監修 水野 崇 水野総合FP事務所
政府系金融機関とは、政府が資本の全額または一部を出資し、政策目的に沿って運営される金融機関です。日本政策金融公庫や商工組合中央金庫など5つの機関があり、民間の金融機関では対応しにくい創業期や中小企業の資金調達を支えています。
創業者にとって、政府系金融機関は資金調達の有力な選択肢です。特に日本政策金融公庫は、2024年4月の制度改正で融資限度額が7,200万円に拡大され、自己資金要件も形式上は撤廃されました。
本記事では、政府系金融機関の概要と5機関の役割を整理した上で、創業者が実際に利用できる融資制度や民間金融機関との使い分けについて解説します。
目次
政府系金融機関とは
政府系金融機関とは、政府が出資し、経済発展や国民生活の安定といった政策目的に基づいて融資を行う金融機関の総称です。一般に以下の5機関を指します。
政府系金融機関の運営方法の特徴
政府系金融機関は、特別の法律に基づいて設立されており、それぞれの根拠法によって業務範囲や監督体制が定められています。財源には財政投融資制度が活用されており、政策目標の達成に必要な分野に対して長期かつ低利の融資を行える点が特徴です。
民間の金融機関は営利を目的とするため、事業実績が乏しい創業期の企業や、担保を十分に持たない中小企業への融資にはリスク面で慎重になりがちです。政府系金融機関は、こうした民間では対応が難しい領域を補完する役割を担っています。
なお、一般に「政府系金融機関」と呼ばれる5機関のうち、財務省の予算区分上の「政府関係金融機関」に該当するのは日本政策金融公庫、国際協力銀行、沖縄振興開発金融公庫の3機関です。日本政策投資銀行と商工組合中央金庫は、民営化プロセスの途上にあるため区分が異なります。
政府系金融機関の変遷の歴史
現在の政府系金融機関の体制は、2008年10月の政策金融改革によって形づくられました。この改革では、国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫の3つの公庫が統合され、日本政策金融公庫(JFC)が発足しています。
この統合時には、国際協力銀行(JBIC)の国際金融等業務も日本政策金融公庫の一部門に組み込まれました。しかし、国際情勢への機動的な対応が求められたことから、2012年にJBICは日本政策金融公庫から分離し、再び独立した機関となっています。
こうした再編を経て、現在は日本政策金融公庫、商工組合中央金庫、日本政策投資銀行、国際協力銀行、沖縄振興開発金融公庫の5機関が政府系金融機関として活動しています。
日本銀行との違い
日本銀行は、通貨の発行や金融政策の運営を担う中央銀行であり、企業や個人に直接融資を行う機関ではありません。一方、政府系金融機関は、国の政策目的に基づいて事業者への融資や資金供給を行う機関です。そのため、同じ公的な性格を持つ金融機関であっても、役割は大きく異なります。
創業時の資金調達を検討する場面で関わる可能性があるのは、主に政府系金融機関です。たとえば、日本政策金融公庫のように、創業者や中小企業を対象とした融資制度を設けている機関があります。日本銀行は資金調達先ではないため、創業融資を検討する際は両者を分けて理解しておくことが重要です。
政府系金融機関の一覧と各機関の役割
5つの政府系金融機関は、それぞれ対象とする融資先や業務内容が異なります。以下では創業者との関連度が高い順に紹介します。
| 機関名 | 主な対象 | 主な役割 | 創業者との関係 |
|---|---|---|---|
| 日本政策金融公庫 | 個人事業主・中小企業 | 創業者・中小企業向け融資 | 関連性が高い |
| 商工組合中央金庫 | 中小企業組合・組合員 | 組合向け金融サービス | 創業者も利用の可能性あり |
| 沖縄振興開発金融公庫 | 沖縄県内の事業者 | 沖縄県内の政策金融 | 沖縄での創業に関連 |
| 日本政策投資銀行 | 大企業・中堅企業 | 長期融資・投資 | 関連性は低い |
| 国際協力銀行 | 海外事業を行う企業 | 海外展開支援・国際金融 | 国内創業との関連は低い |
日本政策金融公庫(JFC)
日本政策金融公庫は、創業者や中小企業にとって最も身近な政府系金融機関です。主務大臣は財務大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣の5名であり、事業領域が多岐にわたるため複数の大臣が監督しています。
業務は「国民生活事業」「中小企業事業」「農林水産事業」の3つに分かれています。国民生活事業では、小規模事業者や個人事業主への融資、国の教育ローンの取り扱いを行っています。中小企業事業は中堅・中小企業への長期資金供給、農林水産事業は農林水産業の振興に関する融資をそれぞれ担当しています。
