情報セキュリティ対策とは?防げるリスクや被害事例、具体的な対策を解説
最終更新日:2025年09月01日
企業のデジタル化が急速に進むなか、サイバー攻撃による被害は年々深刻化しています。個人情報の漏えいや業務システムの停止など、被害に遭うと企業の存続に関わる重大な損失を招く可能性があるため注意しなければなりません。
本記事では、情報セキュリティ対策の基本から企業が直面するリスク、具体的な対策方法まで詳しく解説します。
目次
情報セキュリティ対策とは
情報セキュリティ対策とは、情報漏えいや不正アクセスなどの被害から、企業や個人が保有する情報を守るための対策です。現代のデジタル社会において情報セキュリティ対策は、企業活動を継続していくうえで欠かせません。
情報セキュリティ対策が重要視される背景として、急速なデジタル技術の進化と、それに伴うセキュリティリスクの増大があります。インターネットの普及によりクラウドサービスの利用が拡大し、リモートワークが常態化するなかで企業が取り扱う情報の量と種類は増大しています。
この変化に呼応するように、サイバー攻撃の手法も日々巧妙化・多様化してきました。攻撃者は企業の機密情報や個人情報を狙い、さまざまな手段で侵入を試みます。一度セキュリティインシデントが発生すれば、その被害は甚大なものとなるでしょう。個人情報保護法をはじめとする法規制の強化により、企業には法的な責任も課せられる恐れまであるのです。
情報セキュリティの3要素
情報セキュリティを理解するうえで最も基本となるのが「情報セキュリティの3要素」という概念です。
これは、情報が持つべき本質的な特性を表しており、機密性、完全性、 可用性の3つから構成されます。効果的なセキュリティ対策のためには、この3つの要素をバランスよく確保することが重要です。
機密性(Confidentiality)
機密性とは、許可された者だけが情報にアクセスできる状態を維持することです。企業の顧客情報が競合他社に流出したり、経営戦略に関わる機密情報が外部に漏れたりすることを防ぐ目的があります。
機密性を確保するためには、適切なアクセス制限の設定、データの暗号化、物理的なセキュリティ対策の実装などが重要です。
完全性(Integrity)
完全性とは、情報が正確であり、不正な改ざんや破壊が行われていない状態を指します。重要な契約書の内容が勝手に書き換えられたり、会計データが不正に操作されたりすることを防ぐために必要です。
具体的には、データのバックアップ体制の整備、改ざん検知システムの導入、入力データの検証機能などが対策となります。
可用性(Availability)
可用性とは、必要なときに情報やシステムを確実に利用できる状態のことです。ECサイトがシステム障害で停止し顧客が商品を購入できなくなったり、社内システムが使えずに業務が麻痺したりする事態を避けます。
可用性の確保とは、具体的にシステムの冗長化構成、負荷分散の実装、災害対策の策定、定期的なメン テナンスなどが該当します。
情報セキュリティ対策によって防げるリスク
情報セキュリティ対策を適切に実施することで、企業は深刻な損失から自社を守ります。
ただし、これらのリスクは個別に発生するだけでなく、相互に関連し合って企業に甚大な影響を与える可能性があるため、注意しなければなりません。
金銭的な損失
情報セキュリティインシデントが発生してしまうと、企業が直面する金銭的損失は多方面にわたります。
主なリスク | 概要 |
---|---|
復旧費用 | マルウェア感染によるシステム復旧、データ復元、セキュリティ対策の再構築などには多大な費用がかかる |
賠償金・違約金 | 個人情報漏えいなどが発生した場合、被害者への損害賠償や、取引先との契約違反による違約金の支払いが発生する可能性がある |
法的罰金 | GDPR(EU一般データ保護規則)や日本の個人情報保護法など、情報漏えいに関する法規制に違反した場合、多額の罰金が科されることがある |
事業機会の損失 | システムダウンやサービス停止に より、顧客からの注文機会を失ったり、新規契約の機会を逃したりする可能性がある |
株価の下落 | 重大なセキュリティインシデントは、企業の株価に悪影響を及ぼし、企業価値を損なう可能性がある |
このような金銭的損失は、複合的に起こることもしばしばあります。企業の経営基盤を揺るがすほか、最悪の場合は倒産に至る可能性もあるため注意が必要です。
