体制構築を待たず「システムで縛る」選択。手打ち振込100件から1日で完了へ

株式会社星防水

総務部 高橋 仁美さん

体制構築を待たず「システムで縛る」選択。手打ち振込100件から1日で完了へ

確かな技術力を強みに、急激な案件増加と組織拡大を遂げてきた株式会社星防水。しかし、その成長の裏側では、バックオフィス機能が限界を迎えていた。3ヶ月分溜まり続けた領収書、月100件にのぼる手打ちの振込、そして客観的な基準の存在しない「どんぶり勘定」の給与計算。

「このままでは、会社も従業員の権利も守れない」。その強い危機感を胸に、2024年に入社した高橋氏は、体制が整うのを待つのではなく、システムという枠組みを使い組織を強制的に変革する。エクセル融通をあえて捨て、システムという「ルール」を敷く。それは、単なる業務効率化を超えた、これからの多角化と規模拡大に耐えうる強靭な経営基盤を確立するための、静かなる生存戦略であった。

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3ヶ月溜まった領収書と100件の手打ち振込に溺れたあの頃

高橋様が2024年4月に入社された当時、星防水様のバックオフィスはどのような状況だったのでしょうか。

高橋様(以下、高橋)様: 正直に申し上げて、管理体制は完全にパンクしていました。会社の経理や労務をほぼ1人で回しているような状態だったのですが、経費精算のための領収書が3〜4ヶ月分も未処理のまま山積みにされていたんです。会社のクレジットカードの利用明細などもまったくシステムに入力されておらず、数ヶ月前のコスト実績すら誰も把握できていない状態でした。

それほど領収書が溜まっていたとなると、毎月の支払業務も相当な負担になっていたのではないですか。

高橋: はい、まさに「毎月、目の前が暗くなる」という表現がぴったりな状況でした。毎月、紙で届く大量の請求書を部署ごとに手作業で仕分け、確認をとるだけでも膨大な時間がかかっていました。さらに、約100件におよぶ協力業者様などへの支払いを、ネットバンキングに1件ずつ手打ちで口座情報と金額を入力して振り込んでいたんです。丸1日中パソコンに張り付くことになり、いつ終わるか分からない徒労感で押しつぶされそうでした。

労務管理や給与計算についても、当時はエクセルでの管理がメインだったとお聞きしました。

高橋: そうですね。建設業界でよく使われる「出面(でづら)表」という出勤簿をエクセルで作成し、それをもとに給与を計算していました。ただ、当時は労務管理の土台となる共通の基準が、社内で明確に定義されていなかったんです。客観的な集計ルールがないまま、ただ日々の「出勤したか・しないか」という記録をエクセルのシートに並べ、個別に確認しながら給与を算出している状態でした。

基準がない状態での給与計算は、具体的にどのように行われていたのでしょうか。

高橋:日給や月給のベースはあったものの、休日出勤や手当などは最終的な決定のプロセスが明確に言語化されておらず、どうしても「経営層の個別の裁量や主観」に頼らざるを得ない部分がありました。そのため、社員から見ると「どう反映されるのか」という客観的な基準が見えにくい状態でした。

その状態で前任の方から引き継ぎを受けられた時は、強い危機感を抱かれたのではないですか。

高橋:前任の方が急きょ業務から退くことになり、私がその業務を引き継ぐことになりました。ただ、これまで会社を支えてこられた前任の方のノウハウがマニュアル化されていたわけではなかったため、文字通り「手探り」のスタートでした。 実際に業務を紐解いてみると、長年にわたり個人の経験や手作業での頑張りに頼って運用されていた部分が多く、業務が大きく属人化している状態でした。そのため、まずは現在どのような処理が行われているのか、その全容を一つひとつ整理して現状を把握することから取り組んでいきました。

ルールがないならシステムで縛る。体制構築を待たない選択

入社してわずか1ヶ月という異例の早さで「freee」の導入を決められたそうですが、そこまで決断を急いだ理由は何だったのでしょうか。

高橋: 入社してバックオフィスの実態を目にした瞬間、「今のままでは会社も従業員も絶対に守れない」と直感したからです。当時は現在よりも従業員数は少なかったものの、案件が急増しており、これからさらに人を増やしていくことは確実な状況でした。それなのに、誰がいくらで働いているかも不透明な状態です。「人が増えていくなら、今すぐメスを入れなければ組織が自壊してしまう」という強い焦りがありました。

