福島県中野地区を拠点に、介護や障害者福祉分野で幅広い事業を展開する社会福祉法人けやきの村。町内会や自治振興会と協力して花見会や「けやき祭」などのイベントを開催し、“地域の福祉拠点”として住民に親しまれています。
同法人は、多様な事業で地域を支える一方で、バックオフィスには「ハンコと紙」が中心の非効率な労務フローが根強く残っていました。書類管理の煩雑さや転記工数、入力ミスの多発などが大きな課題となっていました。
こうした状況を打破すべく、同法人がDXに着手したのは2025年。その中核として「freee人事労務(アドバンスプラン)」と「freee勤怠管理Plus」を導入した結果、従来10日間かかっていた給与計算がわずか2~3日で完了するようになりました。ペーパーレス化による施設内スペースの有効活用や、監査対応の効率化にも明るい兆しが見えています。
今回は、DX推進チームの中心人物である安西さんに、導入前の課題から導入後の成果、そして今後の展望について詳しく伺いました。
転記・入力ミス・漏れ対応に追われる日々。毎月10日を費やした190名分の給与計算
freee導入前、現場やバックオフィスではどのような課題を抱えていたのでしょうか。
安西裕之さん(以下、安西): 最大の課題は、毎月の給与計算に10日ほどを費やしていたことです。
当時はExcelのシフト表から他社の給与ソフトへ手作業で転記し、ダブルチェックを経て、振込前にもう一度確認するという流れでした。この転記作業だけで5日はかかります。介護現場特有の夜勤手当の集計・計算も加わるため、非常に煩雑でした。
また、全職員約190名分の残業代一覧が5つの施設から届くのですが、その確認と入力に丸2日は費やしていました。入力ミスや提出漏れも少なくありません。計算作業に入る前に、各施設長や本人への確認・差し戻し作業に追われることもしばしばでした。
それほど時間をかけて何重にもチェックを重ねても、昇給や残業単価の反映漏れといったミスが防げず、振込後に払い戻しや追加支給が発生することもあったのです。さらに、日中は電話対応などで作業が中断されるため、集中できる夕方から夜にかけて残業して作業せざるを得ない状況でした。
「紙の山」に埋もれる事務作業。監査準備には丸1ヶ月を要した
従業員190名規模となると、書類の管理も相当な負担だったのではないでしょうか。
安西: はい。紙中心の運用だったため、管理の煩雑さと事務作業の手間に頭を悩ませていました。
例えば、職員が1人入退社するだけで10~11枚の書類を交わす必要があります。それらを職員ごとではなく「書類の種類ごと」に保管していたため、整理のたびに巨大なファイルを何冊もデスクに広げ、1枚ずつ綴じる作業が発生していました。
せっかく綴じても記入ミスがあれば差し戻しです。ファイル内には厳密な順番の取り決めがなく、社歴から推測して綴じ位置を判断するような属人的な状態でした。組織が大きくなるほど書類を探す時間は増え、自分にしかわからない「ブラックボックス化」した管理体制になっていたのです。
紙の書類は整理が億劫になりがちで、後回しにすると瞬く間に溜まっていきます。デスクには常に書類が積み上がり、どれが最新情報なのかも判然としませんでした。書類保管のための専用の部屋が必要になり、スペースの有効活用も妨げられていました。
書類管理の課題は、行政監査にも影響していたのでしょうか。
安西: 監査準備には、毎日少しずつ進めても丸1ヶ月はかかっていました。時間に換算すると数十時間という膨大な工数です。日頃の整理が追いつかないため、監査の時期が「大掃除」のようになっていました(笑)。
情報は記録していても、求められる形式で整理しきれておらず、指摘を受けることもありました。かつては、全職員約190名の1年分近い勤怠情報をすべて入力し直したこともあります。指摘内容によっては、修正対応に数百時間を要することもありました。
DXの必要性を感じつつも、具体的な「進め方」が見えなかった
深刻な課題を感じる中で、改善に向けてどのようなアクションをとられていたのですか?
安西: 福祉事業所向けのセミナーに参加してDXを学び、複数のツールを比較・検討して資料請求も行っていました。しかし、私一人では「具体的にどのツールをどう導入すべきか」という確信が持てなかったのです。問題意識はありながらも足踏みが続いている状態でした。
草の根活動が実を結び、理事会で「freee導入」が正式決定
freee人事労務・勤怠管理Plusを導入した経緯を教えてください。
安西: 2025年、理事長からDX推進の指示が出たことが転機となりました。それまでも私から継続的にツールの必要性を発信し続けていたので、その数年間の積み重ねがようやく実を結び、法人全体として動き出した形です。
数あるツールの中から、最終的にfreeeを選んだ決め手は何でしたか?
