北海道・帯広で創業された株式会社ファームノートホールディングス。事業会社の「株式会社ファームノート」は酪農・畜産業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するクラウドサービスを提供、2019年設立された「株式会社ファームノートデーリィプラットフォーム」は自社牧場の経営に着手しています。持株会社と事業会社2社の企業グループは現在、帯広・札幌・中標津(なかしべつ)・東京・鹿児島の5拠点に広がり、今後もグループ企業を増やすことを見込んでいます。
freeeを活用しながら企業グループのバックオフィス業務を一手に取りまとめるのは、株式会社ファームノートホールディングス東京事務所で経理や労務事業を担当するアドミニストレーショングループです。各拠点に散らばった経理・人事情報を東京本社がリモートで集約・管理するにあたっての課題や工夫、今後の展望について、執行役員・管理統括の志賀浩一郎氏に伺いました。
フレキシブルに動きやすい「ホールディングス制」へ移行
――まずは御社の事業内容を教えてください。
ファームノートホールディングス・志賀 浩一郎 氏(以下、志賀):私たちは現在、2社の事業会社を統括しています。まず株式会社ファームノートでは2013年の設立以降、酪農生産のDX化を推進しています。
従来、生産者の方は、牛一頭一頭の情報を紙で管理しており、大きな手間がかかっていました。その課題に対し、クラウドサービス「Farmnote Cloud」を提供してスマートフォンで個体の情報を確認・入力できるようにしたり、AIを活用したセンサー「Farmnote Color」を用いて牛の行動や状態を見える化し、異常を検知したりできるようにして、ITを活用した効率的で生産性の高い牧場経営を支援しています。
――さらに踏み込んで、自社牧場の経営も始められたそうですね。
志賀:はい、その事業を担っているのが、2019年に北海道・中標津で設立した株式会社ファームノートデーリィプラットフォームです。ゼロから1年で自社牧場を立ち上げ、現在は順調に生乳の生産を行っています。ファームノートの製品・サービスをフル活用しながら、牛舎のレイアウトに海外の設計思想を取り入れたり、最新鋭の搾乳ロボットや糞尿処理機械を導入したりして、働く「人」と「牛」に配慮した新しい酪農生産 へのチャレンジを行っています。
――御社がグループ化された経緯についてお聞かせいただけますでしょうか。
志賀:私が入社した2016年に外部から大きな増資を受けることになり、もともとあったファームノート社と株式会社スカイアークが株式移転という形を取り、持ち株会社となる株式会社ファームノートホールディングスを設立しました。
その後にファームノートデーリィプラットフォームを設立し、事業会社3社を擁するグループとなりました。その後、株式会社スカイアークが当社グループから独立し、現在は持ち株会社1社・事業会社2社の体制となっています。
――事業会社を取りまとめる上で、どのような運営が大切だと思われますか。
志賀:「事業会社の増加に対して、フレキシブルな組織運営ができるようにする」という点ですね。私たちはグループ全体で技術革新を進め、「人・動物・自然」が抱えるさまざまな社会課題を解決し、サスティナブルな事業を作り続けることを目指しています。その実現のため、今後新たに会社を設立したり、M&Aに踏み切ったりすることも視野に入れています。
現状としては、持ち株会社がファイナンス機能を持ち、経理や人事総務などの会社のオペレーションを担っていることで、事業会社はそれぞれの事業に専念できています。このように役割分担ができてさえいれば、この先事業会社が増えることがあっても、現場で事業運営に勤しむメンバーが煩雑なバックオフィス業務にとらわれることなく、フレキシブルな組織体制を築くことができるはずだと考えています。
各地に拠点が別れていても、freeeを活用することでグループ各社との情報共有がスムーズに
――freeeを導入したのはなぜでしょうか?
志賀:事業の拡大に伴い、紙ベースでのやりとりが難しくなってきたため、2016年にfreee会計を導入しました。私の入社当時から拠点が帯広、札幌、東京の3つに分かれており、社内の人間であるにも関わらず、会ったことのない人と仕事をするのが当たり前の企業カルチャーがありました。したがって、営業などの業務系システムは全てクラウドサービスを利用していたのですが、会計ソフトは一般的なインストール型のままだったんです。
もともとクラウドとの親和性が高い組織だったこともあり、私が入社したタイミングでfreee会計を導入することに決めました。freeeを選んだのは、機能開発に力を入れているところが見えたためです。5年前は現在と比べて機能は少なかったですが、「今後充実していくだろう」と見越していました。最近では、期待以上のスピードでアップデートしてくれていると感じます。
――導入時、困難に感じたことはありましたか?
志 賀:freeeは、会計知識がなくても使いやすい点がメリットだと思いますが、会計のキャリアを積んできた私にとっては、仕組みを理解するまで戸惑いがありました。複式簿記の概念と照らし合わせると「どうつながっていくか」が最初は見えなかったんです。導入当初は、株式移転や増資の対応などが重なってしまったこともあって、freeeの良さを十分には生かせていませんでした。
――そのジレンマをどのように解決されたのでしょうか。
志賀:年度決算が一巡した頃につながりが見えてきて、直感的に操作できるコンセプトを理解できてきましたね。例えば、freeeで費用を入力すると自動的に出金まで処理ができますが、一般的な複式簿記の記帳方法としては、なじみが薄いと思います。
しかし、決算書をまとめる作業を通して「あの入力だけで、これがまとまっているのか」といったことが感覚的にわかり、フィットしてきたんです。新しいものを取り入れるときはどうしても保守的になってしまうのですが「実はさっさと取り入れたほうが楽だった」と、後からよくわかります。いまでは私だけでなく、新しく入った経理経験のまだ浅いスタッフも、短期間でfreeeを使いこなせるようになっています。習熟コストが抑えられる点も、freeeの特徴だと感じますね。