躯体工事(くたいこうじ)とは、建物の骨格をつくる工程のことです。躯体工事は建築基準法でも「構造耐力上主要な部分」と定義されている重要な工事です。
本記事では、躯体工事の重要性や構造別の種類、工事の流れについて解説します。
目次
躯体工事とは建物の骨格をつくる工事
躯体工事とは、建物を支える骨格部分をつくる工程のことです。
基礎・柱・梁・床などの建物の構造を形づくる作業であり、建築基準法でも「構造耐力上主要な部分」として定義されています。
建物の耐震性や耐久性を左右する躯体工事は、一度施工が完了するとやり直しが難しいため、設計段階から高い精度と品質管理が求められます。
躯体工事の重要性
建物を長く安全に使うために、重要になるのが骨格をつくる躯体工事です。この工程が不完全なままでは、どれほど外観を整えても長期的な耐久性は保てません。
たとえば、RC造(鉄筋コンクリート造)で鉄筋の配置ミスがあれば、設計どおりの耐震性能を確保できず、重大な欠陥につながるおそれがあります。
また、コンクリート打設時にジャンカ(充填不良)が残ると、鉄筋が腐食して数年後にひび割れや雨漏りを引き起こすこともあります。こうした不具合は完成後の修正が難しいため、施工時点での精密な管理が不可欠です。
躯体工事と仕上げ工事との違い
簡単にまとめると、「建物の骨格をつくる」のが躯体工事、「人が使える空間に整える」のが仕上げ工事です。
躯体工事と仕上げ工事は、以下のように、目的・内容・関わる職種のすべてが異なります。
| 躯体工事 | 仕上げ工事 | |
|---|---|---|
| 目的 | 建物の強度・安全性を確保する | 快適性・美観・機能性を高める |
| 内容 | 基礎・柱・梁・床・壁・屋根などの構造体を施工 | 内装・外装・設備などの仕上げ |
| 関わる職種 | 鉄筋工・型枠大工・コンクリート工など | 内装職人・電気工・配管工・塗装工など |
躯体工事は建設の初期段階で行われるもので、建物の骨格を形成します。一方、仕上げ工事は躯体工事後に実施され、空間を使える状態に整える役割を担います。
どちらか一方だけでは建物は成り立たず、両方の工程がかみ合うことで、安全で居心地のよい空間が完成するのです。
躯体工事の作業に必要な資格
躯体工事では、資格がなくても作業自体は行えます。とはいえ有資格者が多いと、安全性や品質、信頼性が高くなると考えられます。
現場で作業を行う技能を証明するには技能検定資格があり、代表的なのは次のとおりです。
| 分野 | 資格 | 内容・役割 |
|---|---|---|
| 鉄筋工事 | 鉄筋施工技能士 | 鉄筋の加工・組立・配置を行う技能 |
| 型枠工事 | 型枠施工技能士 | 型枠の組立や精度管理の技能 |
| とび工事 | とび技能士 | 足場や鉄骨建方など高所作業の技能 |
| 危険作業 | 作業主任者 (足場・型枠支保工など) | 労働安全衛生法に基づく安全管理資格 |
なお、工事の規模や内容によっては、法律で資格者の配置が義務付けられている場合があります。
たとえば、一定規模以上の建設現場では、建設業法により「主任技術者」または「監理技術者」の配置が必要です。主任技術者は、すべての工事現場で工程や品質を管理する役割を担い、監理技術者は、下請契約を伴う大規模工事で全体の統括・調整を行います。
出典:厚生労働省「技能検定職種一覧表(133職種)」
出典:厚生労働省「作業主任者・就業制限業務等一覧表」
躯体工事の種類
建物の構造は、使用する主要材料によって以下の5つの種類に分類されます。
躯体工事の主な種類
それぞれ構造性能が異なるため、躯体工事の進め方も構造ごとに変わります。
建物の用途・規模に応じて最適な工法を選択することが重要です。
RC造(鉄筋コンクリート造)
RC造は、鉄筋の引張強度とコンクリートの圧縮強度を組み合わせた構造で、耐震性・耐火性・耐久性に優れています。主にマンションや学校、病院などの中低層建築に多く採用され、国内でもっとも一般的な構造形式です。
現場で型枠を組み、鉄筋を配筋してコンクリートを流し込む「現場打ち工法」が主流です。設計の自由度が高く、複雑な形状にも対応できます。
長寿命で遮音性にも優れていますが、養生期間が必要なため工期が長くなり、天候に左右されやすい点がデメリットです。品質確保のためには、配筋検査やコンクリート強度試験など、徹底した施工管理が不可欠です。
