多くの介護事業所が、人材の確保・育成や定着率の向上という課題に直面しています。その有効な解決策のひとつが、職員が働きながら資格を取得できるよう支援する制度の導入です。
しかし、資格取得支援は、サービスの質や収益の向上といったメリットがある一方、費用や人員確保の面で課題も伴います。そのため、計画的な制度設計と運用が欠かせません。
この記事では、職員が働きながら取得できる介護資格や取得支援の流れ、サポートのコツについて詳しく解説します。
目次
- 職員が働きながら取得できる介護資格
- 介護職員初任者研修
- 介護福祉士実務者研修
- 介護福祉士
- 介護支援専門員(ケアマネージャー)
- 認定介護福祉士
- 介護資格の取得を支援するメリット
- 介護サービスの質向上で利用者の満足度がアップする
- 介護報酬の加算算定により収益改善が見込める
- 職員の定着率が向上して離職防止につながる
- 介護資格の取得を支援するデメリット
- 研修費用・受講料の負担が大きくなる
- 職員の研修日は人員不足に陥りやすい
- 資格取得後に離職するリスクがある
- 働きながら介護資格を取得するまでのステップ
- 1. 資格取得の支援制度を設計して周知する
- 2. 職員と相談して目標資格を設定する
- 3. 研修期間中のシフト調整や進捗管理を実施する
- 介護資格の取得支援に活用できる助成金・補助金
- 人材開発支援助成金
- キャリアアップ助成金
- 各自治体が独自に設けている補助金
- 介護資格の支援を効率化するならfreee会計がおすすめ
- まとめ
- よくある質問
職員が働きながら取得できる介護資格
介護資格には、未経験向けの初任者研修から国家資格の介護福祉士までさまざまあります。ここでは、以下の主な介護資格について、概要や取得方法について解説していきます。
主な介護資格
- 介護職員初任者研修
- 介護福祉士実務者研修
- 介護福祉士
- 介護支援専門員(ケアマネージャー)
- 認定介護福祉士
介護職員初任者研修
介護職員初任者研修とは、介護職として働く上で必要となる基礎的な知識と技術を学ぶための入門資格です。
介護の基本的な知識と技術を学べるため、介護施設の採用条件として記載されていることが多いです。未経験から介護職への転身を検討している職員には、まずこの資格取得を勧めましょう。
介護職員初任者研修のカリキュラムは合計130時間で、通信講座と通学を組み合わせて学習を行うのが一般的です。最短1〜4ヶ月で修了可能なため、働きながらでも取得しやすい資格といえるでしょう。
介護福祉士実務者研修
介護福祉士実務者研修とは、介護福祉士国家試験の受験資格を得るために必須の研修です。受講資格は特になく、介護職未経験の人でも受けられます。
上述の初任者研修よりも高度な知識や医療的ケアの基本を学ぶことができ、サービス提供責任者の要件も満たせるため、受講することでキャリアの選択肢が広がります。
合計450時間の研修を、通信講座をメインに実施されます。なお、初任者研修を修了していれば、130時間分が免除されます。
実務者研修は修了試験が義務化されていないため、すべての科目を修了すると資格取得となるのが一般的です。受講する施設によっては、試験を実施する場合もあるので、事前に確認しておきましょう。
介護福祉士
介護福祉士は、介護分野における唯一の国家資格です。
国家資格であるため社会的な信頼性が高く、資格手当による給与の上昇や昇進につながります。具体的には資格手当として、月に1〜2万円程度が支給される傾向にあります。
受験するには「3年以上の実務経験」と「実務者研修の修了」が必須要件です。
安定した職と収入を確保し、専門家として活躍したいと考えるなら、介護福祉士を目標にするのがよいでしょう。
介護支援専門員(ケアマネージャー)
介護支援専門員(ケアマネージャー)とは、利用者のケアプラン作成などを担う相談援助職で、各都道府県が認定する公的資格です。
介護支援専門員になるには、介護支援専門員実務研修受講試験(ケアマネジャー試験)に合格しなければなりません。
試験の受験資格を得るには、介護福祉士などの国家資格取得後に5年以上の実務経験が必須要件です。
