コネクトプラットフォーム「homehub」「workhub」を提供する株式会社ビットキー。2018年の設立から急成長を遂げ、現在、IPOを視野に動き出しています。
同社は2019年よりfreee会計やfreee人事労務のプロダクトを順次導入してきました。freeeのプロダクトが創業期からどのような役割を果たし、IPO準備においてどのように活用されているのか、経営管理第一本部 経理部長の玉虫雄太様と、業務DX推進チームマネージャーの中瀬純様に話を伺いました。
IPO準備体制とfreeeプロダクトの変遷
――貴社の事業内容を教えてください。
中瀬純様(以下、中瀬): 当社は「つなげよう。人は、もっと自由になれる。」をミッション・ビジョンに掲げ、コネクトプラットフォーム「homehub」「workhub」を展開しています。スマートロックなどのハードウェアや、スマートフォンアプリなどのソフトウェアと連携することで、物理的な空間(リアル)とデジタルをシームレスに接続し、人々の行動におけ る制約を解消することを目指しています。
――IPOに向けた準備をスタートさせたと伺いました。差し支えない範囲で現在の状況を教えていただけますか。
中瀬: 現段階では、IPOが具体的に決まっているわけではありません。しかし、経営陣は設立時から、上場を視野に入れていたと思います。とはいえ、設立当初から上場を目指せるレベルの会社だったわけではなく、上場も見据えた管理体制を敷きはじめたのは2、3年前からです。
玉虫雄太様(以下、玉虫): そうですね。私がビットキーにジョインした2年前の時点で、すでに監査法人とコミュニケーションを取っていました。監査法人に経理関連の数値の妥当性やIT監査の部分を確認してもらい、上場に向けて不足している点や改善が必要な点について、指摘を受けている状況です。
――上場準備に向けて、IPO準備室などを設けるケースもあります。貴社ではどのような体制を組んでいますか?
中瀬: 上場準備責任者である経営管理第一本部長を中心に、経理、情報システム、法務、労務関係の担当者が集まり、現状では擬似的な上場準備室のような形にしています。約10名程度が関わっています。
月一度の勉強会と、不定期のミーティングを実施しています。勉強会はすでに5、6回実施していて、内部 統制で求められる要素や、過去に発生した他社の不正事例などについて理解を深めたり、自分たちのビジネスやオペレーションに照らし合わせて、「私たちの場合だと、こういう形のリスクがあるよね」といった議論をしています。
今後、より本格的な準備を進める際に、本格的なタスクフォースを組織する可能性は十分にあります。
――上場準備を進めるにあたって、上場経験者がいると心強いと思いますが、貴社には経験者がいらっしゃいますか?
玉虫: はい、おります。私自身、前職で1年間ではありますが、内部監査室長として上場を経験しました。また、最近加わった法務部のメンバーや、情報システム部にも上場経験者がいます。専門領域ごとに上場経験者や上場企業で働いていた者がいますので、彼らの過去の経験や、知識を活かしています。
――貴社は設立後、早い段階からfreeeのプロダクトを導入されていますね。当初の導入背景と現在の状況を教えていただけますか。
中瀬: 設立当初は、他社の会計システムを使用していました。これは小規模事業者向けに強みのあるシステムだったため、決算対応に苦戦していました。会社の成長に伴い、2019年に「freee会計」に切り替えました。
freeeは実際に触ってみると、だいたい使い方がわかる。 翌年の2020年には給与計算と経理システムとの連携を一本化するために、「freee人事労務」も導入しました。
従業員が立替した経費精算も給与支払と連携できるし、一体的に管理したほうがいいよねという形だったと思います。
今は玉虫も加わり経理チームが強くなったので、自主的に、「ここの運用を、こう変えていこう」ということができるチームになってきています。
玉虫: 私が入社する前になりますが、同じく2020年に「freee会計」を、エンタープライズプランにアップグレードしています。この移行は、従業員数が増えたことにより、必要となる機能が増えた事が大きな理由ですが、上場を見据えても、仕訳承認機能などの一般的に必要な機能が揃っているという事が間違いないですね。
内部統制、決算早期化、予実管理――上場を見据えた基盤強化
――先ほど、監査法人とのコミュニケーションの中で、いくつかの課題が指摘されたとのお話がありました。具体的にどのような課題が見つかったのでしょうか。
中瀬: IT監査に関連する課題として、システムに修正を加える際の変更管理が挙げられます。あるいは、強い権限を持っている人が必要以上に存在しないか?かつ、その状況を定期的に把握する運用が確立できているか?といった部分は、まだ改善の余地があります。
これらは、システム全体に関わる課題です。freeeの機能自体は、こうした内部統制の強化に対応できると聞いているので、私たち 運用側の仕組みづくりが求められています。
さらに、IT監査においては、SOC1 Type2レポートを受領しているシステムかどうかが重要です。freeeのプロダクトはこの要件を満たしています。
玉虫: SOC1 Type2レポートを受領しているSaaSであれば、監査法人とのやり取りにかかる工数が減ります。あとは、我々がそこにちゃんと真摯に向き合って、運用のポリシーをきちんと決めていかなくてはいけません。
――IPOの準備では、決算の早期化が求められます。貴社では「freee会計」を活用されていますが、どのように効率化や早期化に役立っているか、お聞かせいただけますか。
玉虫: 決算業務で最も時間を要するのは、立替経費の申請遅延や請求書の取り込み不備だと私は考えています。
freeeには立替経費の申請・承認そして経費精算までを可能にする機能があり、これが早期化に貢献しています。ビットキーでも以前は多くの会社と同様に、紙の領収書を提出して精算する方法が主流でした。
しかし、freeeのモバイルアプリを利用すれば、スマートフォンで領収書を撮影するだけでOCRが自動で情報を読み取ります。このアプリで領収書を撮影したとき、例えばタクシー移動であれば、該当する勘定科目を自動で推測し、設定されるようにできます。
まだ全社員が利用している段階ではないですが、今後社員一人ひとりが各自のスマートフォンからこの機能を利用できるようになれば、経費精算の早期化に貢献するだろうと考えています。
請求書の取り込みについても同様で、支払依頼機能を使い、申請者側から情報を揃えて提出してもらえれば、経理が手入力する手間が大幅に削減されるため、これも早期化に繋がっています。
――日々の業務効率化が、結果的に早期化に役立っているということですね。
玉虫: おっしゃる通りです。現在は200名を超える規模になっていますが、この人数の経費精算を全て経理がまとめていたら、到底対応しきれないでしょう。freeeの活用によって、効率的に処理できるようになったことが、早期化の一助になっていると考えています。
――IPO準備においては、「予実管理」も厳しくチェックされます。この部分に対して、freeeのプロダクトが果たしている役割や、そのメリットをどう感じていますか?