S造(鉄骨造)
S造は、Steel(鉄)を主要構造材とする構造で、軽量ながら高い強度をもっています。柱間(スパン)を広く取れるため、大空間を必要とする工場や倉庫、商業施設などで採用されています。
工場で製作した鉄骨を現場で組み立てる「建方工事」によって、RC造よりも短期間で施工することが可能です。ただし、鉄骨は熱に弱いことから、耐火被覆や防錆塗装が必須となる点は、知っておくとよいでしょう。
S造においては、溶接部の精度確保や建方時の安全確保のために、溶接技能者・とび技能士などの有資格者による施工管理が必要となります。
W造(木造)
W造は、木材を主要構造とする工法で、戸建て住宅や小規模建築物に多く採用されています。木材の断熱性・調湿性によって、日本の気候に適した快適な住環境を実現できます。
代表的な工法は、「在来軸組工法」と「ツーバイフォー工法」です。設計の自由度が高く、施工性にも優れています。軽量で費用を抑えられますが、耐火性・耐久性には劣るため、防腐・防蟻・防湿対策が重要です。
SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)
SRC造は、鉄骨の骨組みに鉄筋を組み合わせ、コンクリートで覆った構造です。RC造とS造の長所をあわせもつ構造で、高強度・高耐震・高耐火が求められる超高層ビルやタワーマンションに採用されています。
鉄骨が荷重を支え、鉄筋とコンクリートが剛性・耐火性を補うことで、しなやかで強固な構造体を形成します。
耐久性・資産価値が高い反面、施工が複雑なため、一級建築施工管理技士などの高度な技術者による品質管理が必須です。また、重量が大きいので、地盤改良と精密な施工精度管理も欠かせません。
ブロック造
ブロック造は、コンクリートブロックをモルタルで積み上げて壁を形成する工法です。住宅の主要構造として採用されるケースは比較的少ないですが、小規模な倉庫や車庫、物置などの附属建物には適しています。
耐震性・強度はRC造やS造に劣りますが、型枠や鉄筋の組み立てが不要なため、短工期・低コストで施工できるのが特徴です。
構造計算が必要な場合は建築士に相談し、ブロック積みの経験豊富な職人に依頼することをおすすめします。
躯体工事の流れ
躯体工事は、建物の骨格を形づくる重要な工程です。ここでは、一般的なRC造(鉄筋コンクリート造)を例に、施工の基本的な流れを紹介します。
これらの工程を階ごとに繰り返すことで、建物全体の構造体が形成されます。
STEP1. 墨出し
墨出しは、建物の中心線や高さを正確に現場へ写し取る工程です。ここで誤差が生じると、鉄筋工事・型枠工事・コンクリート打設など、後続すべての作業に影響します。
レーザー墨出し器やトランシットを使用して、通り芯・陸墨・開口位置を表示します。許容誤差は一般的に±3mm程度ですが、わずかなずれでも構造精度に影響します。そのため、設計者や監理者の立会い確認が欠かせません。
完了後は写真・測定記録を保存し、施工前の再確認を徹底することで、手戻りや寸法不良を防ぎます。
STEP2. 鉄筋工事
鉄筋工事は、建物の耐震性・耐久性を決定づける最重要工程です。現場では、鉄筋組立技能士などの有資格者による施工管理が望ましく、設計どおりの精度で組み上げることが求められます。
鉄筋工事では、設計段階で定められた鉄筋の太さ・本数・間隔・かぶり厚などはすべて構造計算に基づいています。
わずかな誤差でも構造強度が低下するおそれがあるため、設計図を正確に読み取り、事前に寸法や配置を入念に確認することが重要です。
構造計算ができたら、設計図どおりに鉄筋を組み立て、鉄線で結束・固定します。かぶり厚を確保するためにスペーサーを均等に配置することで、コンクリート打設時のズレを防止することが可能です。
鉄筋の組立作業が完了したあとは、建築士または検査機関による配筋検査を受け、写真記録を残したうえで次工程にうつります。
STEP3. 型枠工事
型枠工事は、コンクリートを流し込み形をつくるための枠を組み立てる工程です。組立精度が低いと、コンクリート打設時に歪みや膨らみ、ジャンカ(充填不良)が発生するおそれがあります。
