「作家ファースト」でヒット作を生む組織に——マンガボックスを支える「共創パートナーシップ」の裏側

株式会社マンガボックス 経営企画部 副部長 村中友也氏、フリー株式会社 SMB事業本部 第4事業部 セールスチーム アカウントマネージャー 前野遼二氏

課題
経営の課題をリアルタイムに把握バックオフィスの体制構築・効率化

 2013年より事業を始めたマンガボックスは、DeNAからのカーブアウトやTBSのグループ入りを経て、今ではマンガアプリの会社ではなく、多数のオリジナル作品を輩出する“電子出版社”として、第二創業期を迎えている。そんなマンガボックスの躍進を支えるのは、100名を超える作家はもちろんのこと、他にも作品づくりを支える40名超の外部パートナー。同社ではかねてより、freee会計・人事労務といったfreeeのプロダクト群を活用してきた。さらに2024年よりfreee業務委託管理も導入し、外部パートナーとの契約・発注・請求・支払いの一元管理に役立てているという。その狙いや成果について、同社 経営企画部 副部長 村中友也氏と、フリー株式会社 SMB事業本部 第4事業部 セールスチーム アカウントマネージャー 前野遼二氏に話を聞いた。

あと1年半で連載作品を倍に!第二創業期を迎えるマンガボックス

——マンガボックスさんは、マンガアプリ事業のイメージでしたが、オリジナル作品を制作する電子出版事業がメインなんですね。

村中友也氏(以下、村中): そうですね。2013年のサービスリリース以降DeNA内の一事業として展開している際には、マンガを配信するプラットフォームビジネスが主軸でしたが、現在は出版事業を主軸として2026年度末に100作品の連載を目指して積極的に投資し、全社でヒット作を創出する体制を構築しています。


株式会社マンガボックス

村中 友也(むらなか ともや)氏
株式会社マンガボックス 経営企画部 副部長
「感情を揺り動かし、日本を扶く(たすく)」というミッションを掲げるマンガボックスの経営企画部 副部長として、採用・育成・労務・制度・AI推進も含むHR領域全般を管掌。
撮影場所:WeWork ジ アーガイル アオヤマ(以下、同様)


前野遼二氏(以下、前野): 採用数や組織の形も、当時とは大きく変わったのではないでしょうか。


村中(マンガボックス): そうなのです。特に編集者がいないとマンガはつくれないので。昔は5名ほどだった編集者が、今では23名に増えました。現在連載しているマンガボックスのオリジナル作品は50作品以上あるのですが、100作品を目指すには、更に今以上の編集体制にしなければならないと考えて、人員計画を組んでいます。


前野(フリー): マンガボックスさんでは、編集者を増やすだけでなく、編集者が編集業務に集中できるよう、それ以外の業務をサポートするパートナーの方々がいらっしゃると伺いました。


株式会社マンガボックス

前野 遼二(まえの りょうじ)氏
フリー株式会社 SMB事業本部 第4事業部 セールスチーム アカウントマネージャー
マンガボックス社をはじめとする広告・コンテンツ制作業界の顧客を複数社担当。アカウントマネージャーとして、経営課題の解決と業務改善の支援に従事。

ITと出版で文化が異なる中、「ヒット作創出」のための体制とは

村中(マンガボックス): 全社で作品を支える体制を構築していますが、中でも特徴的なのは「事業推進部」ですね。「作家ファースト」を掲げるマンガボックス編集部が、編集に集中できる環境を構築したいという想いからこの体制が生まれました。編集者の仕事は多岐にわたり、出版社によってやり方が全然違います。弊社にはDeNAというメガベンチャーのカルチャーが色濃く残っているのもあり、テクノロジーで効率化を図りながら、オープンかつスピーディな意思決定で物事がどんどん進んでいく。なので、出版社から転職してきた人など、IT企業に近い文化に慣れない人が、入社後の業務に苦労されることがよくありました。