社会的信頼の失墜
金銭的損失と同様に深刻なのが、企業の社会的信頼の失墜です。
情報セキュリティインシデントは、企業が長年にわたって築き上げてきたブランドイメージと顧客からの信頼を一瞬で破壊する力を持っています。
主なリスク | 概要 |
---|---|
顧客離れ | 個人情報漏えいなどが発生した場合、顧客は企業に対して不信感を抱き、離れていく可能性がある |
取引先からの評価低下 | 取引先も、セキュリティ対策が不十分な企業との取引を躊躇するようになり、既存のビジネス関係が悪化したり、新たな取引機会を失ったりする可能性がある |
メディアからの批判 | 大規模な情報漏えいやサイバー攻撃は、ニュースなどで大きく報道され、企業の評判を著しく低下させる |
採用活動への影響 | セキュリティ対策が不十分な企業というイメージが定着すると、優秀な人材の獲得が困難になる可能性がある |
企業が社会的な信頼を失うことは、結果として経営を継続できなくなる可能性を秘めており、金銭的損失よりもダメージが大きくなる恐れがあります。
事業の存続不可
最も深刻なリスクは、セキュリティインシデントが企業の基幹システムや重要情報に影響をおよぼし、事業継続そのものを不可能にしてしまう恐れがあることです。
主なリスク | 概要 |
---|---|
基幹システムの停止 | ランサムウェアによる暗号化やDDoS攻撃などにより、企業の基幹システムが停止した場合、業務が完全に麻痺し、事業活動が停止する可能性がある |
重要データの消失 | バックアップ体制が不十分な場合、サイバー攻撃やシステム障害によって重要な業務データや顧客データが完全に消失し、事業の再開が困難になることがある |
法的規制による停止命令 | 重大なセキュリティ違反や情報漏えいが発生した場合、政府や監督機関から事業の一時停止命令が出される可能性が ある |
このような事態に陥れば企業の倒産は避けられません。情報セキュリティ対策は、まさに企業の生命線といえるのです。
情報セキュリティに関する被害事例
情報セキュリティ対策の重要性を理解するために、実際の被害事例を知っておきましょう。
IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が発表した「情報セキュリティ10大脅威2025」における上位5つの脅威について、実際の被害事例とともに紹介します。
ランサム攻撃による被害の事例
2020年11月、有名ゲームメーカーのカプコンがランサムウェア攻撃を受けた事例です。この事例は、ランサムウェアが単なるシステム停止だけでなく、機密情報の漏えいという二重の被害をもたらすことを示しています。
ランサム攻撃により同社の社内システムに接続障害が発生し、メールやファイルサーバーが利用できなくなりました。業務が一時停止に追い込まれ、企業活動に重大な支障をきたす事態となったのです。とくに深刻なのは、個人情報の流出です。このときの顧客や取引先の個人情報流出は、最大約39万人分にもおよぶ可能性があると報告されています。
サプライチェーンや委託先を狙った攻撃の事例
2020年12月に発生した米国IT 企業への攻撃は、サプライチェーン攻撃の典型例として注目されています。IT管理ソフトウェアやリモート監視ツールを開発する企業のシステムにバックドアが仕込まれた結果、米国連邦政府機関を含む8カ国40以上の組織、計1万8,000以上の顧客が影響を受けました。
この攻撃手法の恐ろしさは、直接的な攻撃対象ではない企業も二次的な被害を受けることです。現代のビジネスがサプライチェーンに依存している以上、この種の攻撃への対策が急務となっています。
システムの脆弱性を突いた攻撃の事例
2024年10月、子ども向け職業体験型テーマパークのWebサイトが不正アクセスを受け、顧客の個人情報2万4,644件が流出する事件が発生しました。この攻撃の原因は、Webサイトのプログラムにあったセキュリティ上の脆弱性です。
攻撃者はこの脆弱性を悪用して不正にシステムに侵入し、東京のテーマパーク予約時に登録された顧客情報を窃取しました。この事例は定期的なセキュリティ診断と迅速なパッチ適用の重要性を物語っています。
内部不正による情報漏えいの事例
人材紹介業における、元従業員による内部不正の事件です。この事件では、サービス登録者や取引先に関わる個人情報1,306名分が、転職先企業に不正に持ち出されました。
