脱・どんぶり勘定。創業200年の老舗薬局、8店舗の「第二創業期」を支えたfreee会計の「変わった」使い方

有限会社郡茂薬局 代表取締役 郡様

課題
経理の一元化でグループ企業を管理経営の課題をリアルタイムに把握

徳島県で200年以上の歴史を誇り、8店舗の調剤薬局を運営する有限会社郡茂薬局(以下、ぐんも薬局)。代表取締役を務める郡さんは、自社のfreee会計の活用法を「イレギュラーかもしれない」と謙遜します。しかし、その背景には、変化の激しい時代を乗り越えるための、極めて実践的かつ合理的な経営判断がありました。


「各店舗の収支が、全く把握できていなかった」という状態から、freeeをつかってどう変化を起こしたか? 本記事では、老舗薬局が直面した経営課題と、その解決のためにfreee会計をどのように活用しているのかを伺いました。


導入事業社

・法人名:有限会社郡茂薬局様
・代表者:代表取締役 郡 様
・事業内容:保険調剤薬局の運営(徳島県内に8店舗)
・従業員数:約45名
・freee会計導入:2022年ごろ

freee導入前の課題

「体感では赤字のはず…」 拠点ごとの収支が見えない”どんぶり勘定”という名の危機感

有限会社郡茂薬局

―― まず、freee会計を導入される前の、バックオフィス業務における課題感についてお聞かせください

郡さん(以下、郡): 一番の課題は、各拠点の状況がまったく把握できていなかったこと、これに尽きます。もともと先代からの付き合いがある税理士事務所にお願いしていて、会計処理は法人全体で「まるっと」まとめて行われていました。店舗ごとの月次決算などは一切出していなかったんです。

―― 8店舗全体での決算書がひとつだけ、という状態だったのですね。

: 昔はそれでも良かったんです。正直、薬局は出せば儲かる、という右肩上がりの時代がありましたから。細かな店舗ごとの収支がどうであれ、全体として利益が出ていれば問題ない、と。しかし、時代は変わりました。さすがに、このやり方ではもう通用しないな、という強い危機感を持ち始めたのが7年ほど前に代表に就任した頃からです。


各店舗の収支状況が分かっていないと、経営判断のしようがない。「体感では、あの店舗は赤字だろうな」とは思っていても、それが本当にそうなのか、データに基づいた確証がない。 もしかしたら意外と利益が出ているかもしれないし、逆に予想以上に厳しい状況かもしれない。その実態を、まずはとにかく「透明にしたい」というのが、長年の大きな課題でした。

―― 経営者として、自社の足元が正確に見えないというのは、非常なストレスだったのではないでしょうか。

:いつかやらなければ、やらなければ、と思いながらも、日々の業務に追われてなかなか踏み出せずにいました。その状況を大きく変えるきっかけとなったのが、2022年のある出来事でした。


有限会社郡茂薬局

freee導入のきっかけ

調剤過誤を機に訪れた「第二創業期」。全社的なシステム改革の一環として

―― 2022年に、具体的に何があったのでしょうか

: 少しお話ししにくいことではあるのですが、社内で調剤過誤を起こしてしまったんです。これは私の怠慢が招いたものだと強く責任を感じました。そしてこれを機に、もう一度、会社の仕組みや運用を根本から見直さなければならないと決意しました。私の中では、2022年がぐんも薬局の「第二創業期」、もう一度生まれ変わってやり直そう、という位置づけなんです。

―― 危機を、改革の好機と捉えられたのですね。

: 監査システムやAIによる在庫管理システムなど安全性を高め、業務を効率化するためのさまざまなシステムを全店で一斉に導入しました。そして、その改革の一環として、長年の課題であった「経営の可視化」に取り組むために導入したのが、『freee会計』でした。もともと気になっていたこと、やりたいと思っていたことを、このタイミングで一気に実行に移した、という形です。


有限会社郡茂薬局

freee導入後の、変化

会計ソフトを「BIツール」として活用。データが社員とのコミュニケーションを変えた

―― 『freee会計』を導入して、課題であった「店舗ごとの収支の可視化」は実現できましたか?

