売上蒸発の危機も乗り越えた。属人化したバックオフィスを改革し、採用力と経営レベルを向上させた「薬局DXのすすめかた」

田辺薬品株式会社 代表取締役社長 田辺さん

課題
経営の課題をリアルタイムに把握複数人・複数拠点で経理データを共有

5年前、代表取締役に就任した田辺さんが目にしたのは、経理・労務が一人のスタッフに集約され、完全にブラックボックス化したバックオフィスの姿でした。危機感を覚えた田辺さんは、就業規則の改定を皮切りに、勤怠管理、そして会計システムの刷新を断行。その中核に据えたのが『freee会計』でした。


なぜ、彼は短期間で大胆なDXを推進できたのか。freee会計は経営に何をもたらしたのか。バックオフィスの課題が採用や組織全体にまで影響を及ぼすこと、そして、その改革が企業の未来をいかに切り拓くかを、田辺薬品株式会社の代表取締役社長、田辺さんに伺いました。


freee導入前の課題:ブラックボックス化したバックオフィスから、どう脱却する?

田辺薬品


――田辺さんが就任された当初、会社のバックオフィスはどのような状況だったのでしょうか?


田辺さん(以下、田辺): 私が代表になったのは5年前ですが、いわゆる家族経営的なガバナンスが常態化していました。複数店舗を経営していましたが、バックオフィス業務、特に経理と労務を1人のメンバーが担当しており、仕組み化とはほど遠い状態でした。


――会計ソフトなどのツールの活用状況はいかがでしたか?

田辺: 会計は昔ながらの会計ソフトを使っていましたが、課題だらけでした。月次の試算表は出てくるものの、スピード感がなく、何よりその数字の根拠がわからない。「この経費は?」と聞いても、元帳をひっくり返さないとわからない。経営判断に必要な詳細なデータに、すぐアクセスできない状態だったのです。これが、私が社長になって最初に直面した現実でした。


freee導入までの道:経営改革の第一歩はインフラ整備。就業規則、勤怠、そして『freee会計』へ

田辺薬品


――そのような状況から、どのように改革に着手されたのですか?


田辺: まず、経営の土台となるインフラを根本から作り直す必要があると考えました。とにかく、このブラックボックス状態に風穴を開け、業務を標準化・可視化することが急務でしたから。


そこで、社長就任から半年ほどかけて、まず就業規則の全面改定から着手しました。昭和感の漂う古いルールを現代の働き方に合わせて刷新し、次にクラウド型勤怠管理システムやビジネスチャットを立て続けに導入しました。


――まずは、最もトラブルが多かったという労務周りから着手されたのですね。

田辺: はい、そして、労務環境の整備と並行して、経営の根幹である会計システムの刷新に乗り出しました。そこで導入したのが『freee会計』です。同時に、新しいパートナーとしてfreeeの扱いに長けた税理士事務所に変更しました。経理と労務を担える人材も新たに採用し、一気に体制を変えました。


――就業規則、勤怠、チャット、会計、さらに税理士の変更と採用まで。短期間でこれだけの改革を行うのは大変ではなかったですか?

田辺: 「大変では?」とよく聞かれますが、私にとっては「やるしかなかった」のです。目の前にあった大きなトラブルをゼロにするためには、システム化してルールを明確にし、属人化から脱却する以外に道はありませんでした。抵抗勢力のようなものも、これだけドラスティックに変わると「自分にはもうできない」と、変化を受け入れざるを得ない状況になります。もちろん痛みをともなう改革でしたが、未来のためには避けて通れない道でした。


田辺薬品
田辺薬品の経営改革ロードマップ


freee導入後の効果:『freee会計』で売上の‟蒸発”を防ぐ?数字の可視化がもたらした衝撃的な成果

田辺薬品


――『freee会計』を導入されて、具体的にどのような変化がありましたか?


田辺: まず、試算表の確認スピードが格段に上がりました。しかし、それ以上にインパクトが大きかったのは、経営状況がすばやく、詳細に「可視化」されるようになったことです。これによって、とんでもない危機を未然に防いだ経験があります。


ある時、『freee会計』で店舗ごとの売上推移をグラフで見ていたんです。すると、ある店舗の調剤報酬が、特定の月にガクンと落ち込んでいることに気づきました。月次の売上は通常、ある程度の幅に収まるものですが、その月だけ明らかに半分近くまで下がっていた。「何かあったのか?」と現場に確認しても、特に大きな変化はないと言う。でも、数字は嘘をつきません。


――何が原因だったのでしょうか?

田辺: 私が「絶対におかしい」としつこく調査を指示したところ、衝撃の事実が判明しました。レセコンから保険機関に調剤報酬を送信する際、特殊なイレギュラーが発生し、1か月分のデータの一部しか送信されていなかったのです。システム上は「送信済み」と表示されるため、現場のスタッフは全く気づいていませんでした。


――つまり、請求されるはずだった売上が、気づかれずに消えてしまうところだった?

田辺: 恐ろしいことに、ある月の売上の一部が文字通り”蒸発”するところでした。もし、旧来の会計ソフトのように、ただ数字が並んだ試算表を眺めているだけだったら、この微妙な変化には絶対に気づけなかったでしょう。『freee会計』で月ごとの推移を直感的に見ていたからこそ、「あれ、おかしいぞ」という違和感をキャッチできた。これは本当にゾッとする経験でしたし、数字を正しく可視化することが経営にとっていかに重要かを痛感した出来事です。


freee導入後の効果:「この経費、何ですか?」からの卒業。『freee会計』で実現する、納得感のあるコスト管理

田辺薬品


――売上の異常検知だけでなく、コスト管理の面でも変化はありましたか?


