北海道全域の道路、橋、トンネル――。国民の誰もが「使えて当たり前」として暮らす社会インフラの安全を、過酷な現場で泥臭く点検・設計し続ける技術者集団、株式会社エバーコンサル。
同社の裏側には、出張に向かう技術者へ1人あたり20万〜50万円/月もの現金を手渡して送り出すという、現場とバックオフィスの双方にとって大きな課題となっていたアナログな運用があった。さらに、タイムカードが存在しない「性善説」の勤怠管理は、会社が成長し続ける中で限界を迎えていた。
この現場の心理的負担と管理のリスクを解消し、技術者が本業に集中できる強い組織をつくるため――。同社が踏み切ったクラウド移行とバックオフィスの変化を伺った。
100万円の現金保管と勤怠管理の現実――システム不在から始まったバックオフィス変革
工藤様がご入社された当時の、御社のバックオフィスや管理体制はどのような状態だったのでしょうか。
取締役 部長 工藤 優花氏(以下、工藤): 私が約4年前に入社した当時は、システムというものが何ひとつ導入されていない状態でした。アナログな出勤簿はほぼ無いに等しく、全員が社員だったということもあり、「全員現場に出ているんだから働いているよね」という性善説のもとで業務が回っていたんです。
タイムカードすら機能しない状態から、出退勤や労働時間の管理はどのように行っていたのですか。
工藤: 残業申請の紙が残っているくらいで、労働時間の集計もすべて手作業でした。社員同士の信頼関係で成り立ってはいたものの、労働時間が正確に可視化されていない状況にはやはり不安がありましたね。
現場業務における費用や経費のお支払い・精算方法はどのように運用されていたのでしょうか。
工藤: 当時はすべて現金でやり取りをしていました。現場リーダーにお金を預けて精算してもらう運用だったのですが、現場に出ると数日〜1ヶ月単位で出張が続くため、1人あたり20万〜50万円/月もの現金を直接手渡していたんです。
社員1人に数十万円もの現金を持たせて現場へ送り出すというのは、現場の方々にとっても大きな負担だったのではないでしょうか。
工藤: そうですね。大金を持って長期間の出張に向かうわけですから、現場の担当者にとっても「もし落としたり紛失したりしたらどうしよう」という気労や心理的な負担はかなり大きかったと思います。また現金が清算の時に合わないこともありました。
それだけの現金を渡すとなると、社内での現金保管リスクも高かったのではないでしょうか。
工藤: はい。会社にも常に100万円単位の現金を置いておかなければならず、金庫や防犯の管理をする側としても常に気を張っている状態でした。現金が合わないリスクや盗難の不安がつきまとうので、なるべく早く改善したい課題でした。
異業種から転職されて管理部門を引き継がれた際、このアナログ運用に対してどのようなお気持ちでしたか。
工藤: 前任者から引き継いだ業務はすべて手作業で、まずはやり方を理解することから必死でした。ただ、現金を手渡しし、手作業で帳簿を合わせる運用のリスクを感じ、「少しずつでもシステム化して整えていかなければ」という思いを抱きました。
現場の負担を消し「心理的安全」を取り戻す――クラウド会計・労務がもたらしたもの-ネット銀行・法人カードの活用で、社内から「現金」が完全に消えた-
現金手渡しやアナログな手作業から脱却するため、どのように着手されたのでしょうか。
工藤: 税理士さんと相談しながら「freee会計」と「freee人事労務」を導入し、まずはバックオフィスの基盤を整えることに着手しました。同時に、出張時の現金手渡しを廃止するため、ネット銀行の口座を社員全員に開設してもらいました。
全社での口座開設とシステム化によって、現金手渡しの運用はどのように変わりましたか。
工藤: 経費精算をすべてオンラインの申請・振込フローへ集約しました。ネット銀行の口座間振込を活用することで振込手数料を抑えつつ、かつてのように社内の金庫や出張先へ数十万円単位の現金を持ち込む必要を完全になくすことができたんです。
現場で大金を持ち歩くプレッシャーから解放されたことで、社員の方々の様子はいかがでしたか。