: 実現できました。ただ、私の使い方は少しイレギュラーかもしれません。『freee会計』で作成したデータを、そのまま税理士に渡して決算に使っているわけではないんです。現状は、私自身が経営状況を把握するための「BI(ビジネス・インテリジェンス)ツール」として活用しています。


―― 具体的にはどのように使われているのでしょうか。

: 『freee会計』には「部門」を登録する機能がありますよね。これを使って、8つの店舗をそれぞれ部門として登録しています。そして、各店舗のレセコンから出力される売上データや、私が計算している人件費、家賃、その他の経費などを、部門ごとに振り分けて入力していく。そうすると、店舗ごとの損益がリアルタイムで見えるようになります。


これまではExcelでやろうとしても手間がかかって続きませんでしたが、『freee会計』は銀行口座やクレジットカードとも連携できるので、多くの取引は自動で取り込まれます。私がやるのは、その内容を確認して部門に振り分ける作業が中心。これにより、これまで全く見えなかった店舗別の収支が、明確に数字として表れるようになりました。

―― 収支が可視化されたことで、どのようなアクションに繋がりましたか?

: 具体的な例がひとつあります。『freee会計』のデータを見ていたところ、ある店舗だけ、明らかに医薬品の仕入れが多いことに気づいたんです。もちろん、その店舗は薬価の高い薬を扱うことが多いので、平均より仕入れ額が高くなるのは分かっていました。しかし、年間の繁忙期などの波を考慮しても、突出して高い状態が続いていた。これは異常だな、と。

―― データがあったからこそ、客観的な事実に気づけたわけですね。

: はい。数字という明確な根拠があるから、現場のスタッフとのコミュニケーションが非常にしやすくなりました。「なんだか最近、仕入れが多いんじゃないか?」という漠然とした指摘ではなく、「freeeのデータを見ると、この数か月、売上に対して仕入れがこのくらい高くなっているんだけど、何か理由はあるかな?」と具体的に話ができます。


薬剤師は理系の方が多いですから、感情論ではなく、数字で示す方がずっと伝わりやすい。このデータをもとに話し合い、在庫管理の在り方を見直すことで、状況を改善することができました。


BIツールとして『freee会計』を使うのは、ひょっとすると変わった使い方なのかもしれません。もちろん、さまざまなツールを使っていくことも大事にしていますが、何をどうつかうか?については、わたしは慎重に判断したいなと思ってます。


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freee導入後の、変化

基本に立ち返り、循環をつくる。無理なく、実直に。

―― 最後に、ぐんも薬局のように地方で複数店舗を経営されている他の薬局経営者のみなさまへ、メッセージがあればお願いします。

: いえいえ、私が他の方に言えることなんて何もありませんよ。ただ、私自身が意識しているのは、「基本に立ち返る」ということです。患者さま、従業員、そして会社や地域。この三方がうまく循環するような仕組み(三方よし)を作ること。そのために、まずは自社の経営状態をきちんと把握し、健全な状態を保つ。儲かっていなければ、良いサービスを患者様に提供することも、従業員の生活を守ることもできませんから。


「第二創業期」とかっこよく言いましたが、やったことは目新しいことではありません。当たり前のことを、当たり前にできるように、一つひとつ仕組みを整えていっただけです。新しいシステムを入れることに踏み出せない、体制を変えるのが怖い、という方も多いと思います。私もそうでした。でも、あの時、勇気を出して色々と変えてみて、本当に良かった。


freee会計は、私にとって完璧な会計システムというよりは、経営という航海の「羅針盤」のような存在です。 これからどこへ向かうべきか、どの航路が危険なのかを教えてくれる。その使い方や価値は、会社によって様々でいいはずです。まずは自社の課題を洗い出し、それを解決するために、ツールを「どう使ってやるか」という視点を持つことが、この不確実な時代を乗り切る鍵なのかもしれません。


有限会社郡茂薬局


取材・撮影・編集:シカクキカク

有限会社郡茂薬局

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