外部からのサイバー攻撃とは異なり、正当なアクセス権限を持つ内部者による犯行のため、従来のセキュリティ対策では発見が困難でした。この事件を受けて被害企業は、退職前のデータアクセスログ調査の実施、監視体制の見直し、従業員向けセキュリティ教育の徹底など、内部不正対策を強化しています。
機密情報等を狙った標的型攻撃の事例
2023年10月、国立大学が標的型攻撃メールによる情報流出の被害を公表しました。攻撃者は、実在する組織の担当者を装って教員に講演依頼のメールを送信し、日程調整を口実にして悪意のあるURLへのアクセスを誘導しました。
教員がそのURLにアクセスした結果、PCがマルウェアに感染し、教職員や学生の個人情報、過去の試験問題など計4,341件の情報が流出した可能性があります。この事件では、実在の組織や人物を装うことで信頼性を演出し、ターゲットの警戒心を解く巧妙な手法が用いられています。
情報セキュリティ対策の具体的な方法
効果的な情報セキュリティ対策を実現するためには、技術的な対策だけでなく、組織運営や人材育成、物理的な環境整備など、多角的なアプローチが必要です。
これらの対策を体系的に実施することで、企業は包括的なセキュリティ体制を構築できます。
セキュリティポリシーの策定
情報セキュリティ対策の第一歩は、明確なセキュリティポリシーの策定です。これは企業のセキュリティに対する基本姿勢を示す重要な文書であり、守るべき情報資産の範囲、従業員 が遵守すべき行動規範、セキュリティ違反時の対処方法などを定めます。
また重要なのは、ポリシーの策定だけではなく全従業員への徹底的な周知と理解促進です。定期的な研修やeラーニングなどを通じて、従業員一人ひとりがセキュリティポリシーの内容を理解し、意識を向上できるよう継続的な教育を行う必要があります。
従業員へのセキュリティ教育の実施
情報セキュリティにおいて、人的要因は脆弱性の高い要素の一つです。どれほど高度な技術的対策を講じても、従業員がフィッシング詐欺に騙されたり、不注意により機密情報を漏えいさせたりすれば、セキュリティは破られてしまいます。
人的要因での被害を拡大させないためには、従業員へのセキュリティ教育が肝心です。標的型攻撃メールの手口やソーシャルエンジニアリングの技術、フィッシングサイトの見分け方など、実際に遭遇する可能性の高い脅威について具体例を示しながら説明します。
とくに有効なのは、実践的な訓練の実施です。擬似的なフィッシングメールを送信して従業員の反応を確認したり、不審な電話への対応を模擬したりすることで、従業員の危機意識と対応能力の向上につながります。また、強固なパスワードの作成方法や不審なメールやウェブサイトの閲覧制限など、ルールを明確化することも有効です。
物理的なセキュリティ対策の強化
デジタル技術が発達した現代でも、物理的なセキュリティ対策の重要性は変わりません。具体的には、以下のような対策を講じることをおすすめします。
主な対策 | 概要 |
---|---|
入退室管理 | サーバー室や重要書類保管場所へのアクセスを制限し、入退室記録を管理する。生体認証やICカード認証などの導入も有効 |
監視カメラの設置 | 不審者の侵入や不正行為の監視、証拠保全のために設置する |
施錠管理 | PCや書類の適切な施錠、重要書類のキャビネット管理を徹底する |
持ち出し制限 | USBメモリやPCなどの情報機器の持ち出しルールを明確にし、紛失・盗難に備える |
なお、情報資産はデジタルデータだけではありません。書類やパソコン、サーバー機器なども該当します。これら物理的な物に対するセキュリティ対策も実は重要なのです。
技術的なセキュリティ対策の導入
現代の情報セキュリティ対策において、技術的な対策は重要です。多層防御の考えを持ち、複数のセキュリティ技術を組み合わせて強固な防護体制を構築しましょう。
主な対策 | 概要 |
---|---|
ウイルス対策ソフトの導入 | 常に最新の定義ファイルに更新し、リアルタイムスキャンを有効にする。エンドポイントセキュリティ製品の導入も要検討 |
ファイアウォールの設置 | 外部ネットワークからの不正アクセスを防ぐための防御壁として適切に設定し、不要な通信をブロックする |
IDS/IPSの導入 | ネットワーク上の不審な通信や不正な侵入を検知・防御するシステム |
