監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP
ジョブ型雇用は雇用形態のひとつです。本記事では、メンバーシップ型雇用との違いやジョブ型雇用のメリット・デメリット、導入方法などを解説します。
従業員が能力を十分に発揮し、企業として生産性を高めるためには、企業と従業員の双方にとって最適な雇用形態で従業員を雇うことが重要です。
ジョブ型雇用の導入企業は徐々に増えていますが、導入して失敗するケースもあります。ジョブ型雇用を導入する場合は、本記事で紹介する注意点も参考にしながら検討しましょう。
目次
ジョブ型雇用とは?
ジョブ型雇用とは、特定の業務を遂行する能力をもつ人材を採用する雇用形態です。企業が必要としているスキルや経験をもつ人材を採用する際、職務内容を限定して募集をかけるようなケースがジョブ型雇用に該当します。
2020年3月に経団連の報告書では、ジョブ型雇用を以下のように記述しています。
経団連がジョブ型雇用の採用を後押ししたことなどを背景に、日本でもジョブ型雇用の導入企業の数が増えてきています。ジョブ型雇用は、近年注目されている雇用形態のひとつです。特定のポストに空きが生じた際にその職務(ジョブ)・役割を遂行できる能力や資格のある人材を社外から獲得、あるいは社内で公募する雇用形態のこと
出典:経団連「採用と大学教育の未来に関する 産学協議会・報告書「Society 5.0 に向けた大学教育と採用に関する考え方」」
メンバーシップ型雇用との違い
メンバーシップ型雇用とは、職種や業務内容などを限定せずに、雇用契約を結ぶ雇用形態のことです。これまでの日本では、多くの企業で終身雇用を前提として、メンバーシップ型雇用が採用されてきました。
しかし、近年では高度な技術や専門的な知識を必要とする職業が増えたことや、特定のスキルや経験をもつ人材を求める企業が増えたことで、ジョブ型雇用に注目が集まっています。
ジョブ型雇用のメリット
ジョブ型雇用には、さまざまなメリットがあります。以下では、企業側と従業員側、それぞれの側からみた場合のジョブ型雇用のメリットを紹介します。
企業側のメリット
企業側からみた場合、ジョブ型雇用の主なメリットは以下の3つです。
ジョブ型雇用の企業側の主なメリット
● 自社が必要とするスキルをもつ人材を採用できる● 即戦力となる人材を採用できる
● 入社後のミスマッチを防止できて生産性が向上する
社内で専門的なスキルをもつ人材に育てるには時間がかかります。ジョブ型雇用であれば、自社が必要とする人材をすぐに確保できる点がメリットです。即戦力として入社後すぐに活躍してもらえるので、人材育成に時間や費用をかけずに済みます。
またメンバーシップ型雇用とは異なり、ジョブ型雇用では職務内容が明確なため、入社後のミスマッチを避けられます。従業員が能力を十分に発揮して仕事に取り組め、生産性や業務効率が上がり、企業業績の向上につながるでしょう。
ミスマッチによる早期離職を防止できる点もジョブ型雇用のメリットです。
従業員側のメリット
従業員側からみた場合、ジョブ型雇用の主なメリットは以下の2つです。
ジョブ型雇用の従業員側の主なメリット
● 自分のスキルを活かせる仕事に就ける● 決められた業務以外はやる必要がない
日本で浸透しているメンバーシップ型雇用では、転勤や配置換えによって全く異なる業務に就く可能性があります。一方でジョブ型雇用では、原則として決められた業務以外の業務を行うことはありません。
ジョブ型雇用のデメリット
ジョブ型雇用には、メリットがある一方でデメリットもあります。以下では、企業側と従業員側、それぞれの側からみた場合のジョブ型雇用のデメリットを紹介します。
企業側のデメリット
企業側からみた場合、ジョブ型雇用の主なデメリットは以下の3つです。
ジョブ型雇用の企業側の主なデメリット
● 転勤や配置転換、他業務の追加依頼は難しい● 優秀な人材は他社に流出する場合がある
● 従業員の帰属意識・組織としての一体感を醸成しにくい
メンバーシップ型雇用に比べると、柔軟な対応が取りづらい点がデメリットです。
