北海道の豊かな食文化や社会インフラを、陰ながら支え続けてきた冷凍冷蔵設備業界。しかしその裏側では、24時間365日の緊急対応や不透明な休日体系が当たり前とされ、現場の技術者たちにとって厳しい構造が長く続いていた。
札幌中野冷機株式会社の仲宏和氏は、自らも現場を知り尽くしているからこそ、その「業界の常識」に危機感を抱いていた。2020年、労働時間規制の強化を見据えて当番制を廃止。変形労働時間制に基づくシフト制へと全面刷新を断行。さらに、人員拡大に伴って限界を迎えていたExcelによる管理からfreee人事労務をはじめとするクラウド基盤の構築へ踏み切った。
バックオフィス工数を約70%削減した同社が今目指しているのは、技術だけでなく提案力や交渉力をも正しく評価する「自ら学ぶ組織」への挑戦だ。仕組みで社員を守り、未来を切り拓く札幌中野冷機の今を伺った。
24時間対応の重圧と、見えない休日。
冷凍・冷蔵機器を扱う冷凍冷蔵設備という領域において、現場ではどのような労働環境が当たり前になっていたのでしょうか。
仲 宏和様(以下、仲): 冷熱設備業界は、一般的な電気や空調の専門領域の狭間に位置するニッチな分野です。現場では何かあれば夜間でも出動する「24時間対応」が業界の基準とされ、当番制という名のもとで昼夜を問わず現場に駆けつけるのが当たり前でした。
その「当番制」という運用によって、働く社員の方々には具体的にどのような弊害が生じていたのでしょうか。
仲: 当番制といっても「いつ休んでいいのか分からない」状態でした。一応は土日休みということになっていても、工事やトラブルが入れば出社になる。明確な休日がシフト上に明記されないため、現場の人間は常に休みの見通しが立たず、精神的にも休まらない環境が続いていました。
仲様ご自身も、社長に就任される前は現場でその過酷さを直接体験されていたのでしょうか。
仲: はい、私自身も14年ほど前に入社し、最初の7年くらいは当番制の渦中にいました。当時は全社平均すると残業時間が月80時間を超えるような勤務状態でした。休日が不透明なため、下手したら休みなしでずっと働き続けている社員もいたほどです。
労働時間の規制強化を見据え、仲様はどのようなタイミングと内容で改革を決断されたのでしょうか。
仲: 社長に就任する前の2020年頃、将来的に労働時間の時間外規制が厳しくなることが見えていました。そこで真っ先に当番制を廃止し、1ヶ月単位の変形労働時間制を用いた「シフト制」へと全面的に切り替える体制づくりを進めました。
当番制からシフト制へと変えることで、現場の働き方にはどのような変化が生まれたのでしょうか。
仲: 「この日は夜当番で出て、この日は休んでいい」とシフト上で休日を明確に指定するようにしました。金土日に夜間当番が入った場合は、前後の木曜や月曜を必ず休みにする。働く時間を会社としてコントロールし、社員が計画的に休める体制を整えました。
15人を超えたタイミングで限界を迎えたExcel管理
人員が増えて15名を超えた頃、それまで運用されていた勤怠・シフト管理にはどのような限界が訪れていたのでしょうか。
仲: それまでは私が自作したExcelで管理していました。VBAの手前に近いような、リンクを貼り巡らせた複雑なシートだったのですが、人員が15名を超えたあたりから一人ひとりの管理を手作業で直さなければならず、到底追いつかなくなってしまいました。
給与計算や締め日直前の集計作業においては、具体的にどのようなプレッシャーや恐怖があったのでしょうか。
仲: 当社は15日締め・25日払いなのですが、母が毎月手作業で時間を集計して給与計算を行っていました。一度も間に合わなかったことはなかったのですが、25日が日曜日だったり、秋の連休などの祝日が重なると支払日が繰り上がるため、10日間しかない猶予の中で締め作業を行うのは本当にギリギリの作業でした。
そうした限界を感じる中で、ITツールの導入検討はどのようにスタートされたのでしょうか。
仲: とにかくシフト管理と労働時間の集計だけでも自動化したいと考え、シフト管理機能を持つシステムを探し始めました。私自身が展示会に何度も足を運び、様々なツールを比較検討する中で、当社の複雑なシフト形態に対応できるfreeeを見つけました。
freeeを導入し、労務や給与計算まで連携させたことで、バックオフィスにはどのような変化が生まれたのでしょうか。
仲: 勤怠データから給与明細の発行まで一気通貫で連動できるようになり、毎月の作業時間は大幅に短縮されました。以前と比べてバックオフィス業務の工数は約70%も削減され、精神的な負担も軽減されました。
