受託開発から自社プロダクトへ:ビビッドソウルが示す、中小IT企業の成長戦略と「KikanTree」成功の軌跡

株式会社ビビッドソウル 貝沼社長、経理担当 浅田氏、バックオフィス統括 木原氏

課題
経営の課題をリアルタイムに把握給与計算から振込までラクにミスなくバックオフィスの体制構築・効率化

昨今は多くのIT企業が受託開発で培った技術と知見を活かし、自社サービスやソフトウェアの展開を目指しています。しかし、その道のりは決して平坦ではありません。株式会社ビビッドソウルもまた、順調な成長の裏で2020年に大きな経営危機に直面します。クライアントの倒産と新型コロナウイルスの影響により、残高が「数百円」にまで落ち込むという窮地に立たされることに。受託開発に依存するビジネスモデルの脆弱性が、浮き彫りになった瞬間でした。


この危機を受け、ビビッドソウル社は「地に足を着けた、安全で、最速な経営」を目指す「経営計画書Ver1」を策定し、企業哲学を再明確化 。困難を乗り越えて2021年には見事な「V字回復」を達成し、2023年度には売上高成長率162%という驚異的な数字を記録しています。


そんな中、ビビッドソウル社は受託開発事業である「ものづくり事業」を基盤としつつ、自社パッケージ製品「KikanTree」を開発・販売することで、目覚ましい事業拡大を遂げています。「KikanTree」は、ポートフォリオにおける重要な柱に成長しました。
本記事では、ビビッドソウル社がどのようにしてこのような事業転換を実現し、「KikanTree」を成功に導いたのか、その経緯や独自の戦略、経営哲学に迫ります。

1. 創業の原点と「思いやり」の経営哲学

――御社は2017年に1席の間借りオフィスからスタートし、コロナ禍の危機を乗り越え、成長を遂げてきました。まずは、創業につながるこれまでのキャリア、そしてIT業界では異質とも感じられる「思いやり」という言葉を経営の軸に据えた背景についてお聞かせください。

株式会社ビビッドソウル

貝沼社長: 学生時代からプログラマーとして受託開発に携わり、システム開発会社で経験を積みました。その後、ホームページ制作会社ではディレクターとして、アプリ制作会社ではディレクター・事業部長・執行役員として幅広く業務を担当しました。その会社は急成長をしていて、上場を目指す勢いもありました。好きで長く働いてきたのですが、ちょうど30代半ばに差しかかる頃に「本当にやるべきこと」は何かと、ふと自問したんです。具体的な事業アイデアはなかったものの、心に残ったキーワードは「思いやり」という言葉でした。社会でうまく生きていける人というのは、たまたま時代にマッチした知識や技術を持っていただけかもしれない。そうでない人々が、社会から見落とされがちだと感じていました。自分だけが成功するのではなく、個性を認め合い、助け合う社会を構築したいと決意しました。私たちは事業ありきの企業ではなく、あくまで「思いやり」という揺るぎない理念が根底にあります。社名の「ビビッド」は個性を、「ソウル」は使命感を表現しているんです。


――その「思いやり」の理念は、社内でどのように浸透し、日々の業務にどのように反映されているのでしょうか。また、理念に基づいた活動が事業の成果につながるとお考えですか?


貝沼社長: ミッション・ビジョン・コアバリューは経営計画発表会や朝礼、面談でお話をしている他に、社員たちによるワークショップの企画もあり、浸透を意識してくれています。何か迷いが生じても、そこに立ち戻れば自分たちのすべきことが見えてくるんです。「全従業員、全人類、全生物の幸福に貢献する」という壮大なミッションは、達成不可能でも目指し続けることに意義があると考えています。弊社のスタイルは、ファンマーケティング。社員一人ひとりの「思いやり」が生命線になっています。社員同士がお互いに、そして顧客へと「思いやり」の理念が波及するよう、見返りを求めない「ギブ」の精神を重視しています。小さなギブの積み重ねが、結果として大きな目標達成への最短ルートになるのではないかと考えています。


