徳島県板野郡に位置し、地域の医療と福祉を支える医療法人修誠会「吉野川病院」。300名を超える職員が働く同院では、長年、紙を中心としたアナログなバックオフィス業務が常態化し、一部の職員に大きな負担がかかっていました。特に給与計算業務の属人化は深刻な課題であり、担当者の退職を目前に控え、業務のDX化は待ったなしの状況でした。
1年にも及ぶ比較検討の末、同院が選んだのはfreee人事労務でした。導入の決め手となったのは、複雑な勤務体系に対応できる機能性だけではなく、親身に寄り添ってくれる「人」の存在でした。
今回は、導入を決定した理事、導入プロジェクトを牽引した社会保険労務士、そして長年一人で給与計算を担ってきた担当者の方々にお集まりいただき、導入前の課題からfreeeと共に描く未来まで、その軌跡を語っていただきました。
【導入前の課題】月80時間の残業と「もし私が倒れたら…」という恐怖
——まず、freeeを導入される前のバックオフィスの状況についてお伺いできますでしょうか。
浦崎さん(理事長補佐): 一番の課題は、やはり人事労務の分野でした。タイムカードの管理から残業申請、各種届出まで、すべてが手作業。事務職員が毎日、一人ひとりのタイムカードと勤務表を突き合わせるという、非常にアナログな世界でした。それにかかる労力は、今思えば本当に無駄が多かったと感じています。
——中でも給与計算業務は特にご苦労が多かったと伺いました。濱口さん(総務担当) は当時、300名近い職員の方の給与計算を、お一人で担当されていたそうですね。
濱口さん(総務担当):はい。慣れていたので、300人分の入力自体は一日ぐらいでできていました。でも、給与は絶対に間違えられないので、入力した後に、もう一度すべて突き合わせる作業が発生します。働き方改革などでパートの方も増え、一人ひとり勤務時間や契約形態が違う。「月曜日は3時間、水曜日は8時間」といった個人の希望をすべて聞いていたので、計算は本当に複雑でした。
——想像するだけで大変な作業量ですね…。毎月の残業時間もかなりのものだったのではないでしょうか。
濱口さん(総務担当): 残業は…多かったですね。給与以外の業務もありましたので、月70時間、80時間になることもありました。
浦崎さん(理事長補佐): 周りもそれが普通だと思っていたので、特に疑問も感じていなかったかもしれません。毎日夜10時、11時まで残業している職員が何人かいて、法人としても「これは具合が悪い」と問題視していました。
——まさに限界に近い状況だったのですね。そこからシステムの導入を検討されるようになった、直接のきっかけは何だったのでしょうか?
濱口さん(総務担当): 私自身の定年が近づいてきたのに、後任者が決まっていなかったことが大きかったです。この紙のままの業務を誰かに引き継ぐのは、あまりにも酷です。それに、給与計算は誰でもすぐにできるものではないので、「属人化」の状態もすごく不安でした。もし私が急に倒れたら、職員の給料が払えなくなってしまう。それは絶対にあってはならないことです。マニュアルは作っていましたが、それを引き継ぐであれば、いっそシステムを導入して、いちから始めた方がいいと思っていました。
【導入の決め手】「どうせ無理」を覆した、血の通ったコミュニケーション
——DX化を決意され、1年以上かけて比較検討されたそうですが、病院特有の複雑さが壁になったと伺いました。
濱口さん(総務担当): はい。病院というのは、365日稼働しています。医師から看護師、介護職員など職種も働き方も多様です。介護保険、医療保険、さらに サービス付き高齢者向け住宅という自費のサービスもあって、それぞれ給料の基準も違う。この複雑なシフトや給与体系に、なかなかシステムが対応できなかったんです。10年以上前にも一度検討したのですが、当時は買い取り型で非常に高額だったため諦めた経緯がありました。
——その中でfreeeが候補に挙がったのですね。理事は、当初freeeの導入に少し懐疑的だったとお聞きしました。
浦崎さん(理事長補佐): 正直、最初は「あかんだろうな」と思っていました。よそに比べて金額的にも高いという話でしたし、東京の会社で、我々地方から見たら大手のようなイメージ。敷居が高くて、融通が利かないんじゃないかという認識がありましたね。
