監修 橋爪 祐典
資金調達方法としての融資と投資の違いは、返済義務や経営関与の有無などです。
事業拡大や運転資金の調達を検討する際、この2つのどちらが自社に適しているか、判断が難しいケースがあります。
大枠の違いは理解していても、会計処理や審査基準、資金コスト、自社の成長フェーズにどちらを優先すべきか、判断基準を明確に持つことが重要です。
本記事では、融資と投資の基本的な違いについて、それぞれのメリット・デメリットを整理し、資金コストや経営の自由度、事業ステージに応じた「選び方」のポイントまで解説します。
目次
融資と投資の違い
融資と投資には、返済義務・経営関与などの違いがあります。項目ごとにまとめると以下のとおりです。
| 融資 | 投資 | |
|---|---|---|
| 資金 提供者 | 金融機関 (銀行・信用金庫・日本政策金融公庫など) | ・ベンチャーキャピタル ・個人投資家 ・投資ファンドなどの株主 |
| 資金提供 目的 | 利息収入の確保 | ・株式の価値上昇後の売却 (キャピタルゲイン) ・企業からの配当金による継続的な収益 ・経営参画による事業価値向上 ・株主優待制度による特典 |
| 返済義務 | 原則あり | 原則なし |
| 会計処理 | 負債 | 純資産 |
| 経営関与 | 原則なし | 介入がある場合がある |
| 審査基準 | 返済能力 | 企業の将来性 |
両者の違いを把握して、自社に合う資金調達方法を選ぶことが大切です。
資金提供者
融資の資金提供者は、銀行・信用金庫・政策金融公庫などの金融機関、投資の資金提供者は、ベンチャーキャピタル・個人投資家・投資ファンドなどの株主です。
銀行・信用金庫・政策金融公庫などの金融機関は、申込条件・審査基準をもとに、事業の将来性や返済能力を確認して資金を貸し付けます。
投資の資金提供者であるベンチャーキャピタルは、主に創業期や成長初期のスタートアップ企業に出資する組織です。また、投資ファンドは、複数の投資家から集めた資金をさまざまな企業に投資する組織を指します。
資金提供目的
融資における資金提供の目的は、金融機関の「利息収入の確保」です。
取引先企業が大きく成長しても、金融機関が得るリターンは所定の額より増えません。
一方、投資における資金提供の目的はさまざまで、主に以下のようなものがあります。
- 株式の価値上昇後の売却(キャピタルゲイン)
- 企業からの配当金による継続的な収益
- 経営参画による事業価値向上
- 株主優待制度による特典
投資方針によって重視する目的は異なり、長期保有による安定的な配当収入を求める投資家もいれば、短期的な株価上昇を狙う投資家もいます。
返済義務
融資には返済義務があり、契約で定められた元本や利息の返済が必要です。
事業が思うように成長しない場合でも、期日どおりに返済する義務があるため、資金繰りや経営の安定性が重要です。
一方、投資によって得た資金には原則として返済義務がありません。
投資家は資金を提供する代わりに株式を取得し、企業が成長して株価が上昇した際に、株式を売却することでリターンを得ます。
会計処理
融資と投資では、財務上の会計処理の方法が異なります。
| 資金調達方法 | 会計処理 |
|---|---|
| 融資 | 負債の部(貸借対照表) |
| 投資 | 純資産の部(貸借対照表) |
融資で調達した資金は貸借対照表上「負債」として計上されるため、負債比率が上昇し、財務健全性の評価に影響する可能性があります。
投資は「純資産」として計上されるので、自己資本比率が高まり、信用力強化につながります。
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経営関与
融資の場合、金融機関は原則として会社経営の意思決定に干渉しないため、期日を守って返済をしていれば、基本的には経営の自由度を保てます。
投資の場合、株主が企業価値最大化の観点から経営に関与することがあります。たとえば、取締役の派遣や重要事項の決議、経営方針へのアドバイスなどが行われます。
審査基準
融資の審査で金融機関が重視する主な項目は、過去の実績に基づく「返済能力」です。決算書などの財務諸表をもとに、事業が安定的に返済原資を生み出せるかを評価します。
投資にあたって投資家が重視するのは、企業の「成長可能性」です。事業計画書などを通して市場規模・競合優位性・経営能力などを評価します。
融資のメリット
融資の主なメリットは以下のとおりです。
融資の主なメリット
- 経営の自由度を保てる
- 低金利で大口の資金を調達しやすい/li>