2. 受託開発の限界と「KikanTree」誕生

――御社の創業事業である「ものづくり」事業は、ウェブサイトやシステムの受託開発を主軸とされています。この事業の特徴と強みについてお聞かせください。


貝沼社長: 私ができるのはITの「ものづくり」でした。そこで、一人で会社を立ち上げた当初は、その経験を活かしてウェブサイトやシステムの開発を事業の軸とし、基盤を固めていきました。業界や規模感にこだわらず、お預かりした案件一つ一つに全力で取り組む中で、経験と知見を積み重ねてきました。単なる技術提供ではなく、「ギブ」の精神で顧客と向き合い、丁寧なパートナーシップを築くことを心がけています。


――その「ものづくり」事業での経験を基にして、自社事業である「KikanTree」はどのように誕生したのでしょうか? そのきっかけや経緯についてお聞かせください。


貝沼社長: 「ものづくり」事業でお客さまの悩みを聞いていると、業務システムに課題を抱えているケースが非常に多いことに気づきました。特に、基本はスタンダードな業務内容だけど一部が特殊なため、一般的なソフトでは対応できない企業が多く、システム導入のハードルが一気に上がってしまう。ゼロからのフルスクラッチ開発はコストが高く、汎用パッケージでは対応しきれないというジレンマがありました。


このニーズを満たすために誕生したのが、基幹・業務システムパッケージの「KikanTree」です。よく使われる汎用的な機能をパーツ単位で豊富に用意し、お客さまの業務フローに合わせて自由に組み合わせたり、不足している機能は新たに開発することもできる「半カスタマイズ可能」なパッケージです。ゼロからつくるよりコストを抑えられ、ベンチャー企業のように事業がスピーディーに変化するお客さまにも柔軟に対応できます。


――「KikanTree」の「半カスタマイズ可能」という点は、他社の類似サービスと比べてどのような強みがあるとお考えですか?また、顧客獲得のためのサポート体制についてもお聞かせください。


貝沼社長: 他社のパッケージには、お客さま自身で機能を選び、組み立てるサービスもあります。しかし、自社の業務フローに合った機能がわからず、結果として十分に活用できない業務システムになってしまうことも少なくありません。「KikanTree」事業では、ディレクターが最初から最後までお客さまに寄り添い、ヒアリングを通じて最適な仕組みを提案します。ITに詳しくないお客さまでも理解しやすいように、モックアップを使って具体的なイメージを共有するなど、徹底した顧客目線でのサポートを提供しています。さらに、システム運用開始後も「外部のIT担当者」のような立ち位置で、「KikanTree」以外のITに関するご相談にも対応することでお客さまとの長期的な関係性を築き、リピートや新規紹介につなげています。


――自社サービスを立ち上げたIT企業が直面する大きな壁の一つが「販路開拓」です。御社はどのように販路を拡大されてきたのでしょうか?


貝沼社長: 「ものづくり」事業(受託開発)は、リピートやご紹介を通じて地道に広げてきました。いわゆるファンマーケティングで、「この人たちなら成功させてくれそう」「自分の力になってくれそう」と思ってもらえることが大切なのですが、順調に広がっていることを考えると、社員一人ひとりがお客さまにとってしっかり「ギブ」になっているんだなと感じています。本当に、社員のみんなに感謝です。 一方で「KikanTree」事業のような特定の課題にピタッと合うパッケージでは、課題を抱えている方に知ってもらうことがまず必要です。そのためファンマーケティングだけでなく、別の施策も取り入れなければならないと考えています。ビビッドソウルでは自社でECサイトの運営もしており、そこで積み重ねてきたノウハウがきっと活きてくると思っています。


3. 「EC」事業と新規事業への挑戦

――「EC」事業は、eコマースで健康飲料を販売するというユニークな取り組みです。この事業はどのような流れでスタートし、他の事業との相乗効果はありますか。また、他に新たにチャレンジしようとしている事業はありますか。