「管理体制が整ってからシステムを導入すべきだ」という慎重な意見は、社内から出ませんでしたか。

高橋:よく「ルールや体制をしっかり決めてからシステムを入れよう」という意見を聞きますが、私は少し違うアプローチをとりました。ルールが決まっていない今だからこそ、先にシステムを導入し、そのシステムが持つ『標準的な枠組み』に業務を合わせていくべきだと考えたんです。エクセルのような自由度の高いツールはとても便利ですが、自由だからこそ『その時々の状況に合わせた例外的な処理』が生まれやすく、なかなか標準化が進まない原因にもなります。システムという明確な『型』を先に用意することで、組織全体の業務をスムーズに共通のレールへと乗せることができる、と確信していました。

「エクセルの融通を捨てる」ということは、これまでの属人的で曖昧なやり方を否定し、ルールで縛ることを意味します。現場からの反発や抵抗への懸念はありませんでしたか。

高橋:もちろん、これまでのやり方が変わることで、社内に一時的な戸惑いや摩擦が生じることは覚悟していました。システムを導入すれば、出退勤の時間も経費の申請も、すべてのデータが客観的に可視化されます。これまでは個別の状況に合わせた柔軟な処理や、手作業ならではの調整ができていた部分に、システムとしての客観的なルールが適用されるわけですから、最初は窮屈に感じるメンバーが出るのは当然だと思っていました。それでも、会社が次のステージへ進み、全員がより安心して働ける組織にするためには、ここでしっかりと足元を固める必要があると腹をくくりました。

高橋様のその強い覚悟に対し、社長をはじめとする経営陣はどのような反応を示されたのでしょうか。

高橋: 実は、社長自身も「数字がリアルタイムに見えない」「これまでの労務管理のあり方のままで、本当に会社や社員を守っていけるのだろうか」と、裏でずっと頭を悩ませていたんです。だからこそ、私が入社した際も「バックオフィスの課題を解決するためなら、任せるからやってくれ」と、100%信頼して背中を押してくれました。その強力な後押しがあったからこそ、迷いなくフリー一択で導入を進めることができました。

かつて他社で別の会計・給与ソフトを経験された高橋様から見て、なぜ他でもなく「freee」だったのでしょうか。

高橋: 以前の職場では、異なるメーカーの経理ソフトと給与ソフトを連携させようとして、データの取り込み作業などに余計な工数が発生し、非常に苦労した経験がありました。freeeであれば、人事労務のマスター情報がそのまま会計とシームレスに繋がります。「情報が1つの場所に最初から集約されていること」の価値を知っていたからこそ、バラバラのシステムではなく、freee以外の選択肢は考えられませんでした。

3ヶ月前のどんぶり勘定から翌月下旬のリアルタイム経営へ

実際に「freee」を導入されてから、まずは苦痛だった「支払業務」にどのような変化が起きましたか。

高橋: 劇的に変わりました。以前は毎月、紙の請求書を仕分け、約100件の振込先と金額をネットバンキングに丸1日かけて手作業で入力していました。これがfreeeを導入してからは、出力したレポートをもとに「一括振込」ができるようになり、作業は一瞬で終わるようになりました。あの張り詰めた徒労感から、完全に解放されたんです。

これまでは「社長への口頭確認」で決めていた給与計算のプロセスは、どのように生まれ変わったのでしょうか。

高橋:結果として、属人的な判断に頼る必要が一切なくなりました。freeeを導入したことで、社内に客観的で一貫性のある共通ルールが確立されたからです。有給休暇の取得状況や欠勤なども勤怠データとして自動的に反映され、すべてがクリアに可視化されるようになりました。これまでのように、給与計算のたびに社長へ個別の調整や判断を確認する手間や負担は完全になくなり、システムが提示する明確なルールに沿って、誰もが納得できる正しい給与がスムーズに算出される体制が整いました。

以前は「最大10日」かかり、支給日当日に滑り込んでいた給与締め作業の工数は、具体的にどのくらい短縮されましたか。

高橋: 今では、実質「わずか1日(翌月の1日から2日)」で完了するようになりました。以前は出面(でづら)表のエクセルデータをもとに、前任の担当者が手動で計算していたため、10日経っても給与計算が終わらない状態でした。現在は締め日を迎えると勤怠データが人事労務ソフトに自動で反映されてチェックするだけで済むため、翌月早々にはすべての計算を終えてしまえます。

「簿記の知識がなくても誰もが経理を回せる体制が整った」というのは、バックオフィス組織にとって大きな変化ですね。

高橋: 本当にそうですね。これまでは、属人的な簿記のスキルや独自のやり方を覚えた人にしかできないブラックボックスな業務でした。しかし、freeeを基準に業務を整理したことで、特別な簿記の知識がない新しいスタッフでも業務を回せるようになりました。アプリのポップアップなどで法改正や保険料率改定の情報が自動で通知され、その指示に沿って作業を進めるだけでミスなく正確に処理できるからです。この属人化の解消と引き継ぎのしやすさは、今後の人員増に耐えうる大きな強みです。

