ネットワーク工程表とは、建設工事に伴う作業を、順序や依存関係とともに図式化した工程表のことです。
建設や製造などでは、複雑な作業の順序や作業同士の関係性を正確に管理することが求められます。ネットワーク工程表を活用することで、作業間のつながりを矢印で示すことができ、全体の流れや遅延のリスクの可視化が可能になります。
本記事では、ネットワーク工程表の仕組みやメリット・デメリット、作成手順をわかりやすく解説します。
目次
- ネットワーク工程表とは
- ほかの工程表との違い
- ネットワーク工程表を理解するための用語
- ネットワーク工程表のメリット
- 工事全体の流れとボトルネックを把握できる
- 重要作業を特定して重点的に管理できる
- 遅延時の影響範囲や工期を予測できる
- 関係者への説明や合意形成がスムーズになる
- ネットワーク工程表のデメリット・注意点
- 作成や修正に時間とスキルが必要になる
- 直感的に理解しにくい場合がある
- 専門用語やルール理解が前提となる
- ネットワーク工程表の基本ルール
- ネットワーク工程表の作成準備から運用までの流れ
- STEP1. 工事・作業を洗い出す
- STEP2. 作業の依存関係を設定する
- STEP3. 各作業の所要日数を算出・記載する
- STEP4. 人員・機材を適切に配置する
- STEP5. 進捗に応じて計画を修正する
- まとめ
- よくある質問
ネットワーク工程表とは
ネットワーク工程表とは、建設工事に伴う作業の順序や依存関係を可視化した図表のことです。
各作業(アクティビティ)を矢印で結び、作業のはじまりと終わりを示す「イベント(ノード)」を丸印で配置して構成します。ノードとは、作業同士のつながりを結ぶ「結合点」のことで、工程全体の流れを整理する基準点の役割をもちます。
これにより、どの作業がどれに先行・後続するのか、同時進行できる作業はどれかを一目で把握することが可能です。
また、全体の工期を左右する経路(クリティカルパス)を明確にできるため、工期の短縮や遅延リスクの予測に役立ちます。
ネットワーク工程表は建設業ではもちろん、製造業やIT業などの複数工程が並行するプロジェクト管理にも広く活用されています。
ほかの工程表との違い
プロジェクト管理では、目的に応じてさまざまな工程表が使われます。
いずれも作業の流れを見える化する点は共通していますが、表現方法や把握できる情報の範囲が異なります。
代表的な工程表の種類とそれぞれの内容については、以下のとおりです。
| 工程表の種類 | 把握できる内容 |
|---|---|
| ネットワーク工程表 | 作業の依存関係・クリティカルパス・余裕時間 |
| バーチャート工程表 | 各作業の予定日・所要日数 |
| ガントチャート工程表 | 全体スケジュール・進捗状況 |
| グラフ式工程表 | 出来高の増え方・進み具合 |
| 出来高累計曲線 (Sカーブ) | 計画値と実績値の差 |
たとえば、バーチャート工程表やガントチャート工程表は、「いつ・どの作業を行うか」の把握に適しています。ただし、作業の順序や遅延がどこまで影響するのかは判断できません。
一方、ネットワーク工程表は、工事全体の構造を俯瞰できるのが強みです。どの作業を優先して進めるべきか、どこに余裕があるかを判断しやすく、リスク管理や意思決定に役立ちます。
ネットワーク工程表を理解するための用語
ネットワーク工程表を正しく作成・読解するには、基本用語の理解が重要です。
以下は、現場で共通して使われる主要な用語です。
| 用語 | 意味 | 概要 |
|---|---|---|
| イベント (結合点) | 作業の開始・完了地点 | ・〇印で表す ・左から右に進むにつれて番号が大きくなる |
| アクティビティ | 作業 | ・矢印(→)で表す ・矢印の上に作業名、下に所要日数を記載する |
| ダミー | 作業の順序関係を示すための仮想的な作業 | ・点線矢印(--→)で表す ・所要時間は0日 |
| クリティカルパス | 工程全体でもっとも時間がかかる経路 | ー |
| トータルフロート (全体余裕) | 作業を遅らせても工期全体に影響を与えない最大の余裕時間 | ー |
