監修 幸谷 泰造 市ヶ谷東法律特許事務所
2022年5月の宅建業法改正により、不動産取引に関わる重要事項説明書や37条書面など宅建業法上の主要な書類の電子化が解禁され、重要事項説明書・売買契約書・賃貸借契約書などをオンラインで締結できるようになりました。さらに2025年10月には改正公証人法が施行され、それまで電子化できなかった事業用定期借地契約などの公正証書についても、作成手続きのデジタル化が実現しています。
電子契約の導入により、印紙税などのコスト削減や契約業務の効率化が期待できる一方、相手方の事前承諾の取得やセキュリティ対策など、導入にあたって準備すべき点もあります。
本記事では、不動産取引における電子契約の解禁の経緯・電子化できる書類とできない書類・電子契約の流れ・メリット・デメリット・注意点を解説します。
目次
- 不動産取引の電子契約はいつから解禁された?
- 電子化解禁の背景と宅建業法改正の流れ
- 不動産取引での電子契約とは?
- 電子契約できる主な不動産書類
- 媒介契約書
- 重要事項説明書(35条書面)
- 賃貸借契約書・売買契約書(37条書面)
- 定期借地契約・定期借家契約
- 電子契約できない不動産書類
- 2025年10月以降に電子化可能となった書類
- 不動産取引における電子契約の流れ
- 1. IT重説(オンライン重要事項説明)の事前承諾
- 2. 契約書類の作成・アップロード
- 3. IT重説の実施
- 4. 電子署名・電子交付
- 不動産取引で電子契約を導入するメリット
- 印紙税などのコストを削減できる
- 遠方の相手との契約が容易になる
- 契約業務を効率化できる
- 書類を管理しやすくなる
- 不動産取引で電子契約を導入するデメリット・注意点
- 相手方の事前承諾が必要
- 取引先のIT環境に依存する
- 業務フローの見直しが必要
- すべての書類を電子化できるわけではない
- 電子契約システムで契約業務を効率化する方法
- まとめ
- 電子契約システムで契約業務を効率化する方法
- よくある質問
不動産取引の電子契約はいつから解禁された?
不動産取引の電子契約は、2022年5月に重要事項説明書や37条書面など宅建業法上の主要な書面について全面解禁されました。
宅地建物取引業法(宅建業法)の改正が施行され、重要事項説明書や売買契約書など、不動産取引に必要な書類のほぼすべてについて電子化が認められるようになりました。
電子化解禁の背景と宅建業法改正の流れ
不動産取引の電子化は、以下のように段階的に規制緩和が進んできました。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2017年 | 賃貸借契約のIT重説(試行)開始 |
| 2021年4月 | IT重説が全宅建業者に解禁 |
| 2021年5月 | デジタル改革関連法が成立・公布 |
| 2022年5月18日 | 宅建業法改正施行・不動産取引の電子契約が全面解禁 |
| 2025年10月1日 | 公正証書作成手続きのデジタル化が実現 |
電子化解禁のきっかけとなったのは、2021年5月に成立した「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(デジタル改革関連法)」です。この法律により宅建業法を含む48の法律が改正され、書面交付義務の緩和と押印義務の廃止が認められました。
それまで宅建業法では、重要事項説明書(35条書面)や契約書(37条書面)などの書類を紙で交付し、宅地建物取引士が対面で説明することが義務付けられていたため、不動産取引の完全なオンライン化は難しい状況でした。2022年5月の宅建業法改正により、紙による書面交付義務が廃止され、不動産取引の契約手続きをオンライン上で完結できるようになりました。
出典:国土交通省「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について」
出典:厚生労働省「デジタル改革関連法の全体像(令和3年5月19日公布)」
不動産取引での電子契約とは?
