近年、M&Aによるグループ拡大が進む中で、表計算シートを用いた連結決算のガバナンス上の脆弱性や、潜在的なミス、そして発表直前まで続く監査法人との修正ラリーに強い危機感を抱いていたfreee株式会社。
上場企業として厳しい監査に直面している当事者だからこそ、自社の課題解決のために「freee連結会計」を徹底的に使い、表計算シート運用からの完全移行による属人化やミスの排除、上場企業水準の強固な内部統制の確立、そして自動化によって生まれた工数を増減分析などの高度なコア業務へ集中させることを目指した全容に迫ります。
表計算シート運用のリスクと連結精算表作成の実態
お二人の業務内容や役割を教えてください。
松下 紘幸(以下、松下):freee株式会社で経理実務を担当している松下です。
小野 のり子(以下、小野):同じくfreee株式会社の経理部でマネージャーを務めております小野と申します。チームのマネジメントに加えて、実務の精度向上、内部統制の観点から、松下が行った作業をレビューする役割も担っています。
連結決算業務においては、「開示資料の早期作成と監査コストの最小化」というチームミッションを持ち、日々試行錯誤を繰り返しています。
freee連結会計を導入された時期はいつ頃でしょうか?
小野:2026年1月に導入を開始しました。M&Aによってグループ会社が増加し、親子間の取引や債権債務消去といった連結実務の難易度が急激に上がる中で、ミスの発生リスクや決算スケジュールの圧迫に強い危機感を抱いていました。身内だからこそ最も厳しい目線で自社プロダクトを検証し、当事者として自社の課題を解決するために、プロダクトリリース前から打ち合わせを重ねて導入を断行しました。
freee連結会計の導入前の状況を聞かせてください
小野:実務の作業担当者が1名、その内容をレビューする者が1名の体制で連結決算を行っていました。具体的な作業としては、勘定科目ID、勘定科目名、金額などを複数の表計算シートから参照して、連結開示システムにインポートするためのマスタシートを作成するフローになっており、集計や作成の作業、数値の修正対応などで膨大な工数がかかってしまっている状態でした。
具体的には表計算シートでどのような管理をされていたのでしょうか?
松下:親子間の取引整理や、債権債務消去、投資と資本の相殺消去といった連結修正業務を、それぞれ個別の表計算シートで整備していました。そのため管理するシートの枚数が非常に多く、膨大な情報量を手作業で転記・往復させながら連結精算表の数字を作っていく必要がありました。
それだけの枚数があると、作業におけるリスクも大きそうですね。
小野:はい。一つの表計算シートから別のシートへ手作業で数値を転記する場面もあり、ミスが非常に発生しやすい環境でした。また、数式や関数を多用した複雑な構造になっていたため、新しく入社したメンバーが構造を解剖して理解するまでに大きなハードルがありました。
松下:私は2025年の7月入社なんですが、入社当初は意味がわからなすぎて、今でこそ慣れたのですが、当時はシート構造を読み解くのが非常に大変でした。
検算チェックさえすり抜ける。「どこかでミスが起きているのでは?」という心理的プレッシャー
「このままではマズイ」と感じ始めたきっかけはありましたか?
松下:当社の現在の規模感であれば、極論を言えば「頑張れば表計算シートでも運用しきれる」という状態でした。しかし、子会社が増えて、仕訳の数自体が追いきれなくなった時に業務が回らなくなるなという想像は実務経験から湧き起こっていました。
小野:そうですね。今後さらにグループ会社が増加し、取引の中身が複雑化していく将来像を見据えたときに、今のうちにシステムでルールを固めておかないと組織の拡大に耐えられないと感じていましたし、作業中の脳裏に湧いてくる「ミスが起こっているんじゃないか?」という不安な感情は早く解消したいと強く思っていました。
当時メインになっていた表計算シート運用において、一番の不満やストレスは何でしたか?
小野:表計算シート特有の「数値が文字列として認識されてしまう」といった原因不明の集計エラーや、関数の意図しない動作が発覚することです。検算用のチェック項目を設けていても、それをすり抜けてしまい、最後の最後でどうしても数字が合わなくなる実情や不安が常にありました。
そのエラーが発生したときは、現場ではどのように対応されていたのですか?
松下:監査法人に資料を提出する前の限られた時間の中で、原因究明のために全ての科目をシラミ潰しに探していくしかありませんでした。瞬時にはどこが間違っているか気づけないため、過去の記憶を頼りに「前もこの辺りがおかしかったから…」と泥臭く探す時間が、業務の大きな負担になっていました。
手戻りゼロで遅延リスクを排除。単なる決算作業から脱却し、「経理から高品質なインサイトの発信」を実現
freee連結会計の運用開始後、どのような成果が出ましたか?
松下:グループ間の相殺消去などの連結仕訳が自動化され、毎月の作業を大幅にカットすることに成功しています。
小野:数値修正が入るたびに発生していた開示システムへの再インポートや中間工程が全廃され、連携ボタンをポチッと押すだけで更新データが反映される体制へ移行できました。
決算確定後の数値差し替えや手直しがほぼ発生しなくなり、決算発表まで数字を一切動かすことのない安定した決算スケジュールを維持できています。
結果として、アウトプットの正確性と完成度が上がり、監査法人からの指摘が「手戻りを伴う修正指示」ではなく、「一段上の見せ方に関する提案」のレベルに変わりました。
これにより、監査対応における心理的な壁や無駄なラリーが最小限に抑えられ、上場企業基準の統制を理想的な形で構築できています。
現場のストレス軽減など、数字に表れない良い変化はありましたか?
