個人事業主が従業員を雇ったときの社会保険の手続きは?労働保険や健康保険などを解説

更新日:2026/9/27

監修:大柴 良史
監修:安田 亮

目次

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個人事業主は1人でも従業員を雇うと原則、労災保険への加入が求められ、労働条件によっては雇用保険への加入も必要です。さらに、常時5人以上の従業員を雇う個人事業所は、業種によっては健康保険・厚生年金保険への加入も義務付けられます。

加入すべき社会保険は、従業員の人数や労働条件、事業所の業種によって異なり、手続きの窓口にも違いがあります。個人事業主として従業員を雇う際は、どの保険の加入義務があるかを確認し、期限内に手続きを済ませることが重要です。

本記事では、個人事業主が従業員を雇ったときに必要な社会保険の種類や手続き、保険料の負担額、支払った保険料を経費にできるかを解説します。

個人事業主が従業員を雇うと加入が必要な社会保険

社会保険とは、広義では健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険といった公的保険制度の総称です。狭義では健康保険・介護保険・厚生年金保険を「社会保険」と呼び、雇用保険・労災保険を「労働保険」と呼びます。


社会保険の主な5種類

従業員を雇ったときにどの保険への加入が必要かは、従業員の人数や労働条件、個人事業所の業種によって異なります。

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従業員を1人でも雇うと原則として労災保険への加入が必要

個人事業主が従業員を1人でも雇うと、雇用形態を問わず、原則として労災保険への加入が必要です。労災保険は、業務や通勤が原因のケガや病気などに対して、労働者やその遺族に給付を行う制度です。

雇用保険は、原則として次の2つの条件をいずれも満たす従業員を雇う場合に、加入手続きが必要になります。

  • 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる
  • 1週間の所定労働時間が20時間以上ある

一方、常時5人未満の従業員を使用する個人事業所は、原則として健康保険・厚生年金保険の強制適用の対象外です。ただし、従業員の半数以上の同意を得て事業主が申請し、厚生労働大臣の認可を受ければ、任意適用事業所(任意で加入できる事業所)になれます。

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従業員を常時5人以上雇うと健康保険・厚生年金保険への加入が必要

法定17業種にあたる個人事業所で従業員を常時5人以上雇う場合は、健康保険・厚生年金保険への加入手続きが必要です。法定17業種は以下のとおりです。

社会保険の適用対象となる法定17業種

  • 物の製造
  • 土木・建設
  • 鉱物採掘
  • 電気
  • 運送
  • 貨物積卸
  • 焼却・清掃
  • 物の販売
  • 金融・保険
  • 保管・賃貸
  • 媒介周旋
  • 集金
  • 教育・研究
  • 医療
  • 通信・報道
  • 社会福祉
  • 弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業

2029年10月からは原則として業種の要件が撤廃され、業種を問わず常時5人以上を雇う個人事業所が適用対象になります。ただし、2029年10月の施行時点ですでに存在している非適用業種の個人事業所は、当分の間は適用の対象外です。

出典:厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」

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労働保険の加入手続きの方法

一元適用事業の個人事業主が労働保険に加入するときは、最大で以下の4つの書類を提出します。

一元適用事業の労働保険の加入手続きで提出する書類

  • 保険関係成立届
  • 概算保険料申告書
  • 雇用保険適用事業所設置届
  • 雇用保険被保険者資格取得届

一元適用事業とは、労災保険と雇用保険の保険料の申告・納付をまとめて行う事業です。農林漁業や建設業などは、労災保険と雇用保険の手続きを別々に行う二元適用事業にあたります。

労働保険の成立・保険料申告の手続き

一元適用事業では、「保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署へ提出します。提出期限は、保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内です。

保険関係成立届とあわせて「概算保険料申告書」を、保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内に提出し、概算保険料を納付します。概算保険料は、保険関係が成立した日から年度末までに従業員へ支払う賃金総額の見込額に、保険料率を掛けた金額です。

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提出書類 提出先 提出期限
保険関係成立届 所轄の労働基準監督署 保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内
概算保険料申告書 所轄の労働基準監督署・都道府県労働局・日本銀行のいずれか 保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内