介護支援専門員の業務は、利用者のケアプラン作成だけでなく、利用者やその家族と面談をしたり、各自治体との調整を行ったりと多岐に渡ります。現場での経験や知見を活かしたキャリアチェンジができます。
認定介護福祉士
認定介護福祉士は介護福祉士の上位資格として、より高度な介護実践力を証明する民間資格です。介護チームのリーダーとして、職員への指導や教育を担い、事業所全体のサービス向上に貢献する役割が期待されます。
資格取得するには、介護福祉士として5年以上の実務経験や、約600時間の養成研修の修了が必須要件です。
介護の専門性をさらに高め、後進の育成にも関わりたいと考える職員が目指す資格といえます。
介護資格の取得を支援するメリット
職員の資格取得支援は、事業所が抱える課題の解決策にもつながります。職員の資格取得を支援する経営側のメリットは主に以下のとおりです。
介護資格の取得を支援するメリット
- 介護サービスの質向上で利用者の満足度がアップする
- 介護報酬の加算算定により収益改善が見込める
- 職員の定着率が向上して離職防止につながる
介護サービスの質向上で利用者の満足度がアップする
職員は資格取得を通じて体系的な知識と技術を習得するため、介護サービスの質が高まり、利用者の満足度向上につながります。
たとえば、実務者研修で医療的ケアを学んだ職員が増えれば、利用者の急変時にも迅速な初期対応ができたり、認知症ケアの専門知識をもつ職員であれば、BPSD(認知症の行動・心理症状)へ的確な対応ができたりと、実務に直接反映されるメリットが多いです。
資格取得を積極的に支援することで、職員一人ひとりのスキルアップになり、職員にも施設全体にもよい影響をもたらします。
介護報酬の加算算定により収益改善が見込める
介護報酬は、介護サービス事業者が所定の要件を満たした場合に、基本の報酬額に上乗せされる加算算定が設けられています。職員の資格取得を支援して有資格者を増やすと、介護報酬の加算算定につながり、事業所の収益改善が見込めます。
代表的な例が「サービス提供体制強化加算」です。サービス提供体制強化加算は、「介護福祉士の資格をもつ職員が一定の割合以上在籍していること」などの算定要件があります。
この加算が認められれば、利用者1人あたりの単位数が増加し、事業所全体の収入がアップします。
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職員の定着率が向上して離職防止につながる
職員の定着率を高めて離職防止になる点も、資格取得支援制度を整備するメリットです。職員のキャリアアップに前向きな姿勢であることで、職員は会社への満足感や貢献意欲が高まり、長期的に働く動機となるでしょう。
職員の資格取得を支援する代表的な例としては、資格受講の費用を会社が負担したり、受講にかかる参考書などの購入費用を負担したりするケースがあります。
職員への投資は、採用や新人教育にかかる費用を抑制し、持続可能な組織運営を実現するうえで重要な施策です。
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介護資格の取得を支援するデメリット
職員の資格取得を支援することにより、費用面での負担がかかったり、資格取得後に離職されたりとデメリットもあります。
デメリットも把握した上で、資格取得の支援制度の導入や具体的な施策を検討することが大切です。
ここでは、職員の資格取得を支援するにあたって、考えられるデメリットについて解説します。
研修費用・受講料の負担が大きくなる
職員の資格取得を支援する場合、事業所は受講料などを負担しなければなりません。資格取得にかかる費用は1人あたり数万円から十数万円にのぼり、複数人を支援すると経営上の負担となるでしょう。
以下は研修費用の相場です。
- 介護職員初任者研修:約5〜10万円
- 介護福祉士実務者研修:約8〜15万円
そのため、資格取得支援を制度化する際は、年間の教育研修費を予算化しましょう。そのうえで、「人材開発支援助成金」などの助成金を活用した、計画的な資金計画が求められます。
職員の研修日は人員不足に陥りやすい
介護現場は人員配置基準が定められています。そのため、職員が研修に参加する日を前もって把握したうえでシフトの調整をしなくてはなりません。また、現場が一時的な人員不足になり、ほかの職員の業務負担が増える可能性があります。
