1946年に「柴田外科医院」を開業して以来、山口県山口市で地域住民の健康を支え続けてきた医療法人社団水生会の柴田病院。介護老施設や有料老人ホーム、デイサービス、通所・訪問リハビリテーションなどを運営し、医療と介護の連携に注力する同院は今、本格的な病院DXに着手しました。「自分たちが業界の先駆者になる」。そう語るのは、商社出身という異色の経歴を持つ理事長の柴田 三大さんです。地方病院がいかにして最新の病院DXモデルを構築しようとしているのか。freee導入の経緯と「理想の六面体」という独自のビジョンについてお話を伺いました。
「うまい・はやい・安い」と「スマイル」、「局所・全体最適」で描く理想の六面体
今回、freeeへの全面切り替えを決定された動機についてお聞かせください。
柴田 三大さん(以下、柴田): freeeを導入することで病院DXの「理想の六面体」が描けたことです。「理想の六面体」とは「うまい、はやい、安い」と「にこ」つまり、円滑な業務や快適さによるスマイルです。そして、残る2面が、「局所最適」と「全体最適」の全六面です。
「うまい」は、API連携をはじめとした質の高さです。会計や人事労務を担当する事務スタッフのレベルが、システムの力で上がります。業務の標準化を進められる「うまさ」そして、セキュリティの強さをクラウドネイティブで叶える「うまさ」もあります。次に「はやい」は、日々の業務と教育、両面でのスピード化が図れると考えました。API連携で業務効率が上がり、業務標準化によって担当者変更の際の引き継ぎもスピードアップします。そして「安い」。オンプレミス型(自社運用)と比べるとクラウドサービスは安価であり、導入時の安さがあることに加え、業務標準化による教育コストなどの安さもあります。
これらのシステムの「質・安全性」「効率化」「価格」に加えて、部署間のコンフリクトを解消し、円滑な業務・快適な仕事ができるようになると「にこっ」とスマイルを引き出すことができるようになります。そして、局所的にはバックオフィス業務担当者たちのスマイル(局所最適)であり、大局的には経営者層の素早い経営意思決定を可能にするスマイルで、それによって「全体最適」を実現できると考えました。それが六面体すべてにおいて課題があり、その解決のためにfreeeを選んだ理由です。
どのようにDX化を進めていかれる予定でしょうか。
柴田: クラウドネイティブの電子カルテと介護請求システムを導入し、支出管理のfreeeのデータを手入力なしで連携させる仕組みを考えています。収入と支出の情報を繋げることで情報を一元管理できるので、経営指標や財務計画、AIを活用した行動計画の策定までを素早く行う狙いです。
freeeに決めた理由として、機能面でよかった点はありますか?
柴田: やはりデータの扱いやすさです。これまでのソフトに致命的な不備があったわけではないのですが、freee会計にするほうが業務改善における客観的優位性が大きいと判断しました。
今回の導入は『freee会計』単体ではなく、全体最適の観点から「シングルソース」で情報を管理するために、人事労務も同時にfreeeへ切り替える決断をしました。これから本格導入し、今期の決算までは現行システムと同時に走らせますが、来期からは人事労務・会計のすべてをfreeeに切り替える予定です。このタイミングで、freeeが医療法人会計にも対応予定と伺ったことも、決め手になりました。複数施設を持つ医療法人の複雑な会計に寄り添い、DX全体の基盤となってくれる点は非常に心強いです。
ルービックキューブで見据える「全体最適」
ところで「六面体」という考え方は、どこから導かれたのですか?
柴田: 私が好きなルービックキューブからです。ルービックキューブは正面から見える三面は綺麗に揃っていても、裏側が揃っていないことがよくあります。経営において、すべてのピースを揃えるのは難しいですが、今回のシステム導入に関しては、どこから見ても綺麗に揃った「六面体」のビジョンがイメージできました。
局所的な虫の目と大局的な鳥の目、そして時代の流れを読む魚の目をルービックキューブに投影し、部分最適に陥りがちな医療システムの現状を打破して、freeeによる全体最適を目指します。
現場の使い勝手と経営判断のバランスや切替えを検討している医療法人へのアドバイスなどはありませんか?
柴田: 当院は、紙からの電子カルテへの移行だったので、 紙から電子カルテへの移行時は、業務効率化の見込みがわかりやすく現場にも受け入れられやすかったのですが、オンプレミス型からクラウド型への移行となると、長年使い慣れたシステムの方が現場のストレスは少ないかもしれません。しかし、経営指標を出すためのデータ突合に膨大な手作業が発生します。組織全体で見ると、管理部門のコストやスピード感の改善が必要です。
最終的な意思決定は、「全体最適を叶えるためには、オンプレミスのまま進むべきか、クラウドネイティブ型に切り替えるべきなのか」それぞれの医療法人さんの経営判断によるものと思いますが、ルービックキューブの6面体のような多面的な着眼で検討されると納得感も高まるかと思います。
クラウドサービスの「型」に合わせる合理性。前例がないなら、自分たちが業界の先駆者になればいい
あえてクラウドサービスの「あらかじめ決まっている型」に合わせるという決断をされたのはなぜですか?
