会計事務所運営の基礎知識

税理士として独立!成功するためにしておきたい準備と集客方法

組織を離れ、独立して一国一城のあるじになる。税理士以外の業種においても、独立開業を目標とする方は多いでしょう。税理士として独立開業することで、組織の方針に縛られず、より顧客に密接にかかわることができます。自分のペースで仕事できることも、独立の大きなメリットでしょう。しかし同時に、どんな準備が必要か、どのくらいの準備費用が必要か、集客はどうやって行うかなど、不安を感じることも多いのではないでしょうか。
資格を得て経験を重ね、自分の事務所を持って成功する。その際にしておきたい準備や集客方法などについて、現役税理士への取材を基にまとめました。

税理士として独立!成功するためにしておきたい準備と集客方法

目次

独立して3年の税理士が語る実践的知識

今回、快く取材を引き受けてくれたのは、都内に事務所を構える税理士・佐野伸太郎さん。佐野さんは新卒で就職した会社で、法人営業の経験を積んだ後に、営業代行会社へ出向しました。経営者と直接話し、商談をする中で佐野さんが気付いたのが、「経営者の視点と発想」です。
企業のトップは、商材そのものよりも「それが自社にどんなメリットをもたらすか」を重視します。そして、良いと思えば即断する意思決定の速さも持っています。経験を重ねるうち、佐野さんは「若い経営者の力になって、ともに成長したい」と思うようになり、税理士を目指しました。

社会人生活6年目で退職、専門学校で勉強したのちに税理士事務所に入所して、3回の試験で5科目すべての試験をクリア。その後、ご親戚が運営していた税理士事務所を引き継ぐ形で開業しました。
このような経歴を持つ佐野さんの体験を交えつつ、これから独立・開業する皆さんへのアドバイスをお送りします。

税理士事務所の開業前に必要な準備

独立開業にあたって、まず、考えてほしいことは「開業はゴールではない」ということです。
私たちは、人生の節目をゴールととらえがちです。結婚を「ゴールイン」と呼ぶのはその好例でしょう。しかし、実際それはゴールではなく、新しい生活が始まるスタートではないでしょうか。

税理士事務所も同様で、独立・開業はゴールではなく、新たなスタートです。どのような事務所運営をし、税理士としてどう活動していくのか。それを踏まえた上で、準備を整えましょう。
佐野さんの場合は「経営者のパートナーになりたい」、特に「創業間もない企業家のサポートをしたい」という理由がありました。このように、独立の理由が明確であれば、あとは「そのために何をするか」を考えればいいでしょう。

「そこまでハッキリした理由はない」という場合でも、どんな分野の案件を扱い、クライアントにどんな価値を提供するのか、あるいは提供できるのかということは、じっくり考えておいてください。それが、今後の行動や判断の指針につながり、集客活動の成否にも影響します。
このように準備をしつつ、開業に向けて一般的に下記のように行動をしていきます。

税理士事務所の開業前に必要な準備

どれくらいの規模で始めるかを想定しておく

税理士事務所開業の際には、「どれくらいの規模でスタートするか」というスケール感を、あらかじめ決めておくことが重要です。
開業となると、資金はおよそ100万円必要となりますが、実際にいくらかかるかは事務所の規模次第。ミニマムな規模でスタートするなら、自宅でもデスクとパソコンがあれば十分ですし、反対にお金をかけようと思えば、いくらでも投資できます。自分が独立して何をしたいかを考え、必要不可欠なコストを考えてみてください。手持ち資金には限度がありますから、どう割り振りするかということも重要です。

