人事労務の基礎知識

同一労働同一賃金とは? 見直しが必要な待遇や取り組むメリットをわかりやすく解説

公開日:2023/09/13

監修 寺島 有紀 社会保険労務士

同一労働同一賃金とは? 見直しが必要な待遇や取り組むメリットをわかりやすく解説

同一労働同一賃金とは、不合理な待遇差を解消する取り組みやルールです。本記事では同一労働同一賃金の概要や取り組む際のポイントなどを解説します。

同一労働同一賃金は、2020年4月から大企業で適用になり、2021年4月からは中小企業で適用されました。同一労働同一賃金を実現するには、ルールの内容を正しく理解しなければなりません。対象者は誰か、具体的に何を見直すべきか、事業主や人事担当者は把握しましょう。

また、理解を深め同一労働同一賃金を推進するには、労務管理ツールの導入も大切です。必要に応じて新しいシステムの導入も検討しましょう。

目次

同一労働同一賃金とは?

同一労働同一賃金とは、同一企業や団体での正社員と非正規雇用労働者との間に生じる、不適切な待遇差を解消させる取り組みやルールです。

同一労働同一賃金は、パートタイム・有期雇用労働法によって定められています。パートタイム・有期雇用労働法は、2020年4月に大企業を対象に施行され、2021年4月に中小企業にも適用されました。

また派遣労働者に関しては、2020年4月施行の改正派遣労働法でも待遇是正に関する内容が盛り込まれています。

不適切な待遇差があると、労働者のモチベーション低下や能力差が生まれ、企業活動にも影響を及ぼすでしょう。雇用形態にかかわらず納得して働ける状態にするため、企業には同一労働同一賃金の実現が求められます。

非正規雇用労働者とは?

非正規雇用労働者とは、次の雇用区分で働く労働者を指します。

非正規雇用労働者の雇用区分

● パートタイム労働者
● 有期雇用労働者
● 派遣労働者
パートタイム労働者は、同じ事業所で雇用される正社員より、1週間の所定労働時間が短い労働者です。パート従業員やアルバイトなど、呼び方が違っても条件にあてはまれば、パートタイム労働者に該当します。

有期雇用労働者は3年間や1年ごとに契約更新と、雇用期間を決めて労働契約を結ぶ労働者です。契約社員や嘱託社員などの名称でも、条件にあてはまれば該当します。

派遣労働者は派遣元事業者と雇用契約を結び、派遣元から指定された職場(派遣先)で指揮命令を受けて働く労働者です。事業者が直接雇用した労働者ではありませんが、労働時間や担当業務が同じなら、同一労働同一賃金の対象です。

賃金だけでなく福利厚生や教育訓練の待遇差も是正

同一労働同一賃金で是正すべき待遇差は、賃金だけではありません。教育訓練の機会や福利厚生の待遇差も是正対象です。

福利厚生施設の利用や研修受講を正社員に限定しており、その理由が不合理であれば見直しが必要です。

同一労働同一賃金ガイドラインが示す待遇

厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」では、不合理な待遇を禁止する方針が示されています。待遇差の解消には、各企業の状況に合わせた待遇体系の見直しが必要です。