安西: 現場の事務員たちが「freeeが一番直感的に使いやすい」と声を揃えたことが決定打でした。導入後に最もツールを触る時間の長いメンバーの意見を最優先したのです。
また、すでにfreeeを活用している県内の他法人から好意的な評判を聞いていたことも後押しになりました。今後の展開を考えた際、会計システムなど他領域へ拡張できる点も大きな魅力でしたね。
導入が決まった際の、周囲の反応はいかがでしたか。
安西: 各施設の施設長も現場のDX化を待ち望んでいたため、組織内の抵抗はなく、非常にスムーズに進みました。2025年7月に理事会でプレゼンを行い、無事に承認を得て導入が決定しました。理事会でも導入メリットを明確に伝えることができ、反対意見が出ることはなかったです。
「上申資料」まで共に作成。freeeの伴走支援が大きな力に
検討から導入に至るまでの、freeeの営業担当の印象はいかがでしたか。
安西: 営業担当者の方の説明が非常にわかりやすく、freeeで何ができるのかを自然に理解することができました。特に、導入までのステップを具体的な「ToDo」に落とし込んで提示してくれたことで、長年停滞していたDX化が一気に加速した印象です。
また、理事会での上申の進め方についても具体的なアドバイスをいただきました。私の話し方に合わせたプレゼン資料の作成まで手伝っていただき、担当者の方の伴走があったからこそ、自信を持って上申に臨めたと思います。
給与計算が「10日→5日」へ。転記作業はゼロに
導入によって得られた具体的な効果を教えてください。
安西: 導入後さっそく1カ月分の給与支払いをfreeeで行ったところ、以前の半分である「5日間」で完了しました。
この5日間には、残業時間の計算方法の設定変更作業なども含まれています。それらが落ち着く次月以降は、さらに短縮できる見通しです。実際、190名分の給与計算を2~3日で完結できるフローを確立できており、これは極めて大きな成果です。
特に、Excelから給与ソフトへの転記作業が一切なくなったことが大きいです。自動入力と転記システムのおかげで、丸5日分の工数が削減できました。
業務負担だけでなく、心理面での変化もありましたか?
安西: はい。転記や目視チェックの手間が劇的に減り、以前ほど神経をすり減らさずに業務を進められるようになりました。属人化の解消にも目処が立っています。
また、打刻漏れがある場合に「勤怠アラート」が本人に届き、職員自ら修正できるようになったため、差し戻しの煩わしさも解消されていますね。
ペーパーレスにも弾み。監査が来ても「今なら苦労しない」
書類管理の面ではどのような変化がありましたか。
安西: まだ過去の書類が残っており、1部屋が段ボールの山で埋まっています。しかし、今後ペーパーレス化が進むことで、そのスペースを有効活用できるようになりそうです。
何より、書類をクラウド上で管理・検索できるようになったため、監査準備の時間を大幅に短縮できる見込みです。以前のように1ヶ月も費やすことはもうないでしょう。「今なら監査が来ても苦労しない」と確信しています。
「親しみやすいUIが評判」80代の従業員も迷わず打刻
現場の職員の方々の反応はいかがですか?
安西: 現在、全職員がICカードでの打刻や休暇申請、一部の職員は給与明細の閲覧を利用しています。職員の平均年齢は40代後半で、最高齢は80代のパート職員もいますが、「操作に迷う」といった混乱は起きていません。
それどころか、打刻時に「おはようございます」とメッセージが出るなどの親しみやすいUIが好評です。事務職メンバーも操作をスムーズに覚えており、私が一つひとつ教えなくても自主的に使いこなしています。
一人で抱え込まないことが、DX成功への近道
今後の展望についてお聞かせください。
安西: 給与業務の属人化は解消できました。今後は、新しく入職する職員もすぐに適応できるような標準的なオペレーションを、他の業務にも広げていきたいです。具体的には「脱ハンコ」を目指し、freeeサインによる電子契約の導入も検討しています。
最後に、DXに関心を持つ他の社会福祉法人の方々へメッセージをお願いします。
安西: 組織の仕組みを変えるには大きな労力がかかるので、「一人で進めようとしないこと」が何より大切だと思います。
私もfreeeの導入に至るまで長い間停滞していましたが、現場の事務員たちの応援が大きな支えになりました。チームで進めることでモチベーションも維持できますし、多様なアイデアが生まれます。
そして、法人内のチームワークに加え、freeeの担当者の方の存在も非常に心強かったです。上申のノウハウまで共有してくれる伴走者がいれば、何から始めていいか分からない状況でも必ず一歩を踏み出せます。DXの第一歩に悩んでいる事業所にとって、freeeは最高のパートナーになってくれるはずです。