株式会社ビビッドソウル

貝沼社長: コロナ禍で、同じビルに入居していた美容品輸入会社が、サロンへの卸売がストップして困っていました。その会社が製造する100%オーガニック酵素ドリンク「MOEGI」のウェブ販売について相談を受け、協業がスタートしました。「ものづくり」事業の知見を活かし、ECサイト構築からマーケティング、ブランディングまでを担当しました。商品が非常に良く、有機JAS認証100%オーガニックで保存性も高いという独自性があったため、ブランディングもしやすかったですね。大手ECサイトには載せず、一流企業への卸売を通じて認知度向上を図る戦略を取りました。ECサイトは3回リニューアルし、売上も順調です。このEC運用のノウハウは、「ものづくり」事業の顧客にも還元しています。


受託開発の「ものづくり」事業、「KikanTree」事業、そして「EC」事業が相互に影響を与え合うことで、新たな知見やノウハウを蓄積して還元する現場での相乗効果が生まれており、非常に手応えを感じています。


そして現在着手しているのが、「バウリニューアル」事業です。これは欧米発祥の文化で、結婚記念日や節目となる年を祝うセレモニーのこと。私たちの「思いやり」の理念とも重なる部分があると考え、企業向けのサービスとして事業化を進めています。単なる周年イベントではなく、入社年次の異なる社員間の企業理念理解や帰属意識のギャップを埋め、一致団結する機会を創出したいと考えています。社内の新規事業チャレンジ制度から生まれたプロジェクトで、社員のアイデアが新事業として成長する姿を見ていると、経営者としても大きな刺激になりますね。


4. 企業文化と働き方:個性を活かす組織の秘訣

――御社は退社する社員が少なく、定着率も非常に高い状況です。IT人材の採用競争が激化する中で、理念にマッチングする人材を獲得し、個性を活かせる組織運営の秘訣は何でしょうか。また、リモート勤務と出社のバランス、人材育成への取り組みについてもお聞かせください。


貝沼社長: 社員が「自分らしさ」を発揮できる環境づくりを何よりも重視しています。個性を活かすには、相手の得意な点と不得意な点を、お互いがフラットな視点で理解していくことが必要だと考えています。苦手なことを無理にやらせるのではなく、適材適所に配置することを基本としています。そのため、定期的に全従業員と面談を行っています。


会社ではお金を稼ぐ事業とは別に、会社を前進・拡大させるためのチームがいくつか存在します。例えば、会社をPRするチーム、社内インフラを整備するチーム、社内イベントを企画運営するチームなど、約10個のチームがあります。基本的に1チーム2名体制で、社員が主体的に意見を出し実行することで、「自分たちが会社をつくっている」という当事者意識や参加意識を強く感じられると思います。


人材採用については、昨今のエンジニア人材の給与高騰というトレンドに対応するべく、首都圏のみにこだわらずにフルリモート勤務の地方在住者を増やすなど、多様な働き方を尊重して積極的に受け入れています。ただし、社員数のさらなる増加は私たちの必達目標ではありません。この会社の最大の目的は、世代が変わっても「思いやり」の理念を受け継いで存続させていくこと。社内カルチャーの確立と理念の継承を重視して、拡大志向に捉われずに、地に足のついた着実な成長を続けていきたいと考えています。


社内では、AI活用やUI・UXに関する勉強会、ECサイトのプラットフォームに関する情報共有など、社員のスキルアップに直結する取り組みが活発に行われています。こういった活動は、実は私が指示を出しているわけではなく、社員たちが自主的に企画し実施されています。会社の垣根を超えて同業他社の社員も巻き込んで開催されることもあり、「ギブ」の精神が社員たちを通して社外にも浸透しているようで、とても頼もしく感じています。


5. バックオフィス業務の強化とfreeeの活用

――freeeのようなクラウドツールの導入は、御社の業務や経営にどのようなインパクトをもたらしましたか? また、管理ツールに関する御社の考え方についてもお聞かせください。


浅田氏(経理担当): 私たちは「人事労務」と「会計」のプロダクトを導入していますが、とにかく業務効率が大幅にアップして、メリットを実感しています。以前はスプレッドシートで数字を管理し、すべてをゼロからつくり上げてデータ連携も意識できていない状況でした。


