全国有数の水インフラを支える人事労務DXと採用戦線/100年企業へ繋ぐバックオフィス

株式会社斉藤鐵工所

インタビューした相手のお名前 代表取締役 齋藤 維様、総務部 部長 梶川 俊弘様

全国有数の水インフラを支える人事労務DXと採用戦線/100年企業へ繋ぐバックオフィス

株式会社斉藤鐵工所

大阪府大阪市

課題

  • 「20日締め・翌月1日払い」という過酷なスケジュールと手作業の限界
  • 「DXで仕事や居場所が失われる」──現場スタッフが抱いていた強い不安
  • 職人技の属人化と、50代以上が半数を超える組織の高齢化

導入の決め手

  • 先代会長の年頭所感「これからはDXだ」と経営陣の強い推進力
  • 「首を切るためではない」という目的の明確化と愚直な対話
  • 信頼できるITパートナーからの推奨と拡張性

期待する効果

  • 給与計算時間が「2〜3日」から「ほぼ半日」へ劇的短縮
  • 事務スタッフが「DXを牽引・サポートする側」へと意識改革
  • バックオフィス基盤の強化による「過酷な採用戦線」の勝ち抜きと技術継承

目次

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河川、農水、港湾、そして上下水──生活の根幹をなす全国有数の水インフラを、0.04mmの精密な上下水技術で支え続けてきた株式会社斉藤鐵工所。かつて主要取引先の事業撤退という突如の苦難に見舞われながらも、幾多の試練を乗り越え、事業を拡大・安定させてきた歴史を持つ。

しかし、幾重もの技術を誇る現場の裏側には、毎月20日の締め日を過ぎると電卓を叩き、印刷した給料明細を1枚ずつ手作業で折ってのり付けする泥臭いアナログ業務が残されていた。先代会長が仕事始めの年頭所感で打ち出した「これからはDXだ」という宣言。その裏で現場の事務スタッフが抱いたのは、「自分たちの仕事や居場所が奪われるのではないか」という密かな不安と困惑だった。

50代以上が半数を占めていた組織の若返り、職人技のデジタル可視化・マニュアル化、そしてベトナム現地へ足を運んで迎えた16名の外国人人材──過酷な採用戦線を勝ち抜き、100年企業へと繋ぐために。創業家3代目のアトツギ経営陣は、現場の不安を受け止めながら、freeeを用いたバックオフィス改善へと踏み出した。

0.04mmの精密技術で「日本2位」へ。幾多の試練を越えて挑む斉藤鐵工所の改善

まず、株式会社斉藤鐵工所様がどのような事業を展開されているのか、詳しく教えていただけますか。

齋藤 維様(以下、齋藤): 弊社は河川、農水、港湾、上下水のすべてに対応する各種水門や水処理装置の販売・設計・製造から施工、引き渡しまでを自社で一貫して手がけています。祖父の時代は機械加工が中心でしたが、高度な溶接や組み立て技術を磨き上げ、官公庁案件を中心に事業を拡大してきました。

水門やゲートの分野で、貴社ならではの強みや市場での立ち位置について教えてください。

齋藤: 水門は設置場所の流体によって求められる機能が異なります。特に上下水道向けなどでは鋳物(いもの)を使う規格が定められており、この鋳物製上下水ゲートを製造できる企業は全国でも実質3社ほどしかありません。弊社はその中で全国2位のシェアを誇っています。

全国2位のシェアを支えているのは、どのような技術力なのでしょうか。

齋藤: 水を止める「止水」の圧倒的な精度です。ゴムではなく金属同士をすり合わせて止水する技術を用いており、その隙間はわずか0.04mm。このレベルの精度で水圧に耐える巨大なゲートを製造・設置できる会社は、全国を探しても片手で数えるほどしかありません。