壁・柱・梁などの寸法精度や、仕上がり品質に直結する重要な作業であり、型枠施工技能士や型枠支保工の組立等作業主任者の指導・監督のもとで進められます。
型枠には合板や鋼製パネルを用いて、コンクリートの圧力で崩れないよう、セパレーターやフォームタイでしっかりと固定しましょう。
その際、垂直・水平の精度は±5mm以内を目安に保つのが一般的です。さらに、コンクリートが固まった後にスムーズに脱型できるよう、内側に剥離剤を均一に塗布しておきます。
STEP4. 配管・配線の設置
続いて、コンクリート内部に電気配線や給排水管を埋設する工程です。コンクリート打設後に修正することは難しいため、構造図と設備図を照合しながら、慎重に作業を進めます。
スリーブ(配管を通す筒)や電線管は型枠内にしっかりと固定し、鉄筋を切断せずに干渉を避けるよう計画を立てる必要があります。
この工程では、設備業者と躯体工事業者の連携が欠かせません。
スリーブの位置を誤ると構造欠損の原因になり追加工事が発生することもあるため、配管・配線の設置後は監理者が立ち会って確認し、写真記録を残したうえで次の工程に移行します。
STEP5. コンクリート打設
コンクリート打設は、建物の骨格を形成するうえで重要な工程です。一度打設するとやり直しが難しいため、品質と安全の両面から細心の注意が求められます。
作業前には、型枠や鉄筋、スリーブの状態を最終確認することがポイントです。生コンクリート受入時に、スランプ値・空気量・温度などを測定して品質を確認します。
ポンプ車でコンクリートを型枠に流し込み、バイブレーターを使って気泡を取り除きながら、しっかりと締め固めていきます。
打継ぎ時間を守り、ジャンカ(充填不良)やコールドジョイント(打継ぎ不良)が生じないよう注意を払うことが大切です。
さらに、天候によって仕上がりが左右されるため、雨天や猛暑、寒冷時は工程を調整します。こうした管理を適切に行うため、1級建築施工管理技士などの有資格者が常駐し、全体を統括します。
STEP6. 養生
コンクリート打設後は、強度が十分に発現するまで温度と湿度を適切に管理します。この養生期間の対応が、建物の耐久性やひび割れ防止に直結します。
一般的には、平均気温15℃以上で3〜7日間、5〜15℃未満では4〜12日間が目安です。コンクリート表面を養生シートで覆い、散水や保温を行って湿潤状態を維持します。
また、7日および28日後に供試体の強度試験を実施し、設計基準強度を満たしているかを確認して次工程の開始を判断します。
STEP7. 型枠解体
コンクリートが設計基準強度の70%程度に達したことを確認できたら、型枠を取り外します。
早期に解体すると変形やひび割れを招くおそれがあるため、供試体の試験結果や現場での強度確認を踏まえ、慎重に進行することが重要です。
側面の型枠から順に外し、荷重を支える床スラブの支保工は最後に撤去します。脱型後は表面を点検し、ジャンカ(充填不良)・豆板・打継ぎ不良がないか確認します。
軽微な欠陥はモルタルで補修し、重大な不具合がある場合は構造設計者と協議のうえで対策を講じましょう。解体後は写真・検査記録を整理してから、次の階層の施工に引き継ぎます。
躯体工事にかかる工期の目安
建物の構造や階数によって、躯体工事に必要な期間は変わります。加えて、気象条件や人員配置、資材搬入の遅れなどによっても期間は変動します。計画段階から余裕をもった工程を設定しておきましょう。
建物規模別の工期目安
建物の規模が大きくなるほど、コンクリートの打設回数が増えるため、比例して型枠の組立・解体作業も多くなります。
RC造(鉄筋コンクリート造)における一般的な工期の目安は、次のとおりです。設計条件や施工方法によって前後するため、あくまで参考として確認しておきましょう。
| 建物規模 | 躯体工事の目安期間 | 建物例 |
|---|---|---|
| 2〜3階建て | 約3〜4ヶ月 | 小・中規模マンションや事務所、集合住宅など |
| 4〜5階建て | 約5〜6ヶ月 | 中層マンションやオフィスビルなど |
| 6階以上 | 約7ヶ月〜 | 高層ビル・大型施設など |
工事中に雨天が続いたり低温が続いたりすると、コンクリートの硬化が遅れて、工期が1〜2ヶ月程度延びるケースもあります。
躯体工事は工期が延びやすい?