- 個人事業主でも融資を受けられる
融資の資金提供者である金融機関は、基本的に経営への口出しをしません。そのため、会社の経営権や意思決定権を手放すことなく、必要な資金を調達できます。
また、一般的に、投資に比べて大口の資金調達がしやすい点もメリットのひとつです。
金融機関は企業の信用力や、提供される担保・保証人によって貸し倒れのリスクを判断します。リスクが低いと判断されれば、金利は優遇されやすく、結果として数千万円以上の大口融資も可能になります。
さらに、契約時に金利が決まっていて将来のコストを予測しやすい点や、個人事業主でも融資を受けられる点も、融資のメリットと言えるでしょう。
融資のデメリット
融資の主なデメリット
- 返済義務がある
- 担保・保証人が求められる場合がある
- 審査の準備に手間がかかる
- 審査が厳しく融資が受けられない可能性がある
融資で調達した資金は、業績に関わらず元本と利息を返済する必要があり、想定外の売上減少で資金繰りが厳しくなっても返済は免除されません。
また、融資を受ける際に、連帯保証人や、自宅・資産などの担保を求められることもあります。
さらに、審査の準備に手間がかかる点や、審査に落ちて融資が受けられない可能性がある点も、デメリットと言えるでしょう。
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投資のメリット
投資の主なメリットは以下のとおりです。
投資の主なメリット
- 原則として返済義務がない
- 経営に関する助言を受けられることがある
投資で得た資金は、返済義務がありません。仮に事業が予定どおりに成長しなくても、返済のプレッシャーに追われる心配がありません。
また、さらに、出資者から経営に関するアドバイスを受けられることもあります。経営者や事業家としての実績をもつ出資者から助言を得られる点は、とても価値のあるメリットと言えます。
投資のデメリット
投資の主なデメリット
- 経営に関与されることがある
- 株価が低いなどの場合、十分な資金を調達できないことがある
- 配当金や株主優待などにコストがかかる
投資を受けると、株式の発行により既存株主の持株比率が低下し、経営権が希薄化する可能性があります。
投資家が経営に関与することで経営の自由度が下がったり、投資家からの成長への強い期待がプレッシャーになったりする場合もあるでしょう。
また、事業の評価や市場動向によっては、株価が低いと判断され、必ずしも十分な資金を調達できるとは限らない点にも注意が必要です。
さらに、投資を受けることで、将来にわたって配当金や株主優待の支払いといった継続的なコストが発生する可能性もあります。
投資は会社の将来像や経営方針に大きな影響を与えるケースがあることを理解しておきましょう。
融資と投資で悩んだときのポイント
融資と投資どちらにするか悩んだときは以下のポイントを参考にしましょう。
融資と投資で悩んだときのポイント
自社に合った判断基準を定め、適切に選択してください。
資金コストで選ぶ
融資は金利が事前に決まっているため、コスト管理がしやすいですが、投資は調達した資金に対する返済義務がありません。
ただし利益が出た際は、利益の一部を株主と分け合うことになります。
会社が大きく成長した際にかかるコストは、融資の金利を上回る可能性があります。
経営の自由度で選ぶ
独自の戦略やスピード重視の意思決定を優先したいなら、融資を検討しましょう。
融資は返済義務を守る限り、金融機関が経営に介入することは基本的にありません。
運転資金や設備投資のためのお金だけが必要で、独自の戦略やスピード重視の意思決定を優先したい場合、融資がおすすめです。
一方、経営への関与を許容でき、投資家からの助言を得たいという場合は、投資を検討しましょう。
投資の場合、投資家が経営に関与することで、投資家の知見やネットワークを活用できる可能性があります。
資金用途で選ぶ
資金繰りの観点から、収益が安定しているなら融資、成長フェーズや不確実性が高いなら投資と、自社の現状に合った方法を選びましょう。
毎月の売上や利益が安定しており、将来の入金を高い精度で予測できるなら、融資で資金調達するのが効果的です。
また、短期的な運転資金や、確実に売上増加やコスト削減につながる設備投資など、リターンが計算しやすい用途にも融資が適しています。
一方、まだ売上が発生しない研究開発段階や、プロダクトが市場に受け入れられるか不透明な事業では、返済義務のない投資を検討するとよいでしょう。