不動産取引での電子契約とは、従来は紙で行っていた契約書の作成・締結・交付を、電子データで行う契約方法です。重要事項説明書や賃貸借契約書・売買契約書などの書類を電磁的方法で交付し、電子署名を用いて契約を締結します。
電磁的方法の例
- 電子メール
- Webページからのダウンロードによる提供
- USBメモリの交付 など
書面契約と電子契約の主な違いは、以下のとおりです。
| 書面契約 | 電子契約 | |
|---|---|---|
| 契約書の作成 | 紙に印刷・製本 | 電子データ(PDFなど)で作成 |
| 本人確認・署名 | 署名・押印(印鑑証明書) | 電子署名(電子証明書) |
| 改ざん防止 | 契印・割印 | タイムスタンプ |
| 書類の交付方法 | 対面・郵送 | 電子メール・Webダウンロードなど |
| 書類の保管方法 | 紙で保管(物理スペースが必要) | 電子データで保管(クラウドなど) |
| 印紙税 | 必要 | 不要 |
電子契約で本人確認と改ざん防止の役割を担うのが、「電子署名」と「タイムスタンプ」です。電子署名は書面契約における署名・押印に相当し、電子証明書を用いることでなりすましやデータ改ざんを防止します。タイムスタンプは電子的なスタンプの付与によって、文書が特定の時刻以降に改ざんされていないことを証明する技術です。
電子契約は、書面契約と同等の法的効力を持ちます。電子署名法第3条では、本人による電子署名があるときは、電子署名で締結した契約が真正に成立したものと推定されると定められています。
【関連記事】
タイムスタンプとは?電子帳簿保存法との関係や仕組みを紹介
出典:e-Gov法令検索「電子署名及び認証業務に関する法律|第3条」
電子契約できる主な不動産書類
2022年5月の宅建業法改正により、不動産取引に関わる主な書類の電子化が認められています。電子契約できる主な書類は以下のとおりです。
電子契約できる主な不動産書類
- 媒介契約書
- 重要事項説明書(35条書面)
- 賃貸借契約書・売買契約書(37条書面)
- 定期借地契約・定期借家契約
媒介契約書
媒介契約書とは、不動産会社(宅建業者)が売主・買主・貸主・借主から不動産取引の仲介を依頼された際に締結する契約書です(宅建業法第34条の2に基づく書面)。2022年5月の改正により電子化が認められ、依頼者の承諾を得たうえで電磁的方法による提供が可能となりました。
重要事項説明書(35条書面)
重要事項説明書とは、不動産取引の契約締結前に宅地建物取引士が買主・借主に対して物件の重要事項を説明する際に交付する書類です(宅建業法第35条に基づく書面)。2022年5月の改正により電子化が認められ、事前に相手方の承諾を得たうえで電磁的方法による提供が可能ととなりました。
重要事項説明は従来対面で行う必要がありましたが、2021年4月よりIT重説(オンラインによる重要事項説明)がすべての宅建業者に解禁されており、テレビ会議システム等を活用してオンラインで説明を行うことができます。
賃貸借契約書・売買契約書(37条書面)
賃貸借契約書・売買契約書は、不動産取引の契約締結後に交付する契約書です(宅建業法第37条に基づく書面)。2022年5月の改正により電子化が認められ、契約の相手方の承諾を得たうえで電磁的方法による提供が可能となりました。
ただし、37条書面は契約締結後に交付するものであるため、契約締結前に電子書面を交付することは宅建業法上認められていません。
定期借地契約・定期借家契約
一般定期借地権、事業用定期借地権など、一部の定期借地契約は、公正証書等の書面によって締結することが義務付けられている契約です。2022年5月の宅建業法改正後も、公正証書の作成には公証役場への出頭が必要であったため、完全なオンライン化が難しい状況でした。
しかし2025年10月より、公正証書作成手続きのデジタル化が実現しました。Web会議システムを利用したリモートでの手続きが可能となり、公証役場への出頭なしに電子公正証書の作成・交付ができるようになりました。なお、定期借家契約については、書面(電磁的記録を含む)による契約が必要であり、公正証書は必須ではありません。
電子契約できない不動産書類
2025年10月1日の改正公証人法施行により、公正証書に関連する多くの書類が電子化可能となりました。2026年4月時点で電子契約できない不動産書類として残っているのは、主に以下のとおりです。ただし、一部の法令上の書面については電子化の可否や運用が個別に定められているため、最新の法令・行政解釈を確認する必要があります。
| 書類 | 根拠法令 | 電子化できない理由 |
