介護現場が踏み出したDX化の挑戦──業務の見える化で支援の質向上へ

社会福祉法人 武蔵会 理事長 宇津木 俊子 様、医療法人 和会 理事 河野 秋枝 様
ケアハウス 武蔵台 施設長 浅見 和弘 様、特別養護老人ホーム 清流苑 施設長 佐島 愛 様

課題
エクセル・紙管理からの脱却給与計算から振込までラクにミスなく

埼玉県日高市の緑豊かな自然に囲まれた地域に拠点を構える社会福祉法人 武蔵会は、軽費老人ホーム 「ケアハウス武蔵台」、特別養護老人ホーム「清流苑」、高齢者サポートセンター武蔵台を中心に、8つの高齢者向け事業所を運営しています。地域に根ざし、医療と介護の連携を大切にしながら高齢者が安心して暮らせる環境づくりに取り組んでいます。


コロナ禍では感染防止の観点から、職員同士の接触を最小限に抑えるため、タイムカードを分散して設置するなど工夫を凝らして対応してきました。その一方で、人事労務管理は一段と煩雑化し、ご入居者の安全を守りつつ、業務を効率化することが長年の課題となっていました。こうした背景から、武蔵会ではfreee人事労務、freee勤怠管理Plusの導入を決め、段階的に運用を進めています。


社会福祉法人ならではの業務上の苦労や、freee導入によって期待する効果などを、理事長の宇津木 俊子様、理事の河野 秋枝様、グループ施設で施設長を務める浅見 和弘様、佐島 愛様にお話を伺いました。


課題

・勤怠集計と給与計算に毎月約1週間(約40時間)かかる
・年末調整時に約140名分の書類を手作業で配布・回収・入力
・勤怠記録はタイムカード、給与は別システムで管理しており、業務が分断され多重チェックの負担が生じる

導入の決め手

・勤怠管理から給与支払いまでを一気通貫で自動化できる仕組み
・操作画面がシンプルで、誰にとっても「使いやすそう」という印象を持った

期待する効果

・給与計算や年末調整などの業務時間を大幅に削減
・ペーパーレス化による情報の一元管理とミスの削減
・残業申請・承認の透明性向上と現場状況のタイムリーな把握

Excel・手書き・タイムカード……分断された運用に限界

社会福祉法人 武蔵会


――システム導入前のバックオフィスはどういった体制で、どのような課題がありますか?


河野さん(以下、河野): 各事業所で出退勤をタイムカードで管理し、それぞれのデータを私たちが集計して、法人全体を取りまとめている本社に送っていました。本社でそのデータをもとに給与明細を作成するという流れです。グループ全体で140名ほどの職員が在籍するなかで、私たち事務担当が連携しながら対応しています。


特に大変なのが年末調整です。個人情報が含まれているため、書類を封筒に入れる際にも間違いがないよう何度も確認して各職員の方に配布します。その後、回収、データ入力と、本当に手間がかかり大変でした。締め切りを過ぎても書類が揃わなかったり、「書き方がわからない」という職員のお手伝いをしながら作業を進めないといけないので……。毎年苦労していました。


――そのほか、時間がかかっていた業務はありましたか。

佐島さん(以下、佐島): タイムカードの集計です。私のほうでExcelの表に職員1人ひとりのシフトを入力し、月末が近づくと実際の勤務状況に合わせて変更があれば修正していました。そのExcelデータをもとに、河野が月末にタイムカードの打刻と照らし合わせてチェックしています。タイムカードの集計は2回チェックし、給与明細ができあがった段階でもう一度確認するので、合計3回の確認作業が発生していました。集計と確認をすべて合わせると、毎月1週間ほどの作業時間がかかっていると思います。


河野: 特に、コロナの時は大変でしたよね。出勤できる職員が限られていたので、シフト通りにいかず「誰がいつ働いていたのか」が曖昧になってしまって、チェックにもかなり時間がかかりました。感染拡大を防ぐために通常の職員出入口からの出入りではなく、そのユニットへ直接出入りする体制をとりました。そのためタイムカードもその出入口に設置したため、職員が手書きで記録していました。休憩の有無、残業の確認、法定休日割増の対応など確認事項が多く、職員の忙しい業務の中に連絡を取り合うのが本当に大変でした。