基本給

基本給は労働者の能力・経験・業績・成果・勤続年数などの事実に基づき、決定されなければなりません。同一であれば同一の、違いがあれば違いに応じた金額を支給します。

労働者の勤続で、能力向上を理由に昇給する場合も同様です。能力向上が同一なら同一、違いがあれば違いに応じた金額で昇給を行います。

賞与

会社業績への貢献に応じて支給する賞与は、貢献度に応じた金額を支給します。雇用区分の違いで金額に差を付けず、あくまでも貢献度で支給額を決定しましょう。

各種手当

各種手当も雇用区分の違いで差を付けず、手当の内容に則して支給しましょう。たとえば、役職手当なら同一の役職か異なる役職かのみで区別します。

時間外労働や深夜・休日労働の手当も、雇用区分の違いだけを理由に割増率を増減させてはなりません。雇用区分にかかわらず、同一の割増率で支給しましょう。

福利厚生・教育訓練

以下のような各種待遇も、雇用区分に関係なく受けさせなければなりません。

雇用区分に関係なく付与が必要な待遇の例

● 福利厚生施設
● 社宅利用
● 慶弔休暇
● 有給
● 休職 など
短時間労働や雇用期間の違いだけを理由に、待遇を受けられない社内制度は不合理な格差です。

また教育訓練に関しても、現在の職務で新たに技能や知識を習得させる必要がある場合は、同じ職務に就く労働者全員を対象に実施しましょう。

企業が同一労働同一賃金に取り組むメリット

企業が同一労働同一賃金に取り組む主なメリットは、以下の通りです。

企業が同一労働同一賃金に取り組む主なメリット

● 従業員のモチベーションアップが期待できる
● 教育機会の拡大で従業員の能力アップが望める
● 企業イメージが向上する
各メリットを詳しく解説します。

従業員のモチベーションアップが期待できる

非正規雇用労働者という理由だけで昇給しない・貢献が賞与に反映されないなどの待遇差は、非正規雇用労働者の意欲を削ぐ要因です。雇用区分の違いでこうした待遇差があるなら、是正することで非正規雇用労働者のモチベーションアップを期待できます。

人材定着や労働意欲の向上につながり、企業内の生産性も高まるでしょう。

教育機会の拡大で従業員の能力アップが望める

同一労働同一賃金では、給与面だけでなく教育機会の格差解消が必要です。全従業員に同水準の教育機会を与えれば、企業全体のリテラシーやスキルアップを望めます。

従業員のモチベーションアップとともに、企業の競争力強化に役立つでしょう。

企業イメージが向上する

不合理な待遇差がなく、能力に応じた評価をしている企業は、対外的イメージも向上します。採用現場では求職者増を見込め、人材確保しやすくなる点もメリットです。

企業のイメージが向上すれば、従業員にとっても長く働きたい職場となるでしょう。人材が定着し、労働力不足の解消も期待できます。

企業が同一労働同一賃金に取り組むデメリット

企業が同一労働同一賃金に取り組む主なデメリットは、以下の通りです。

企業が同一労働同一賃金に取り組む主なデメリット

● 人事制度や給与体系の見直し、再構築に手間がかかる
● 待遇差の説明やトラブル回避に手間がかかる
● 待遇差の是正で人件費がかさむ
各デメリットを詳しく解説します。

人事制度や給与体系の見直し、再構築に手間がかかる

同一労働同一賃金の取り組みには、人事制度や給与体系などを見直す手間が発生します。

不合理な待遇差がないか確認し、状況に合わせた是正対応を取らなければなりません。場合によっては待遇差を解消するために、大幅な制度改正や体系の再構築が必要です。経営者や人事担当者には、大きな負担がかかります。

どのように同一労働同一賃金に取り組めばいいのか分からない場合は、働き方改革推進支援センターを利用するといいでしょう。各地に相談窓口を設けており、同一労働同一賃金等非正規雇用労働者の待遇改善に関しても支援も行っています。

出典:厚生労働省「働き方改革推進支援センターのご案内」

待遇差の説明やトラブル回避に手間がかかる

同一労働同一賃金では、事業者は労働者に待遇に関する説明を行う義務が生じます。非正規雇用労働者を雇い入れたときだけでなく、待遇に関しての説明を求められた際には対応しなければなりません。

また同一労働同一賃金の取り組み方に関して従業員から不満の声が上がり、トラブルに発展することも考えられます。トラブルを回避するためには、非正規雇用労働者と正社員の双方に、同一労働同一賃金の取り組みを理解してもらうことが大切です。

正社員と非正規雇用労働者との間に待遇差がある場合は、正当な待遇差の内容や理由、待遇決定に際しての考慮事項を説明できるようにしておく必要があります。待遇差を是正する場合は、その内容や理由を正社員にも説明できるようにしましょう。

トラブルに発展してしまった場合は、裁判外紛争解決手続(行政ADR)などを活用して解決を図る方法があります。

待遇差の是正で人件費がかさむ

非正規雇用労働者の待遇を引き上げれば、給与や研修費など人件費が増加します。

増加した人件費を上回る売上アップや業績アップができなければ、企業側のコストは増すばかりです。

コスト増への対策には、キャリアアップ助成金を活用する方法があります。キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者を正社員化した場合や、処遇を改善した場合に助成を受けられます。

非正規雇用労働者と正社員の待遇差是正に取り組む際は、活用して人件費の負担を軽減しましょう。

※関連記事
キャリアアップ助成金とは? 対象者や申請手順、注意点を最新動向とともに解説!