小野:目視でのエラー確認に伴う、精神的なプレッシャーからの解放は大きかったです。導入前は、見た目では分からない文字列エラーのような潜むミスに怯えながら整合性チェックを行っていましたが、システム化によって正確性が担保され、現場の心理的ストレスが劇的に軽減されました。
松下:計算プロセスが可視化されたことで、業務が標準化され、レビュー者との確認作業や監査法人との情報共有も非常にスムーズになりました。
最初の決算業務において、これまで頭を悩ませていた表計算シート特有のミスがそもそも起きず、最初から最後まで整合性を保ったままスムーズに業務が完了した瞬間は個人的にガッツポーズが出ましたね。
ミスが起きないという当たり前の安心感を得られたことが、システムを導入して本当に良かったと心から実感できた瞬間です。
導入前に、データの取り込みに関する懸念はありましたか? 表計算シート運用に慣れていると、システムへの移行や毎月のデータ加工に余計な手間がかかるのでは、と身構えてしまう読者も多いと思います。
小野:まさにその通りで、freee会計を導入していない子会社や、複雑な形式の取引データがシステムへ綺麗に取り込めるか、むしろ移行によって新たな加工の手間が生まれるのではないかという点は非常に懸念していました。
しかし、freee連結会計は関数を一切使わずに、取り込んだデータの各列を「何のデータとして扱うか」をユーザーインターフェース上でマッピングしてルール化する仕様になっています。
データの紐付けやグループ間の相殺消去といった連結仕訳が、人手によるコピー&ペーストではなく、システムによって自動的に処理・再計算される構造になっているため、人為的な転記ミスや表計算特有の文字列エラーそのものが起きない仕組みになっています。
複雑な関数を解読しながら手探りで作業していた頃とは異なり、画面上のステップに沿って順番に作業を進めていけば、誰でも連結処理を完了できる設計になっています。 次に何をすべきかがユーザーインターフェース上で視覚的に示されるため、専門的なパズルを解くような属人化が起きません。新しく入社したメンバーであっても初月から迷うことなく、チーム全員が同じ精度で確実に決算業務を回せる体制が整えられてきました。
また、充実したマニュアルに加え、画面内からチャットベースですぐに相談できる環境があったため、実務上のニッチな疑問や判断に迷う点についても、サポート担当者から即座に的確なアドバイスをもらうことができました。
手厚いサポート体制を語られていますが、これは「自社プロダクトだから」ではないでしょうか?
小野:いえ、プロダクトの画面内からチャットベースですぐに相談でき、的確な回答が得られる仕組みは、すべてのユーザー様に標準提供されているものです。判断に迷う点があっても、並走してくれるサポートのおかげで作業の手を止めることなく、初月の決算であっても無事に完了させることができました。
今回の導入プロジェクトにおける、プロセスや工夫はいかがでしたか?
松下:運用の定着と初月からの確実な決算早期化を目指すため、初期設定の段階から作業担当者だけでなくレビュー者も一緒に巻き込み、システムの構造や計算ロジックを共有しながら進めることを意識しました。
これにより、最初の決算を迎えた時点でレビュー者側でも運用の流れが完全に頭に入っており、少人数ながら属人化を排除したスムーズな決算・検算体制を初月から構築することができました。
AI活用の将来像と、「攻めの経理体制」を築く重要性
今後の経理チームとしての目標や、業務体制の理想像を教えてください。
小野:人間が作業に介入する機会を限りなくゼロに近づけ、「チェック業務はAIが担い、人間は最終的な判断のみを行う」というハイブリッドな環境を構築することです。具体的には、システムが資産表を取り込んだ時点で連結修正仕訳のすべてを適切に完了させ、キャッシュ・フロー計算書まで自動作成される体制を目指しています。
監査法人とあらかじめ「プロセスの妥当性」について協議を重ね、合意を得た上でAI活用による自動化の範囲を押し広げていきたいですね。
監査法人は手法そのものではなく「最終的な数字に責任が持てるか」を重視するので、適切な根拠や背景に基づいたチェック体制をシステム側でしっかりと構築していけたらなと思っています。
同じように連結決算業務の属人化や表計算シート運用に悩んでいる経理担当者へ、メッセージをお願いします。
小野:現在のグループ規模が「頑張ればまだ表計算システムで回せる」という段階であっても、会社数が増えて複雑な状況になってからシステムに移行するのは非常に骨が折れます。決算期のたびに「どこかに潜在的なミスが潜んでいるのではないか」と怯えながら整合性チェックを行い、最後の最後で数字が合わずにシラミ潰しに原因を探す――そんな遅延リスクと隣り合わせの限界をすでに見据えているなら、なおさらです。
余力がある早い段階でシステムによって業務のルールを固め、手戻りのない強固なガバナンスを築くことこそが、現場を精神的なプレッシャーから解放し、将来の組織拡大を支える「攻めの経理体制」を構築するための確実な一歩になるのではと考えています。