|---|---|---|
| 農地の賃貸借契約 | 農地法第21条 | 農地法により書面による契約が義務付けられており、現時点で書面要件撤廃の改正は行われていない |
| クーリング・オフができる旨を記載した書面 | 宅建業法第37条の2 | 消費者保護の観点から、書面(紙)による交付が義務付けられている |
2025年10月以降に電子化可能となった書類
改正公証人法により、それまで電子化できなかった以下の書類が電子化可能となりました。
2025年10月以降に電子化可能となった書類
- 事業用定期借地契約
- 企業担保権の設定または変更を目的とする契約
- 任意後見契約書
ただし、これらの書類は、公証人が関与する電子公正証書として作成する必要があります。公証役場への出頭は不要となりましたが、公証人によるウェブ会議での本人確認・内容確認・電子署名が必要です。
出典:法務省民事局「公正証書に係る一連の手続のデジタル化について」
不動産取引における電子契約の流れ
不動産取引における電子契約の基本的な流れは以下のとおりです。賃貸・売買いずれの取引でも、大きな流れは共通しています。
1. IT重説(オンライン重要事項説明)の事前承諾
電子契約を進めるにあたって、まず相手方から電磁的方法による書面交付およびIT重説の実施について事前承諾を得ます。
承諾は書面または電磁的方法(電子メールなど)で取得します。なお相手方から承諾を得られなかった場合は、従来どおり紙の書面で手続きを進める必要があります。
2. 契約書類の作成・アップロード
重要事項説明書・売買契約書・賃貸借契約書などの契約書類を電子データ(PDFなど)で作成し、電子契約サービスにアップロードします。書類には電子署名とタイムスタンプを付与し、改ざん防止措置を施します。
3. IT重説の実施
テレビ会議システム等を利用してオンラインで重要事項の説明を行います。IT重説を実施する際は、事前に相手方のIT環境(カメラ・マイク・通信環境等)を確認しておく必要があります。また、書面を電子交付する場合には、別途、相手方から電磁的方法による提供について承諾を得る必要があります。重要事項説明書は重説実施前に相手方へ電子交付し、相手方が内容を確認できる状態にしておきましょう。
4. 電子署名・電子交付
IT重説完了後、双方が電子契約サービス上で電子署名を行い、契約を締結します。締結後、契約書類を電磁的方法(電子メール・Webダウンロードなど)で相手方に交付します。
なお、37条書面(売買契約書・賃貸借契約書など)は契約締結後に交付するものであるため、契約締結前の交付は宅建業法上認められていません。ただし、契約内容を記載した案文等を事前に提示することまで禁止されるものではありません。
不動産取引で電子契約を導入するメリット
不動産取引に電子契約を導入することで、不動産会社・消費者の双方にとって以下のようなメリットがあります。
印紙税などのコストを削減できる
紙の契約書には収入印紙の貼付が必要ですが、電子契約は「課税文書の作成」に該当せず印紙税が課税されないため、印紙代を削減できます。不動産売買契約書の印紙税は契約金額によって異なりますが、高額取引が多い不動産業界では特に大きなコスト削減効果が期待できます。
また、印刷代・郵送代・書類の保管スペースにかかるコストも削減できます。
遠方の相手との契約が容易になる
電子契約を導入することで、物理的な移動なしに契約手続きを完結できます。遠方に住む買主・借主との契約や、複数拠点にまたがる手続きもオンラインで対応できるため、顧客の利便性向上につながります。
契約業務を効率化できる
紙の契約書では製本・押印・郵送・返送確認などに数日から1週間程度かかりますが、電子契約では最短即日で契約を完結できます。とくに件数が多い賃貸更新手続きなどでは、業務負担を大幅に削減できます。
書類を管理しやすくなる
電子契約で締結した書類はクラウド上で一元管理でき、必要な書類をすぐに検索・閲覧できます。紙の書類のような保管スペースの確保や、ファイリングの手間も不要になります。また電子帳簿保存法に対応した形で書類を保存できるメリットもあります。
不動産取引で電子契約を導入するデメリット・注意点
電子契約には多くのメリットがある一方、導入にあたって以下の点に注意が必要です。
相手方の事前承諾が必要
宅建業法では、電子契約を行うにあたって相手方の事前承諾を得ることが義務付けられています。承諾が得られない場合は紙の書面で手続きを進める必要があるため、電子契約と書面契約の両方に対応できる体制を整えておくことが重要です。高齢者など、ITに不慣れな方が取引相手の場合は特に注意が必要です。
取引先のIT環境に依存する