| フリーフロート (自由余裕) | 作業を遅らせても次の作業に影響しない余裕時間 | ー |
ネットワーク工程表のメリット
ネットワーク工程表は、スケジュール管理だけでなく、工事全体の流れを論理的に可視化し、リスクの最小化にも役立ちます。
ネットワーク工程表の主なメリットとしては、以下が挙げられます。
これらの特徴を活かすことで、データにもとづいた精度の高い工程管理が実現します。
工事全体の流れとボトルネックを把握できる
ネットワーク工程表を使うと、すべての作業のつながりが一目でわかります。どの作業がどれに先行・後続するのかを矢印で示すため、工事全体の流れを俯瞰しやすいのが特徴です。
複数の作業が並行して進む現場では、左官や電気などのチームが同じエリアで同日に作業することで干渉し合うなど、段取りの非効率(ボトルネック)を、早い段階で発見可能です。
こうした作業の干渉や停滞のリスクを事前に把握できれば、人員配置や作業順序を柔軟に調整しやすくなります。
結果として、手待ち時間を減らし、全体の作業効率を高められるでしょう。
重要作業を特定して重点的に管理できる
ネットワーク工程表の強みは、工期に直結する「クリティカルパス上の作業」を明確にできる点です。
膨大な工程の中から、遅延が許されない作業を的確に抽出できることで、管理リソースを効果的に集中させることが可能です。さらに、各作業の余裕時間(フロート)を数値で把握できるため、優先順位の判断にも役立ちます。
たとえば「基礎配筋工事のフロートは0日」「仮設倉庫設置は10日」と可視化されれば、どの工程を優先すべきか一目瞭然です。
経験や勘に頼った管理では見落としがちなリスクを、データにもとづいて冷静に判断できる点も魅力です。限られた人員や時間を効果的に活かし、ムダのない戦略的な工程管理を実現できます。
遅延時の影響範囲や工期を予測できる
ネットワーク工程表は、作業の遅れが全体工期にどの程度影響するかを数値で予測できます。
すべての作業は依存関係で結ばれているため、ひとつの工程が遅れた場合、その影響が自動的に再計算されます。
たとえば、資材搬入が2日遅れたとしても、該当作業に5日の余裕(フロート)があれば工期全体には影響しません。一方で、クリティカルパス上の作業が1日遅れると、工期も同様に1日後ろ倒しになります。
このように、ネットワーク工程表を使えば「どの工程がリスクを抱えているのか」「どの作業を優先すべきか」を定量的に判断することが可能です。
突発的なトラブルが発生しても、データをもとに最適な対応策を検討できます。
関係者への説明や合意形成がスムーズになる
ネットワーク工程表を使えば、作業のつながりやクリティカルパスが可視化されます。
これにより「なぜこの順番なのか」「どこを短縮すれば効率的か」をデータに基づいて論理的に説明できるため、主観的な意見の衝突がありません。
結果的に、関係者との協議がスムーズに進み、信頼関係を築きながらスピーディな意思決定が可能になります。
ネットワーク工程表のデメリット・注意点
ネットワーク工程表は、作業のつながりや全体構造を論理的に整理できる優れた管理手法です。一方で、導入や運用の際にはいくつかの注意点があります。
具体的には、以下のデメリットがあげられます。
ネットワーク工程表のデメリット・注意点
導入前にこれらの注意点を把握しておくことで、導入後のトラブルを防ぎ、スムーズに運用を進められます。
作成や修正に時間とスキルが必要になる
ネットワーク工程表では、各作業の依存関係を正確に定義する必要があります。単に作業を並べるだけでなく、「どの作業が完了すれば次に進めるのか」をひとつずつ設定しなければなりません。
依存関係を誤ると、工期全体の計算が大きく狂うリスクがあるため、注意が必要です。とくに大規模工事では作業数が多く、修正作業にも手間がかかります。
工数管理を効率化したい人には、クラウドの工程管理ツールの導入がおすすめです。初期段階の作成に時間がかかりますが、再計算機能などにより修正業務などが容易になります。
直感的に理解しにくい場合がある
ネットワーク工程表は、作業の関係性を整理するのに優れていますが、時間の流れを直感的に把握しにくいといった弱点があります。
