挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)とは、日本政策金融公庫が提供する特例制度の1つです。
無担保・無保証人で受けられる公的融資で、返済期間5年1ヶ月以上20年以内、返済期間の返済は元本分は不要(期限一括返済)というメリットの大きい特例です。
本記事では、挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)を受ける条件やメリット・デメリットについて解説します。
目次
挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)とは?
挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)とは、スタートアップや新事業展開・海外展開・事業再生等に取り組む企業の財務体質強化や、ベンチャーキャピタル・民間金融機関などからの資金調達の円滑化を図るために資本性資金を供給する制度です。
挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)の主な特徴としては以下が挙げられます。
挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)の主な特徴
- 無担保・無保証人での融資が可能
- 借入金でありながら、金融機関の査定上は自己資本とみなされる
- 返済期間が長期(5年1ヶ月〜20年)
挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)を利用すれば、自己資本比率を下げることなく資金調達ができるため、追加融資において問題視されづらいという利点があります。
ただし、これは金融検査上の取り扱いの話であって、会計上の分類はあくまで「借入金」となることに注意が必要です。
出典:日本金融公庫「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」
挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)の対象となる条件
挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)は、日本政策金融公庫にある「国民生活事業」と「中小企業事業」両方の事業部で利用できます。
国民生活事業は、ベンチャー企業や創業後間もない企業などの小規模企業、個人企業へ向けた小口資金融資が中心となり、中小企業事業は、新規事業や企業再建に取り組む比較的規模の大きい中堅企業が中心となっています。
ここからは、一般的な創業者の創業資金を対象としている「国民生活事業」での資本性ローンについて解説します。
次の1および2を満たす法人または個人企業
1.融資制度:次の(1)〜(6)までのいずれかの融資制度の対象となる者
(1)新規開業資金*1
(2)新事業活動促進資金
(3)海外展開・事業再編資金*2
(4)事業承継・集約・活性化支援資金*3
(5)企業再建資金
(6)ソーシャルビジネス支援資金
2.その他条件:次のすべての要件も満たす者
(1)地域経済活性化にかかる事業を行うこと
(2)税務申告を1期以上行っている場合、原則として所得税等を完納していること
*1 次のいずれかに限る
・技術・ノウハウ等に新規性がみられる者
・日本ベンチャーキャピタル協会の会員(賛助会員を除く)等または中小企業基盤整備機構もしくは産業革新投資機構が出資する投資事業有限責任組合から出資を受けている者(見込まれる者を含む)
・新規性および成長性がみられる事業を行う者
*2 海外直接投資(転貸資金を除く)を行う者に限る
*3 中小企業経営承継円滑化法第12条第1項第1号の規定に基づき認定を受けた中小企業者(同項第1号イに該当する者に限る)の代表者および同法第12条第1項3号の規定に基づき認定を受けた事業を営んでいない個人並びに安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う者が事業を承継・集約される者に対して行う転貸資金を除く
出典:日本金融公庫「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」
資金の使い道は、「該当する融資制度に定める設備資金および運転資金」となります。
一見、公庫における融資の大半が該当するように見えますが、注意書きにある条件はかなり限定的です。「技術・ノウハウ等の新規性」、事業の「新規性」「成長性」が認められる必要がありますので、事前に十分対策をとって申し込みをするのがいいでしょう。
自分で自信がなければ専門家の手を借りるのもひとつの手です。
融資金額・返済期間・返済方法・利率
融資限度額は7,200万円(別枠)、返済期間は5年1ヶ月以上20年以内です。
資本とみなせるよう、5年1ヶ月以上の長期となっています。返済方法は期限一括返済のみで(利息は毎月払)、期限前の一括返済はできません。この点も資本性ローンの特徴のひとつです。
また、この制度ならではの特徴としては金利が業績によって変動します。業績が低調なときは、金利負担が小さい設定となっているため、安定的な返済計画を立てることができます。*1
具体的には以下のとおりです。
| 税引後 当期純利益額 | 返済期間 | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| 5年1ヶ月 | 5年1ヶ月超 7年以内 | 7年超 10年以内 | 10年超 15年以内 | 15年超 20年以内 | |
| 0円以上 | 3.60% | 3.90% | 4.15% | 4.40% | 4.65% |
| 0円未満 | 0.50% | 0.50% | 0.50% | 0.50% | 0.50% |
なお、次のすべてに該当する場合は、融資後3年間の利率は0.50%となります。
- 民間金融機関からの支援を受けて事業計画書を策定されていること
- 事業計画上必要となる資金から自己資金による調達額を控除した額のうち、事業計画書の策定支援を実施した民間金融機関による融資額が、原則として2分の1超となっていること
- 融資後3年間、民間金融機関に対して事業計画書の進捗状況を報告するとともに、民間金融機関からの経営指導を受けられること
詳しくは支店に問い合わせてみましょう。
融資条件
事業が返済期間内に軌道に乗り、返済が可能と判断されることが条件ですが、それ以外に制度固有の条件があります。
事業計画書の提出
審査時に事業計画書(挑戦支援資本強化特例制度用)の提出が必要です。公庫のホームページからダウンロードが可能です。記入例も用意されています。
なお、この事業計画書には10年にわたる長期の経営計画(事業収支)を記載する必要があります。
【関連記事】
審査に通る創業計画書の書き方は? 項目別の詳細解説と記入例
経営状況を定期報告する義務
4半期ごとの経営状況の報告等を含んだ特約を締結しなければなりません。また、定期的に報告資料を公庫に提出する必要があります。
担保・保証
無担保・無保証人で利用できます。借入人が法人の場合も代表者個人保証は不要です。
まとめ
挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)は借入でありながら、返済期間が長期である点、期間中は利息のみの支払いで済む点、業績に応じた利率が適用される点から出資受け入れに近い形態といえます。
また、資本性資金でありながら株式の払い込みを受けないので、既存株主の持ち株比率は低下せず、経営についての意思決定に対する影響もありません。利用する側にはメリットが多い制度です。
一方、融資担当者からすれば長期間元金の返済を受けないだけに、通常の融資より事業の将来性をしっかり見極める必要があります。したがって、融資判断において技術・ノウハウに新規性が認められるか、事業の新規性・成長性が認められるかがより重視されます。
加えて、業績がよければほかの融資制度より利率が高くなってしまうリスク、期限前の返済ができず高い利率を払い続けなければならないリスクもあります。
事業の将来性等をしっかりと問われるハードルが高い制度である反面、スタートアップ時にまとまった資金が必要、かつ実際の資金回収に相当な時間がかかると予測されている場合には非常に有効な制度といえます。
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