電子契約を利用するためには、取引先がIT重説や電子署名に対応できる環境(カメラ・マイク・インターネット環境等)を持っている必要があります。取引先のIT環境が整っていない場合は電子契約を進めることができないため、事前に確認しておくことが重要です。
業務フローの見直しが必要
電子契約の導入にあたっては、従来の紙の契約書を前提とした業務フローを見直す必要があります。電子契約サービスの選定・社内担当者のトレーニング・取引先への案内など、導入準備に一定の時間とコストがかかる点を考慮したうえで計画的に進めることが求められます。
すべての書類を電子化できるわけではない
農地の賃貸借契約やクーリング・オフに関する書面など、現時点で電子化できない書類が一部残っています。電子契約を導入しても完全なペーパーレス化は難しいケースがあるため、電子化できる書類とできない書類を正確に把握したうえで運用する必要があります。
電子化できる書類・できない書類については、前述の「電子契約できる主な不動産書類」「電子契約できない不動産書類」をご覧ください。
まとめ
2022年5月の宅建業法改正により、重要事項説明書・売買契約書・賃貸借契約書など不動産取引に関わる主な書類の電子化が全面解禁されました。
また、2025年10月1日の改正公証人法施行により、それまで電子化できなかった事業用定期借地契約・企業担保権の設定または変更を目的とする契約・任意後見契約書についても、公正証書作成手続きのデジタル化により電子公正証書として作成できるようになっています。
電子契約の導入により、印紙税などのコスト削減・契約業務の効率化・書類の電子管理など多くのメリットが得られます。一方で相手方の事前承諾の取得・セキュリティ対策・業務フローの見直しなど、導入にあたって準備すべき点もあります。
現時点では農地の賃貸借契約など一部の書類は電子化できないため、電子化できる書類とできない書類を正確に把握したうえで、計画的に電子契約の導入を進めましょう。
電子契約システムで契約業務を効率化する方法
契約書の作成や郵送、締結後の管理など、契約業務は手間がかかる作業です。テレワークの普及で決裁に時間を要し、契約書の押印や郵送のために出社しなければならないなど、面倒な場面もあります。
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よくある質問
不動産の電子契約はいつから解禁されましたか?
2022年5月18日に宅建業法が改正・施行され、重要事項説明書・売買契約書・賃貸借契約書など不動産取引に関わる主な書類の電子化が全面解禁されました。
詳しくは、記事内「不動産取引の電子契約はいつから解禁された?」をご覧ください。
不動産売買でも電子契約できますか?
売買契約書(37条書面)・媒介契約書・重要事項説明書はいずれも電子化が認められており、不動産売買においても電子契約が利用できます。ただし相手方の事前承諾が必要です。
詳しくは、記事内「電子契約できる主な不動産書類」をご覧ください。
電子契約できない不動産書類はありますか?
農地の賃貸借契約やクーリング・オフに関する書面は現時点で電子化できません。また事業用定期借地契約・企業担保権の設定または変更を目的とする契約・任意後見契約書については、2025年10月以降に公正証書作成手続きのデジタル化により電子公正証書として作成できるようになりましたが、民間の電子契約サービスとは異なる手続きが必要です。
詳しくは、記事内「電子契約できない不動産書類」をご覧ください。
不動産の電子契約にデメリットはありますか?
相手方の事前承諾が必要・取引先のIT環境に依存する・セキュリティ対策が必要・業務フローの見直しが必要・すべての書類を電子化できるわけではないといった点がデメリット・注意点として挙げられます。
詳しくは、記事内「不動産取引で電子契約を導入するデメリット・注意点」をご覧ください。
参考文献
▶︎ 国土交通省「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について」
監修 幸谷 泰造
市ヶ谷東法律事務所代表。
ソフトウェア・インターネット・知的財産に関する法分野を専門とするソフトウェアエンジニア出身の理系弁護士・弁理士。
ソニー株式会社で知的財産業務を約6年経験し、弁護士となった後は大手法律事務所等で企業法務に従事。
エンジニア出身のバックグラウンドを活かし、IT系企業の契約書の作成やチェックを数多く経験。
慶応義塾大学大学院理工学研究科非常勤講師として「実践知財管理」を担当。2022年度 特許庁I-OPENプロジェクト専門家サポーター。