開業にかかるコストは、将来への投資の側面もあります。将来的にどんな事務所にしたいか、どんなことがしたいかを思い描きつつ、バランスを考えて割り振っていきましょう。

<税理士事務所開業に必要なコストの一例>
  • 登録費・税理士会入会金等:15万~18万円
    税理士会名簿への登録のために、登録免許税と手数料がかかります。すでに登録済みの場合は、変更手続きを行い、手数料を納めなければなりません。
    さらに、各地の税理士会に入会する場合は、登録の手続きを行い、入会金を支払う必要があります。手続きの内容や入会金は、都道府県によって異なるため、事前に確認しましょう。
  • 税理士会費(年間):10万~14万円
    税理士会関連のコストは、都道府県によって差があります。
  • 事務所費:初期費用30万円~/年間60万円~
    オフィスを借りるかどうか、借りるならどこにするかによって、大きく異なります。プリンターやネット回線等の設備機器は、最低限必要になるでしょう。
  • IT関連機器・ソフトウェア:初期費用10万円~/年間40万円~
    最低限のPC環境と税務・会計システムは必須です。
  • 備品、各種ツール:10万円~
    名刺や封筒の作成など、細かい出費でもまとまると、意外と大きな金額になるものです。ロゴやウェブサイトを制作するとなると、別途コストがかかります。

必要なところにはしっかりコストをかけよう

開業となると、こまごまとした出費が多くなり、準備していた資金が不足してしまうこともあります。そのため、「できるだけ安く」という意識が働きがちです。それ自体は決して悪いことではありませんが、場合によりけり。ことに、集客に直接関わる部分については、十分コストをかけるべきでしょう。
独立開業にはさまざまな不安がつきまといますが、中でも最大の不安が「果たしてお客さんが来てくれるのだろうか」ということではないでしょうか。これまで、ほかの事務所に勤務していて、まったくのゼロベースで開業するとなると、これはかなり大きな不安材料です。だからこそ、集客手段が重要になるのです。

例えばウェブサイト。今のご時世、事務所のオフィシャルサイトは必須ですが、単に見た目が良いだけでは、集客につなげるのは難しいでしょう。必要なのは「カッコ良いサイト」ではなく、「顧客を得られるサイト」です。自分がターゲットとしたい顧客層の人たちがそのサイトを見て、「ここなら良さそうだ」「この税理士に頼もう」と思ってくれるものにすることが重要です。
ウェブ制作会社の中には、士業に強く、盛り込むべきコンテンツからデザイン、キャッチコピーに至るまで、コンサルティングしてくれるところもあります。そのときは高いと思っても、先々の収益につながる部分には、十分なコストをかけると良いでしょう。

税理士事務所を開業する前にしておくべきこと

事務所のエリアを決めたり開業資金を割り振りしたりして、準備ができたらいざ開業、といいたいところですが、その前にしておくことがあります。
ほかの業界と同様、税理士という仕事もただ漫然と仕事をしているだけでは、生き残りは難しくなるでしょう。同業事務所との競争もありますし、継続的に顧客を確保していく努力も必要となります。毎月かかるコストを支払った上で利益を上げ続けるためには、税理士業以外の知恵や情報も不可欠です。
では、税理士事務所として生き残っていくために、開業前に何をしておけば良いのでしょうか。

依頼を受ける分野を決める

税理士として依頼を受ける際、得意分野に特化するべきか、あるいは税務全般を受けるか。どちらを選ぶにせよ、一長一短です。
得意分野を絞り込むと市場が小さくなりますが、それだけ競合も少なくなります。また、依頼する側にとっても、依頼したい内容を得意とする税理士に頼みたいはずですから、マッチングしやすくなります。
特に分野を定めず、税務全般を広く受け入れるのであれば、より多くの顧客を相手にできますが、その分競合も多くなります。自分の不得手な分野の案件については勉強が必要になり、顧客へのアピールも難しくなるというリスクがあるでしょう。

「自分が何をしたいか」で、対応する案件を決める方法もあります。佐野さんの例でいえば、「若い経営者の力になって、ともに成長したい」という思いのもと、創業期の企業のサポートをメインに手掛けるというもの。
このように、事務所としての方針が明確であれば、ウェブサイトなどでも強くアピールできますし、差別化も図れます。開業当初は、まずは得意分野に特化してみてはいかがでしょうか。

料金設定で迷ったら、税理士検索サービスで相場を確認する

多くの税理士が迷うのが値決めではないでしょうか。開業当初は「安いほうが顧客が増えるだろう」と考えがちですが、あまりに安く設定してしまうと後悔することにもなりかねません。相場より高すぎても、それだけの価値を提供できるかどうかが問題です。
迷ったときは、自分が主軸にしたい業務を扱う同業者をインターネットで検索して、料金をいくらに設定しているか確認してみるのもいいでしょう。税理士検索サービスを提供しているウェブサイトには、各事務所が提供しているサービスや値段の記載があることが多いので、積極的に利用してみてください。