また専門的なスキルや経験をもつ人材は他社も必要とすることが多く、よりよい労働条件を提示する会社が現れれば人材が流出する可能性があります。
そして終身雇用を前提としたメンバーシップ型雇用と比べると、ジョブ型雇用では従業員の帰属意識が低くなりやすい点もデメリットです。ジョブ型雇用の場合は、組織としての一体感は醸成されにくくなります。
従業員側のデメリット
従業員側から考えた場合、ジョブ型雇用の主なデメリットは以下の3つです。
ジョブ型雇用の従業員側の主なデメリット
● スキルがなければ、応募しても採用されない可能性が高い● 企業が求めるレベルに応えるため、採用後も自己研鑽を続ける必要がある
● 雇用が不安定になりやすい
ジョブ型雇用が国内企業で広まり、メンバーシップ型雇用での採用枠が減れば、スキルをもたない人は就労機会が失われる可能性があります。
また企業が求めるレベルで職務を遂行するためには、自分が担当する業務領域の最新情報等を確認するなど、採用された後も自己研鑽が必要です。業務以外の時間を自己研鑽に費やすことになれば、時間や労力がかかるでしょう。
そして、ジョブ型雇用は特定の業務を担当することを前提としているので、その業務の人員削減や部署の廃止などによって仕事がなくなる可能性がある点もデメリットです。
なお日本は民法によって、特定の業務終了・廃止のみをもって、契約終了もしくは解雇とすることはできません。実態としては、他部署への配置転換等で対応することになるでしょう。
ジョブ型雇用の導入方法・流れ
ジョブ型雇用を導入する際は、どのような職種でジョブ型雇用を適用するのか決定し、ジョブ型雇用の給与額や評価制度を決定するなどの対応が必要です。
ジョブ型雇用を導入する際の流れは、以下の通りです。
ジョブ型雇用導入の流れ
1. ジョブ型雇用の適用範囲を決定する2. ジョブディスクリプションを作成する
3. 給与額・評価制度を決定する
4. 必要に応じて制度内容の見直しを行う
1.ジョブ型雇用の適用範囲を決定する
まずは自社にある職務や役職のうち、ジョブ型雇用を適用する範囲を検討・決定します。
職務や役職のなかには、ジョブ型雇用が適しているものもあれば、メンバーシップ型雇用のほうが適しているものもあります。職務や役職を洗い出したうえで、ジョブ型雇用を適用するものを決定しましょう。
ジョブ型雇用は、専門的なスキルを必要とする職種などに適した雇用形態です。すべての職種をジョブ型雇用に切り替えると、かえって企業の生産性や業務効率が下がることも考えられます。
ジョブ型雇用を適用する範囲は、必要に応じて限定するとよいでしょう。
2.ジョブディスクリプションを作成する
ジョブ型雇用を適用する職務が決まったら、職務ごとに職務内容・業務範囲・必要なスキルや資格などをまとめたジョブディスクリプション(職務記述書)を作成します。
ジョブディスクリプションに記載する主な項目は、以下の通りです。
ジョブディスクリプションに記載する主な項目
● 職種や職務の名称● 業務内容や期待される役割・業務目標・責任や権限の範囲
● 雇用形態・勤務場所・勤務時間
● 業務を担当するにあたって必要となるスキルや資格 など
3.給与額・評価制度を決定する
ジョブディスクリプションをもとに職務を評価して価値を算出し、算出した職務価値を数段階の等級に区分して区分ごとに給与額を決定します。
職務評価の手法にはいくつかの方法があります。厚生労働省「多様な働き方の実現応援サイト」で紹介されている手法は以下の4つです。
手法 | 内容 |
単純比較法 | ● 社内の職務を1対1で比較し、職務の大きさが同じか、あるいは異なるかを評価する ● 比較の際に職務を細かく分解せず全体として捉えて比較する |
分類法 | ● 社内で基準となる職務を選び、詳細な職務分析を行ったうえで、それをもとに職務レベル定義書を作成する ● 職務レベル定義書に照らし合わせ、全体としてもっとも合致する定義はどのレベルかを判断し、職務の大きさを評価する |
要素比較法 | ● あらかじめ定めておいた職務の構成要素別にレベルの内容を定義する ● 職務を要素別に分解し、もっとも合致する定義はどのレベルかを判断することにより職務の大きさを評価する (分類法のように職務全体として判断するよりも客観的な評価が可能) |