創業者向けの融資制度として「新規開業資金(新規開業・スタートアップ支援資金)」があり、2024年4月の制度改正で融資条件が拡充されました。制度の詳細は「創業者が利用できる政府系金融機関の融資制度」で解説します。
商工組合中央金庫(商工中金)
商工組合中央金庫は、政府と民間が共同で出資する金融機関です。主務大臣は経済産業大臣、財務大臣、内閣総理大臣です。中小企業等協同組合およびその組合員を主な融資対象としており、融資に加えて預金の受け入れや債券の発行など幅広い金融サービスを提供しています。
2023年に成立した改正商工中金法に基づき、2025年6月12日に政府保有株式の全てが売却され、同年6月13日に改正法が施行されました。これにより、商工組合中央金庫は資本面での民営化が達成されました。一方で、危機対応業務に関する措置は維持されており、中小企業のセーフティネット機能を担う位置づけは残されています。
沖縄振興開発金融公庫
沖縄振興開発金融公庫は、沖縄県に特化した政策金融機関です。主務大臣は内閣総理大臣と財務大臣です。日本政策金融公庫が全国で提供する中小企業融資や農林水産融資に加え、産業開発資金や住宅資金の供給まで、沖縄県内でワンストップで対応しています。
当初は日本政策金融公庫への統合が予定されていましたが、沖縄経済の自立発展を支援する観点から延期が繰り返されており、2022年の法改正で統合期限は2032年3月末まで延長されました。現在は独立した機関として存続しています。
日本政策投資銀行(DBJ)
日本政策投資銀行は、大企業や中堅企業を主な対象とし、長期融資や投資・融資・コンサルティングの一体型サービスを提供しています。主務大臣は財務大臣です。インフラ整備やエネルギー関連、地域活性化など、公共性の高い分野への資金供給を担っています。
完全民営化が予定されていましたが、危機対応業務や国策支援の必要性から延期が続いており、2026年現在も政府が株式の100%を保有しています。創業者が直接利用する機会は限られますが、政府系金融機関の全体像を理解する上で知っておくとよい機関です。
国際協力銀行(JBIC)
国際協力銀行は、日本企業の海外事業展開の支援や国際金融秩序の安定を目的とした機関です。主務大臣は財務大臣です。海外資源の確保、日本企業の国際競争力強化、途上国の開発支援など、グローバルな政策金融を担っています。
融資対象は海外事業に関わる案件が中心であるため、国内での創業を予定している人が直接利用する場面は少ないといえます。将来的に海外展開を視野に入れる場合には、選択肢の一つとして把握しておくとよいでしょう。
創業者が利用できる政府系金融機関の融資制度
5つの政府系金融機関のうち、創業者が融資を受けられるのは主に日本政策金融公庫と商工組合中央金庫です。
日本政策金融公庫の新規開業資金
日本政策金融公庫の「新規開業資金(新規開業・スタートアップ支援資金)」は、創業者向けの代表的な融資制度です。以前は「新創業融資制度」という独立した制度がありましたが、2024年3月末で廃止され、その機能は新規開業資金に統合されました。
2024年4月の制度改正では、以下の点が変更されています。
| 項目 | 改正前 | 改正後(2024年4月〜) |
|---|---|---|
| 融資限度額 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
| 自己資金要件 | 創業資金総額の10分の1以上 | 形式要件としては撤廃 |
| 据置期間 | 運転資金は最長2年 | 運転資金は最長5年 |
| 返済期間(運転資金) | 最長7年 | 最長10年 |
| 担保・保証人 | 原則不要(新創業融資制度を利用) | 原則不要(標準特例として組み込み) |
自己資金要件が形式上は撤廃されたため、自己資金がゼロでも申し込みは可能です。ただし、融資審査においては、事業主の計画性やコミットメントを測る指標として自己資金が引き続き重視されています。自己資金なしで申し込んだ場合、審査のハードルが上がる可能性がある点は理解しておく必要があります。
商工中金での創業融資と組合加入
商工組合中央金庫も創業者への融資に対応しています。融資対象は原則として中小企業等協同組合の組合員ですが、創業者が直接融資を受けることも可能です。
融資の申し込み時に、事業に関連する協同組合(飲食業、製造業、小売業など)への加入を案内されるのが一般的です。組合への加入手続きは商工中金の担当者がサポートしてくれるため、手続き自体に大きな負担はかかりません。出資金も数千円から数万円程度です。