勤怠管理や給与計算だけでなく、その他の労務業務や社内管理の領域へも活用を広げられているのでしょうか。
仲: はい。現在は勤怠・給与にとどまらず、福利厚生サービスやeラーニング、電子契約、さらには社内サーベイまでfreeeの機能を順次導入しています。労務周りの基盤をfreeeで統一することで、組織を支えるバックオフィス全体の効率化を進めています。
「誰でも育つ仕組み」を求めて。未経験・一芸採用を支えるITと「freee人事労務」の土台
過酷な勤務環境を改善し、未経験者も積極的に採用していくために、採用や育成の方針はどのように変化していったのでしょうか。
仲: 以前は即戦力を求めて経験者優遇で採用していましたが、それだと応募数も限られ、人物面でマッチしないこともありました。そこで早い段階から「未経験者歓迎」へと方針を大きく切り替え、人物重視で採用して会社でしっかり育てていく体制へ変更しました。
未経験の方を採用していく中で、どのような視点や基準を大切に人物を見極められているのでしょうか。
仲: 中途採用がメインなのですが、技術の有無ではなく「何かしらの一芸や強みを持っているか」という視点を途中から取り入れました。パソコンスキルが非常に高い、あるいは交渉力が長けているなど、何かひとつ得意分野を持っている人です。
「一芸を持った未経験者」を採用することで、組織内にはどのような良い変化や相乗効果が生まれたのでしょうか。
仲: 新しく入った社員も、ただ教わるだけでなく自分の強みで先輩や会社に貢献できるため、お互いをリスペクトし合える横の繋がりが生まれました。こうした良い循環ができたことでチーム全体の対応力が上がり、会社として受けられる案件の幅も一気に広まりました。
未経験から育てる環境づくりや、現場を支える土台としてITツールの導入はどのような役割を果たしたのでしょうか。
仲: 未経験者が入ってきても迷わず動けるよう、マニュアル作成や情報共有の仕組み化を進めています。その土台としてfreeeをはじめとするクラウドサービスを活用し、管理の負荷を減らしつつ、誰もが同じ情報にアクセスして学べる環境を整えてきました。
バックオフィスの基盤が整ったことで、現場の技術者を支える組織づくりにはどのような手応えを感じていますか。
仲: 労務や給与計算などのバックオフィス業務が効率化されたことで、現場の社員や新しく入った仲間をしっかりサポートできる体制ができました。仕組みで守られている安心感があるからこそ、未経験からでも安心して成長していける組織文化が定着しつつあります。
暗黙知から評価の仕組み化へ。技術を超えた「交渉力」と「学ぶ組織」が拓く未来
これまでは「暗黙知」や現場の習慣で動いていた部分が大きかったかと思いますが、これからの組織拡大に向けて現在はどのような取り組みを進められているのでしょうか。
仲: これまでは10名ほどの規模で、現場の習慣や暗黙知に頼ってやってきました。しかし、今後の組織成長を見据えて、まさに今、評価基準や社内ルールの明確化・整備を進めています。
冷凍冷蔵設備の業界では技術力が主軸となりやすいですが、どのような新たな評価の視点を取り入れようとされているのでしょうか。
仲: 建設や設備関係の会社は技術基準を中心に評価しがちです。ですが、組織が大きくなればマネジメント能力や事務所処理能力、お客様との交渉力や提案力といった「技術以外の能力」も評価に組み込むことが不可欠だと考えています。
技術力以外の「提案力」や「交渉力」を評価対象とすることは、会社にとってなぜそれほど重要なのでしょうか。
仲: メンテナンスや現場の対応において、お客様としっかり話をして提案や調整ができる能力は会社にとって非常に大切です。そこを正しく評価して人を育てる仕組みを作らないと、組織としての総合的な強みが生まれないからです。
人材育成や組織作りの一環として、freeeのeラーニング機能なども活用されているとお聞きしました。
仲: はい。マネジメントの学びや中小企業が抱えがちな課題に対応したコンテンツが揃っており、社員教育に非常に役立つと感じて活用しています。社員が主体的に学べる環境を作る上で、強い後押しになっています。
今後はどのような組織像を目指し、何名規模の体制を描かれているのでしょうか。
仲: 将来的には30〜40名規模の体制を目指しています。ただ規模を追うのではなく、「社員自らが考え、学習する組織」を作りたい。会社として成長しながら、一人ひとりが自分の強みを発揮して活躍できる環境を整えていきたいです。