躯体工事は、天候や人員、資材といった要素に大きく左右されます。
RC造(鉄筋コンクリート造)では、雨天や低温が続くとコンクリートの打設を延期せざるを得ず、工期の遅れが発生しやすいです。
また、現場の人手不足や職種間での作業調整がうまくいかない場合も、次の工程に進めず待機期間が生じます。型枠や鉄筋といった主要資材の搬入遅延や在庫不足も、全体工程を圧迫する要因です。
さらに、RC造では階ごとに順次施工を進めるため、全体の工期が積み上がる構造的な特徴があります。
このため、プレキャスト工法やタワークレーンを活用した同時施工を採用していない場合は、工期が1ヶ月単位で延びるケースもあります。
計画段階で気象リスクや資材調達、施工の体制を考慮し、現実的な工程表を策定することが重要です。
工期を短縮するコツ
工期を短縮するには、工法の工夫と事前準備の徹底が欠かせません。代表的な方法が、工場であらかじめ部材を製作し、現場で組み立てる「プレキャスト工法」です。
この工法では現場での型枠組立やコンクリート打設を減らせるため、作業の効率化と品質の安定が期待できます。
また、繰り返し使用できる「システム型枠」を導入すれば、型枠の組立・解体の時間を短縮できるうえ、廃材削減にもつながります。さらに、作業チーム間の重複を防ぎ、工程ごとの情報共有を徹底することも効果的です。
工法や管理体制を早期に検討することで、現場全体の生産性を高められます。
躯体工事にかかる費用の目安
躯体工事の費用は、建物の構造や規模、施工条件によって大きく変わります。
たとえば同じ延床面積でも、W造(木造)とRC造(鉄筋コンクリート造)では必要な材料や工期、職人の人数が異なるため、総額に大きな差が生じる可能性があります。
費用の内訳は次のとおりです。
| 費用の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 材料費 | 木材・鉄筋・鉄骨・コンクリートなどの準備にかかる費用 |
| 人件費 | 職人・施工管理者などに支払う費用 |
| 機械・仮設費用 | クレーン、足場などの設置に必要な費用 |
| 管理・安全費 | 現場運営・品質管理にかかる費用 |
| 会社の経費 | 一般管理費・利益 |
また、地盤が軟弱な場合は杭打ちや地盤改良が必要となり、数十万〜数百万円の追加費用が発生することもあります。
費用を適正に把握するには、詳細な地盤調査の実施と3社以上の相見積もりが重要です。その際、一式見積もりではなく、項目別の明細付き見積書を依頼しましょう。
一式見積もりでは、材料費や人件費などの内訳が不明確になりやすく、比較が難しいです。明細付き見積書なら、どの項目にどれだけ費用がかかっているのかを把握できます。
不要な費用の削減や、適正価格の判断がしやすくなるでしょう。
まとめ
躯体工事とは、建物の骨格をつくる工程のことで、構造によって工法や費用、工期が大きく異なります。希望する予算や工期にあわせて、最適な工法を選びましょう。
躯体工事では材料費や人件費が工事費全体に占める割合が大きく、初期段階で多額の資金が必要です。そのため、資金計画の精度が全体の進行スピードや品質にも大きく影響します。
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よくある質問
躯体とはどういう意味ですか?
躯体とは、建物を支える骨格部分を指します。 以下のような構造体で構成され、建物の耐震性や耐久性を左右する重要な部分です。
- 柱
- 梁
- 床
- 壁
- 屋根
- 基礎
建築基準法でも「構造耐力上主要な部分」として定義されており、内装や外装のように装飾を行う仕上げ工事とは異なります。
一度完成すると修正が難しいため、施工時点での精度と品質管理が求められます。
詳しくは記事内「躯体工事とは建物の骨格をつくる工事」をご覧ください。
コンクリートを打設する順番は?
コンクリート打設は、鉄筋工事・型枠工事・配管と配線の設置に続いて行います。これらの作業が正確に完了していなければ、コンクリートを流し込むことができません。
打設時はポンプ車でコンクリートを流し込み、バイブレーターで締め固めながら気泡を取り除きます。
柱・梁・スラブの順に施工し、打継ぎ時間を守ることでジャンカ(充填不良)やコールドジョイント(打継ぎ不良)を防げます。
外壁は躯体に含まれますか?
外壁が、構造上の耐力を担う場合のみ、躯体に含まれます。たとえばRC造(鉄筋コンクリート造)の耐力壁は、柱や梁と一体化して地震力を支えるため、躯体に該当します。
一方、W造(木造)やS造(鉄骨造)の外壁は、覆いやデザインの役割が中心です。構造体ではないため、通常は躯体に含まれません。