頼れるメンターやアドバイザーを見つける

税理士会に所属すると、地域の先輩税理士とのつながりができます。また、税理士向けのセミナーや勉強会には、若手の税理士が数多く参加しており、横のつながりが生まれます。
こうしたコミュニティでは、役に立つ情報やアドバイスが得られるもの。頼りになる先輩や仲間ができれば、困ったときに相談できるでしょうし、場合によっては案件を紹介し合うこともできます。
最近では、TwitterなどのSNS上でも税理士同士の交流が盛んに行われています。共感できる内容を発信している人を探し、情報収集したり交流を深めたりすることも役立つのではないでしょうか。オフラインで勉強会が開催されることもあり、そういった情報を手に入れることもできます。
開業当初は何をするにも不安が先立つものですが、自分一人の考えには限界があります。こうしたメンターやアドバイザーの存在は大きな安心感につながりますし、自分への刺激にもなるはずです。

税理士事務所を開業したらどうやって集客する?

無事に事務所を開業できたら、まずはひと安心です。しかし、それほどのんびりしてはいられないでしょう。立派な税理士事務所を開いたところで、顧客が来てくれなくては何にもなりません。ウェブサイトやSNS、顧客からの紹介などで案件を増やしていくわけですが、ここでもいくつか押さえておきたいポイントがあります。

開業初期には紹介サービスの活用も検討する

税理士にとって新規顧客の多くは、「既存顧客からの紹介」です。しかし、顧客の少ない開業当初は、それが期待できません。ウェブサイトを使って集客するなどの方法もありますが、税理士紹介サービスを活用してみてはいかがでしょうか。
税理士検索サービスは、税理士を探している人向けに税理士を紹介するものです。本サービスに税理士が登録しておくと、税理士を探している人とマッチングしてくれます。こうしたサービスサイトに登録しておけば、顧客を紹介してもらうことができるでしょう。

現在、ネット上には税理士紹介サービスはいくつもありますが、これらのサービスを使うと多くの場合紹介手数料が発生します。その割合はサービスによって差がありますから、事前に確認しておきましょう。また、手数料が高くても、自分の得意分野や強みを持つ案件にしぼって紹介してくれたり、顧客との面談の日程調整や場所を設定してくれたりと、税理士側の営業業務をうけおってくれるものもあります。単に手数料だけを見るのではなく、サービス内容とのバランスを見て選ぶようにしましょう。

自分と顧客を守るために得手不得手を知っておく

分野を問わず、幅広く案件を受け付けるという営業方針をとっていたとしても、やはりその中で得手不得手が生まれます。自分の苦手分野については、「苦手だからこそ経験を重ねて、克服する」という考え方もあります。しかし、「その分野の案件はうけない」というのもひとつの方法です。
得手不得手については、これまでの経験や勉強してきたことを振り返ってみてください。調べることや考えることが苦にならないこと、すばやく理解できること、やりがいを感じたことは得意分野である可能性が高いです。

顧客からの質問に対して、わからないことは「わからない」と答えることも大切です。税理士とて、税の百科事典ではありません。その場しのぎの回答をせず、持ち帰ってきちんと調べることが重要です。顧客に必要なのは、その場での即時回答よりも、正確なアドバイスではないでしょうか。
苦手ということは、その分野でのパフォーマンスが高くないということでもあります。苦手意識があれば、積極的に案件に取り組むことも難しいでしょう。それによって作業がうまく進まなかったり、トラブルに発展したりすれば、自分にも顧客にも良いことはありません。 税理士としての自分の得手不得手を知り、不得手な案件には手を出さない。消極的に見えますが、それが自分と顧客を守ることにつながるのです。

自分の強みを決めて注力する

規模よりも税理士としての自分の価値を高める方向を目指すなら、自分のどこを磨き、何を強みとするかを決めて、注力することが大切です。このやり方については、税理士・佐野さんの場合を例に紹介しましょう。

冒頭でお話ししたように、佐野さんは「若い経営者の力になって、ともに成長したい」という理念を持っていました。経営者はさまざまな経営上の課題や問題を抱えています。それは、必ずしも税務に関することばかりではありません。そう考えると、税理士の出番はあまり多くないようにも思えます。

しかし、税理士というポジションを活かし、税務以外の分野にも助言を与え、問題を解決することはできます。そのため、現在の佐野さんはキャッシュフローコーチ®としても活動し、経営者が抱える人やお金の課題を解決するお手伝いを続けています。こうした活動も、税理士自身の付加価値を高めるひとつの方法でしょう。

業務範囲を広げたいときは?