WAFの導入 | Webアプリケーションファイアウォールの略称。WebサイトやWebアプリケーションへの攻撃を防ぐ |
OSやソフトウェアのアップデート | 脆弱性を解消するため、OSや各種ソフトウェアは常に最新の状態に保つ。自動アップデート機能を活用することも重要 |
多要素認証の導入 | パスワードだけでなく、生体認証やワンタイムパスワードなど、複数の認証要素を組み合わせることで、不正ログインのリスクを低減する |
VPNの活用 | リモートワーク環境などで社内ネットワークに安全にアクセスするためにVPN(Virtual Private Network)を導入する |
アクセスログの管理 | システムへのアクセス履歴や操作ログを記録・監視し、不正な活動を早期に発見できるようにする |
データのバックアップと復元計画 | 万が一のデータ消失に備え、定期的にデータのバックアップを取り、災害時などにおける復旧計画(BCP)を策定する |
暗号化の利用 | 重要な情報や個人情報は、転送時や保存時に暗号化することで、万が一漏えいしても内容が判読できないようにする |
継続的なセキュリティ監査と改善
情報セキュリティは、一度対策を実施したら完了ではありません。サイバー攻撃の手法は日々進化しているため、継続的な監査と改善を継続し続けることが大切です。
定期的なセキュリティ監査では、システムの脆弱性診断を実施し、潜在的なリスクを洗い出します。外部の専門業者による客観的な診断を受けることで、内部では気づかない問題点の発見にもつながります。また、ペネトレーションテスト(侵入テスト)を用いてシミュレーションを行うのも有効です。
組織的な観点では、セキュリティ体制の定期的な評価と見直しが重要です。インシデント発生時に迅速かつ適切に対応するため、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)などの専門組織を設置することも検討してください。
情報セキュリティ対策としてのSaaS管理
従来のセキュリティ対策に加えて、現代の企業がとくに注意を払うべき領域がSaaSの管理です。クラウドサービスの普及により、多くの企業が業務効率化のためにさまざまなSaaSを導入していますが、これらの一元管理を徹底できていない企業は少なくありません。
SaaS管理における課題は「シャドーIT」の問題、従業員の入退社に伴うアカウント管理をはじめ、SaaSのセキュリティ要件が企業の情報セキュリティポリシーに適合しているかなどが挙げられます。いずれの問題も、解決にはSaaS管理に特化した専用ツールの導入が効果的です。
「Bundle by freee」のようなSaaS管理ツールなら、利用中のSaaSを自動的に発見・可視化し、アクセス権限の一元管理はもちろん、利用状況の監視、退職者アカウントの自動削除なども容易です。SaaS管理でお困りの企業の方は、導入を検討してみてください。
まとめ
情報セキュリティ対策は、現代企業の事業継続にとって不可欠です。デジタル化の進展とともにサイバー攻撃の脅威は増大し続けており、企業は包括的かつ継続的なセキュリティ対策を講じる必要があります。
とくに重要なのは、組織全体でのセキュリティ意識の共有です。技術的な対策だけでなく、従業員への継続的な教育、物理的な環境整備など、多層的なアプローチにより強固な防御体制を構築することが求められます。
情報セキュリティは継続的な監査と改善、新たな脅威への迅速な対応、組織全体での取り組みが重要です。企業の持続的な成長を支える強固なセキュリティ基盤 を構築していくためには、適切なSaaS管理ツールの導入も検討してください。
よくある質問
情報セキュリティの3要素は?
情報セキュリティの基本となるのが、機密性、完全性、可用性の3つから構成される「情報セキュリティの3要素」という概念です。効果的なセキュリティ対策のためには、この3要素をバランスよく確保することが大切です。
詳細は「情報セキュリティの3要素とは」をご覧ください。
情報セキュリティ対策の具体的な方法は?
効果的な情報セキュリティ対策を実現するには、技術的な対策だけでなく、組織運営や人材育成、物理的な環境整備など、多角的なアプローチが必要です。
詳細は「情報セキュリティ対策の具体的な方法」をご覧ください。
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