成功するかどうか不確実な新規事業の開発や、大規模なマーケティングキャンペーンといった成長投資にも投資が向いています。
回収期間で選ぶ
短期で資金を回収できる際は、融資による資金調達が合理的です。
導入から早く収益が見込めるビジネスであれば、回収した資金で返済できます。
一方、研究開発段階の事業など、利益化まで時間がかかるプロジェクトには投資がよいでしょう。
こういった状況で融資を選ぶと、利益が出る前に返済しなければならなくなり、滞納のリスクが高まります。
計画に応じて、返済開始までの猶予や柔軟な回収スケジュールを意識して選びましょう。
避けたいリスクで選ぶ
事業が失敗した際に、経営者個人としてどの程度のリスクを許容できるかで判断します。
融資を受ける際、創業初期は経営者個人の連帯保証や担保(自宅など)を求められることが一般的です。この場合、万が一倒産すると、経営者個人の資産を失うリスクを負うことになります。
一方、投資は原則として個人保証を求められません。
そのため、事業が失敗しても経営者個人の破産を回避しやすいため、個人の資産的リスクを抑えたい場合には合理的な選択肢となります。
事業ステージにあわせて使い分ける
事業の成長段階に応じて使い分けるのも効果的です。
たとえば創業初期は、個人で応援してくれるエンジェル投資家から比較的小規模な資金を受けつつ、必要に応じて公的融資を利用します。
事業が成長して売上が出てきたら、投資専門会社であるベンチャーキャピタル(VC)から、より大きな資金を受けるのもよいでしょう。
安定期に入ったら、信用力もあるため、銀行から低金利の直接融資を受けることができるようになるでしょう。
融資や投資を受ける流れ
融資や投資を受ける際は、手続きや必要書類が異なります。
どちらの場合も、準備不足が資金調達の遅れにつながりやすいため、事前に必要事項を洗い出し、計画的に進めることが大切です。
融資を受ける流れ
融資を受ける際の基本的な流れは「申し込み・審査・契約」の3ステップです。
まず事業計画書・資金繰り表など、申し込みに必要な書類を準備します。
申し込み後は、担当者との面談で事業内容や資金の使いみち、返済計画に関するヒアリングが行われます。
審査に通過したら、金銭消費貸借契約書を締結しましょう。その後、指定口座に資金が着金します。
申し込みから着金までの目安期間は、日本政策金融公庫の融資で2週間〜1ヶ月、信用保証協会付き融資で1〜2ヶ月程度です。
投資を受ける際の流れ
投資を受ける流れは、まず事業に関心をもつ投資家を見つけることから始まります。
場合によっては投資家と面談をします。面談では自社の強みや成長戦略をまとめた資料(ピッチ)などを用いて事業の魅力を伝えます。
投資家が前向きであれば、会社の財務状況や法務面などをチェックする「デューデリジェンス」という調査が行われ、リスクや今後の成長性が確認されます。
問題がなければ、出資金額や条件をまとめた書類「タームシート」で合意し、契約後に資金を受け取るという流れです。
投資家を探しはじめてから投資を受けるまでの目安期間は1〜3ヶ月ですが、場合によってはそれ以上かかります。
まとめ
融資と投資の違いは、返済義務の有無、資金提供者の目的、経営関与の有無などです。
融資は金融機関から借りた資金を利息とともに返済する仕組みで、資金提供者は利息収入を目的とし、基本的に経営に関与しません。
一方、投資は返済義務のない自己資本として資金を調達し、投資家は株式価値の向上や配当を目的として積極的に経営に関与することがあります。
融資と投資の違いを理解し、企業の成長段階や資金用途に応じて適切に使い分けることが大切です。
事業をはじめたばかりで、どの資金調達方法を選べばよいかわからないという方は、「freee創業融資サポート」を活用しましょう。
よくある質問
融資は返す必要がありますか?
融資では基本的に返済義務が生じます。
計画どおりに利益を増やせなくても返済しなければならない点を理解しておきましょう。
詳しくは記事内の「返済義務」をご覧ください。
融資と投資はどちらのほうがいい?
融資と投資のどちらがよいかは、経営者の考え方や事業ステージなどによって異なります。
自社にとって大事なポイントを明確にしたうえで、選ぶことが大切です。
詳しくは記事内の「融資と投資の選び方」をご覧ください。
監修 橋爪 祐典(はしづめ ゆうすけ)
2018年から現在まで、税理士として税理士法人で活動。中小企業やフリーランスなどの個人事業主を対象とした所得税、法人税、会計業務を得意とし、相続業務や株価評価、財務デューデリジェンスなども経験している。税務記事の執筆や監修なども多数経験している。
