請求できる貫徹力(かんてつりょく)
  • 債権を内容を「別の形」で請求できる掴取力(かくしゅりょく)

貫徹力

債権者は債務者の意思にかかわらず、強制的に債務の履行を求めることができます。これは債権者が法的に保護されているためで、債務者が借金の返済を拒否しても債権者は返済を強制的に請求できます。

たとえば、発生した債権の内容が「商品の販売代金30万円」だった場合、債務者が代金の支払いを拒否した場合でも現金30万円を請求できます。また、債権の内容が「30万円で購入した商品を受け取る」だった場合、商品をそのまま受け取ることができます。

掴取力

債務者が債務を履行しない場合、債権者は債務者の意思にかかわらず、掴取力によってその財産を差し押さえられます。

たとえば、債権の内容が「30万円で購入した商品を受け取る」だった場合、受け取る商品を債務者が別の人に販売してしまっていれば、商品を受け取ることはできません。このような場合には、30万円相当の別の商品や現金30万円など、本来の債権内容とは別の形で受け取ることができます。

損害賠償請求

債権者が何らかの形で損害を受けた場合、債務者に損害賠償を請求できます。たとえば購入予定の商品が納品されなかった場合、債権者(購入者)は債務者(販売者)に対し、その損害を補うための金銭(賠償金)を求めることが可能です。

また、AさんがBさんに賃料20万円で家を貸すという賃貸借契約を締結したにもかかわらず、Aさんが家を引き渡さなかった場合(債務不履行)、Bさんは債務が履行されるまで別の家を借りなければなりません。 その際に発生した引越しの予約キャンセル料や、別の家の賃料など、「債務が履行されていれば発生しなかった出費」については損害賠償として債務者へ請求することが認められています。br>

契約解除

契約における債務が履行されない場合、債権者による一方的な契約の解除が可能です。

たとえば、AさんがBさんに賃料20万円で家を貸すという賃貸借契約を締結したにもかかわらず、Bさんが賃料を支払わなかった場合(債務不履行)、AさんはBさんに対して家から出ていくように要求できます。

契約が解除されたとしても、それ以前にBさんが住んでいた期間(債務が履行された期間)について、Bさんは賃料を支払う義務があります。

債務を消滅させる方法

債務者が債務を消滅させる方法は、主に債務の履行(弁済)です。ただし、民法においては債務の履行以外の方法についても定められています。

弁済

弁済とは、債務者が債権者に対して債務を履行し、債務を消滅させる行為です。弁済は第三者でも行うことができますが、債務者の意思に反して弁済することはできません。

出典:e-Gov法令検索「民法 第四百七十三条、第四百七十四条」

代物弁済

代物弁済とは、債権者に対して弁済できる人が債権者と契約を締結し、「本来の債権と同じ価値のある別のもの」を用いて弁済することで債務を消滅させる行為です。

出典:e-Gov法令検索「民法 第四百八十二条」

供託

供託とは、債権者が弁済を受け取らない場合に、弁済者が弁済の目的物を国の機関である供託所に寄託することで債務を消滅させる行為です。

供託できるのは、弁済を提供した場合において「債権者が受領を拒んだとき」「債権者が弁済を受領できないとき」「弁済者が債権者をはっきり認知できないとき(弁済者に過失があるときを除く)」のいずれかです。供託には、弁済供託、担保保証供託、執行供託、没取供託、保管供託などの種類があります。

出典:e-Gov法令検索「民法 第四百九十四条」

相殺

相殺とは、双方が同じ種類の債権を有しているときに双方の債権を相手の債務同士で消滅させる行為です。

更改

更改とは、当事者が従前の債務の代わりに新たな債務を発生させる契約の締結によって従前の債務が消滅することです。

新たな債務に該当するのは、「従前の給付内容について重要な変更をするもの」「従前の債務者が第三者と交替するもの」「従前の債権者が第三者と交替するもの」です。

出典:e-Gov法令検索「民法 第五百十三条」

免除

免除とは、債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示することで債権が消滅することです。債権者から見た場合には、「債務放棄」と呼ばれます。