高い技術力を誇る貴社ですが、過去には事業の存続を揺るがすような試練もあったとお聞きしました。

齋藤: 約15年前、長年製造を請け負っていた主要取引先から突然「事業から撤退する」と告げられました。主力だった受注が一瞬にしてゼロになり、自社で売り歩くノウハウもなかったため、一時はボーナスの支給を削らざるを得ない苦しい低迷期が何年も続きました。

その深刻な低迷期から、どのようにして業績を回復させたのでしょうか。

「私たちの仕事がなくなってしまう」──紙と電卓の世界に現れた不安と困惑

先代会長が仕事始めの年頭所感で「これからはDXだ」と宣言したことから改善が始まりましたが、当時の現場はどのような状態だったのでしょうか。

梶川 俊弘様(以下、梶川): 当時は完全に紙と手計算の世界でした。弊社は毎月20日締め・当月末払いという非常にスケジュールの厳しい給料体制をとっています。締め日を過ぎると、各拠点の事務スタッフが全員分のタイムカードを集めて集計を始めていました。

20日締めの当月末払いというと、わずか10日ほどしかありませんね。どのような作業手順を踏んでいたのですか。

梶川: タイムカードの打刻時間を1枚ずつ目で確認し、電卓を叩いて勤務時間や残業代を計算して紙に記入していました。さらに、印刷した給与明細を1枚ずつ折って封筒に入れ、のり付けして判子を押し、手渡しで配っていたんです。

20名以上の集計や明細手渡しを女性スタッフお1人で担当されていたそうですが、現場の負担は相当なものだったのではないでしょうか。

梶川: 本人にとってはそれが日常の業務であり、当たり前の役割でした。だからこそ「もっと効率化できるはずだ」という感覚はなく、むしろ「手作業で正確に明細を配るのが自分の仕事だ」という強い誇りを持っていたのだと思います。

そうした現場に対して、freeeによる人事労務のDX導入はどのように進めていかれたのでしょうか。

齋藤: 経営陣としては、決して誰かの仕事を奪ったり人員を整理したりするためではなく、「将来的に人が減った時でも、残ったメンバーで無理なく会社を回せる仕組みを作りたい」という目的のもと導入を進めました。当時は社内にそこまでの不安が隠れているとは思わず、愚直にその必要性を伝え続けていたんです。

導入が進んだ後になって、実は現場が強い不安を抱えていたことが分かったのですね。

梶川: そうなんです。システムが定着してから当時の話を聞くと、実は陰で「システムが入ったら自分たちの仕事がなくなってしまうのではないか」「首を切られるのではないか」と強い不安や戸惑いを抱えていたことが分かりました。経営側の意図が伝わり、無事に運用が軌道に乗ったからこそ笑って話せる本音でした。

現場の抱えていた不安が解消され、変化が定着したことで、社内にはどのような波及効果が生まれたのでしょうか。

齋藤: 業務のデジタル化に対する心理的なハードルが一気に下がりました。手作業の負担が減って時間が生まれたことで、事務スタッフ自身が次に導入するクラウドツールの社内講習や操作フォローを自発的に手伝ってくれるようになるなど、社内DXを牽引する力強い存在へと変わっていきました。

2〜3日かかっていた作業が「わずか半日」に。人事労務DXがもたらした成果

freee人事労務を導入された当初、運用はスムーズにスタートしたのでしょうか。

梶川: 正直に申し上げると、導入初期はかなり手探りの状態でした。せっかくシステムを入れたにもかかわらず、最初は給与明細をわざわざ紙で全枚数打ち出し、内容に間違いがないかを手作業で突き合わせながら修正依頼を出すという運用をしてしまっていたんです。

せっかくシステムを導入したのに、手作業の確認プロセスが残ってしまっていたのですね。大きな転換点はどこにあったのでしょうか。

梶川: 2023年10月に齋藤が代表取締役に就任したタイミングです。「せっかく入れたツールの機能をもっとフル活用して、やり方を抜本的に見直そう」と本格的な見直しに着手しました。そこから一気にシステム主体の運用へと舵を切ったのです。