社会福祉法人 武蔵会


「一気通貫で業務を効率化できる!」現場の声でfreee導入を満場一致で決定

社会福祉法人 武蔵会


――システムの導入を考えたきっかけや決め手となったポイントを教えてください。


浅見さん(以下、浅見): これまでずっと煩雑な業務をもっとシンプルにできないかと考えていました。ただ、どのタイミングで、どんなツールを使って変えたらよいのか分からず、なかなか踏み出せなかったんです。そんな中、グループで連携している医療法人和会(やわらかい)が人事労務管理システムの導入を検討していると聞き、私たちも一緒に取り組むことにしました。


河野: 他社のシステムと比較する中でfreeeを選んだのは、勤怠管理と給与支払いが連携している点に魅力を感じたからです。事前にfreeeの担当者から説明を受けた際、「このような流れで業務が進められますよ」という全体像が見えて、一気通貫で効率化が図れるところがいいなと。使いやすそうな画面構成や、親しみやすいデザインも決め手のひとつでした。また、「勤怠のアラートなど通知機能が充実しているのもいいね」という意見がありました。最終的には医療法人和会の関係者とも話し合い、満場一致でfreeeに決まりましたね。


変革の壁に向き合いながら、職員と一歩ずつ前へ

――社会福祉法人ならではの課題はありましたか?

佐島: 清流苑では、職員の平均年齢が55歳と比較的高く、スマホやアプリの操作にあまり慣れていない方も多いんです。「これからはアプリで勤怠入力や給与明細が確認できるようになりますよ」と伝えても、最初はみんな戸惑って「わからない」と返ってくることが多くて……。ですから、私たちが「一緒にやりますよ」と言って、通常業務の合間に使い方を個別に教えているところです。


河野: 導入直後は打刻がうまくいかずそのまま帰ってしまう職員もいて、「この先大丈夫かな」と心配もありましたが、今では職員も少しずつ慣れてスムーズに運用できるようになってきました。新しいシステムに対して抵抗感のある方もいらっしゃいますが、「私たちがサポートするから大丈夫だよ」と声をかけながら進めています。やはりデジタルに慣れていない職員に慣れてもらうまでが、一番のハードルですね。でも、この過渡期を乗り越えれば、確実に業務は楽になると思います。今は、これまで何十年と続けてきたやり方を一気に変えていく、大きな転換期にあると実感しています。


デジタル化で現場の動きがリアルタイムに把握可能に

社会福祉法人 武蔵会


――freeeの導入にあたって、どのようなことを期待していますか?


河野: これまでは紙ベースでのやり取りが多かったので、トラブルも発生しがちでした。たとえば昨年、「〇〇さんの年末調整の書類が見当たらない」と本社から連絡があり、現場に確認したところ「もう提出しました」と言われたんです。結局、現場に書類があったのですが、情報の食い違いによって書類を探すのに時間と手間がかかって困りました。こうしたトラブルもfreeeで一元管理できるようになれば解消されると期待しています。


佐島: そうですね。今までは紙ベースの作業が多かったのですが、freeeの導入によってパソコン上ですべて把握できるようになる点は、すごく助かります。たとえば、これまでは残業申請が月末にまとめて出てくるので、「この残業はなぜ必要だったのかな」と後から疑問に思うこともありました。でも、freeeでは申請時にコメントの入力が必須なので、どういう理由で残業が発生したのかなどを、リアルタイムで把握できるようになりました。現場の状況を随時確認できることは監督者にとっても大きなメリットですし、そういった業務の可視化が、ご入居者への支援の向上にもつながるのではないかと思います。


DX初心者でも安心――丁寧なサポートと段階導入で現場もスムーズに運用

――同じような課題を抱えている社会福祉法人に向けて、何かアドバイスはありますか。

社会福祉法人 武蔵会


宇津木さん(以下、宇津木): 最近は、知り合いの同業の施設でも人事労務管理システムを導入したという話を聞くようになりました。私たちも世の中のDX化の流れに後押しされて、ようやく取り組み始めたところです。今回のfreeeの導入が第一歩ですが、今後もペーパーレス化や業務の効率化につながるものがあれば、積極的に検討していきたいと考えています。こういった取り組みが広がっていくことで、法人全体の業務がより円滑に回るようになるといいですね。


――ありがとうございました。日高市の豊かな自然に囲まれた社会福祉法人武蔵会の挑戦は続きます。

社会福祉法人 武蔵会


(取材・執筆:秋山志緒 / 編集:池田星太 / 撮影:小池美咲)


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