創業80年を迎える株式会社竹屋旅館は、静岡県清水区を拠点に宿泊事業や地域活性化事業を展開する老舗企業です。2015年に4代目として事業を承継した竹内佑騎社長が、創業時から変わらず大切に受け継いでいるのが、「傍(他)の人を楽にし、楽しませる」という『他楽(ほからく)の精神』です。「お客様はもちろん、従業員や地域の方々を楽にする共存共栄こそが、私たちが働く一番の目的です」と社長は語ります。
その想いを体現すべく、近年は後継者不在の宿を次々と引き継ぎ、運営施設を1施設から5施設へ急拡大。さらに、プロスポーツチームと連携したコミュニティスペースの運営など、スポーツを通じた地域活性化事業にも全力で注力しています。「地域を元気にし、従業員の幸せに還元できる宿泊運営のプロフェッショナルになる」という志が、同社の事業成長を牽引しているのです。
しかし、拠点の急拡大は同時に、従業員同士の「距離の壁」やアナログなバックオフィス業務の限界という試練も生み出しました。「現場のスタッフには、目の前のお客様を楽しませることに100%集中してほしい」。この理念を守り抜くため、現場の運用を変える痛みを伴ってでもシフト・労務管理の「完全統合」という決断へ踏み切った、4代目社長と老舗企業の変革の軌跡に迫ります。
拠点の急拡大で生まれた距離の壁。
「DXしないと回らない」創業80年老舗企業の決断
創業80年を迎える中、ここ数年で急激に運営施設を拡大されたそうですね。その際、組織にどのような変化があったのでしょうか。
竹内佑騎様(以下、竹内社長):2022年を皮切りに、1店舗から5店舗へと急拡大しました。今まで1店舗の時は「阿吽の呼吸」で現場の状況がわかり、声をかければ伝わる顔の見える関係でした。しかし、拠点が離れたことで組織に大きな距離の壁ができ、今まで創業から大事にしてきた「他楽(ほからく)の精神」を現場に伝えることが非常に難しくなってきたのです。
多店舗展開が進みスタッフが増加する中、当時のバックオフィスはどのような状況だったのでしょうか。
管理部門責任者・竹内智美様(以下、竹内様):当時の会計や労務はダウンロード型のソフトを使っており、「特定のPC、特定の場所でしか作業ができない」という物理的な制約が非常に大きかったです。勤怠管理も昔ながらの「ガチャン」と打つタイムカードでした。月末になると各現場のリーダーが1ヶ月分のタイムカードを回収し、スタッフごとの労働時間をすべて手作業で集計していました。
集計した後の給与明細の配付なども、かなり手作業で行われていたと伺いました。
竹内様:ええ。集計した労働時間を労務ソフトに手入力し、印刷された紙の給与明細をハサミで一つひとつ切り、糊で貼って、パートスタッフたちの名前を一人ひとり手書きしていました。一拠点の時はそれらの全てを手配りして対応していましたが、運営施設とスタッフの人数が増えるにつれて、完全に物理的な限界を迎えていました。
地方にいながら、そうした最先端技術を素早くキャッチアップして投入される情熱の源泉は何でしょうか。
柏木:「旧態依然とした技術のままでは、これから先の時代を生き残れない」という強い思いがあります。都内で開催される展示会やセミナーにも年間5〜6回は足を運び、新しい技術やシステムがあればどんどん現場に取り入れてきました。
まさに「DXをしないと運営が回らない」という切迫した状況だったのですね。
竹内社長: 「DXをやろう」というよりも「そうしないと運営が回らない」という強い危機感がありました。従業員には事務作業ではなく、目の前のお客様を楽しませることに100%集中してほしい。だからこそ事務作業はできるだけ本社で巻き取る方針を決め、それを実現するために私自身がクラウドであるfreeeの導入を決断したのです。
「スマホは電話しか使わない」高齢スタッフへのDX化の壁
"自分ごと化"しやすい有休申請が突破口に
デジタル化を進めるにあたり、現場で働くスタッフの方々の反応はいかがでしたか。
竹内様: 私たちは社員が約30名なのに対し、パートスタッフが約100名と圧倒的に多い組織です。さらに、そのうちの3割が60代以上で、70代の方も20名ほど最前線でバリバリ働いてくださっています。彼らの多くは 「スマホは家族に持たされているだけ」という状態で、電話としてしか使っていないという実態がありました。
ご高齢のスタッフが多い中での新しいシステムの浸透には、苦労もあったのではないでしょうか。
ホテルクエスト清水支配人・高原様(以下、高原様): はい、現場への浸透は非常にハードルが高かったです。「給与明細がデジタルで見られますよ」と案内をメールで送っても、「最近多い詐欺メールじゃないか」と怪しまれて開いてもらえなかったり、結局見られずに紙で印刷して出すことになったりもしました。こちらがデジタルに寄せたくても、メールアドレスすら分からない方も多かったのです。
ペーパーレス化を急ぐ本社と、現場との間にはギャップがあったのですね。
竹内様: 限られた人数の本社としては一刻も早くペーパーレス化したいのですが、現場に浸透するスピード感は全く違いました。既存のやり方に慣れているものを変えるのはスタッフにとってもインパクトが大きく、導入初期はどうしてもミスも起こります。運用がきちんと回るようになるまでは、教える現場リーダーたちの精神的負荷もかなり大きかったですね。