経験の少ない分野にも業務範囲を広げたいという場合は、先輩や仲間の力を借りる方法があります。
例えば、「相続関連の案件に手を広げたい」と考えているなら、まずはしっかり自分で勉強し、十分な知識を身に付けておきましょう。次に、相続関係に強い先輩や仲間に相談して、実務上のポイントなどを教えてもらいます。場合によっては、案件を紹介してもらえることもあるかもしれません。こうして経験を重ねながら自分の得意分野を広げていけば、より多くの顧客を得ることができますし、結果として事務所を大きくしていくこともできるのではないでしょうか。
扱う案件にもよりますが、公認会計士や弁護士といった関連士業のほか、不動産業者などとのつながりを作っておくと、そこから業務が広がる可能性もあるでしょう。

税理士事務所を事業として継続・発展させていくには?

どんな事業でも継続性と発展性は重要ですが、それは税理士も同じです。そのためには、日々進化していくITツールの活用や、数年先を見越したビジョンなどが大きな力となります。
ただ、一口に発展といっても、その方向は税理士によって異なるでしょう。自分の付加価値を高めて客単価を上げたいのか、顧客数を増やして事務所の規模を大きくしたいのか。自分自身の方向性をしっかり見定めて行動するようにしましょう。具体的に、どのような行動をとるべきかご紹介します。

各種ITツールを活用する

これまで、税理士が帳簿と電卓でこなしていた作業のほとんどが、すでにITツールに置き換えられています。この流れはまだまだ衰えることはなく、ますます税理士業務のIT化は進んでいくでしょう。今後、税理士事務所として発展していくためにも、こうしたデジタルツールの情報を常につかんでおくことが重要です。
現在、税務・会計関連のアプリケーションやクラウドサービスは多種多様ですが、必要な機能はほぼすべて実装されており、作業効率を格段に高めてくれます。これらのツールを活用することで、空いた時間を集客のためのマーケティングや業界内での人脈づくり、勉強会やセミナーへの参加などに使えば、税理士としても事務所としても、さらなる発展を目指すことができるでしょう。

数年後をイメージしたマップを作る

数年後をイメージしたマップを作る

特に、税理士事務所の規模を拡大したいという場合には、目安となるロードマップを作っておくことをおすすめします。詳細なものではなくても、例えば「5年後にはこれくらいの規模になっていたい」という目標を定めます。それを実現するために3年後にはこう、2年後には…という具合に逆算し、短・中期の目標にまで落とし込んでいきます。
佐野さんの場合は、数年後のビジョンを書き、そのためにどんなアクションが必要かも書き起こしました。「達成できないかもしれない」などと考えず、書いたことは実現するという意思で作成しているそうです。
こうしたマップがあれば、将来のために今何をすべきかが明確になりますし、予定どおりに事が運べば「うまくいっているぞ」と励みにもなるでしょう。漫然とした日々を過ごしてしまわないためにも、ロードマップを作ってみてはいかがでしょうか。

十分な準備で不安を解消し、税理士として新たな一歩を

税理士に限らず、どんな業種であっても独立・開業は不安と緊張が先立つものです。しかし、十分に検討して考え、自信を持ってあきらめずに行えば、多少つまずくことがあっても成功への礎とできるのではないでしょうか。
十分な準備を整えたなら、臆せず一歩を踏み出してください。そこには新たな地平が広がっているはずです。

インタビュイー:佐野 伸太郎(さの しんたろう)

佐野伸太郎税理士事務所代表税理士、キャッシュフローコーチ®。大学卒業後、株式会社スタッフサービスにて法人営業職を5年経験、うち1年は営業代行会社へ出向。個人税理士事務所で経験を積みながら税理士資格を取得、2016年に佐野伸太郎税理士事務所を開業する。

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