「売上重視」から「利益重視」への転換──雨風太陽が上場を機に進めたバックオフィス変革の“裏側”を聞く

株式会社雨風太陽 コーポレート部門 経理財務部 部長 白井 聡氏、同部 石本 和真氏
フリー株式会社 SMB事業本部 第4事業部 横山 博史氏

課題
経営の課題をリアルタイムに把握工数管理販売管理を楽にしたい

「都市と地方をかきまぜる」をミッションに掲げ、産直アプリ「ポケットマルシェ」の提供などを通じて、関係人口創出を目指す株式会社雨風太陽。2023年12月には東証グロース市場への上場を果たし、事業の規模は拡大の一途を辿っている。


しかし、その裏では経理体制の課題に直面していた。成長を続ける事業と組織を支える基盤を構築するため、雨風太陽はどのような取り組みに臨んだのか。


コーポレート部門 経理財務部の部長である白井聡氏、同部の石本和真氏、さらに雨風太陽を支援するフリー株式会社 SMB事業本部 第4事業部の横山博史氏の3名に話を聞いた。


「利益重視」への転換を阻むバックオフィスの課題

――はじめに雨風太陽についてご紹介いただけますか。

白井聡氏(以下、白井): 雨風太陽は「都市と地方をかきまぜる」をミッションに掲げる「関係人口カンパニー」です。都市と地方の間を行き来する関係人口を生み出すための事業を複数手がけています。


主な事業領域は食品、自治体、旅行の3つです。食品事業では、全国の農家・漁師が消費者に直接商品を販売できる「ポケットマルシェ」やふるさと納税サービス「ポケマルふるさと納税」などを運営しています。自治体事業では、農作物の販路開拓支援や移住促進支援などの自治体向けソリューションを提供。さらに旅行事業では、「旅」と「学び」を掛け合わせた「ポケマルおやこ地方留学」、農泊・民泊などのユニークな宿泊施設を掲載する宿泊予約サイト「STAY JAPAN」の運営を行っています。


関係人口の創出を軸に、CtoCプラットフォームの運営や自治体支援など、幅広いビジネスを手がけているのが特徴です。


雨風太陽
株式会社雨風太陽 経理財務部 部長 白井聡氏
公認会計士として監査法人や投資ファンドなどで勤務したのち、2024年に雨風太陽に入社。経理財務部の部長を務める


――雨風太陽では「freee販売」をはじめフリー社の製品を複数導入してバックオフィス改革を行ったと伺っています。導入の背景にどのような課題があったのでしょうか。

白井: まず大きな課題として、経理の体制強化が求められていました。2023年12月の赤字上場からそろそろ2年が経とうとしており、雨風太陽では黒字化が喫緊の課題になっています。昨年度は黒字決算の予測でしたが、結果的には下方修正を余儀なくされました。


その要因を分析したところ、経営管理の体制を売上重視から利益重視に転換する必要があるという認識に至りました。ただ、従来の体制では、案件ごとの収支管理など粒度の細かい管理が難しく、何らかの形で経営管理のあり方を見直す必要がありました。


石本和真氏(以下、石本): 粒度の細かい管理が難しかったのは、販売管理システムと会計システムの連携が十分ではなかったことに起因します。従来、私たちは自治体事業の販売管理と調達管理を、別のシステムで行っていました。

その理由は、自治体事業のお金の流れが他の事業と異なるからです。地方自治体は期初に年間予算が決定し、期末に精算を行います。そのため、売上を他の事業と同じ仕組みで管理するのが難しく、結果的に販売管理システムと会計システムを分けざるを得ませんでした。


雨風太陽
株式会社雨風太陽 コーポレート本部 経理財務部 石本和真氏
2021年に営業職として雨風太陽に入社。2023年12月の東証グロース市場上場を機に経理財務部に異動し、経理やIRを担当


