
人手不足や採用難が続くなか、優秀な人材の定着は企業にとって重要な課題となっています。採用した人材が短期間で離職してしまうと、採用コストの損失や業務への影響が大きくなります。そこで注目されるのが「離職率」という指標です。
本記事では「離職率」の計算方法や分析方法、離職率を下げるための対策を詳しく解説します。
目次
- 離職率とは
- 定着率・退職率との違い
- 離職率が注目されている背景
- 人材確保の難化
- 働き方の多様化
- 企業ブランディングの重要性
- サステナブルな経営
- 日本における離職率の現状
- 離職率の計算方法
- 1.離職率を計算する期間を定める
- 2.期間開始時点の在籍者数を確認する
- 3.期間中の離職者数を集計する
- 離職率が高い業界
- 宿泊業・飲食サービス業
- 生活関連サービス業・娯楽業
- サービス業(他に分類されないもの)
- 教育・学習支援業
- 医療・福祉
- 離職率が高い職場の傾向
- 人間関係の問題が多い
- 労働条件や待遇への不満が多い
- 仕事内容の不満が多い
- キャリアアップに不安がある
- 経営・組織文化への不満が多い
- 離職率を下げるための対策
- 採用段階でのミスマッチを防ぐ
- コミュニケーションを活性化させる
- 労働条件や待遇を改善する
- 公正な評価とキャリア支援を行う
- 働きがい・エンゲージメントを向上させる
- 離職を防ぐための具体的なステップ
- 1.退職理由のヒアリングと分析
- 2.オンボーディングと教育体制の強化
- 3.メンター制度などのフォローアップ
- 4.マネジメント層の育成
- まとめ
- よくある質問
離職率とは
離職率とは、特定の期間内に企業に在籍していた従業員のうち、どれだけの割合の従業員が退職したかを示す指標です。人材の流出度合いや職場環境の健全性、従業員の定着状況を数値として把握できるため、多くの企業が重要な指標として離職率を活用しています。
離職率が高い場合、採用や教育にかかるコストが増加するだけでなく、ノウハウや技術の流出、既存社員への業務負担の増加、さらには企業イメージの低下にもつながりかねません。
一方で、離職率が低い場合は、従業員が安定して定着しており、働きやすい職場である可能性が高いと考えられます。
ただし、離職率の「高い」「低い」は一概に良し悪しを判断できるものではなく、業界の特性や企業の成長段階によって最適な水準が異なります。たとえば、急成長中のベンチャー企業では組織改編や人員の入れ替わりが頻繁に起こるため、一時的に離職率が高くなることもあります。
そのため、離職率を見る際には、単なる数値だけで判断せず、業種や職種の特性、自社の経営状況や人事施策の背景などを含めた多角的な分析が求められます。
定着率・退職率との違い
「離職率」に関連する用語として、「定着率」や「退職率」があります。いずれも似た意味で使われることがありますが、それぞれ違いがあります。
「定着率」は、離職率と逆の考え方で、一定期間後にどれだけの従業員が引き続き在籍しているかを示す指標です。たとえば「新卒3年定着率」が70%であれば、3年後も70%の新卒社員が会社に残っていることを意味します。
一方、「退職率」という言葉は文脈によっては「離職率」とほぼ同義で使われますが、「自己都合退職率」や「会社都合退職率」といったように、離職理由に着目して分類する場合に使われることもあります。
対して「離職率」は、退職理由に関係なく、すべての離職者を含んだ数値であることが一般的です。人事戦略や職場改善を考えるうえで、より汎用性の高い指標として多くの企業で使われています。
離職率が注目されている背景
近年、企業の離職率に対する関心が高まっています。これは、単に人材の流出を防ぐという目的だけでなく、企業経営そのものに深く関わる複数の社会経済的な変化が背景にあるためです。具体的には、以下のとおりです。
人材確保の難化
日本は少子高齢化が急速に進展するなかで、労働人口の減少が深刻な問題となっています。生産年齢人口(15~64歳)は減少の一途をたどっており、企業は新たな人材を確保することがますます困難になっているといえるでしょう。
このような状況下で既存の従業員が離職することは、単に一人分の労働力が失われる以上の意味を持ちます。欠員を補充するための採用活動には広告出稿費や人件費などの多大なコストがかかるうえに、新入社員が組織に馴染み、戦力となるまでには時間と教育投資が必要です。さらに即戦力の優秀な人材を確保するとなると、採用市場の競争はより激しく、コストも高騰する傾向にあります。
そのため、企業にとって「いかに優秀な人材を確保するか」だけでなく、「いかに既存の優秀な人材を定着させるか」が、事業継続と成長のための最重要課題の一つとなっているのです。離職率の低下は採用コストの削減に直結し、安定した組織運営を可能にするため、経営戦略上の優先順位が非常に高くなっています。
働き方の多様化
現代社会では、人々の働き方はかつてないほど多様化しています。終身雇用制度が当たり前だった時代は終わり、テレワークやフレックスタイム制、副業・兼業など、さまざまな働き方が選択肢として広がっています。
これにより、従業員は自身のライフスタイルやキャリアプランに合わせて、より柔軟に働く場所や時間、企業を選ぶことができるようになりました。
また、個人のキャリアに対する価値観も変化しています。一つの企業に長く勤め上げることにこだわらず、自身のスキルアップや市場価値の向上を求めて、積極的に転職を検討するケースは珍しくありません。