「人事労務」では勤怠管理が簡潔で正確になり、精神的な負担も軽減しました。ペーパーレスで手続きがスムーズになり、給与計算も自動連携で人的ミスを防げます。「会計」では請求書の受け取りフローが確立し、抜け漏れのリスクが低減。承認から振込、出金確認まで一元管理できるようになりました。資金の可視化とリアルタイムでの入出金把握が可能になり、経営判断にも役立っています。


貝沼社長: 今までは税理士さんを介して情報整理をお願いしていて、どうしても1カ月ほどのタイムラグが発生していました。迅速な決断をサポートしてくれるこれらのプロダクトは、もはや経営に必要不可欠な存在になっていますね。


木原氏(バックオフィス統括): 業務効率化に加え、属人化を防ぐことができるようになったのも重要なポイントです。「この人に確認しなければ業務内容がわからない」といった状況から脱却できたのも、freee導入のおかげだと実感しています。

株式会社ビビッドソウル


――freee導入のきっかけは何でしたか? また、機能面以外で特によかった点はありますか?


浅田氏: 個人的に数年前にfreeeの広告を見て資料を取り寄せたことがあり、ちょうどビビッドソウルに入社して課題を抱えていた時期だったので、話を聞いてみたところ、非常に良いと感じたのがきっかけです。


貝沼社長: 「人事労務」のプロダクトに関しては、freeeしか思いつきませんでしたね。社労士さん経由でfreeeを紹介してもらったのが、きっかけだったと思います。


現在検討中ですが、案件別の収支管理や原価管理については管理ツールなどを自社開発するのではなく、既存ツールを活用することが効率的だと考えています。一度テスト運用してみて、本当に使い続けるかを見極める方が、いきなり大きな投資をするよりもベターだと考えているんです。

木原氏: 機能面以外では、freeeのサポート体制が本当に素晴らしいと感じています。以前の他社サービスでは気軽に相談できませんでしたが、freeeの皆さまは親身になって課題に寄り添い、伴走して導入支援をしてくださいました。導入後の運用で困ることが多い現場にとって、寄り添ってサポートしてくれる安心感と、聞きやすく話しかけやすい雰囲気は非常に重要だと感じています。


浅田氏: 機能面では、「痒い所に手が届く」を操作するたびに実感しています。また、導入支援がある安心感も大きいものでした。どんなに素晴らしい機能が備わっていても、使い方がわからないと意味がありません。導入後、ゴールはどこなのかを明確にし、定期的にミーティングが開催されることによって進捗が明確になります。今の立ち位置がわかることによって、次のミーティングではこんな質問をしようなど具体的に見えてくるのです。多くの方にそれを知ってもらいたいと思っています。


6. IT業界を担う経営者へ:ビビッドソウル社からのメッセージ

――最後に、情報通信業界で奮闘されている経営者の皆さまへ、メッセージをお願いいたします。


貝沼社長: 私たちは「思いやり」という確固たる理念を胸に、時代に合わせた柔軟な事業展開と、社員一人ひとりの個性を尊重する働き方を追求してきました。IT業界という一見システマチックな印象を持たれやすい世界に身を置いていますが、これからも変わらずにずっと大切にしていきたいのは、周りの人へのあたたかなまなざしです。困っている人に手を差し伸べる。弱い人の声に耳を傾ける。そんな「思いやり」の精神を拡げていくことも、私たちの使命だと思っています。


今後目指していきたいのは、「思いやり企業」といえばビビッドソウルと認識してもらえるような、象徴的な存在となること。そのためには、もっともっと「思いやり」の考え方を世の中へと波及させていく必要がありますし、さらなる成長を遂げて、より多くの方々と接点を持てればと考えています。


どんな境遇に生まれたとしても、生きづらいと思う人がいない社会をつくるために。日々変化するIT業界の中で目の前のお客さまと向き合いながら、少しでもその理想の実現に貢献できるよう力を尽くしていきたいです。そして、さらなるIT業界の発展のために、今回の私たちのお話が少しでも業務のプラスになれば幸いです。

株式会社ビビッドソウル