
ウェルビーイング(Well-being)とは、個人や社会が心身ともに満たされた「良い状態」にあることを意味し、身体的・精神的・社会的な健康を含む包括的な概念です。近年では、従業員の幸福度を重視する「ウェルビーイング経営」がビジネスシーンでも注目を集めています。
本記事では、ウェルビーイングの基本的な意味から注目される背景、ウェルビーイング経営の概要やメリット、実践のポイント、導入時の注意点までをわかりやすく解説します。
目次
ウェルビーイング(Well-being)とは
ウェルビーイング(Well-being)とは、「Well(良い)」と「Being(状態)」を組み合わせた言葉で、個人や社会が心身ともに健やかで、社会的にも良好な状態にあることを意味する概念です。
世界保健機関(WHO)はウェルビーイングを「単に病気がない状態だけでなく、肉体的、精神的、社会的にも、すべてが満たされた完全に良好な状態」と定義しています。
このように、ウェルビーイングは医療や健康だけでなく、社会的なつながりや経済状況など多方面にわたる包括的な視点が必要とされます。
出典:公益社団法人日本WHO協会「世界保健機関(WHO)憲章とは」
主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイング
ウェルビーイングは大きく「主観的ウェルビーイング」と「客観的ウェルビーイング」の2つに分類されます。
主観的ウェルビーイングは、個人が自身の人生に対して主観的に感じる認識や感覚のことで、人生への満足度を示すものです。たとえば、「今の生活に満足している」「幸せだと感じている」といった感情が含まれます。
一方、客観的ウェルビーイングは、平均寿命や所得水準、教育の達成度、社会保障の充実度など、数値や統計によって測定できる外的な要素をもとに判断されるものです。自治体や国の単位でウェルビーイングの度合いを比較する際にも、こうした客観的データが用いられます。
両者を総合的に捉えることで、より正確に個人や社会のウェルビーイングを把握することが可能になります。
GDW(国内総充実)との関係
GDW(国内総充実)とは、GDP(国内総生産)に代わり注目されている指標です。国の経済成長だけでなく、精神的・身体的健康や社会的つながり、教育、環境など幅広い要素に焦点を当てて国全体の「豊かさ」や「満たされている状態」を測定します。
近年では、GDPの成長と人々の幸福度が必ずしも一致しないという課題が指摘されており、より多面的に国民生活を捉える指標としてGDWへの関心が高まっています。
ウェルビーイングが注目される背景
これまで国や地域の豊かさを測る指標としては、経済成長を示すGDP(国内総生産)が主に用いられてきました。しかし、GDPはあくまで「経済的な価値の総量」を表すものであり、人々の幸福や生活の充実度までは反映しきれない課題を抱えています。
2007年に開催された国際会議「Beyond GDP」では、経済指標だけでは真の豊かさを測れないという認識が共有され、新たな価値基準の必要性が提起されました。この会議を契機に、国民一人ひとりの幸福感や生活の質に目を向ける機運が高まり、ウェルビーイングという概念が世界的に注目を集めるようになったのです。
とくに、経済成長と国民の幸福度に乖離があるという現実は、多くの国で深刻な社会課題として認識され始めています。その結果、客観的な数値だけでなく、主観的な幸福感や満足感といった「心の豊かさ」を重視する流れが加速し、政策や経営においてもウェルビーイングが注目されています。
ウェルビーイング経営とは
近年、企業経営においても「ウェルビーイング」の考え方が広がりを見せており、その具体的な取り組みとして「ウェルビーイング経営」が注目されています。これは、従業員が心身ともに健康で、社会的にも満たされた状態で働けるように、職場環境や企業文化を整備する経営手法です。
ウェルビーイング経営が注目される理由
ウェルビーイング経営は、従業員一人ひとりの意欲やエンゲージメントを高めると同時に、取引先や地域社会など、企業を取り巻くステークホルダーすべての幸福を追求するという、広い視野を持つアプローチでもあります。企業の持続的成長を実現するためには、単に利益を追求するだけでなく、人と社会の幸福を重視する経営姿勢が求められているのです。
また、少子高齢化や人手不足が進むなかで、優秀な人材を確保・定着させるためにも働きやすく魅力ある職場環境づくりが欠かせません。ウェルビーイング経営は、企業ブランドの向上や競争力強化、企業成長の観点からも、ますます重要性が増しています。
PERMAモデルの5つの要素
ウェルビーイングの実現にあたっては、「PERMAモデル」と呼ばれる心理学的フレームワークが参考にされることがあります。
PERMA(パーマ)は「ポジティブ感情」「思い入れ/結びつき」「肯定的な関係性」「意味/異議」「達成」の5つの要素で構成されます。
項目 | 意味 |
---|---|
Positive Emotion | ポジティブな感情であること |
Engagement | あらゆる事象に対して積極的であること |
Relationship | 他の従業員や関係者と良い関係性が築けること |
Meaning | 人生に意味や意義を見出すこと |
Accomplishment | 達成感を得ていること |
これら5つの要素をバランスよく満たすことで、人はより高いレベルの幸福を実感できるとされています。ウェルビーイング経営においても、PERMAモデルをベースにした取り組みは、従業員の満足度やモチベーション向上に大きく貢献するでしょう。
ウェルビーイング経営のメリット
ウェルビーイング経営は、従業員の心身の健康と働きやすさを重視することで、企業全体にも多くのメリットをもたらします。
企業の生産性向上