工藤: 「大金を持って出張に行かなくていい」というだけで、現場の精神的な負担は激減しました。また、現場で使う備品や消耗品も「freeeカード(法人カード)」の導入、Amazon連携などで会社一括決済する仕組みに切り替えたため、個人の立て替えや現金のやり取り自体が現場からほぼ無くなりました。
人事労務の面では、手作業だった有給管理や勤怠にどのような変化がありましたか。
工藤: 以前はExcelで管理していた有給休暇の残日数などがfreee人事労務で自動化され、社員各自がいつでも画面で確認できるようになりました。残業の集計作業も効率化され、給与計算の実作業自体は2時間もかからないほどスムーズになりましたね。
バックオフィスを1人で担う工藤様ご自身の「心理的な安心感」にも大きな変化があったのではないでしょうか。
工藤: そうですね。手作業の帳簿合わせや現金の差異に頭を悩ませる時間がなくなりました。現金の紛失リスクを抱えることがなくなり、バックオフィスも現場も、本来注力すべき業務に安心して向き合える環境が整ったと感じています。
半年で150案件が殺到する嵐の中で――リアルタイムな数値管理に挑む
経営判断のタイムラグを克服し、根拠ある数字で未来を描く
御社の事業特性として、現場業務が集中する時期があると伺いました。
工藤: 北海道は冬場に現場作業が止まってしまうため、6月から12月までの半年間に案件が集中します。年間約100〜150件ものプロジェクトがこの期間に一気に稼働し、全社が極めて過酷な繁忙期に入ります。
半年間に150件もの案件が重なる中で、原価や案件ごとの管理はどのように行われていたのですか。
工藤: 以前はプロジェクトごとの集計が後手に回り、すべての数字が確定するのが翌年の2月や3月になってしまう状況でした。「蓋を開けてみるまで利益が出ているか分からない」というタイムラグがあり、経営判断の遅れが課題でした。
そうした原価管理や集計の課題に対して、現在はどのように運用されているのでしょうか。
工藤: 現在は販売管理システムを活用して、案件ごとの進捗や工数、想定単価による人件費の積算をリアルタイムで追える仕組みを構築しました。
繁忙期に現場社員へ入力してもらうための定着化には苦労があったのではないでしょうか。
工藤: 最初は工数入力の手間もあり大変でした。ですが、徐々に社内に「数字をタイムリーに管理する意識」が根付いてきました。
リアルタイムに数字が見えるようになったことで、組織としてどのような手応えを感じていますか。
工藤: 会社が成長し、社員数も過去最多規模に増える中で、経営基盤ができてきました。今期は過去最高売上に迫る規模ですが、根拠ある数字をもとに次の展開を考えられるようになったのは大きな前進です。
インフラを守る技術者の誇り――過疎化する北海道で挑む「自律型組織」の未来
北海道の建設・点検業界を取り巻く環境は、今後どのように変化していくとお考えですか。
工藤: 北海道では過疎化や人手不足が深刻で、役所側にもインフラを管理する人員が足りない時代が来ています。そのような中で、私たちのような専門技術を持つ企業の役割はますます重要になります。
そうした厳しい時代において、御社が目指す企業像や強みは何でしょうか。
工藤: 私たちは単に指示された作業をこなすだけの下請けではなく、元請けや役所以上にこの道での高度な知識と現場力を備えた専門家集団を目指しています。未経験で入社した社員も一から教育し、プロとして活躍できる人材育成に注力しています。
社長交代や組織改革を経て、社内の文化や意思決定にも変化が生まれているのでしょうか。
工藤: 今年、社長交代という大きな転換期を迎えました。「数字を見て自分たちで判断し、動く」という文化を全社で作っている最中です。バックオフィスが整ったことで、現場も経営も前を向いて新しい挑戦に集中できるようになりました。
最後に、バックオフィスから支える工藤様の今後の展望をお聞かせください。
工藤: システム化によって浮いた時間は、社員が長く安心して働ける環境づくりや、将来に向けた組織の整備に使いたいと考えています。北海道の暮らしとインフラを支える社員たちが、誇りを持って働ける会社であり続けられるよう、これからもバックオフィスから会社を力強く支えていきたいと思います。