柴田: かつては自分たちに合わせてカスタマイズするオンプレミス型システムでしか叶わなかったことが、今はクラウドサービスで十分に実現できます。また、アップデートにより日々機能が進化するという、将来的な価値まで享受できるのもクラウドサービスのよさだと思います。
導入にあたり、参考にしたケースはありましたか?
柴田: 私はもともと商社出身ということもあり、医療業界が他業界に比べてDXが非常に遅れていることを強く感じています。入念にリサーチしましたが、そのまま真似できるような理想のモデルは存在しませんでした。ならば「自分たちが先駆者になろう」と決めました。
実は例外的に、自らシステム会社を作り、クラウド型電子カルテとfreeeとを連携させる自社ソフトまで作ってしまうという、もはや異次元とも言える先進的な病院はありました。ただ、そこまでやるのは私たちにはハードルが高いので、世の中に流通しているサービスを使って、データを繋げられるシステム環境を作ろうと考えました。
トップダウンで「一石を投じる」。現場との対話で探る「最善の次策(中間の理想)」
導入におけるトップと現場とのコミュニケーションについて教えてください。
柴田: まずはトップが「一石を投じる」ことからです。導入の方向性を提示し、未来のために必要だと提案します。一石を投じれば必ず「時期尚早ではないか」「今までのやり方のままで良いのでは」といった波紋が起きます。そうした現場の声を尊重しつつ、最終的には「価格」「将来性」「安全性」の軸でトップとして決断を下します。このトップダウンとフォローアップのバランス感覚が重要だと考えています。
その際、「最善の次策(中間の理想)」という考え方をします。本当は15が理想でも、現場が許容できるのが8なら、間を取って10で着地させる。自分の理想(マキシマム)を常に主張するのではなく、現場の反応を見てアジャストする。その際、第3の策(最低限)ではなく第2の策、中間の理想で進められれば最高です。「とにかく進む」ことが大事です。進むことで次の景色が見えてくるはずです。
「超高速CAPD」で医療介護業界のモデルとなる
DX化によって特に解決したい経営課題としてはどのようなものがありますか?
柴田: 経営については、正直なところ「診療報酬改定」に期待せざるを得ない面があります。病院経営は一般企業と違い、病床数(数)と診療報酬(単価)に制限があり、人員配置基準(コストの下限)も定められています。
今後も厚生労働省による「質の高い医療を行うための基準」を遵守しつつ、一方でバックオフィスなどのコストを削減してもよい部分では徹底的に削減努力します。一方で、有料老人ホームなど価格設定に自由度がある部分や、訪問診療、外来などの「数の制限がない機能」を強化して収益を上げ、投資に回していきたいと考えています。
そのためにも実態を解像度高く把握し、先を見据えて動く指針となる「一元化されたダッシュボード」が必要になるのですね。
柴田: まさにその通りです。売上の数字だけでなく、「なぜその数字になったのか」というKPI(患者数など)と会計数字が同時に、かつ早く出る環境を叶えたい。それを実現できるのが、freeeとクラウド型電子カルテの連携システムです。
今回、freeeが医療法人会計に対応することも、重要なポイントだったのでしょうか?
柴田: そうですね。現在私達は、病院のほかに複数の介護施設などを運営しています。freeeに各施設を「部門」として登録すれば、仕訳を入力するだけで自動的に紐付けられ、法人全体の数字と施設ごとの数字を瞬時に切り替えて確認できます。全体を俯瞰しつつ、気になったらすぐに詳細まで掘り下げられるこのダッシュボードは、舵取りの難しい医療法人経営の羅針盤になると思います。羅針盤なき航海による後悔だけはしたくないですね…。
最後に、freeeを使って叶えたいビジョンを教えてください。
柴田: デモは人事担当者や経営管理部長にしっかり触ってもらいました。今は「やるしかない」と覚悟が決まっているようです。これまでの慣れたシステムから変わる不安はあると思いますが、使っていくうちに馴染んでいくはずです。
本格導入後は、超高速PDCAサイクルーー会計という経営のエンドポイントを司るfreeeを中心に据えると「超高速CAPDサイクル」の実現を目指します。freeeさんには、これを叶えるための支援をお願いしたいです。現場にとって有益なアイデアをこちらからも提案し、一緒に歩んでいければうれしいです。さらには、当院のこの取り組みが、厳しい医療介護業界全体のモデルになればと考えています。