企業が同一労働同一賃金に取り組む際のポイント

企業が同一労働同一賃金に取り組む際の主なポイントは、以下の通りです。

企業が同一労働同一賃金に取り組む際の主なポイント

● 待遇差は働き方や役割に応じた合理的な内容にする
● 待遇差を解消するための不利益な変更にならないか注意する
● 罰則はないが改善しない企業は公表対象になる
各ポイントを詳しく解説します。

待遇差は働き方や役割に応じた合理的な内容にする

待遇差があっても、労働時間・日数の違いや職務の違いに応じた合理的な内容なら問題ありません。しかし同じ働き方で仕事内容に差がなく、雇用区分が違うだけで給与や福利厚生に差がある場合は問題です。

不当な待遇差になっていないか調査し、合理的な待遇差になっていない場合はしっかり改善しましょう。

待遇差を解消するための不利益な変更にならないか注意する

待遇差の解消が目的でも、優遇されている側の待遇に不利益な変更をする場合は、労使間の合意が原則です。

たとえば、以下に該当する待遇引き下げは、労使間の合意がなければできません。

労使間の合意が必要な変更の例

● 正社員の基本給をパート従業員の給与水準まで下げる
● 正社員にのみ適用していた手当をなくす
また合意なく就業規則の変更で待遇を引き下げる場合も、合理的に説明のつく内容にしましょう。ただし待遇差の是正が目的であっても、基本的には合意なく待遇を引き下げる手法は望ましくありません。

罰則はないが改善しない企業は公表対象になる

同一労働同一賃金を守らず、不当な待遇差を是正できていなくても、罰則は定められていません。

ただし同一労働同一賃金が守られていない場合は、都道府県労働局長からの助言や指導、勧告の対象になります。不当な是正されないままだと企業名を公表される可能性もあり、イメージダウンにつながります。

同一労働同一賃金をめぐり、従業員との間で訴訟に発展した場合、会社として非常に多くの労力がかかり、対外的なイメージ低下も避けられません。

企業は罰則の有無にかかわらず、同一労働同一賃金を守る体制作りが必要です。

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まとめ

同一労働同一賃金とは、同一の企業・団体内での正社員と非正規雇用労働者の不当な待遇差を改善するための取り組みやルールです。雇用区分の違いのみで生じている不当な待遇差は是正しなければなりません。

同一にすべき点は、基本給・賞与・手当の給与面だけに限定されず、福利厚生や教育訓練の機会も同一にしなければなりません。

同一労働同一賃金の実現には、手間やコストがかかりますが、従業員のモチベーション・能力アップや、企業イメージが向上する点はメリットです。

非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を行う際などに、キャリアアップ助成金を活用できます。必要に応じて活用し、同一労働同一賃金を実現しましょう。

よくある質問

同一労働同一賃金とは?

同一労働同一賃金とは、働き方改革の一環で同一企業・団体での待遇差を解消させる活動や取り決めです。

同一労働同一賃金を詳しく知りたい方は、「同一労働同一賃金とは?」をご覧ください。

同一労働同一賃金に取り組むメリットとは?

同一労働同一賃金に取り組むと、従業員のモチベーションや能力アップが期待できます。また、企業イメージの向上にも貢献する取り組みです。

同一労働同一賃金に取り組むメリットを詳しく知りたい方は、「企業が同一労働同一賃金に取り組むメリット」をご覧ください。

監修 寺島有紀(てらしま ゆき) 社会保険労務士

一橋大学商学部卒業後、新卒で楽天株式会社に入社、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。その後社会保険労務士事務所に勤務を経て現在は、中小・ベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

監修者 寺島有紀

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