ガントチャート工程表のように「横軸=日付」「バーの長さ=作業期間」で表す形式ではありません。そのため、初見ではスケジュール感をつかみにくい傾向があります。
とくに発注者や協力会社との打ち合わせでは、「どの作業がいつ行われるか」を説明するのに時間を要します。
この課題を補うには、社内分析にはネットワーク工程表を、対外的な共有にはガントチャート工程表を使うなど、目的に応じて併用するのが効果的です。
専門用語やルール理解が前提となる
ネットワーク工程表を正確に扱うには、専門用語や作図ルールの理解が欠かせません。これらの概念を誤って運用すると、工期計算や優先順位の判断を誤るおそれがあります。
チーム全体で理解を統一するために、社内で用語集を共有したり、勉強会を行ったりするとよいでしょう。基礎知識を全員で共通することが、正確で再現性の高い工程管理につながります。
ネットワーク工程表の基本ルール
精度の高いネットワーク工程表を作成するには、基本ルールを正しく理解し、統一して運用することが重要です。
ルールの共有によって、誰が見ても同じように解釈できる共通言語として機能し、属人的な工程管理から脱却できます。
基本的な作成ルールは以下のとおりです。
- 作業番号はアクティビティ(→)の上に記入する
- 作業日数はアクティビティ(→)の下に記入する
- アクティビティ(→)は作業の進行方向に描く
- イベント番号は進行するほど大きくする
- 前の作業が完了しないと次に進めない
- 同じイベント間に複数のアクティビティを引かない
これら6つの基本ルールを守ることで、ネットワーク工程表の構造が整理され、誰が見ても正確に理解できる資料になります。
ネットワーク工程表の作成準備から運用までの流れ
ネットワーク工程表の作成は、図面を描く前の準備からはじまります。作成・運用の主な流れは、以下の5ステップです。
ネットワーク工程表の作成から運用までの流れ
工程を細かく整理し、依存関係や日数を明確にすることで、工期の見通しが立ちやすくなります。
STEP1. 工事・作業を洗い出す
最初に、WBS(作業分解構成表)を使って、工事全体を管理しやすい単位に分けていきます。
作業を分解する目安は、1〜10日で完了できる分量が適切です。
たとえば、「コンクリート工事」のみだと、対応範囲が広く、所要日数の算定が難しくなります。この場合は「根切り・床付け」「基礎配筋」「配筋検査」「型枠組立」のように粒度を細かくし、担当範囲と完了基準が明確になるように分けていきましょう。
この段階で作業を適切に分けておくことで、漏れや重複を防げます。
工程表を作成する前に、階層リストとして整理し、抜け漏れのない構成になっているか確認しましょう。
STEP2. 作業の依存関係を設定する
STEP1で洗い出した作業をどの順番で進めるかを決めます。 ネットワーク工程表では、作業のつながり(依存関係)を、以下の4種類で表します。
- FS(終了→開始):前作業が終わったら次の作業を開始
- SS(開始→開始):両方の作業を同時にスタート
- FF(終了→終了):終了タイミングの一致
- SF(開始→終了):特殊な制御関係(例:仮設撤去)
さらに、作業間の待ち時間を示す「ラグ」も設定しましょう。たとえば、コンクリート打設後に5日間の養生期間を設ける場合は「FS+5日」と指定します。
同時進行の作業が多い場合や、複数の工程が複雑に絡み合う場合は、作業関係のみを示す「ダミー作業」を挿入し、誤解を防ぐ工夫が必要です。
依存関係を正確に設計することで、クリティカルパスの算出精度が高まり、工程全体を論理的に把握できます。
STEP3. 各作業の所要日数を算出・記載する
各作業に必要な日数は、明確な根拠をもとに算出します。
基本式は、以下のとおりです。
- 所要日数 = 作業量 ÷ 生産性(人・班あたり/日)
このとき、休日・荒天・搬入制約などの暦条件も考慮します。Excelの「WORKDAY」や「NETWORKDAYS」関数を使うと、稼働日換算を自動化できます。
天候の影響が大きい時期は、過去実績にもとづく「稼働率」を掛けて調整すると現実的です。
最終的な日数はアクティビティ(→)の下に記入し、全作業で表記方法を統一します。これにより、誰が見ても同じ基準で工程を読み取れるネットワーク工程表が完成します。
