昭和17年創業、京都発の地域密着型書店、大垣書店。京都府下を中心に全国に展開、2023年には東京 麻布台ヒルズへの出店でも大きな話題を呼びました。
出版不況による書店減少の中、なぜ大垣書店は「成長し続ける本屋」でいられるのか。そこには、確固たる信念と現場との信頼関係、そして書店を「文化のプラットフォーム」と位置づけ、そこからさらに新たな展開を見据える独自のビジョンがありました。
書店業界に明るい光を投じるその戦略について、管理本部 経理部 部長代理の大垣交右氏にお話を伺いました。
本を売る方法を考え尽くす。書店の使命と信念
大垣書店にご入社された経緯とご入社当時の取り組みについて教えてください。
大垣交右氏(以下、大垣):もともとは経営学の研究をしていましたが、コロナ禍を機に当社のEC販売事業を強化することになり、そのプロジェクトに参画しました。大手ECサイトが生活必需品以外の販売を制限し、ECで本を購入できる機会が失われていた当時。「大垣書店として、どうにかオンラインで本を販売できないか」と考えたのが始まりです。
実店舗の経営と並行して、EC販売の強化に踏み切った背景を教えてください。
大垣:現場からは「目の前のお客さまに売りたいのに、なぜECをやらなければならないのか」という声もありました。しかし、当時は休業などで店舗の売上が落ち込んでいる状況でした。それでもスタッフの雇用は絶対に守りたかったんです。だからこそ、「別の売上の柱を作る手段として、ECを活用しよう」と説得を続けました。結果としてEC事業は軌道に乗り、雇用も守り抜くことができました。常日頃から社内で話し合っているのは、「書店としての使命を全うしよう」ということです。かっこいいことは言わんでいいから、必死になって本を売る方法を考える。それが、私たち大垣書店の信念です。
「地域に必要とされ続ける」大垣書店らしさを創る基準
全国に出店されていますが、出店に関する基準をお聞かせください。
大垣:ありがたいことに「出店してほしい」とお声がけいただくケースが多いです。
出店を検討する際、店舗を運営する『人』がいるかどうかをよく確認をします。人がいなければ、お店は成り立ちませんから。
「大垣書店らしさ」は、どのような部分に表れていると思いますか?
大垣:「地域に必要とされる本屋でありつづけること」を方針として掲げています。例えば、全国的なベストセラーを平積みすれば、たしかに売上は見込めます。しかし、それが大垣書店の入り口を占める棚づくりで本当に良いのか。それは地域に求められているのか。と常に地域性を意識した店舗運営を心掛けています。
経営管理の面ではいかがでしょうか?
大垣:店舗ごとの独立採算制を導入しています。本社機能の費用も各店舗に配賦し、勘定科目単位の収支実績と予算差異を店長に開示することで、店長自身が経営者視点で数字に責任を持てる仕組みを作っています。
独立採算制を支える基盤としてfreeeを導入
freee会計を導入された経緯を教えてください。
大垣:以前はオンプレミス型の会計システムを使っていましたが、同シリーズのクラウド版へ移行するにはコストが高かったんです。また、当社の膨大な仕入れや経費をより効率的に処理できる仕組みが必要だったこともあり、freeeへのリプレイスを決めました。
なぜクラウド型のシステムを選ばれたのでしょうか?
大垣:会計作業は本社に集約しているのですが、全員がリアルタイムに同じ情報を閲覧し、同時に編集できるのは非常に大きな利点だからです。また、キャッシュの動きを常に最新値を把握できるように、銀行明細APIを活用して貸借を毎日一致させる運用をしています。
freeeカード Unlimitedの導入もされていますね。
大垣:こちらは経費精算の効率化が目的です。店舗を運営していると日々さまざまな経費が発生します。以前は小口現金で精算していましたが、freeeカードUnlimitedに「共有カード」がリリースされたタイミングで、各店舗にfreeeカードUnlimitedを配布しました。備品購入などをカード決済に集約することで、現金管理の負担を減らす努力を続けています。
現場への定着はスムーズに進みましたか?
大垣:導入は本社主導で進めました。現金精算は原則禁止としたものの、小口現金自体は万が一のために残したんです。「いざとなれば現金精算もできる」という安心感があったおかげで、各店舗にもすんなりと受け入れてもらえました。
また、領収書の電子帳簿保存に対応しているため、「1か月間保管して、本社から何も指摘されなければ処分していいよ」と伝え、現場のレシート管理の手間が減るメリットも強調しました。あとはfreeeカードUnlimitedは利用する分ポイントが貯まり、freeeの利用料金が実質安くなるので、社内への導入効果も説明しやすかったですね。現金払いではポイントはつきませんから(笑)。
「店舗ごとの独立採算制」を取り入れた理由をお聞かせください。
大垣:事業の多角化が主な理由です。現在は書店にカフェを併設したり、企画展を行ったりと、「本の売り上げだけを見ていればいい」という状況ではなくなりました。書店、カフェ、企画展それぞれの収支を把握し、どこに成長が見込めるのか、という分析が大事になってくるため、店舗ごとの採算制を取り入れています。
収支の管理を徹底する一方で、「本を売る使命」と「地域に貢献する信念」さえあれば、あとは自由に店舗運営を任せています。結果として、現場から新しいアイデアがどんどん生まれていて、会社の中に大量のビジネスの種が育っている状態です。
店舗ごとの数字が可視化されているからこそ、どのアイデアを会社の次の柱にしていくのかも判断しやすいです。
現場スタッフの企画が形に。コンテンツを楽しめる書店
インタビュー当日、堀川新文化ビルディングではイラストレーター・中村祐介『装画の世界展』が開催中
企画プロデューサーの堀川新文化ビルディング 館長 大崎さんに話を聞きました。
今回の企画のきっかけを教えてください 。
大崎氏(以下、大崎):中村さんには、以前から大垣書店のサイン会などのイベントで大変お世話になっていました。その後、出版社の方に堀川新文化ビルディングのギャラリースペースをご覧いただいたことがご縁となり、今回の企画のお声をかけていただきました。
企画実施の判断は館長の大崎さんがされるんですか?