経営管理の面、特に「月次・原価の把握」という点ではどのような成果が出ているのでしょうか。

高橋: 領収書が3〜4ヶ月も溜まっていた頃は、過去の実績コストが全く見えないどんぶり勘定でした。それが現在は、翌月の最後の週(下旬)に開催される「管理職会議」のタイミングまでに、前月の各現場の原価や経費、実績数値がほぼ100%リアルタイムに可視化されるようになりました。社長や幹部メンバーが、前月の数字を翌月下旬にはすべて手元に揃えて経営判断を下せる状態を作れています。

AIを駆使する現在地。規模が拡大しても揺るがない組織の未来

エクセル管理だった当時は、現場ごとに提出される書類や運用にどのようなバラつきがあったのでしょうか。

高橋: 当時は、防水、工事管理(建築一式等)、内装、電気といった各工事部門の管理者たちが、それぞれ原価管理や工事予定を管理していました。ただ、会社全体として決まったフォーマットが用意されていなかったため、各部門が独自に作った自由な形式のエクセルや書類で管理せざるを得ず、情報がバラバラになっている状態だったんです。

統一性のない書類やバラバラなデータが集まることで、具体的にどのような業務で苦労されましたか。

高橋:特に、銀行から実績の資料提出を求められたときの対応は、非常に骨の折れる作業でした。各部門の管理者たちがそれぞれ異なるフォーマットで数値を管理していたため、まずはそれらのデータをすべて1箇所に集約し、整合性を取りながら手作業で一つの実績データへと組み直さなければならなかったんです。企業の信頼性に関わる重要な資料だからこそ、数字に一分のズレも許されません。膨大なデータを前に、一つひとつ数字を突合していく作業は、精神的にも体力的にも本当に大きな負担でした。

そうしたバラバラな現場に対し、一人ひとりにスマホアプリで毎日打刻してもらう仕組みを定着させるのは、かなりのハードルがあったのではないですか。

高橋: 正直、導入前は「現場で毎日忙しく動き回るメンバーたちが、新しいシステムでの打刻をスムーズに受け入れてくれるだろうか」という懸念の声もありました。社内にはデジタルツールやスマホの操作に馴染みの薄いベテランの職人もいましたし、多国籍でバックグラウンドが多様なメンバーも在籍していたからです。それでも、これからの会社の成長や、働くみんなの環境を守るためには、属人化した管理から脱却することがどうしても必要でした。だからこそ、誰一人取り残さずに浸透させる方法を模索し、進めていこうと決めました。

操作がおぼつかない職人や、外国人労働者の従業員の方々へ、どのように打刻を浸透させていったのでしょうか。

高橋: 現場の職人たちにスマホを見せながら、泥臭く対面で教え込んでいきました。「これどうやればいいの?」と聞かれたときがチャンスです。「ここを押して、こうやって打刻するだけでいいんだよ」と、誰でも直感的にわかるように画面を見せて説明を重ねました。外国人従業員に「打刻がない日」があれば、欠勤なのか有給なのかを確認して、一緒にアプリで正しいステータスを登録していったんです。

「毎日打刻する」という行動が、現場の中で「自分事」に変わっていった決定的なきっかけは何だったのでしょうか。

高橋: 「これは会社があなたたちを監視するためのものじゃない。あなたたちの権利を守るものだよ」と伝えたことです。「正しく打刻することが、自分自身の有給や労働時間を証明し、正しく給与を受け取るため、つまり自分を守るためのルールなんだよ」と説明したところ、驚くほど主体的にアプリで打刻や修正申請をしてくれるようになりました。今では打刻漏れがあると、インドネシアから来ている外国人の職人さんからも「ここが抜けているのですがどうしたらいいですか」と自発的に質問が来るほど、現場に深く根付いています。

freeeの導入を経て、今では高橋様ご自身がMCP(Model Context Protocol)やClaudeなどのAIを駆使し、さらなる業務改善を進められているとお聞きしました。

高橋: はい、社長からも「AIをもっと活用してほしい」と言われています。現在はfreeeのAPIを連携させ、AI(Claude)を使って返信用のメール文案を作ったり、日々蓄積される仕訳情報などのデータから見たいカットで一瞬で数字を出力する仕組みなどを試行錯誤しています。今後どれだけ人員や会社規模が拡大してもバックオフィスが決してパンクしないよう、AIとデータを掛け合わせた強靭な組織の未来を描いています。

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