出典:厚生労働省「労働保険の成立手続」

なお、二元適用事業では、労災保険と雇用保険で手続きを分けて行い、提出先も一元適用事業とは一部異なります。

雇用保険の手続き方法

雇用保険の対象となる従業員を雇ったときは、「雇用保険適用事業所設置届」を所轄のハローワークへ提出します。提出期限は、設置の日の翌日から起算して10日以内です。

また、対象の従業員ごとに「雇用保険被保険者資格取得届」を資格取得日の属する月の翌月10日までに提出します。

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提出書類 提出先 提出期限
雇用保険適用事業所設置届 所轄のハローワーク 設置の日の翌日から起算して10日以内
雇用保険被保険者資格取得届 所轄のハローワーク​ 資格取得日の属する月の翌月10日まで

出典:厚生労働省「労働保険の成立手続」

健康保険・厚生年金保険の加入手続きの方法

常時5人以上の従業員が働く法定17業種の個人事業所は、健康保険・厚生年金保険への加入が必要です。

加入要件を満たした個人事業所は、「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を日本年金機構へ提出します。提出先は事業所の所在地を管轄する事務センターまたは年金事務所で、期限は事実発生から5日以内です。

強制適用となる個人事業所では、事業主の世帯全員の住民票(コピー不可・個人番号の記載がないもの)などの添付書類が必要です。

加入対象の従業員については、「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」もあわせて5日以内に提出します。正社員のほか、週の所定労働時間と1ヶ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上のパート・アルバイトも、原則として加入対象です。また、従業員数51人以上の特定適用事業所では、4分の3未満でも一定の要件を満たすパート・アルバイトは加入対象となります。

出典:日本年金機構「新規適用の手続き」

社会保険料の負担はどれくらい?

従業員を雇ったときに事業主が負担する主な保険料は、以下のとおりです。

  • 労災保険料
  • 雇用保険料
  • 健康保険料
  • 厚生年金保険料

労災保険料の負担額

労災保険料は、雇用している事業主が全額を負担します。保険料は、従業員に支払う賃金の総額に、事業の種類ごとに定められた労災保険率を掛けて計算します。

労災保険料 = 全従業員に支払う賃金総額 × 労災保険率

主な事業の労災保険率は以下のとおりです。

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事業の種類 労災保険率
卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業 1,000分の3
金融業、保険業又は不動産業 1,000分の2.5
食料品製造業 1,000分の5.5
建築事業(既設建築物設備工事業を除く) 1,000分の9.5
その他の各種事業 1,000分の3

出典:厚生労働省「労災保険率表」

雇用保険料の負担額

雇用保険料は、事業主と従業員が、それぞれに定められた保険料率に応じて負担します。事業主負担分は、従業員に支払う賃金の総額に、事業主負担分の雇用保険料率を掛けて計算します。

事業主が負担する雇用保険料 = 雇用保険の被保険者に支払う賃金総額 × 事業主負担分の雇用保険料率

2026年度の雇用保険料率は以下のとおりです。

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事業の種類 労働者負担 事業主負担 雇用保険料率(合計)
一般の事業 1,000分の5 1,000分の8.5 1,000分の13.5
農林水産・清酒製造の事業 1,000分の6 1,000分の9.5 1,000分の15.5
建設の事業 1,000分の6 1,000分の10.5 1,000分の16.5

出典:厚生労働省「令和8(2026)年度雇用保険料率のご案内」

健康保険料の負担額

健康保険料は、原則として事業主と従業員が半分ずつ負担します(労使折半)。給与や賞与にかかる事業主負担分の計算式は、以下のとおりです。

事業主が負担する健康保険料 = 標準報酬月額 × 健康保険料率 ÷ 2

事業主が負担する健康保険料 = 標準賞与額 × 健康保険料率 ÷ 2

健康保険料率は加入先によって異なり、協会けんぽでは都道府県ごとに設定されています。たとえば東京都の2026年度(令和8年度)の保険料率は9.85%です。40歳以上65歳未満の従業員は、健康保険料率に介護保険料率(2026年度は1.62%)が上乗せされます。

2026年度からは、子ども・子育て支援金(2026年度は0.23%)が健康保険料などとあわせて徴収されます。また、厚生年金保険の被保険者を雇用する事業主は、子ども・子育て拠出金(拠出金率0.36%)を全額負担する仕組みです。