しかし、販売管理システムと会計システムを併用することで、当然ながら入力や転記、突き合わせなどの定型作業が増え、経理財務部のリソースを圧迫します。さらに、システム間のAPI連携ができなかったため、案件ごとの詳細な分析をタイムリーに行えない、という課題も抱えていました。


これらの課題を解決するため、販売管理の情報を仔細に管理できるfreee販売の導入を決め、以前から利用していたfreee会計などと連携することで、販売管理と経理の一元化を目指しました。


横山博史氏(以下、横山): 私はデジタルメディアや広告などの業種の企業を数多く担当していますが「事業のフェーズによってあるべき管理体制が変わる」という話を、往々にして伺います。


事業のフェーズについては「拡大期」と「成熟期」の2つです。拡大期にはトップラインの向上に向けて売上重視の経営をしなければいけない一方、組織の成熟期にはコスト削減や業務効率化などの体制強化が求められます。その観点で言えば、雨風太陽さんは今まさに組織の成熟期を迎えつつあるのだと思います。


“工数”の可視化が利益を生む武器になる

――雨風太陽はfreee販売に並行して工数管理システム「freee工数管理」も導入していると聞いています。freee工数管理の導入経緯も教えていただけますか。

石本:freee工数管理はポケットマルシェの事業で先行して導入していましたが、今年から自治体営業に活用を拡大しました。


元々ソフトウェアの資産計上を始めたのが導入の発端です。ポケットマルシェのシステムは、当社のエンジニアが自社開発しているのですが、その開発工数に対応する開発費をソフトウェアとして資産計上するには、エンジニアの作業工数や作業実績を正確に記録することが内部統制上求められます。


そのため、当初は内部統制強化を主眼にした導入でした。先ほども述べましたが、当社では以前からfreee会計を利用していたため、freee工数管理の作業実績を勤怠データとして連携できる点でも利点を感じました。


――そこからどのような経緯で自治体営業に活用を拡大したのでしょうか。

白井: 自治体営業でも営業職の工数の可視化や管理を行いたかったからです。自治体営業のサービスは、販路開拓支援や移住促進支援など、自治体が抱える課題を解決するためのソリューションの種類は多岐に亘るため、以前は案件ごとにどのくらいの工数=“人件費”がかかったのかを把握するのが困難でした。


工数が把握できなければ粗利を管理するのも難しく、利益重視の経営への転換も遠のきます。そこで、freee工数管理を自治体営業向けにも展開し、案件ごとの工数の見える化に取り組みました。


横山: 雨風太陽さんは製品の機能に対してアンテナが極めて高いお客様だと私自身感じています。先ほどのfreee工数管理とfreee会計の連携についても同様ですが、個別の機能が自社のどのような業務やシチュエーションに貢献するかを深く洞察されている印象です。


エンジニアの工数管理から自治体営業に活用範囲を拡大させた背景には、そうした雨風太陽さんの視点の鋭さがあるように思います。


雨風太陽
フリー株式会社 SMB事業本部 第4事業部 横山博史氏


営業、バックオフィスの現場で見えてきた業務の“変化”

――freee販売の導入やfreee工数管理の活用拡大で、現場の業務はどのように変わりましたか。

白井: 自治体営業については、工数を可視化できたのが大きいです。利用開始して間もないため大きな変化は現れていませんが、工数を可視化できれば、営業の進捗や実績も見えるようになります。


営業職にとっては受注からクロージングまでの発生工数を定量的に可視化することで、先を読んだアプローチを行いやすくなりましたし、マネージャーにとっても実績管理や案件管理が容易になったと思います。


石本: バックオフィスの立場から言えば、以前の販売管理システムで売上を管理していた頃に比べて、定型作業がかなり減りました。


現在はfreee会計、freee販売、freee工数管理とそれぞれがデータ連携しているため、入力や転記といった作業が大幅に削減できています。これらの作業は経理体制の強化のボトルネックでもあったため、今後は業務効率化にとどまらない効果を期待しています。