 それに、紙媒体メインの出版社と電子出版社では、スケジュールの引き方など、作品をつくる工程が大きく異なります。たとえば紙媒体の場合、週刊誌や月刊誌のように、マンガが公開される日は固定されていますが、電子出版の場合、作品によって毎週・隔週・月一などフレキシブルに変わります。おまけに、戦略によっては、他社の電子媒体で先行配信するようなこともある。そのあたりの意思決定や制作進行管理が、かなり複雑になるのです。


 そこで、そうしたスケジュール管理や、契約書や発注・支払い周りの調整といった、作品づくり以外の周辺業務は、freeeのプロダクトもうまく使いながら事業推進部のメンバーが巻き取って、作品づくりに集中してもらえるようにしています。


——なるほど。本来の仕事に集中できる環境づくりという視点にも、IT企業のカルチャーを感じます。

村中(マンガボックス): 当社では、作家以外にも40名を超える外部パートナーがいて、多様な人材に活躍いただいているのもその1つかもしれません。編集部にも一部いますし、先ほどお話しした事業推進部にもいます。あとはアプリ開発のエンジニアや、広告宣伝周りのアドバイザー、HR周りを支援いただいている方などにも、業務委託として参画いただいています。

業務委託の現状が分かると、社内リソースの把握や業務の振り返りが円滑に

——この方々とのお取り引きを管理するために、「freee業務委託管理」を活用されているということですよね。導入する前は、どのような課題があったのでしょうか。

村中(マンガボックス): 多種多様な職種の外部パートナーの方々に参画いただく中で、現場担当者が個別に対応しているため、コミュニケーションが各担当者に閉じてしまい、全社的な現状把握が困難という課題がありました。以前はスプレッドシートやノーコードツールを使っていたのですが、契約管理までが限界で。ちゃんとすべてのお取り引きで発注書を出しているのかとか、どんなお仕事をお願いして何日間かかったのか、といったことまでは分からなかったのです。


 それに、HRを担当している私としては、全社的なリソースが足りているのかいないのか知りたいし、フェアバリューの観点から、パートナーにお支払いする報酬を定期的に見直す必要もあると思っていて。社員と違ってパートナーとの関係性は見直すきっかけがないため、条件調整や業務の振り返りがないがしろになりがちじゃないですか。そうした課題を解消できるようになったのは、freee業務委託管理を導入した大きなメリットだと感じています。


前野(フリー): すばらしいですね。freee業務委託管理にはタレントマネジメントにも活用できる評価機能があるのですが、パートナーの方々と長期的に良好な関係を築くためにご活用いただいているケースはまだ多くはないため、とてもうれしいです。


株式会社マンガボックス


フリーランス新法の影響は? 公正かつ公平な対応と“良い距離感”への想い

——気になるのは、2024年11月に施行された「フリーランス新法」の影響です。

村中(マンガボックス): マンガボックスは上場会社であるDeNAから分社化しているため、ガバナンスはもともと徹底しており、報酬の不払いや曖昧な契約といった問題はありませんでした。とはいえ、人的なミスは少なからずあったので、フリーランス新法を契機に、ワークフローの再確認や社員へのコンプライアンス意識の啓蒙も含め、意識レベルを引き上げたところはあります。


 ですので、freee業務委託管理を導入した背景も、実はフリーランス新法への対応がきっかけではありません。もともとfreee会計を使っている中で、インボイス制度への対応をはじめ、freee会計だけでは対応しきれない部分が出てきたので、freee業務委託管理も導入した、というのが実際のところです。


前野(フリー): マンガボックスさんはもともとしっかりとしたガバナンスを築かれていたので、フリーランス新法への対応で慌てることはなかったということですね。


村中(マンガボックス): 私たちは、「誠実に、真摯に」という行動指針を大切にしています。パートナーとの関係性を公正かつ公平なものにしたいと願うのは、ごく自然な発想なのです。


 もちろん、業務委託ですから、私たちのスタンスを押し付けることなく、互いに良い距離感を保つのが大前提ですが、その中で「マンガボックスのファンになっていただきたい」という想いは強くあります。


