「薬局のバックオフィス業務は、いまだにアナログで非効率な部分が多い」と考える今回は、先進的な薬局経営を推し進める株式会社グリーンメディック。代表取締役の多田さん、そして現場をリードする仲原さんと笠嶋さんに、『freee人事労務』導入の背景から、実現した劇的な業務効率化、そして同社が描く「未来の薬局像」について、お話を伺いました。
「自分でやる」価値変容への共感。それがfreee導入の決め手

――数ある労務管理ツールの中から、freeeを選んでいただいた決め手は何だったのでしょうか。
多田社長(以下、多田): freeeのことは、もちろんサービス開始当初から知っていましたよ。ベンチャーとして「これはユニコーンになるんじゃないか」という勢いでしたからね。
freeeというサービスが持つ思想に、僕が最もシンクロしたところは「例えば勤怠を会社側が催促するのではなく、自分で入力する。そのUXがわかりやすいこと」という点です。例えるなら、スマートフォンが登場して、誰もが自分で情報にアクセスし、発信できるようになった。それと同じ変化がバックオフィスの世界でも起きるべきだと考えていました。
仲原さん(以下、仲原): 現場の視点から言うと、導入前は労務管理、特に勤怠管理に大きな課題を抱えていました。もともと勤怠管理には別のシステムを使っていたのですが、当社の薬局はスタッフの働き方が非常に多く、シフトのパターンも複雑です。以前のシステムでは、それらの情報を手作業で一つひとつ入力する必要があり、管理側の作業が本当に大変でした。月の業務時間の3分の1近くを、その作業に費やしていたような感覚です。
多田: 我々は1分単位での残業代計算を徹底したかったのですが、以前の仕組みでは15分単位でしか計算できず、社会保険労務士(以下、社労士)さんからも「そろそろ変えないとまずいですよ」と指摘されていました。
笠嶋さん(以下、笠嶋): それに加えて、給与計算は社労士さんにお願いしていたのですが、結局、勤怠データの集計や整理はこちらでほとんど行っている状態でした。月額の支払いコストに対しては自分たちの負担が大きすぎる」という感覚がずっとありました。従業員自身が申請し、その後の社労士との連携もスムーズになり、かつバックオフィスの負担を根本的に減らせる。その目的を達成するため にfreeeを選びました。
多田: 当時、業界的には新しいクラウドツールを導入することに、社労士さんが難色を示すケースも少なくありませんでした。自分たちの仕事が減ってしまうという懸念があったのでしょう。しかし、我々からすれば、給与計算のような作業は、もはや「仕事」ではなく、AIが代替すべき「作業」です。生産性が悪すぎる。だからこそ、中小企業に寄り添い、会計から労務まで一気通貫で効率化できるfreeeは、まさに待ち望んでいたサービスでしたね。
業務時間は半分以下に。締め作業も翌5営業日までに完結。
――実際にfreeeを導入されて、どのような効果がありましたか?
仲原: 効果は絶大でした。まず、私の業務時間が劇的に減りました。以前、私が勤怠管理や関連業務に使っていた時間と、現在、在宅勤務のスタッフにお願いしている時間を比較すると、体感ですが半分か、それ以下になっています。おそらく3分の1程度にまで削減できているかもしれません。
――3分の1の業務時間の削減は大きいですね
仲原: はい。以前のシステムはUI(ユーザーインターフェース)も古く、文字も小さくて見づらい、「使いにくいけれど、やらなければいけないからやっている」という典型的な業務ツールでした。会社のPCでしか操作できないという制約もありましたし。
それがfreeeに変わってUIは格段に見やすくなり、従業員は自分のスマートフォンからいつでも申請ができるようになりました。この「便利さ」と「使いやすさ」が、従業員への浸透を後押しした最大の要因だと思います。まずは従業員自身が「便利になった」と感じられること。それが結果的に会社全体の生産性向上に繋がる。freeeはその点を非常によくクリアしているツールだと感じています。
――導入によって締め作業のスピードも上がりましたか?
