愛知県に本社を構え、まもなく創業100周年を迎える株式会社山一ハガネ。特殊鋼の専門商社として、素材の供給だけでなく加工や測定も含めたワンストップ展開で、日本のモノづくりを支えています。
さらに、多品種少量生産を実現するAM(Additive
Manufacturing)事業に取り組み、自社で3Dプリンターを開発するなど、新しい時代にあったモノづくりに挑戦しています。
今回は、会計システムの保守契約切れをきっかけに、クラウドのfreee会計を導入したことで会社がどのように変化していったのかを、取締役管理本部長の小林秀雄様にお伺いしました。また、会社の変化について社長の寺西基治様、現場の部門長である営業部マネージャーの小林祐太様にもお話をいただきました。
会計システムの保守切れを機に、経理・会計をめぐる長年の課題解消を模索
特殊鋼の専門商社と伺いましたが、競合他社に対する強みは何でしょうか?
小林秀雄様(以下、小林本部長):
多種多様な材料を扱う領域の広さと、山一ハガネに頼めば1社で手配が完結するという対応力ですね。素材を提供するだけでなく、特殊鋼の切断や熱処理、加工、測定までを行い、お客様の生産性向上に貢献しています。
また、特殊鋼事業で培った技術やノウハウを発展させ、AM事業を次の事業の柱に育てることにも取り組んでいます。なかでも3Dプリンターと材料のフィラメントは自社で開発、製作するまでに至りました。こうした現場のボトムアップの挑戦を後押しする文化も、私たちの強みです。
そのためには、設備への投資も重要ですね。
小林本部長:
現社長が4代目の代表取締役に就任してから、販売在庫管理システム、鋼材自動切断システムなどを早期に導入して、品質とスピードでお客様に満足していただけるような体制を作り上げていきました。
2008年のリーマンショックでは大きな打撃を受けましたが、その後も積極的に設備投資を続け、現在は熱処理、精密加工、高度な測定までを社内で一気通貫できるファクトリーモール化を実現しています。
会計システムについてはいかがでしたか?
小林本部長: 私が十数年前に入社した頃は、総勘定元帳を手書きで作成していたくらい、アナログな環境でした。その後、オンプレミス型の会計システムを10年ほど使っていたのですが、その保守契約が切れるタイミングが訪れたのです。経理作業に時間がかかりすぎていることが課題だったため、見直しを考える絶好の機会となりました。
経理作業に時間がかかる原因は、専用の端末を4名の経理担当者が共有して使っていたからです。他の誰かが端末を使っている時は作業ができません。私も締め後に会計結果を確認する際は、端末のところまで行って、データをダウンロードして加工していました。
また、月次決算が締まるまで25日前後かかるため、各部門のリーダーには約1カ月前の数字しか伝わらないということが、より大きな課題でした。経費の総額を誰もリアルタイムでつかめない、そして支払金額が直前にならないとわからないという状態では、部門も会社も経営予測を立てることができません。
そうした中、コロナ禍で経理業務の非効率性が顕在化したこともあり、現在のビジネス環境に合う会計システムの検討に入りました。
データの可視化によって、現場のコスト意識が変わり始めた
freee会計を導入する決め手は何でしたか?
小林本部長:
大きく3つの理由がありました。1つ目はクラウドシステムであることです。今までと違い、複数人で同時に業務を進められるようになりました。
2つ目は、経費精算を会計システム内で一元化できることです。以前は申請者が原本を経理に提出して、経理担当者がExcelに手入力して処理していたため、申請、承認、仕訳・出金と手間がかかっていました。freee会計なら、時間も場所も選ばずに申請が可能ですし、自動で分類して、支払状況までわかります。この経費精算に時間を取られなくなれば、経理の業務負担をかなり軽減できると考えました。
どちらも経理作業の効率化につながりますね。
小林本部長: そうですね、効率化とともにミスの防止にもつながっています。仕訳の確認、間違いの修正を容易に行えるようになり、作業工数を減らすことができました。
そして、freee会計を選んだ3つ目の理由ですが、期中から発生主義で会計処理を実現できることです。
以前の会計システムでは、売掛金や未払金などの債権・債務をExcelで別途管理する必要がありました。一つひとつ未払金を計上して、それを消し込んでいく作業が追いつかず、期中はすべて現金主義で処理し、期末にまとめて発生主義に戻すということを長年続けてきました。
その結果、毎月行っているリーダー会議では、正確な損益がわからないままでの報告となり、各部門のリアルタイムな業績と課題の把握が難しい状態でした。
freee会計を導入すると、債権・債務の管理から消込までをシステム内で、しかもタイムラグなく完結できるため、期中から発生主義での会計処理が実現できます。月次決算のスピードと精度を高められることは、導入の大きな決め手になりました。
freee会計の導入以前、各部門の方々は会計の数字をあまり意識していなかったのでしょうか?
小林本部長: リーダー会議では、会社全体の数字や部門別の進捗を共有しています。当然、売上と粗利の目標は意識していますが、経費までは把握できていませんでした。月次の数字も経理が加工した後のデータを見るため、数字の内訳を掘り下げたり、異なる角度から分析したりといったことがなく、議論が深まりません。どのような経費がどれくらいかかっているかわからない状態だったので、コスト意識の高めようがありませんでした。
freee会計を導入したことで、どのような変化が生まれましたか?