 だからこそ、たとえば月に1度のハッピーアワーという社員が集まる懇親会の場には、希望されるパートナーにも来ていただけるようにしています。契約の形態が、業務委託であろうが社員であろうが、人と人との関係性で成り立っていることに変わりありませんから。


フリーランス新法がもたらした意識変革

——フリーさんにお聞きします。フリーランス新法に慌てず対応できたマンガボックスさんのような企業よりも、そうでない企業のほうが多いのではないでしょうか。

前野(フリー): フリーランス新法にて、「実務として最低限何をすべきか」というご相談は非常に多く寄せられました。とはいえ、他社の動きを見てから考えるという企業も一定数ありましたし、「うちの業界は長年こんな商慣習でやってきたんだから、今までどおりでいいんだよ」という姿勢の企業も少なくなかったのが実情です。


 ですが、2025年6月に、フリーランス新法の施行後初となる、大手出版社2社に対して公正取引委員会から勧告処分が行われました。そのため、これを機に、あらためて危機感をお持ちになる企業が増えるのではないかと見ています。


村中(マンガボックス): この業界は作家も含めて業務委託の方が非常に多いですし、今後は業界問わずフリーランスがさらに増えてくると思っているので、この辺でちゃんとメリハリをつけておくことは大事ですよね。


 マンガボックスでも、ハラスメント対応や産休・育休などの配慮義務など、規定の変更等の必要な対応はしていますが、まだまだ出来ることはあると思っています。なので、freeeのようなツールがあれば、作業負担はそれほど増えませんし、効率化できた分、これらの検討に時間をあてられるので、非常にありがたいです。


前野(フリー): マンガボックスさんでは、村中さんのサポートをされているパートナーがfreee業務委託管理を使っていたり、給与計算はfreee人事労務で社労士に任せていたりするなど、freeeのプロダクト上でも外部の専門性をうまく取り入れながら、クラウドを有効活用されていますよね。


 freeeの良さは、どの領域から始めても、最終的にはひとつのプラットフォーム上でデータをつなげられる点にあります。一気にすべてを変えようとすると負担が大きくなりますが、まずは勤怠管理だけといったように、取り組みやすいところからスモールスタートしていただき、ゆくゆくはマンガボックスさんのようにfreeeを「統合型経営プラットフォーム」としてご活用いただけるとうれしいですね。

システムと人の役割分担で、健全な環境をつくる

——では最後に、企業と外部パートナーとの理想的なつながりを模索されているマンガボックスさんと、それをシステムで支えているフリーさんから、読者のみなさんにメッセージをお願いします。

村中(マンガボックス): 世の中に愛される作品をつくるには、クリエイターがクリエイティブに専念できる質の高い環境構築が必要不可欠であると感じています。そのためのDXであり、AI活用であると考えております。


 また、働き方や雇用のあり方がますます多様化していく中で、HRとして正社員だけでなくさまざまな雇用形態の人材を見ていく必要性が高まると考えています。


 その際、コンプライアンスを意識しながら良い関係を築くために、システム化すべきところはシステム化して、人と人でつながる感情的なところはしっかりと向き合う。この使い分けが重要です。フリーランス新法をひとつの転機として、より健全で開かれた環境を皆さんとつくっていけたらと思います。


前野(フリー): これまでもこれからも、freeeがアプリ・コンテンツ制作業界を裏方として支えていきたいという想いは変わりません。そのうえで、今後はさらにAIを活用して進化を遂げます。


 たとえば、これまで外部のBIツールなどで行っていたデータ分析やデータ活用を、freee内でもできるようにしていこうと、鋭意開発中です。これにより、freeeに蓄積されたデータを人的資本開示などにもお役立ていただきやすくなると思いますので、どうぞご期待ください。


株式会社マンガボックス


(HRZine 2025年9月 掲載記事より転載/抜粋)

株式会社マンガボックス