商工中金の強みは、融資だけでなく、ビジネスマッチングや経営サポートなど伴走型の支援を受けられる点にあります。業界の組合に加入することで、同業種のネットワークが得られる側面もあります。
政府系金融機関と民間金融機関の違い
政府系金融機関と民間金融機関(銀行・信用金庫等)では、融資の目的や審査の考え方が異なります。
融資の目的と審査姿勢の違い
政府系金融機関は、国の政策目標に沿って融資を行います。創業支援や中小企業の育成といった政策的意義がある案件に対しては、事業実績がない段階でも融資を検討する姿勢があります。
一方、民間金融機関は営利目的で運営されているため、融資審査では過去の事業実績や財務状況を重視する傾向があります。創業間もない段階では、十分な実績を示しにくいことから、融資を受けるハードルが高くなるケースがあります。
金利・返済条件の違い
政府系金融機関は、財政投融資を財源としているため、民間金融機関と比較して低い金利で融資を行う傾向があります。返済期間も長期に設定されるケースが多く、据置期間(元金の返済を猶予する期間)が設けられている制度もあります。
民間金融機関の金利は、信用リスクに応じて設定されます。創業期の企業は信用リスクが高いと判断されやすいため、金利が高めになる傾向があります。ただし、自治体の制度融資を利用することで、信用保証協会の保証付きで低利の融資を受けられる場合もあります。
創業期の資金調達における使い分け
創業期の資金調達においては、まず日本政策金融公庫で融資を受けて事業実績を積み、その後段階的に民間金融機関との取引を広げていくのが一般的なパターンです。
日本政策金融公庫での借入実績は、民間金融機関にとっても信用の裏付けになります。公庫で計画どおりに返済を続けている実績があれば、民間金融機関からの追加融資を受けやすくなります。
事業規模の拡大に伴い、信用金庫や地方銀行との取引を開始し、資金調達先を多様化していくことで、資金繰りの安定性を高めることができます。
まとめ
政府系金融機関は、政府が出資し政策目的に沿って運営される金融機関であり、日本政策金融公庫、商工組合中央金庫、日本政策投資銀行、国際協力銀行、沖縄振興開発金融公庫の5機関があります。
創業者が融資を受ける場合、日本政策金融公庫の「新規開業資金」が第一の選択肢になります。2024年4月の制度改正で融資限度額が7,200万円に拡大され、据置期間も延長されるなど、創業者にとって利用しやすい条件に変更されています。
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よくある質問
政府系金融機関にはどのような機関がありますか?
政府系金融機関は、日本政策金融公庫、商工組合中央金庫、日本政策投資銀行、国際協力銀行、沖縄振興開発金融公庫の5機関です。このうち、創業者や中小企業が融資を受ける場面で利用する機会が多いのは、日本政策金融公庫と商工組合中央金庫です。
詳しくは「政府系金融機関の一覧と各機関の役割」をご覧ください。
政府系金融機関と日本銀行の違いは何ですか?
日本銀行は、通貨の発行や金融政策の運営を担う「中央銀行」であり、企業や個人に直接融資を行う機関ではありません。一方、政府系金融機関は、国の政策目標に沿って企業や事業者に直接融資を行う機関です。役割が根本的に異なります。
詳しくは「日本銀行との違い」をご覧ください。
創業時に政府系金融機関から融資を受けるにはどうすればよいですか?
創業時の融資元としては、日本政策金融公庫の国民生活事業が一般的です。最寄りの支店窓口やインターネットから融資の相談・申し込みができます。事業計画書の準備が必要になるため、申し込み前に創業計画を整理しておくとスムーズです。
詳しくは「創業者が利用できる政府系金融機関の融資制度」をご覧ください。
政府系金融機関の融資は個人事業主でも利用できますか?
利用できます。日本政策金融公庫の国民生活事業は、個人事業主や小規模事業者を主な対象としています。法人を設立していなくても、事業を営んでいる人や創業予定の人であれば融資の申し込みが可能です。
詳しくは「日本政策金融公庫(JFC)」をご覧ください。
参考文献
監修 水野 崇
東京理科大学理学部卒業後、東京エレクトロン勤務を経て30歳で独立起業。現在は独立系ファイナンシャルプランナーとして、相談業務に加え、テレビ・ラジオ出演、講演、企業研修など幅広く活動。大学・専門学校の金融経済講義に年間240コマ以上登壇するほか、創業融資・会社設立を含むお金や起業に関する分野で、これまでに1000本以上の執筆・監修に携わる。