出典:全国健康保険協会「令和8年度保険料額表」
出典:こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」
出典:こども家庭庁「子ども・子育て拠出金事業について」

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厚生年金保険料の負担額

厚生年金保険料は、事業主と従業員が半分ずつ負担します。事業主負担分は、以下の式で計算できます。

事業主が負担する厚生年金保険料 = 標準報酬月額 × 厚生年金保険料率 ÷ 2

事業主が負担する厚生年金保険料 = 標準賞与額 × 厚生年金保険料率 ÷ 2

厚生年金保険料率は18.3%で固定されているため、事業主の負担割合は原則として9.15%です。

出典:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」

従業員の社会保険料は経費にできる?

従業員の労働保険料・社会保険料のうち、

事業主負担分は必要経費にできます。

勘定科目は、一般的に「法定福利費」を使って計上します。一方、給与から天引きする従業員負担分は事業主の経費にはならず、「預り金」として処理するのが一般的です。

出典:国税庁「福利厚生費」

個人事業主本人が加入する社会保険は?

個人事業主本人が加入する保険は、会社員とは以下のように異なります。

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保険の種類 個人事業主本人 会社員
労災保険 原則対象外(特別加入が可能) 対象
雇用保険 原則加入できない 条件を満たせば加入
公的医療保険 国民健康保険 健康保険
公的年金 国民年金 厚生年金保険

出典:厚生労働省「特別加入制度のしおり(中小事業主等用)」
出典:厚生労働省「国民健康保険制度の概要」
出典:日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」

個人事業主本人は、雇用される労働者ではないため、労災保険は原則対象外で、雇用保険にも原則加入できません。ただし、労災保険は、中小事業主などの要件を満たせば特別加入制度を利用できます。

また、他の医療保険に加入していない個人事業主は、国民健康保険への加入が必要です。20歳以上60歳未満で厚生年金保険に加入していない場合は、原則として国民年金に加入します。

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まとめ

個人事業主が従業員を1人でも雇うと、原則として労災保険への加入が必要です。労働条件によっては雇用保険の対象となり、法定17業種の個人事業所で常時5人以上の従業員を雇う場合は、健康保険・厚生年金保険への加入手続きも求められます。

各保険では、加入条件だけでなく、提出書類や提出先、期限、事業主が負担する保険料も異なります。

また、従業員の労働保険料・社会保険料のうち、事業主負担分は必要経費として計上可能です。従業員を雇う前後に必要な手続きを整理し、期限内に漏れなく対応しましょう。

参考文献

▶︎厚生労働省「労働保険とは」
▶︎厚生労働省「雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!」
▶︎厚生労働省「個人事業所で働く方への社会保険の適用について」
▶︎厚生労働省「労働保険の成立手続」
▶︎日本年金機構「適用事業所と被保険者」
▶︎日本年金機構「保険料の計算方法について」
▶︎J-Net21(中小企業基盤整備機構)「従業員を雇う場合の社会保険」

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「入力する」を選ぶと、記入欄が出てきます。


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事業所得・不動産所得・山林所得のいずれかを選択します。


事業所得・不動産所得・山林所得のいずれかを選択

給与を支払う従業員がいる場合は、その詳細を入力します。


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よくある質問

  • 個人事業主で従業員が1人のときに社会保険は必要?

    従業員を1人でも雇うと、原則として労災保険への加入が必要で、一定の要件を満たす従業員は雇用保険の対象です。また、法定17業種の個人事業所で常時5人以上の従業員を雇用する場合は、健康保険・厚生年金保険への加入手続きも求められます。

    詳しくは、記事内の「従業員を1人でも雇うと原則として労災保険への加入が必要」をご覧ください。

  • 個人事業主が従業員にかける保険は?

    従業員を1人でも雇うと、原則として労災保険への加入が必要です。一定の要件を満たす従業員を雇う場合は、雇用保険への加入も必要です。

    また、法定17業種の個人事業所で常時5人以上の従業員を雇用する場合は、健康保険・厚生年金保険への加入手続きも求められます。

    詳しくは、記事内の「従業員を常時5人以上雇うと健康保険・厚生年金保険への加入が必要」をご覧ください。

監修

大柴 良史

大柴 良史

1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。

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安田 亮

安田 亮

1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。

安田亮 公認会計士・税理士事務所
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