法的な手続きによらず、債権者からの一方的な意思表示だけで免除は成立します。税務申告を考慮し、内容証明郵便で免除の意思表示をするケースが一般的です。

出典:e-Gov法令検索「民法 第五百十九条」

混同

混同とは、債権および債務が同一人に帰属したときに債権が消滅することです。ただし、債権が第三者の権利の目的である場合、債権は消滅しません。

出典:e-Gov法令検索「民法 第五百二十条」

債務者が債務を果たさないリスク

債務者が債務を履行しなかった場合、債務の弁済だけでなく以下のようなリスクも負います。

債務を履行しなかった場合のリスク

  • 損害賠償責任を負う
  • 契約を解除される
  • 訴訟を提起される
  • 強制執行を受ける

上記に加えて債務者の生活に悪影響がおよんだり、社会的な信用を失ったりする恐れもあります。

損害賠償責任を負う

債務者が期日までに債務を履行しなかったことで債権者に損害が生じた場合、債務者は損害を賠償する責任を負います。

出典:e-Gov法令検索「民法 第四百十五条」

損害賠償の対象となるのは、原則として債務不履行によって「通常生ずべき損害」(一般的に生じると考え得る損害)のみで、「特別の事情によって生じた損害」(一般的な感覚では発生を予想できない損害)は賠償の対象になりません。

「通常生ずべき損害」は、債務不履行と損害発生の因果関係を債権者が立証すれば認められます。債務者が損害賠償責任を否定したい場合は、責任がないことを立証しなければなりません。

「通常生ずべき損害」は、債務不履行と損害発生の因果関係を債権者が立証すれば認められます。債務者が損害賠償責任を否定したい場合は、責任がないことを立証しなければなりません。

出典:e-Gov法令検索「民法 第四百十六条」

契約を解除される

債務者が債務を履行しなかった場合、債権者から相当の期間を定めて履行の催告があります。その期間内に債務を履行しないと、債務者は契約を解除されます。

出典:e-Gov法令検索「民法 第五百四十一条」

以下に該当する場合、債権者は債務者へ催告することなく契約の全部または一部を解除できるとされています。

債務者へ催告なしに契約を解除できるケース

  • 債務のすべてを履行できないとき
  • 債務者がすべての債務の履行を拒絶する意思を明確にしたとき
  • 債務の一部を履行できない、もしくは債務者が一部の履行を拒絶する意思を明確にした場合で、履行済みの部分のみでは契約した目的を達成できないとき
  • 特定の日時や一定の期間内に債務を履行しなければ契約した目的を達成できない場合で、債務者が履行をしないままその時期を経過したとき
  • 債務者が債務を履行せず、債権者が催告(一定行為の要求)をしても契約した目的の達成に十分な履行がなされないことが明らかなとき
  • 債務の一部を履行できないとき
  • 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確にしたとき

出典:e-Gov法令検索「民法 第五百四十二条」

ただし、催告期間の債務不履行が社会通念に照らして軽微である場合は、契約が解除されないこともあります。また、債務者の債務不履行の原因が債権者側にある場合も、債権者は契約を解除できません。

出典:e-Gov法令検索「民法 第五百四十三条」

訴訟を提起される

債務不履行によって生じた損害賠償の支払いや給付の返還を債務者が拒否した場合、債権者から訴訟を起こされる恐れがあります。訴訟を提起された場合は、債務の支払いが必要か否かを公開法廷で争います。

訴訟によって発生する多くの費用や作業負担もリスクといえるでしょう。

強制執行を受ける

強制執行とは、債権者の申し立てを受けて執行裁判所や執行官などの機関が債権者の代わりに債権を回収するプロセスのことです。債権者が債務者から直接債権を回収することは禁止されています。強制執行は、債務不履行に関する訴訟の勝訴後や債務者との和解成立後、命じられた債務が履行されなかった場合に実行されます。

強制執行手続きには、債務名義が必要です。「債務名義」とは、債権者や債務者、請求権、対象になる財産などが記載された公的機関が作成した文書を指します。

主な債務名義は以下の通りです。

  • 確定判決
  • 和解調書
  • 調停調書
  • 強制執行認諾文言付き公正証書

また、強制執行には、以下の3種類があります。


不動産執行・債務者が所有する土地や建物などの不動産を差し押さえ、換金することで債権を回収する手続き
・不動産の売却代金から債権を回収する強制競売と、不動産の賃料などから債権を回収する強制管理の2種類がある
動産執行・債務者が所有する現金や有価証券、商品、什器・備品、機械、家財道具などの動産を差し押さえ、換金することで債権を回収する手続き
債権執行・債務者が第三債権者に対して有する債権を差し押さえ、第三債権者から債務を弁済してもらうことで債権を回収する手続き
・銀行預金や勤務先から受け取る給料、売掛金、貸金などが差し押さえの対象になる
・給料は4分の1までしか回収できず、年金や生活保護費、児童手当については差し押さえできない

債権回収で押さえておきたいポイント

債権回収とは、期限までに獲得できなかった債権を債権者から回収することです。具体的には、以下のような方法が考えられます。

  • 債権者に電話や対面で交渉する
  • 内容証明郵便で督促する
  • 民事調停手続を行う
  • 支払督促を申し立てる
  • 通常訴訟・少額訴訟を提起する
  • 強制執行を申し立てる