そのような壁を、どのようにして乗り越えていったのでしょうか。
高原様: 「自分事」になる業務から進めたのが大きかったです。以前は紙で提出していた有休申請をスマホアプリへ移行した際、有休は自分が使えないと困るので、皆さん必死に操作を覚えてくれました。分からないなりに高齢スタッフも頑張ってくれたんです。画面を見ながら根気強く泥臭いフォローを続けることで、少しずつデジタルの壁を越えてくれました。
繋がらないシフトと勤怠情報。ツギハギ運用を本部が支える限界
タイムカードを廃止し、デジタル化の第一歩を踏み出した当時の運用について教えてください。
竹内様: タイムカードをやめてすぐ、他社のシフト管理ツールの打刻機能を使い始めました。当時はそのツールでシフトを作り、そこでの勤怠データをfreee人事労務へデータ連携させるという運用を試みていました。ただ、システム同士を連携させようにも、なかなか私たちが思うようにいかない部分がたくさんあったのです。
「思うようにならなかった」というのは、具体的にどのような部分でしょうか。
竹内様: 自動でスムーズにデータが繋がるわけではなかったんです。シフトツール側から勤怠データを出してfreeeへインポートする際、そのままのデータでは連携できず、勤怠へ繋ぎこむためのデータ加工がすごく大変でした。手作業での修正負荷が非常に高く、結局人間によるアナログな連携作業が残ってしまいました。
システムを導入しても、運用面での大きな壁が残ってしまったのですね。
竹内様: そうなんです。それに加えて、私たちが管理する施設によって属性が違いすぎたことも課題でした。ビジネスホテルやリゾート型などで働き方が違い、拠点ごとに元のExcelで作ったシフト表があったり、労務から言われて仕方なく入力するだけの施設があったりと、現場の運用がバラバラで連携データの加工が本当に大変でした。
そこから、今回の「freeeAIシフト」への完全統合を決断された背景を教えてください。
竹内社長:我々は「現場は目の前のお客様に集中してほしい」という方針を掲げています。そのためには、裏側のシステムがツギハギで、バックオフィスが手作業に追われているままでは限界がありました。シフト管理から勤怠、給与計算までを一つのデータで貫き、本当に本社が業務を巻き取るためには、痛みを伴っても完全統合が不可避だと判断したのです。
「課題がない」現場の運用を変えるシステム統合の決断
すべてはお客様に集中する環境のため
新しい「freeeAIシフト」への統合を進めるにあたり、現場の反応はいかがでしたか。
高原様: 旗艦店である「ホテルクエスト清水」では、すでに8割以上のスタッフがこれまでのシフトツールを使いこなし、運用が完全に定着していました。現場にとっては今のやり方で回っていて「課題がない」状態だったのです。ですから、その定着した運用を壊して新しいツールへ移行することには、非常に大きな反発と痛みが伴いました。
現場に痛みを強いてでも、AIシフトという新たなツールを導入して実現したかったことは何だったのでしょうか。
竹内社長: AIシフトというツール自体が欲しかったわけではなく、解決したい明確な課題があったからです。我々の最大の目的は「現場のスタッフが、目の前のお客様を楽しませることに100%集中できる環境」を作ることです。そのためには、各拠点でバラバラだったシフト管理や勤怠の仕組みを本社で完全に巻き取り、一元化して現場に還元する必要がありました。とはいえ、5施設を支える本社のバックオフィスも、限られた少人数で回さざるを得ない切実な事情があります。だからこそ、システム間の連携を手作業でカバーするような「ツギハギの運用」から脱却し、少人数でも全拠点を支えきれる統合されたシステムがどうしても必要だったのです。
システム統合を進めるにあたり、さまざまなツールがある中でfreeeを選んだ最大の理由は何だったのでしょうか。
竹内社長: 私たちがパートナーを選ぶ際に最も重視しているのは、今は未完成であっても「共に成長できるか」という点です。完成されたシステムをただ導入するだけでは、我々の本質的な課題は解決しません。だからこそ、我々のビジョンを共有し、一緒にシステムを作り上げ、共に進化していけるパートナーが必要でした。その姿勢を持っていたのがfreeeだったのです。
現場には痛みが伴いますが、そこまでして「共に成長する」ことにこだわるのはなぜでしょうか。
竹内社長:新しいシステムを導入すれば、当然現場にはしわ寄せがいき、不満も出ます。しかし、その出た不満やリアルな課題をfreee側にぶつけ、それを受けてシステムが改善されていく。その過程を経ることで、我々自身の業務プロセスや意識も改革され、組織として共に引き上げてもらえるからです。ただツールを使わされるのではなく、そういった本質的なパートナーシップを期待しています。
システムと共に成長した先で、組織としてどのような姿を目指しているのでしょうか。
竹内社長:宿泊事業の再生運営のプロフェッショナルになることです。そのためには、バックオフィスのガバナンスを効かせると同時に、顧客と従業員のエンゲージメントを高める必要があります。現場が目の前のお客様に集中できる環境を作り、最終的にはそれが従業員の幸せや、地域を元気にする力に還元される組織にしていきたいと考えています。