大崎:企画の権限はスタッフ全員にあるんですよ。自分たちで「面白い」「いいな」と思ったものを見つけてきて、実際に企画として形にしています。アーティストさんへのオファーも実際に作品を見て感動した本人が声をかけるのが一番熱意が伝わりますし。
私が見つけたものは私が、他のスタッフが見つけたものはそのスタッフ自身が声をかけ、主導して進めていくスタイルを大切にしています。
大垣書店ならではの企画とはなんですか?
大崎:一般的なギャラリーには例えば「現代アート」など、得意分野があることが多いですが、私たちはあえてジャンルを固定しないようにしています。陶芸の次は写真、その次は油絵といったように、展示内容が偏らないように意識しています。
本屋を訪れたお客様がたまたまギャラリーを見つけて、普段なら触れないような作品を気軽に楽しんでいただく。その体験をすごく大事にしているんです。「普通のギャラリーにはわざわざ行かないけれど、本屋に来たついでにギャラリーを覗くのがルーティンになったよ」という嬉しいお言葉をいただくこともあります。日常の延長線上でアートを楽しみ、気に入ったら購入もできる。そんな場所でありたいと思っています。
書店業界はおもしろい。スタッフと作り上げる世界一の書店
イラストレーター ・ざしきわらし出版記念展「ざしきわらし展」 - 2つのタイトルのみで店舗入口をジャック
大垣書店では本を売るためにどのような取り組みをされているのでしょうか。
大垣:めちゃくちゃいろいろやってますよ。なかでも僕自身が面白いなと思ったのは、「あえてタイトルを絞る」陳列です。それを、お店の顔である一番大事な入り口でやりました。さらに、そのラインナップを毎週、毎月といった高い頻度で変えていくんです。通常、本屋の入り口付近はランキングや新刊のコーナーなど、ジャンルがある程度固定化されていることが多いですが、そうではなくて変え続けるんです、とにかく変える。
企画の内容に制限やルールはあるのでしょうか?
大垣:なんでもありです。企画を持ち込んでいただくケースがほとんどですが、それに対して我々も「書店としての意見」をしっかり伝え、一緒に良いものを作り上げていきます。書店とは文化があり、知が集まる場所であり、さらにいえば「地域の生活者の生きがいを支える」という社会的な役割を担う場所でもあります。その価値に共感して「ここで企画をやりたい」と言ってくださる方が多いのは、本当にありがたいです。
大垣書店 麻布台ヒルズ店 ©FUMITO SUZUKI
企画や陳列、照明など一つひとつの創り込みが素晴らしいですね。
大垣:そうなんです。館長をはじめ書店員のみなさんも誇りに思っているでしょう。ここまで徹底してやり切ることは、なかなかできることではありませんから。
交右さんが、日本や海外でモデルにしている、あるいは目標にしている書店はありますか?
大垣:すごく偉そうに聞こえてしまうかもしれませんが、麻布台ヒルズの大垣書店以上に良い書店はまだ見つかっていません(笑)。ずっと居たくなるような魅力的な空間デザインの中に、本屋としての充実した機能、そしてギャラリーやカフェまで兼ね備えている。あの限られた広さ(坪数)の中で、あれほど綺麗にまとめ上げているのは本当にすごいことだと思います。ただ、これで完成というわけではなく、課題が残り続けているのも実情です。スタッフそれぞれが現場で得た知識や気づきによって、お店を成長させ続けていくことが大切だと考えています。
大垣書店の代表取締役会長・大垣守弘氏の三男にあたる大垣交右氏。現在、長男・次男とともにそれぞれの専門領域から同社の事業推進を支えている。
「会長が『売上や店舗数が増えたのは、みなさんの期待に応えたいという一心で仕事をしていたからです。』と真っ直ぐに言えるところが、当社の良さです。親世代が30年かけて築き上げたものを、我々次世代は10年で成し遂げたい。そうしたスピード感を持った挑戦こそが、後継者である我々に求められている役割だと思います。」と大垣交右氏は語る。
創業80余年の歴史を持つ大垣書店は、これからもリアル店舗という空間を通じて人々の視野を広げ、生きがいを支えるための「知との出会い」を創出していく。