また、こうした体制は監査対応でも有効です。監査担当者に記録や証憑の提示を求められても、システムが統合されていれば即座に必要なデータを引き出すことができます。上場企業にふさわしい内部統制を構築するうえでもfreeeの各製品が貢献してくれています。


雨風太陽


利益改善で業務改善の効果を実感

――導入後の具体的な効果を教えてください。

白井: 一番大きいのは、利益改善の効果が現れていることです。5月に今年度の第1四半期の決算発表を行いましたが、管理体制の強化による利益改善が見られました。


この一因として、freee販売などの活用の効果が考えられます。取り組みの成果が数字として現れていますし、目下の目標である黒字化に向けた手応えも感じることができています。


石本: 現場レベルでは、複数の案件実績がタイムリーに把握できることで、効率的な営業アプローチが可能になっています。たとえば、自治体事業は案件の締めを年度ごとに行うため、従来は翌年度にならなければ案件の最終的な評価ができませんでした。


しかし、翌年度にも案件を継続したり、新たな案件を受注したりするには、年度中の秋頃から営業提案をしなければいけません。案件の粗利や利益率を把握しないまま、翌年度の営業提案をせざるを得なかったわけです。


以前は売上重視でトップラインを向上させることに注力していたため、そうした営業手法でも差し支えありませんでした。しかし、今後、利益重視の経営に転換していくうえでは、案件の質を見極めた効率的な営業アプローチが求められます。


freee販売やfreee工数管理を用いれば、案件別に粗利や工数をタイムリーに把握できますし、年度末にならなくても案件の評価を行えます。利益を意識した効率的な営業アプローチを実践するうえで、freeeの各種製品は非常に役立っていくと思います。


白井: それは経営レベルでも同様です。案件ごとやセグメントごとの収支や進捗をタイムリーに把握できるので、経営層も迅速な意思決定や軌道修正が行えます。freee販売などの活用が、柔軟でスピーディーな経営を後押ししてくれていると思います。


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“部門の壁”を超えた課題共有がバックオフィス変革成功の秘訣

――最後に、読者に向けて、経理体制の見直しやシステム導入についてのアドバイスをお聞かせください。

石本: 当社は60名程度の比較的規模の小さい組織です。そのため、事業部門とバックオフィス部門の距離が近く、freee販売などの導入にあたっても相互に協力しながら進められました。


経理体制の見直しは、バックオフィス部門だけが取り組んでもなかなか前進しないものだと思います。もし、当社と似たような課題を抱える企業があれば、バックオフィス部門と事業部門で一体となった取り組みをお勧めしたいです。各部門の立場や利益を離れて全社的な利益にフォーカスすれば、きっとスムーズに取り組みが進むと思います。


白井: 日々の業務のなかで「この仕事は非効率だな」「このシステムは不便だな」と感じる瞬間は多いはずです。そして、そうした感覚は他の部門の他の従業員も間違いなく持っています。


組織の生産性向上を阻んでいるのは、従業員一人ひとりの「不便だな」の塊なのです。そうした意識を持つことで、それぞれの部門が目線を合わせながら、同じ立場で取り組みを進められるように思います。「いかに問題意識や目標を共有するのか」がポイントではないでしょうか。


横山: 私は、バックオフィス部門は経営の司令塔だと考えています。迅速で的確な意思決定、内部統制の強化、リスク管理と、どれを取っても事業の成長には欠かせない要素です。


バックオフィス業務の変革に難しさを感じている企業は少なくないと思いますが、組織の根幹に関わる問題だと捉えて、ぜひ前向きに取り組みを進めてほしいと考えています。


私自身も支援者の立場から、そうしたユーザーの方々の変革と事業成長を支えていきたいと思っています。


雨風太陽


(BizZine 2025年7月 掲載記事より転載/抜粋) 

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