STEP4. 人員・機材を適切に配置する
作業計画が整ったら、次に人員や機材をどのタイミングで投入するかを検討します。
リソースを均等に配分するために活用されるのが、「山積み・山崩し」といった手法です。
- 山積み:期間ごとの必要人数を積み上げてピークを把握
- 山崩し:前後調整や並行化でピークを分散
たとえば、左官班の作業が同日に2現場で重なっている場合、非クリティカルな工程を数日ずらして重複を解消します。
こうした調整によって、手待ち時間や資機材の競合を防ぎ、工事全体の効率と安全性を高められます。
最終的には、資源の山積みグラフを作成し、どの時期に人員・機材の負荷が集中しているかを可視化しておくと効果的です。
STEP5. 進捗に応じて計画を修正する
現場では、天候・資材調達・設計変更などにより、計画どおりに進まないことがあります。そのため、定期的に進捗を確認し、必要に応じてネットワーク工程表の更新を行うことが大切です。
進捗フォローアップの判断例は、次のとおりです。
| 状況 | 判断・影響 | 対応策 |
|---|---|---|
| ・資材搬入が2日遅れ ・該当作業に5日のフロートがある | 工期全体への影響なし | 計画は維持し、次回確認時に再評価 |
| クリティカルパス上の作業が1日遅れ | 工期が1日後ろ倒し | 残業・人員増加・作業順序変更を検討 |
更新後は、最新のクリティカルパスを再確認し、重点的に管理すべき作業を明確にします。
この「計画→実績→修正→再計画」のサイクルを繰り返すことで、変化に強い工程管理体制を維持できます。
まとめ
ネットワーク工程表は、作業間のつながりを可視化し、工期を左右するクリティカルパスを把握できます。
この考え方を日々の業務に取り入れれば、突発的な遅延にも柔軟に対応でき、関係者と共有しやすい工程計画を立てられます。
さらに、工程表の運用をより効率化するなら、「freee工数管理」を活用するのが効果的です。
freee工数管理では、工数入力・進捗把握・原価算出を自動化し、リアルタイムでプロジェクト全体を可視化できます。
チーム全体で一貫した工程管理を実現しましょう。
よくある質問
工程表とガントチャートの違いは何ですか?
ガントチャート工程表は、作業の予定と進捗を時間軸で整理できるため、日々の進行管理やスケジュール共有に向いています。
一方、ネットワーク工程表は作業同士のつながりや影響を矢印で示すことで、工期の短縮やボトルネックの特定など、全体最適を考慮した分析的な管理に適しています。
どちらも工程を可視化する手法ですが、「進行状況を管理するならガントチャート工程表」「工程全体を最適化するならネットワーク工程表」というように、目的に応じて使い分けることが重要です。
詳しくは、記事内「ほかの工程表との違い」をご覧ください。
ネットワーク工程表のルールはありますか?
ネットワーク工程表の作成には、以下6つの基本ルールがあります。
- 作業番号はアクティビティ(→)の上に記入する
- 作業日数はアクティビティ(→)の下に記入する
- アクティビティ(→)は作業の進行方向に描く
- イベント番号は進行するほど大きくする
- 前の作業が完了しないと次に進めない
- 同じイベント間に複数のアクティビティを引かない
ルールを統一して運用することが大切です。
詳しくは、記事内「ネットワーク工程表の基本ルール」をご覧ください。
ネットワーク工程におけるクリティカルパスとは何ですか?
クリティカルパスとは、全体の工期を決定するもっとも時間のかかる作業経路のことです。
この経路上の作業が遅れると、工期全体も同じだけ延びるため、重点的な管理が必要になります。
詳しくは、記事内「ネットワーク工程表を理解するための用語」をご覧ください。
ネットワーク工程表はエクセルで作れますか?
ネットワーク工程表は、Excelでも作成可能です。セルを使って作業(アクティビティ)を配置し、矢印(図形機能)で作業間の関係を表すことで、簡易的なネットワーク図を作れます。
関数を活用すれば、作業日数や開始・完了日の自動計算も可能です。
ただし、依存関係が複雑になると修正に手間がかかります。規模の大きいプロジェクトでは、専用の工程管理ソフトやクラウドツールを併用するとよいでしょう。