小林本部長: まず、余裕をもって資金繰りの準備ができるようになりました。支払方法は手形や電債などがあるため、すべてを自動化できたわけではありませんが、おおよその支払金額を把握できるようになったメリットは大きいですね。今後、手形や電債の登録もfreee会計内で完結できるようになれば、と期待しています。
各部門や現場の意識に変化は生まれていますか?
小林本部長: 月次決算を発生主義に移行したことで、リーダー会議で正確な損益に基づいた議論ができるようになりました。部門長にはfreee会計の権限を付与して、自部門の会計データを直接確認できるようにしています。これによって、消耗品や工具、交通費、交際費といった「コントロール可能な経費」に対するコスト意識は確実に高まっています。一部のマネージャーからは、「自分たちの部署の経費を見たい」という問い合わせが入るなど、会計データに対する共通認識が生まれてきました。粗利を確保するだけにとどまらず、部門の収支が可視化されたことで、事業に対して責任をもつリーダーが育っていくことを期待したいですね。
営業部門のゼネラルマネージャーである小林祐太様にお伺いします。freee会計で会計データを確認できるようになって、現場に変化は生まれていますか?
小林祐太様:
販管費や間接経費を含む営業利益をマンスリーで把握できるようになりました。以前は経理に都度依頼が必要でしたが、今は現場が好きなタイミングで確認できます。交際費、交通費、展示会費などの実態を見て、予算編成時に営業利益を算定できるようになっています。
部門長として、以前から「脱・どんぶり勘定」を果たしたいと思っていました。freee会計の導入によって、判断指標を手に入れたことは大きいですね。部門に権限を渡し、自律的な体制づくりを後押ししてくれるのが、弊社の強みだと感じます。会議や指示で「コスト削減」を伝えるよりも、リアルなデータを直接見ることが、我々現場のコスト意識を変えるのに一番効果的だと思います。
現在、社内のfreee会計の活用状況はいかがですか?
小林本部長: freee会計の支払依頼や経費精算機能などのおかげで、経理に関する作業効率は格段にアップしました。また、利益に対する意識が現場で生まれつつあるとともに、経営層も経理部門の手を借りずに、会社全体の月次決算状況をリアルタイムで確認できるようになり、数字に対する社内の共通認識が高まりました。
寺西社長にもお伺いします。freee会計の導入を決めた経緯についてお聞かせください。
寺西社長: 導入は私の発案ではなく、小林本部長から提案をもらって決めました。freee会計をはじめDXはあくまでツールであり、得られるデータを生かすかどうかは使い手次第。事業の仕組みやプロセスと、その中で各自が果たす役割を明確に理解する組織になって初めて、作業効率化やデータの活用が可能になると考えています。
貴社では現場からの提案を積極的に採用されているとのことですが、 その背景にある経営哲学をお聞かせください。
寺西社長: 私は各セクションに対して、マイクロマネジメントを一切行っていません。さらに、社員から「これがやりたい!」という提案があれば積極的に取り入れます。かつては市場の成長とともに、基幹事業の売上が右肩上がりの時期がありましたが、現在は違います。基幹事業の収益を改善しつつ、新たな事業に次々と挑戦することが、我々の生存戦略。この共通認識と、各自の行動を後押しする環境が、3DプリンターをはじめとするAM事業のような新しいビジネスにつながっています。
さらなるシステム連携とデータ活用で次の100年へ
今後さらにシステムの整備や連携を進めるとうかがいました。
小林本部長:
現在、売上と仕入は基幹システム側で管理しており、freee会計との連携はCSVデータをアップロードする形をとっています。基幹システムを刷新することでこの手間を削減し、よりスムーズなデータ共有を実現できればと考えています。
また、将来的にはBIツールなども活用して、さらに踏み込んだデータ分析と活用を進めていく予定です。例えば、売上・利益を金額だけでなく「重量」から見て実態を把握したり、販売チャネル別の構成比を分析したり、ドライブレコーダーのデータを用いて配送ルートの最適化を図ったりと、データドリブンの業務改革を構想しています。
最後に、これからの展望とfreee会計への期待をお聞かせください。
小林本部長: freee会計は経理業務の効率化だけでなく、会社の経営判断や幹部育成にもつながる原動力となっています。現在の主力である卸売事業の収益性を改善しつつ、培った独自の技術をAM事業をはじめとする新規領域で活かし、新たな事業の柱を作る。会社がこの両輪で前進していくために、freee会計が弊社の挑戦を支える経営基盤として、私たちとともに進化を続けてくれることを期待しています。
掲載日:2025年12月5日
Company Profile
株式会社山一ハガネ
従業員数:211名(2025年3月)
URL:https://yamaichi-hagane.jp/
事業内容
特殊鋼及びその加工品の加工・販売、3Dプリンタによる部品や原料の製造・販売など
利用サービス
freee会計、freee人事労務