とくに代替スタッフの確保が難しい事業所では、大きな課題でしょう。たとえば、ある職員が研修の通学のために2ヶ月間毎週土曜日に休む場合、その穴を埋めるためにほかの職員に残業や休日出勤を依頼する必要が出てきます。これが続くと、現場全体の疲弊につながりかねません。
そのため、資格取得を支援する際は、研修日程の早期共有と計画的な人員配置が大切です。
資格取得後に離職するリスクがある
資格取得の支援制度を利用した職員が、資格取得を機に転職する可能性も会社にとっては大きな損失です。
とくに介護福祉士のような国家資格は市場価値が高いため、よりよい給与や待遇を提示する介護施設へ転職する可能性があります。
会社としても費用負担がかかるだけでなく、貴重な人材を失ってしまうため、資格取得した場合の給与の見直しなども制度導入の段階で検討しましょう。「資格取得後、一定期間勤務すれば受講料の返済を免除する」といった内容を契約に盛り込んでおくのも1つの手段です。
働きながら介護資格を取得するまでのステップ
職員の資格取得を支援する制度を成功させるには、計画的な導入が欠かせません。具体的には、以下の手順で進めていきます。
働きながら介護資格を取得するまでのステップ
1. 資格取得の支援制度を設計して周知する
まずは、公平な資格取得支援制度を設計します。具体的に検討する規定は主に以下のようなものがあります。
- 対象となる資格(初任者研修、実務者研修など)
- 支援内容(受講費用の全額補助、研修日の出勤扱いなど)
- 適用条件(勤続1年以上の職員、資格取得後2年間の勤務が条件など)
また、資格を取得した後の待遇についても、明記しておくとより学習意欲につながるでしょう。
「介護福祉士には月額1万5千円の資格手当を支給する」、「実務者研修の修了者は、サービス提供責任者の候補者とする」など、具体的に明記するとイメージがしやすくなります。
2. 職員と相談して目標資格を設定する
規定ができたら職員と個別に面談し、具体的な目標資格と取得時期を設定します。
「本人の意欲やキャリアプラン」と「事業所が期待する役割」をすり合わせることで、双方にメリットのある制度となり、前向きに取り組むことができます。
具体的には以下のように、職員それぞれの状況に応じた目標を一緒に設定しましょう。
- 勤続1年の職員には「半年以内の初任者研修取得」を提案する
- 実務経験3年以上の職員には「介護福祉士を目指すための実務者研修の受講」を提案する
対話を通じて目標を決めることが、組織と個人の成長を両立させるうえで重要です。
3. 研修期間中のシフト調整や進捗管理を実施する
働きながら資格取得のために勉強をする職員をサポートするために、研修期間中のシフト調整や定期的な進捗管理を行います。
具体的には、研修日を優先的に休みにしたり、試験が近くなったら夜勤を減らしたり、職員の希望に応じて柔軟に対応するように心がけましょう。
また、職員の学習意欲を維持できるように、相談ができる面談の時間を定期的に取り入れてみてもよいでしょう。
介護資格の取得支援に活用できる助成金・補助金
資格取得の支援制度導入によって発生する費用の負担を軽減できる制度が設けられています。ここでは、支援制度において活用できる補助金・助成金について解説します。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金とは、職員のスキルアップのために実施する訓練費用や、訓練期間中の賃金の一部が助成されるものです。
たとえば「人材育成支援コース」を利用し、職員に初任者研修を受講させた場合、事業所が支払った受講料の一部が助成されます。また、研修を勤務時間内に行えば、その時間分の賃金の一部も対象です。
利用する際は、研修を開始する半年前〜1ヶ月前までに、計画書を労働局に提出しましょう。
キャリアアップ助成金
非正規雇用の職員を正社員へ転換させる場合は、「キャリアアップ助成金」の活用がおすすめです。
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者のキャリアアップを促進した事業主を支援する制度です。正社員になる前の段階で行う職業訓練も対象となります。