田辺: 劇的に変わりましたね。先ほどお話しした「この経費って何?」という疑問が、freee会計ではなくなりました。気になる数字をクリックしていけば、どの店舗の、何の取引で発生した費用なのか、元帳の仕訳レベルまでドリルダウンして全て追跡できる。これは経営者にとって非常に大きなメリットです。


――どんぶり勘定ではなく、納得感を持って経費を把握できるようになったのですね。

田辺: そして、この透明性は社員の意識にも変化をもたらしました。各店舗の経費が明確に見えるようになったことで、薬局長たちが自らコスト意識を持つようになったんです。今では、「この経費を削減するために、初期投資としてこのシュレッダーを買ってくれませんか?ランニングコストが下がるので長期的には得です」といった、投資的な視点での経費削減提案が現場から上がってくるようになりました。


――とても大きな変化ですね

田辺: 経営者である私がトップダウンで指示するのではなく、現場が自分たちの数字を理解し、主体的に改善案を出してくれる。これは、会社全体の経営レベルが上がっている証拠です。『freee会計』で数字の裏付けを全員が共有できるようになったからこそ生まれた、ポジティブな循環だと思います。


freee導入後の効果:失敗から学んだ教訓。freee導入成功の鍵は「パートナー選び」

田辺薬品


――ここまで順調な話が続いていますが、導入時に苦労された点はありましたか?


田辺: 実は、一度大きな失敗をしています。最初に『freee会計』を導入した際にお願いした税理士事務所が、freeeの思想をあまり理解していなかったんです。


『freee会計』は、銀行口座やクレジットカードの同期をベースに、取引を登録していくという、従来の会計ソフトとは少し異なる思想で作られています。しかし、その事務所はfreeeの機能を活かさず、CSVデータを取り込むなど、旧来の会計ソフトと同じ使い方をfreee上で再現しようとしたのです。その結果、あちこちで数字に不整合が起きてしまい、適切にデータが見れなくなってしまいました。


――どのように乗り越えたのですか?

田辺: 結局、1年でその事務所との契約を解消し、銀行に紹介してもらった、薬局業界に詳しく、かつfreeeの扱いに長けた税理士事務所に切り替えました。もちろん、移行には3〜4か月かかり、その間は会計が締まらないという大変な時期を過ごしました。費用も労力も二重にかかりましたが、正しいパートナーと組むことの重要性を痛感する、高い授業料だったと思っています。これから導入される方は、必ずfreeeを深く理解している専門家をパートナーに選ぶべきです。


freee導入後の効果:DXの先にめざした「本当に選ばれる会社」へ

田辺薬品


―― お話を伺っていると、一連のDXは単なる業務効率化が目的ではなかったように感じます。


田辺: 私がこの一連の改革で本当に成し遂げたかったこと。それは「優秀な人材に選ばれる会社になること」、つまり採用力の強化です。社長に就任した当初、本当に人が採れなくて困っていました。面接に来てくれるのはベテランの方がほとんど。ある時、ようやく会えた30代の優秀な方に、「変革への思いは伝わるが、会社の中身が伴っていない」という理由で辞退されてしまったんです。

そこで、「外から見て違いがわかる会社」を本気で創ろうと決意しました。まず全社員を巻き込んで経営理念を策定し、その理念を実現するための施策を組み立てていきました。『freee会計』を中心としたバックオフィスインフラの整備も、その重要な土台の一つです。こういう守りの部分がしっかりしていることは、「ちゃんとした会社」であることの証明になりますから。


――インフラを整え、理念を掲げたことで、採用にも変化がありましたか?

田辺: 劇的に変わりました。理念に共感し、私たちの取り組みに面白みを感じてくれる20代・30代の意欲的な人材が入社してくれるようになったんです。そして、活躍してくれる社員がいると、その姿を見て「この会社で働きたい」という次の優秀な人材が集まってくる。人が人を呼ぶ、最高のサイクルが生まれ始めています。


田辺薬品


freeeとつくる、未来:経営の羅針盤を、はやく手に入れるべき

―― 最後に、今まさにバックオフィスの課題に悩んでいる薬局経営者の方々へ、メッセージをお願いします。

田辺: 会社のフェーズによって課題は様々だと思いますが、一つだけ確信を持って言えるのは、『クラウド会計ソフト』は規模に関わらず、できるだけ早く導入した方がいいということです。1店舗の時からでも絶対にやるべきです。

なぜなら、経営の基本は、自社の数字を正しく、タイムリーに把握し、それに基づいて判断することだからです。紙の試算表では、それは実現できません。『freee会計』を導入して良かったと思うことのひとつに、複数の銀行口座の残高をリアルタイムで一元的に把握できることがあります。会社に今、現金がいくらあるのかが瞬時にわかる。店舗数が増えてくると、これがわからなくなるんですよ。この安心感と判断の精度は、何物にも代えがたい。


――社長にとって『freee会計』は、どのような存在でしょうか。

田辺: もはや、会社の経営になくてはならない羅針盤ですね。守りであるはずのバックオフィス業務を、攻めの経営判断や組織改革に繋げてくれる。freeeがあったからこそ、私たちはブラックボックス状態から脱却し、社員の意識を変え、採用力を高め、次のステージへ進むことができました。もし昔の私たちと同じような課題を抱えているなら、まずは一歩、踏み出してみてほしいですね。その先には、まったく違う景色が広がっているはずです。

田辺薬品


取材・撮影・編集:シカクキカク


Company Profile

田辺薬品株式会社
設立:1952年9月(1973年創業)
従業員数:約80名


事業内容

調剤薬局の運営

田辺薬品株式会社

利用サービス