アメリカ・イリノイ大学名誉教授のエド・ディーナー博士の研究では、「幸福度の高い人はそうでない人と比べて生産性が31%高い」という結果が報告されています。
企業においても従業員が身体的・精神的・社会的に良好な状態で働ける環境では、仕事へのモチベーションが高まる傾向にあります。そのため、ウェルビーイング経営の導入により生産性の向上が期待できるでしょう。
離職率の低下
ウェルビーイング経営によって整えられた働きやすい職場環境は、従業員満足度を高め、離職率の低下にもつながりやすくなります。
ストレスや不満が少なく、安心して働ける環境においては、従業員は長く働きたいと感じやすくなるでしょう。人材の定着率を向上させ、採用や育成にかかるコストの削減にも貢献します。
人材採用力の向上
ウェルビーイング経営を推進する企業は、働きやすい職場という好印象を与えやすく、外部からの企業イメージ向上につながります。とくに近年は若年層を中心に「働きがい」や「職場の雰囲気」を重視する傾向が強まっていることから、採用競争力の強化が期待できます。
また、前述のように離職率が低い企業は、求職者にとっても「安定して働ける職場」として映るため、優秀な人材の確保にも有利に働きます。
ウェルビーイング経営の実践ポイント
ウェルビーイング経営を実践するには、従業員の心身の健康を支える制度や環境づくりが欠かせません。ここでは、具体的な実践ポイントとして「メンタルヘルスケアの導入」「労働環境の改善」「コミュニケーションの活性化」「エンゲージメントサーベイの実施」の4つを紹介します。
メンタルヘルスケアの導入
従業員の精神的健康を守るためには、日常的なメンタルヘルスケアの仕組みが重要です。
たとえば、ストレスチェックの実施やストレスマネジメント研修の導入は、従業員の心理的負担を軽減するために有効な取り組みになります。
また、社内に相談窓口を設けたり、産業医との面談機会を設けたりすることで、心の不調を抱える従業員を早期に発見・支援する体制が整います。
労働環境の改善
働きやすさを支えるには、労働時間や勤務形態を見直すことも不可欠です。長時間労働の是正や有給休暇の取得促進をはじめ、まずは現状を正確に把握し、課題を洗い出しましょう。
そのうえで、リモートワークやフレックスタイム制度、時短勤務、副業・兼業の容認など、多様な働き方に対応した制度を整備することで、従業員のライフスタイルや価値観に寄り添った柔軟な環境を構築できます。
コミュニケーションの活性化
良好な人間関係は、職場での安心感や帰属意識を高めるうえで欠かせません。逆に、コミュニケーション不足は孤立やストレスを生み、ウェルビーイングを損なう要因にもなります。
そのため、1on1ミーティングやメンター制度の導入、サンクスメッセージの交換、社内イベントの実施などを通じて、日常的に従業員同士が交流できる機会を設けましょう。さらに、懇親会の費用補助やリフレッシュスペースの設置といった物理的な支援も有効です。
定期的なエンゲージメントサーベイの実施
施策の効果を可視化し、継続的に改善していくためには、定期的なエンゲージメントサーベイ(従業員満足度調査)が有効です。
調査項目には、制度や福利厚生、人間関係、キャリア形成、職場文化などを含め、幅広い視点から従業員の意識を把握します。その結果をもとに課題を明確化し、次に必要な施策の立案へとつなげられるでしょう。
ウェルビーイング経営の注意点
ウェルビーイング経営を成功させるには、単に制度を導入するだけでは不十分です。効果を高めるためには、継続的な取り組みと成果の可視化が欠かせません。
継続的に取り組みを実践する
ウェルビーイング経営は、一時的な施策ではなく、長期的かつ持続的に実施する姿勢が求められます。
職場環境の整備や福利厚生の拡充などには初期費用などのコストがかかる場合もありますが、従業員の生産性向上、離職率の低下、企業ブランドの強化といった成果は中長期的に現れてきます。そのため、短期的な成果にとらわれず、長期的な投資と位置づけて取り組むことが大切です。
取り組んだ成果を数値化する
ウェルビーイング施策の効果を確認し改善を重ねるには、具体的な成果を数値で把握することが重要です。
数値化を行わないと、目標や評価基準が曖昧になり、取り組みの成否を判断できなくなるリスクがあります。離職率、残業時間、有給休暇取得率、エンゲージメントスコアなどを指標として、施策の実施前後で変化を測定するとよいでしょう。
これらのデータを定期的に分析・可視化することで、課題の明確化や次の施策の立案に活かすことができ、ウェルビーイング経営の精度向上につながります。
まとめ
ウェルビーイングは、個人や社会が心身ともに満たされた状態を指す概念であり、企業においても従業員の幸福度を高める経営手法として注目を集めています。生産性の向上、離職率の低下、人材確保といった成果が期待できる一方で、継続的な取り組みと成果の見える化が欠かせません。
企業と従業員がともに持続的に成長していくためには、ウェルビーイングを重視した経営手法の導入が鍵となります。
よくある質問
ウェルビーイングとは?
ウェルビーイング(Well-being)とは、個人や社会が「良い状態」にあることを指す言葉で、身体的、精神的、社会的な健康を含む広い概念です。
詳しくは記事内「ウェルビーイング(Well-being)とは」をご覧ください。
ウェルビーイング経営の意味とは?
ウェルビーイング経営とは、ウェルビーイングの概念がビジネスにも広がった考え方で、従業員が身体的・精神的な幸福、また社会的な充足感を得られるよう、組織の環境を整えるアプローチを指します。
詳しくは記事内「ウェルビーイング経営とは」をご覧ください。
ウェルビーイング経営のメリットとは?
ウェルビーイング経営の主なメリットには、企業の生産性向上、離職率の低下、人材採用力強化などがあります。
詳しくは記事内「ウェルビーイング経営のメリット」をご覧ください。