仲原: はい。月末締めで、翌月5〜6日にはデータを社労士さんにお渡しできるようになりました。承認作業なども含めて、6営業日ほどで完了しています。
属人化を排し「三角形」で価値を生む。グリーンメディック流の経営哲学
――グリーンメディックさんは、単なるツールの導入に留まらず、業務プロセスそのものを非常に合理的に設計されていると感じます。
多田: 僕は、日本の多くの企業が「人」というものを重要視しすぎている、あるいは「人が介在すること」自体を善としすぎていると考えています。しかし、現代社会において、人と人が1対1で向き合うコミュニケーションは、実 は非効率や軋轢を生む原因にもなり得ます。例えば、上司が部下にフィードバックをする。良かれと思って言っても、受け手は「自分のことを否定された」と感じてしまうかもしれない。これは非常に難しい問題です。
そこで我々が意識しているのが、人とAI(ツール)と人が作る「三角形のコミュニケーション」です。例えば、何か申請に不備があった場合、人が直接「ここ間違ってるよ」と指摘するのではなく、AIエージェントが「この申請はルールと異なります」と一次対応をする。エージェントに対して人間は腹を立てません。なぜなら、自分が間違っていることが客観的な事実として示されるからです。そして、そのエージェントが出した結果を元に、人と人が「じゃあ、どうすればもっと良くなるか」という前向きな議論をする。この三角形の構図が、クリエイティブな組織を作る上で非常に重要だと考えています。
笠嶋: 社長が意図していることを、私たちは日々の業務の中で自然と実践している形ですね。例えば、自動精算レジの導入もそうですし、患者さんへの服薬指導で使うツールもそう。あらゆる業務で「機械やITに任せられることは任せる」という思想が徹底されています。
特に今の若い世代は、人と直接やり取りすることに心理的なハードルを感じる傾向があります。機械を介在させることで、彼らはスムーズに業務を受け入れ、遂行できる。結果として、自分たちも楽になるし、会社全体の効率も上がる。この文化が根付いていますね。
――その考え方を、どのように従業員に浸透させているのでしょうか。
多田: 「うちはこういう考え方なんだ」と声高に言うことはあまりないかもしれません。ただ、我々が徹底しているのは「属人的な仕事をなくす」ということです。
仲原: 「その人にしかできない仕事を作るな」とは、常々言われていますね。誰でもできるように標準化することこそが、最も価値のある能力だ、と。これはもう、うちの会社の風土です。
多田: いまだに「自分が苦労して覚えた技術」に固執する人は少なくありません。それを「鍛錬」と呼び、価値があるものだと考えがちです。しかし、時代はもう変わりました。面倒なプロセスはAIやエージェントに任せて、人間はもっと早く結果にたどり着くべきです。その意識にスイッチできれば、みんなfreeeのような合理的なツールを選ぶはずなんです。
薬剤師と事務の比率を「1:2」に逆転。薬局の常識を覆す業務改革
――「属人化の排除」という思想は、薬局の現場業務にも反映されているのでしょうか。
笠嶋: まさにそうです。数年前に、私たちは薬局業界の常識を覆す大きな業務改革を行いました。それは、薬剤師と医療事務の人数比率を、それまでの「2:1」から「1:2」へと完全に逆転させたことです。
――薬剤師よりも医療事務の方が多い体制にした、ということですか?それはすごいですね。
笠嶋: はい。これから調剤報酬が厳しくなっていく中で、人件費率の高い薬剤師が、医療事務でもできる作業を行っている状態は非効率だと考えました。そこで、処方箋の入力、ピッキング、受付、会計といった対物業務や作業を徹底的に医療事務に移管したのです。もちろん、バーコード管理などでミスが起きない仕組みを構築した上でです。
これにより、薬剤師は薬のチェックや患者さんへの投薬、フォローアップといった、専門性が求められる対人業務に100%集中できるようになりました。薬剤師には「作業はするな、薬のマネジメントをしろ」と伝えています。
――在宅医療の分野でも、同様の効率化をされていると伺いました。
笠嶋: はい。多くの薬局では、薬剤師が薬を患者さんのご自宅まで届け、カレンダーにセットして…とやっていますが、これでは1日に回れる件数に限界があります。そこで私たちは、薬の配達を地域のレストランなど物流のプロに業務委託しました。薬剤師は薬を持たず、服薬指導ツールだけを持って身軽に患者さんのご自宅へ向かいます。
その結果、これまで1日に4〜5件しか回れなかったのが、多い日には13〜14件と、約3倍の患者さんを訪問できるようになりました。労働生産性は劇的に向上しましたね。こうした取り組みを見学に来られる同業の方も多いのですが、やはり全体を大きく変えることへのハードルは高いようです。
いっしょに「進化」できるパートナー。薬局の未来に、freeeは不可欠な存在
――これからfreeeの導入を検討されている、あるいは業務改革に踏み出せないでいる薬局の方々へ、何かアドバイスはありますか?
仲原: 私たちが新しい仕組みを導入する際に最も重視しているのは、「従業員に落とし込むまでの準備を徹底的にする」ことです。「やってみて」では、従業員は何をしていいか分からず不安になります。そうではなく、「この場合はこのボタンを押すだけ」というレベルまで作業を分解し、マニュアル化し、「これなら自分にもできそうだ」と思わせるところまで、経営層や推進チームが汗をかく。その準備さえしっかりできれば、どんな改革も必ず前に進むはずです。
――最後に、皆さんにとってfreeeとはどのような存在でしょうか。
笠嶋: 私にとっては「進化を感じるサービス」ですね。freeeは常にアップデートを繰り返し、新しい機能が追加されていきます。私たちも「こういうことはできないか」と要望をぶつけることがありますが、そうしたユーザーの声に耳を傾け、サービスを良くしていこうという姿勢を感じます。固定化されたシステムではなく、共に変わっていける パートナーとして、なくてはならない存在です。
現場の従業員にとっても、「使いやすくて便利」という点が浸透しており、今ではすっかり当たり前のツールになっています。今後は、まだ残っているシフト作成の自動化(AIシフト)や、申請を出さない従業員への督促を自動で行ってくれるAIエージェント機能などに、大いに期待しています。
多田: 今後、薬局は「物を渡す」という物流ハブとしての機能をより強化していくべきだと考えています。その上で、薬剤師が対人業務でどのような付加価値を提供できるかが問われる。働き方も、正社員だけでなく、業務委託など多様な契約形態が増えてくるでしょう。
そんな未来において、多様な働き方を一元管理し、バックオフィス業務を支えるfreeeのようなプラットフォームの重要性は、ますます高まっていくはずです。我々が常に合理的であり続け、最先端を走り続けられるのは、「その方が楽しいから」に尽きます。終わりなき進化の追求。その旅路において、freeeはこれからも頼れる存在であり続けてくれると信じています。