債権回収で押さえておきたいポイントは以下の2点です。

  • できるだけ早く行動する
  • 契約内容を確認する

できるだけ早く行動する

債権回収の第一歩は、できる限り早く行動を起こすことです。債務者が経済的に苦境に立たされている場合、時間を置くほど回収が困難になるでしょう。

債務者が倒産する前に債権を回収することで、貸倒れのリスクを回避できます。回収金額が大きい場合、回収が遅れると自社の経営にも影響をおよぼす懸念があるため注意が必要です。すぐに債権を回収できないと、以下の問題が発生する恐れがあります。

  • 債務者の財務状況が悪化したり倒産したりすることで債務履行が困難になる
  • 債務が時効を迎えて回収できなくなる

経営悪化により債務者が破産申請などの法的手続きを取ってしまうと、債権回収は困難になります。倒産前であれば、財産に対する仮差し押さえなどの保全手続きや不動産・預金・売掛金などの財産に対する強制執行、代物弁済、相殺、商品の引き上げなどが可能です。

普段から与信管理を徹底し、取引先(債務者)の経営状況を確認しておきましょう。

また、債権には時効があり、債権者が権利を行使できることを知ったタイミングから5年間行使しなかった場合、また権利を行使できるタイミングから10年間行使しなかった場合、債権は消滅します。

債権が時効で消滅すると債務者は債務を履行する必要がなくなるため、債権者は債権を回収できなくなります。

出典:e-Gov法令検索「民法 第百六十六条」
出典:e-Gov法令検索「民法 第百四十五条」

契約内容を確認する

債権回収においては、以下のような問題が発生する恐れがあります。

  • 債務者と急に連絡が取れなくなる
  • 支払いが遅れたせいで損害が発生した
  • 債務者である会社が倒産した
  • 債務者とトラブルになった

トラブルを防ぐためにも、契約内容の確認が重要です。契約内容については、以下の項目をチェックしておきましょう。


項目内容
請求先・契約書の当時者と請求先が一致しているかを確認する ・請求先が委託された第三者の場合、内容証明郵便の送付や法的な手続きは効果を発揮しない
支払期限・支払い期日は債権の消滅時効の起算日でもあるため、正確に把握しておく必要がある
利益喪失条項の有無・契約書で「期限の利益の喪失」が定められており、期日を過ぎても支払いが行われない場合、債権者は将来支払い期日を迎える債権も含め全債権を一括請求できる
連帯保証人の有無・連帯保証人が立てられており、債務者が期日までに支払いを行わなかった場合、連帯保証人から債権のすべてを回収できる
合意管轄の条項の有無・契約の当事者間でトラブルが発生したとき、どこの裁判所で裁判を行うかを合意で決めておくことができる

まとめ

債権は債務者に対して特定の行動の履行を要求できる権利であり、債務は債権者に対し特定の行動を履行しなければいけない法的な義務です。債務者が債務を履行しなかった場合、債権者へ債務を弁済する必要があるだけでなく、損害賠償請求されたり、契約を解除されたり、訴訟を提起されて強制執行されたりする恐れがあります。

債権者として債務を回収する場合は、契約内容を確認をしたうえでできる限り早く行動することが重要です。

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よくある質問

債権者と債務者の違いをわかりやすく教えて!

債権者とは、債権の履行を要求できる権利を持つ人(法人)のことです。債権は、特定の人に対して特定の行動の履行を要求できる、民法で定められた権利を指します。

一方の債務者は、債務を履行する義務がある人(法人)のことです。債務は、特定の人に対して特定の行動を履行しなければならない法的な義務を指します。

詳しくは記事内の「債権と債務の違いは?」をご覧ください。

債権者が債務者に対してできることは?

債権者が債務者に対して発揮できる法的な効力は以下の通りです。


  • 給付保持力
  • 訴求力
  • 執行力
  • 損害賠償請求
  • 契約解除

詳しくは記事内の「債務に対する債権の効力」をご覧ください。

債権回収のポイントは?

債権回収は、できる限り早く行動する必要があります。債権の回収に時間がかかると、債権がすべて回収できなくなるかもしれません。

また、債権回収のため以下の項目について契約内容を確認しておくことも重要です。


  • 請求先
  • 支払期限
  • 利益喪失条項の有無
  • 連帯保証人の有無
  • 合意管轄の条項の有無

詳しくは記事内の「債権回収で押さえておきたいポイント」をご覧ください。

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