玉虫: 予算に関しては現在freeeを使用していませんが、実績に関してはすべての会計データがfreeeに集約されています。「freee会計」や「freee人事労務」に設定している部門別の情報を連携させることで、部門別の実績集計が容易になります。
予 算も部門単位で管理しているため、予算と実績の突き合わせがスムーズです。集計作業もfreeeからデータをダウンロードしてGoogleスプレッドシートに貼り付けするだけで済むため、非常に効率的です。
部門ごとの実績管理に加え、品目タグも活用して勘定科目ごとの実績も把握しています。これを元に、次年度予算を品目ごとに作成するPDCAサイクルを回すこともできます。
執行役員も自部門の月次推移や品目ごとの内訳を直感的に確認できるため、予算オーナーにとっても非常に有用だと言えるでしょう。
freeeの機能を最大限活用し、コーポレートアクションを最適化するつくる
――バックオフィス体制の構築について、今後の展望をお聞かせください。
玉虫: freeeをさらに効果的に活用できないかと考えています。例えば、購買申請機能を使って、社内での決裁を伴う稟議フローを効率化したり、予算消化率を把握する運用を考えたりと、様々な可能性が考えられます。
また、現時点で請求書業務は他社のサービスを使っているので、そのデータを「freee会計」と連動させて、スタッフの作業効率を向上させることも考えています。
日々の業務の中で属人化している管理や、まだ十分に使えていないfreeeの機能があると思うので、そういったものをうまく整理して、効率化につなげたいですね。一言でいえば、コーポレートアクションを可能な限りfreeeが持つ機能に寄せていくイメージです。
こうした改善は、経理部だけでは完結できるものではありません。中瀬のいる業務DX推進チームと連携し、他部署の協力も得ながら、よりスマートな運用を実現できればいいと思っています。
中瀬: 玉虫の考えと基本的に同じですが、付け加えると、freeeのプロダクトを活用して、業務プロセスをより長く、かつ適切に管理できるようにしたいと思っています。
例えば、今は購買申請とその承認がfreee上で行えるようにしています。しかし、実際に購入されたか、あるいは期限内に支払いが完了しているかといった管理がまだ完璧ではないという課題があります。これは今後、監査でも確認されるようになると思うので、改善していきたいですね。
新しい機能を活用すれば、運用レベルを向上できることがわかっているので、適切な使い方に切り替えるプロジェクトを進めていきたいです。
また、スタートアップやベンチャーでは、会社としての購買活動が様々な部署で個別に行われがちです。当社では、単に承認の記録を付けるだけで満足するのではなく、購買実施部門の組織整備等も併せて行い、全社の購買活動の可視化を強化する取り組みを進めているところです。
freeeにはSaaSアカウントやIT資産の管理ができる「Bundle by freee」もあるので、当社でも活用できそうかfreeeさんから情報提供を頂いているところです。お金に関わる会社の動きをできるだけシームレスにfreeeに連携させ、会社の動き全体を分かりやすくすることを目指していきます。
――最後にお二人がどのような気持ちで準備に関わっているのか、教えていただけますか。
玉虫: 通常の本務に加えて、兼務で上場準備に関わっているため、激務であることは間違いありません。しかし、私自身はむしろ「楽しい」という気持ちで取り組んでいます。
以前は厳格な監査法人に勤務しており、決まったルーティンで業務をこなすことが求められる環境でした。でも、今は自分の考えや思いを反映させて会社を前進させることができるので、非常にワクワクしています。
中瀬: 上場は一つの選択肢ですし、上場を選択した場合もゴールではありません。どんな形であれ、お客様に対して、もっと良い価値を提供できるようになり、その結果として、会社が創業当初から実現したいと考えている世界観が実現できるならば、重要なステップだと捉えています。
私自身は、眼の前に改善すべき課題がある状態が嫌いではありません。IPO準備が大変なのは間違いないですが、「これを改善すればさらに上のレベルに到達できる」という目標がはっきり見えているので、挑戦意欲を掻き立てられますね。
――本日は、貴 重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
株式会社ビットキー
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