愛媛県今治市は、国内屈指のタオル産地です。約100年の歴史をもつタオルメーカー株式会社ハートウエルは、一時は民事再生の危機に瀕しながら、匠堂グループの傘下で再生を果たしました。現在は取締役・下田様が経営の舵を取り、管理グループのご担当者様が勤怠管理から給与計算までを担います。限られた人員で製造・販売の現場を動かし続けるために選んだのが、freee人事労務とfreee勤怠管理Plusでした。「管理業務は東京本部になるべく任せ、現地は現場でしかできないことに集中する」——その実現への思いを、お二人に聞きました。
民事再生を経て、匠堂グループの傘下へ
下田様がハートウエルに参画された経緯をお聞かせいただけますか。
下田様(以下、下田): ハートウエルは昭和初期に創業した老舗タオルメーカーです。しかし、2016年に民事再生を申請することになり、支援の手を挙げたのが匠堂グループです。匠堂は「課題を抱える中小製造業の技術やノウハウ、従業員の方々を尊重した上で事業成長を支援する」というコンセプトのもと、複数の製造業を傘下に持つ会社です。私は2023年にそのグループからハートウエルへ着任しました。
「技術を守る」だけでなく、成長させるための仕掛けがあると聞きました。
下田: 匠堂グループの強みのひとつが、経営機能の共有化です。マーケティング機能をグループ全体で持ち、各拠点がそれを利用できる仕組みになっています。また今後は経理・労務についても、本部が支援する割合を高めたいと思っています。
現地でしかできないことは現地でやる、東京でもできることは東京に任せる——この考え方を、ハートウエルでも実践しています。
「作れば売れる」時代から、マーケティングを活かした事業転換
「今治タオル」を取り巻く市場環境も、大きく変化していると聞きます。
下田: かつては品質の良いものを作れば売れました。しかし今は、顧客が何を求めているかを把握し、マーケティングに時間を投じなければ生き残れない時代です。弊社では、フィールドセールスの担当者が全国の百貨店や雑貨店のバイヤーへ直接足を運び、現場の声をリアルタイムで吸い上げます。その情報を匠堂のマーケティングチームと共有し、商品開発へとつなげています。トレンドを押さえて自社のものにできること、そしてそれを高品質で作る技術があること——この2つが揃っていることがハートウエルの強みだと思っています。
具体的にどんな商品化も行われましたか?
下田: コロナ禍にはマスクを製造し、クラウドファンディングで1億円超を集めました。サウナブームが広がりを見せる近年は、サウナハットも商品化して好評を得ています。時代に求められた商品開発ができるのも、現場の課題や世の中のニーズを迅速に経営へ反映できる体制があるからです。昔のやり方に固執するのではなく、新しいものをどんどん取り入れていく社風です。
給与計算を「初めて」担う——freeeが支えた実務立ち上げ
管理グループのご担当者様は、入社後に初めて給与計算を担当するようになったと伺いました。
管理グループ ご担当者様(以下、担当者): 勤怠管理の経験はありましたが、給与計算はハートウエルへ入社してから初めてです。入社当初はまだ旧システムとfreeeの並行稼働期間中で、まずは旧システムとfreeeの計算結果の差異をひとつひとつ確認するところから始まりました。端数処理の違いにより、わずかな差が出てしまっていたので、どこまで許容するかを上司と何度も話し合いながら詰めていきました。
それでも続けられたのはなぜでしょうか。
担当者: 「間違えてはいけない」というプレッシャーは今も変わりませんが、freeeは、勤怠データさえ揃っていれば給与計算が自動で進む仕組みになっていて、手作業で計算する必要がないので負担は少ないです。わからない点はチャットサポートで確認しながら進めました。
ペーパーレスへの「強引な」一歩と、社員の変化
給与明細の電子化も主導されたと聞きました。
担当者: 正直に言うと、最初の動機は自分の作業を減らしたかったからです。給与明細を印刷して封筒に入れて手渡しする作業に加え、一部経理業務も並行していたので、これ以上工数を増やせないという判断でした。思い切って電子化に切り替えた際、一部の社員からは戸惑いの声もありましたが、「わからなければ会社で一緒に確認しましょう」と案内しながら電子化へ移行を進めました。今では全員がスマートフォンで給与明細を確認しています。
年末調整の電子化についても、同様の経緯があるのでしょうか。
担当者: 前職では紙の申告書を配り、回収して本社に渡すという方法が当たり前でした。freeeでは社員が自分でスマートフォンから申告内容を入力し、そのまま提出できるので書類を印刷し、渡し、回収する手間の全てがなくなります。電子化初年度は一部社員に対して、一緒に画面を見ながら、個別にサポートしましたが、今では9割ほどの社員が自力で完結できるようになりました。管理側の工数が大幅に減ったことで、他の業務に時間を充てられるようになっています。
東京本部との役割分担——現場は製造と販売に集中する
匠堂グループとの役割分担は、どのように設計されているのでしょうか。
下田: 現状の売上規模を考えると、バックオフィスの配置を手厚くすることは難しい中、管理部門に2人だけの状況では業務がオーバーフローしがちです。そこで、給与計算や社会保険の手続きなど、リモートでも対応できる業務は、段階的に東京本部へ移していく方針です。freeeはクラウドなので、東京と今治が同じデータにアクセスできる。この前提があるからこそ、労務管理を東京で処理するという役割分担が機能します。
ご担当者様としては、その移行をどう感じていますか。
担当者: 正直、移せるものはどんどん移したいと思っています。担当する業務領域が広いので、細かな業務を今治で抱えていると、本来なら現場のサポートに使えるはずの時間が取られてしまう。私ともう一人に業務が集中し属人化していることも課題と感じています。次を担う社員に引き継げる仕組みを、freeeを使いながら整えていきたいと考えています。
地域のDXをリードし、次の100年へ
最後に、今後の展望をお聞かせください。
担当者: ハートウエルは、社長でも取締役でも「〇〇さん」と名前で呼ぶ文化が徹底されていて、役職では呼ばないんです。この風通しの良さと昔から受け継いだ技術力で、これからも顧客の声を活かした商品を作っていきたいですね。
下田: 数年後に創業100周年を迎えますが、あくまで節目であって、ゴールではないと思っています。ただ、その節目のタイミングで、次の100年を作っていける組織になっていることが目標です。財務的な足腰はもちろん、人材・技術・DXの基盤が整って、持続的に成長できる会社になっていること。100周年はそのチェックポイントであり、そこから先の100年に向けて走り続けられる体制を整えることが、今の私の使命だと思っています。
民事再生という苦境を経てもなお、職人の技と温かい組織文化を守り続けてきたハートウエル。「現場に集中できる環境を作る」というシンプルな目標のもと、freeeを軸に管理業務を整理してきた同社の取り組みは、地域の製造業が「持続し、成長する」ためのひとつの答えを示しています。