要素別点数法 | ● 要素比較法と同様に職務の大きさを構成要素別に評価する (評価結果を要素比較法のようにレベルの違いで表すのではなく、ポイント数の違いで表す点が特徴) ● 要素別にレベルに応じたポイント数を付け、その総計ポイントで職務の大きさを評価する |
出典:厚生労働省「多様な働き方の実現応援サイト」
4.必要に応じて制度内容の見直しを行う
ジョブ型雇用を適用すべき職務の範囲や評価制度は、自社の事業内容や時代の変化の中で、最適な内容が変わる場合があります。ジョブ型雇用の導入時に決定した制度内容は、導入後も必要に応じて見直しを行うことが大切です。
実際にジョブ型雇用の人にヒアリングするなどして、ジョブ型雇用を適用する職務の範囲や、評価制度の内容は適切か確認を行いましょう。
ジョブ型雇用を導入する際の注意点
ジョブ型雇用を導入する際の主な注意点は、以下の通りです。
ジョブ型雇用を導入する際の注意点
● ジョブ型雇用が向いている企業と向いていない企業がある● 職務内容や評価体系を明確にする
ジョブ型雇用が向いている企業と向いていない企業がある
ジョブ型雇用が適した職種が多い企業もあれば、ジョブ型雇用ではなくメンバーシップ型雇用のほうが適した職種が多い企業もあります。
ジョブ型雇用が向いていない企業で、十分な検討を行わずに導入すると、社内の混乱や企業の生産性低下など、さまざまな問題が起きる可能性があり注意が必要です。
ジョブ型雇用が適しているのは、たとえば専門的な技術や知識が必要な業務が多い企業です。逆に、一人にさまざまなスキルを身につけさせたい場合や、チームでひとつの目標を達成する業務が多い企業ではジョブ型雇用は適していません。
自社にジョブ型雇用が本当に必要かどうか、よく検討することが重要です。
職務内容や評価体系を明確にする
ジョブ型雇用で採用した従業員との間でトラブルにならないよう、採用時に職務内容や評価基準を明確にして提示することが大切です。
またメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の両方の従業員が社内にいる場合は、両雇用制度で評価制度に大きな差があると、混乱や不満の原因になります。
2つの制度を併用する場合は、両制度のバランスにも注意しながら、評価体系を検討・決定することが重要です。
なおジョブ型雇用は、限定社員(多様な社員)の位置づけです。ジョブ型雇用の運用が決定した際は、職務・能力を明確化した働き方を実現するため、就業規則にも「ジョブ型」等の「多様な正社員」に関して定めましょう。
限定社員については「限定正社員とは? 契約社員との違いや導入するメリット・デメリット、注意点を解説」で詳しくまとめています。
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まとめ
特定の業務を遂行する能力をもつ人材を雇用するジョブ型雇用は、近年日本で注目されている雇用形態のひとつです。メンバーシップ型雇用とは異なり、ジョブ型雇用では職務の範囲を限定して従業員を雇用します。
ジョブ型雇用には、メリットとデメリットの両方があります。導入を検討する場合は、自社にジョブ型雇用が本当に適しているのか、適用すべき職種は何か、十分に検討しましょう。
よくある質問
ジョブ型雇用とは?
特定の業務を遂行する能力をもつ人材を雇用する方法です。
ジョブ型雇用に関して詳しく知りたい方は「ジョブ型雇用とは?」をご覧ください。
ジョブ型雇用のメリットは?
企業は自社が必要とするスキルをもつ人材を採用でき、従業員は自分のスキルを活かせる仕事に就ける点などが挙げられます。
ジョブ型雇用にどのようなメリットがあるのか、詳しく知りたい方は「ジョブ型雇用のメリット」をご覧ください。
監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP
1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。