たとえば「正社員化コース」を利用し、パート職員が実務者研修を修了後に正社員となったとします。事業所は研修費用の助成に加え、正社員化に対して1人あたり最大80万円の助成金を受け取れます。
非正規職員の待遇改善と人材確保を同時に進めるうえで、事業所と職員双方にメリットがある補助金です。
各自治体が独自に設けている補助金
多くの都道府県や市区町村では、地域内の介護人材を確保するため、初任者研修や実務者研修の受講費用を補助しています。具体的な例を3つ紹介します。
| 補助金 | 補助上限額 | 対象資格 |
|---|---|---|
| 東京都 八王子市 介護人材資格取得支援事業補助金 | 最大15万円 | ・初任者研修 ・実務者研修 ・介護福祉士 |
| 埼玉県 介護職員資格取得支援事業(実務者研修受講料)補助金 | 最大10万円 | ・実務者研修 |
| 千葉県 介護職員研修受講者支援事業助成金 | 最大15万円 | ・初任者研修 ・実務者研修 |
事業所の所在地の自治体窓口に、事業者向けの補助金がないか問い合わせてみましょう。
介護資格の支援を効率化するならfreee会計がおすすめ
職員の資格取得支援は人材育成に欠かせない一方、経理・労務の負担を増大させます。助成金の申請準備や、資格手当を反映した複雑な給与計算に、管理者や担当者の時間が奪われがちです。
freee会計とfreee人事労務を導入すれば、このような事務作業を自動化できます。たとえば助成金の申請には、研修にかかった費用の領収書や、研修期間中の職員の賃金台帳といった多くの書類が必要です。
freee会計を導入すると、研修費用などの経費は日付や金額、内容がデータとして記録されます。また、freee人事労務では、職員の正確な給与データも常に整理されています。そのため、申請時に必要な期間のレポートを出力するだけで、根拠となるデータを準備しやすいのがメリットです。
さらに、加算による収益増などをリアルタイムの数字で可視化できるため、データに基づいた経営判断が可能になります。
経理・労務の負担から解放されることで生まれた時間を、施設運営や職員との対話といった付加価値の高い業務に充てられるでしょう。よりよい職場環境を実現するためにも、ぜひfreee会計とfreee人事労務の詳細をご確認ください。
【関連記事】
介護事業の経理に求められる会計処理を詳しく解説
まとめ
職員の資格取得支援は、単なる福利厚生ではなく、サービスの質向上・収益改善・人材定着を実現するための重要な経営戦略です。メリットが大きい一方、費用負担や人員調整といった課題もあるため、計画的な制度設計と運用が成功のポイントです。
この記事で解説したステップを参考に、自施設に合った支援制度を設け、助成金を活用しながら職員の挑戦を後押ししましょう。
なお、制度導入に伴う経理・労務の負担増には、freee会計の活用がおすすめです。手作業になりがちな事務処理を自動化し、人材育成や施設運営に注力しやすくなります。
よくある質問
介護で一番簡単な資格は?
未経験者が最初に取得するなら、「介護職員初任者研修」が挑戦しやすい資格です。受講に学歴や実務経験などの条件がなく、研修内容を理解していれば修了できます。
介護職員初任者研修のカリキュラムは、通信と通学の組み合わせが基本です。多くのスクールが土日や夜間コースを開講しているため、働きながらでも学習を進められます。
詳しくは、記事内「介護職員初任者研修」をご覧ください。
働きながら取れる福祉資格はある?
介護分野の主要な資格は、働きながらの取得を前提に設計されています。介護業界では、現場経験を積みながらキャリアアップを目指す人が多いため、資格制度も社会人の学習スタイルに対応しているからです。
たとえば、介護福祉士を受験するには、3年以上の実務経験が求められます。
詳しくは、記事内「職員が働きながら取得できる介護資格」で解説しています。
介護の三大資格とは?
介護の三大資格は「介護職員初任者研修」「介護福祉士実務者研修」「介護福祉士」です。
介護職員初任者研修から始めて介護福祉士実務者研修を経験し、国家資格である介護福祉士を目指すことで、着実にステップアップが望めます。
詳しくは、記事内「職員が働きながら取得できる介護資格」をご確認ください。