システムの機能をフル活用するように運用を変更した結果、どのような変化がありましたか。

梶川: 最も大きな変化は、給与計算にかかる時間の大幅な短縮です。従来は毎月の締め日(20日)から2〜3日かがりだった給与計算と締め作業が、今ではほぼ半日で完了するようになりました。締めから支給(当月末)までの過酷なスケジュールに大きなゆとりが生まれました。

勤怠管理や有給休暇の管理、年末調整といった関連業務にも効率化の効果は現れていますか。

梶川: 工場などの現場では備え付けのタブレットでICカードをかざして出退勤を打刻し、各自のスマホで給料明細や有給残を確認できるようになりました。さらに毎年苦労していた年末調整も、保険会社などから送られてくる証明書の写真を撮るだけでデータが自動読み取りされるため、チェックの手間が劇的に減りました。

「紙と手計算」からの脱却を果たし、バックオフィス業務全体にどのような手応えを感じていらっしゃいますか。

齋藤: 手作業によるミスやストレスが激減しただけでなく、これまで特定の人しか把握していなかった業務プロセスが可視化されました。誰かが不在でも滞りなく給与計算が回る体制が整い、組織としてのバックオフィスの基盤が格段に強固になったと実感しています。

言葉の壁も技術の継承も乗り越える。10年先の未来へ挑む創業家の想い

バックオフィスの基盤が整う一方で、製造業全体として「職人の技術継承」や「高齢化」という課題は根強く存在します。貴社ではどのような危機感を持たれていましたか。

齋藤: 中小の製造業はどこも同じ悩みを抱えていますが、弊社でも5年前は50代以上の社員が50%を超えていました。また、職人の高い技術が個人の頭の中にしかなく、データやマニュアルとして残っていない「属人化」にも強い危機感を持っていたんです。

そうした組織の高齢化や技術の属人化に対して、どのような手を打たれたのでしょうか。

齋藤: 職人の手技や組み立て工程を撮影して動画化したり、デジタルマニュアルとして可視化したりする取り組みを進めています。コストと手間はかかりますが、誰が見ても同じ精度で組み立てができる環境を作らなければ、10年後・20年後に技術を継承できなくなってしまうからです。

若返りに向けた採用活動でも、この5年間で30名の増員(全社109名規模)を達成されるなど目覚ましい成果を出されていますね。

齋藤: 専門学校生へのアプローチを強化するとともに、外国人人材の受け入れにも本気で取り組んできました。現在では16名の外国人人材が活躍しており、50代以上の比率も50%超から45%へ引き下げることができました。

外国人人材の受け入れにあたっては、社長自らが現地に足を運んでいらっしゃるとお聞きしました。

齋藤: はい。私が自らベトナムに赴いて現地で直接面接を行い、採用が決まった子のご家族や兄弟ともWebなどで繋いで会社の情報を丁寧に説明します。「安心して送り出してほしい」と伝えることが親御さんへの礼儀であり、信頼関係の第一歩だからです。

生活面での手厚いサポートも含め、そこまで真摯に向き合われる理由は何ですか。

齋藤: 異国に来て働く彼らの不安を少しでも和らげたいからです。住居の手配はもちろん、日々の生活で必要なティッシュペーパー1箱に至るまで私自身で揃えて迎えます。一人ひとりと誠意をもって向き合う姿勢こそが、結果として高い定着率につながっているのだと思います。

バックオフィス改善から技術継承、人材育成まで、一連の取り組みの先に見据える斉藤鐵工所の未来像について教えてください。

齋藤: 「見た目は古めかしい町工場でも、一歩中に入れば全員がデジタルを使いこなし、紙一枚落ちていない最先端の工場」──それが私の目指す理想像です。テクノロジーを愚直に採り入れ、若い世代や世界中の人材から「ここで働きたい」と選ばれる100年企業へと進化を続けていきます。

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