——その印象が大きく変わるきっかけがあったのですね。
浦崎さん(理事長補佐):ええ。こちらの要望やリクエストに対して、本当にアットホームに、スムーズに対応してくれたんです。営業担当の竹中さんの対応も素晴らしくて、こちらの話に「NO」がほとんどなかった。最終的な契約の話になったときも、上司の方が二つ返事で我々の希望に沿うように動いてくれました。その人間性に惹かれましたね。『医療・福祉業界に特化したサポートができる』という点も大きかったです。完璧なものなんて最初からあるわけじゃない。でも、その都度のお願いに対して真摯に対応してくれる。ああ、freeeにしてよかったなと、今でも話しています。
【導入時の挑戦】社労士という「専門性」と「対話」で乗り越えた壁
——そして導入が決まったタイミングで、プロジェクトを牽引される社労士の資格を持つ正木さんが入職されたのですね。
正木さん(社労士): はい。面接に来たときに、システムを入れる検討中だと聞いて、面白そうだと思いました。ただ、入職してすぐにこの大役を任されたので、正直しんどい時もありましたね。
—— 実際にプロジェクトを進める上で、一番の壁は何でしたか?
正木さん(社労士): やはり現場の職員、特にベテラン層からの「変化への抵抗」でした。300人を超える職員のうち、半数以上が50歳以上です。新しいものを取り入れることに抵抗があって当たり前。それが悪いことだとは思いません。だからこそ、一番時間をかけたのが、各部門の管理者との対話です。一人ひとりと向き合い、今どういうやり方で、何が問題になりそうか、丁寧にヒアリングを重ねました。「なんで今さら変えるの?」という声がほとんどでしたね。
——その丁寧な対話が、現場の皆さんを動かしたのですね。濱口さん(総務担当) から見て、正木さん(社労士)の進め方はいかがでしたか?
濱口さん(総務担当): 彼が社会保険労務士だということで、みんな話を聞いてくれるんです。各部署の主任さんたちが、時に無理なことを言うこともあります。でも、労働基準法などをすべて把握していない人が言うのと、専門家が法律を基に説明するのとでは、説得力が全く違う。最高の責任者が来てくれた、という安心感がありましたね。
【導入後の成果】残業ゼロとルールの標準化、そして未来への期待
——皆さんのご尽力で導入が進み、今では大きな成果が出ているそうですね。
浦崎さん(理事長補佐): ええ。一番は、残業が本当に減ったことです。以前は月70〜80時間残業していたのが、嘘のように。給与計算にかかっていた膨大な時間がなくなり、業務の属人化も解消されました。これは本当にすごいことです。
——業務効率化以外にも、何か良い変化はありましたか?
正木さん(社労士): freeeを入れることで、いろんなルールを決めないといけなくなりました。例えば、残業は「事前に申請する」というルールを徹底しました。今までは事後申請が多かったのですが、それはダメだと。主任クラスの職員でも事後申請する人がいたので、個別に指導を続けています。ルールの徹底は今でも難しいですが、法に沿った労務管理ができるようになったのは大きな進歩です。
——最後に、今後の展望についてお聞かせください。人事労務のDX化を成し遂げた今、どのような未来を描いていますか?
正木さん(社労士): 人事評価を給与に反映させる仕組みや、雇用契約書の電子化など、まだfreeeでで きていないことがたくさんあります。紙の書類をどんどんなくして、簡素化を進めていきたい。名前で検索すれば、その職員の情報がすべて出てくる。そんな世界を目指したいですね。
浦崎さん(理事長補佐): そして、freeeさんにお願いしたい未来像として、医療と福祉が連携したシステムを作ってほしい。うちのように病院と介護施設を両方持っている法人は地方にたくさんあります。患者様は病院と施設を行き来することも多い。その情報がシームレスにつながるプラットフォームがあれば、どれだけ業務が効率化され、患者様へのサービスが向上するか。そんな業界特化型のツールへと進化してくれることを、心から期待しています。