このような背景から、企業は従業員に対して、給与や福利厚生だけでなく、働きがいやキャリアパス、企業文化、ワークライフバランスなど、多角的な魅力を提供することが求められるようになっています。従業員が「この会社で働き続けたい」と感じるような環境を整備できなければ、従業員は躊躇なく他の選択肢を選ぶ時代になっているといえるでしょう。
つまり離職率の高さは、企業が時代の変化に対応できていない、あるいは従業員のニーズに応えられていないというシグナルとして捉えられます。
企業ブランディングの重要性
離職率は、企業の内部だけでなく、外部から見た企業イメージやブランド力にも大きな影響を与えます。
高い離職率は、採用活動において不利に働く可能性があります。「あの会社は人の入れ替わりが激しい」「従業員がすぐに辞めてしまう」といった情報は、SNSや口コミサイトを通じてすぐに拡散され、求職者にとってネガティブな企業イメージを与えかねません。結果として、優秀な人材の応募が減少し、採用難に拍車がかかることになります。
一方で、低い離職率は、企業が従業員にとって働きやすい環境を提供していることの証となります。これは「従業員を大切にする企業」というポジティブな企業ブランドを形成し、優秀な人材を引きつける強力な要因となります。
さらに、従業員が企業に満足し、エンゲージメントが高い状態であれば、彼らは企業の「アンバサダー」として、社外にその魅力を発信してくれます。これは、コストをかけずに企業ブランドを高める効果的な手段であり、ひいては企業の競争力向上に貢献します。
サステナブルな経営
現代の企業経営において、サステナビリティ(持続可能性)は不可欠な要素となっています。環境への配慮や社会貢献、ガバナンスの強化といったESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から、企業は単なる利益追求だけでなく、より広範な社会的責任を果たすことが求められています。
離職率の低減は、このサステナブルな企業経営にも大きく貢献します。たとえば、従業員が定着すれば、培った知識やスキル、経験が組織内に蓄積され、次の世代へと継承されていきます。これは、企業の知的資産を最大化し、長期的な成長基盤を築くうえで欠かせません。
頻繁な離職が起きる企業では、こうした知識の流出を招き、企業の成長を阻害する要因となります。
従業員のエンゲージメントを高め、働き続けたいと思える環境を整備することは、企業が社会から信頼され、持続的に発展していくための基盤となります。離職率の改善は、まさにその一歩といえるでしょう。
日本における離職率の現状
日本の離職率を知るうえで重要な資料となるのが、厚生労働省が毎年実施している「雇用動向調査」です。調査によると、令和5年(2023年)の常用労働者全体の年間離職率は15.4%とされています。つまり平均すると毎年の6〜7人に1人程度の従業員が離職している計算です。ただし、割合は業種や企業規模、雇用形態によって大きく異なります。
なかでも高い水準を示しているのが、生活関連サービス業・娯楽業(19.9%)や宿泊業・飲食サービス業(19.8%)といったサービス業です。
また、雇用形態によっても離職率には差が見られます。一般労働者(正社員など)の離職率が12.1%であるのに対し、パートタイム労働者は23.8%と高い水準を示しています。
景気変動や社会的背景も離職率に影響を与えるため、自社の離職率を評価する際は単体で見るのではなく、業界平均や時勢と比較する必要があるでしょう。雇用の流動化が進むなか、企業にとって優秀な人材の定着に向けた取り組みはこれまで以上に重要になっています。
出典:厚生労働省「令和5年 雇用動向調査結果の概要」
離職率の計算方法
離職率は一般的に以下の式に当てはめて計算します。
離職率(%)=(特定の期間における離職者数 ÷ 期間開始時点の在籍者数) × 100
出典:厚生労働省「主な用語の定義」
具体的な計算の手順は以下のとおりです。
1.離職率を計算する期間を定める
まずは、どの期間の離職率を求めるかを決めましょう。年度(1年間)で算出するケースが一般的ですが、四半期ごとや月次で計算する場合もあります。
たとえば、年度末(3月末)を期末とする企業であれば、4月1日から翌年3月31日までを1年間として計算します。期間を明確に定めることで、離職率の推移を追跡しやすくなります。
2.期間開始時点の在籍者数を確認する
次に、計算対象とする期間の開始時点(期首や年度初め)に自社に在籍していた従業員の人数を把握します。正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイトなどを含めるかなど、従業員の範囲を検討しましょう。
なお、厚生労働省の雇用動向調査では、常用労働者(期間の定めなく雇用されている者、または1ヶ月以上の雇用契約者)が対象とされていますが、企業が独自に計算する場合は、分析したい目的に合わせて対象範囲を決定するのが望ましいでしょう。
3.期間中の離職者数を集計する
続いて、定めた期間の中で退職した従業員の人数を集計します。自己都合退職だけでなく定年退職や会社都合退職も含めて、期間中の離職者数を算出しましょう。
「期間開始時点の在籍者数」と「期間中の離職者数」が把握できたら、冒頭の計算式に当てはめて算出します。たとえば、期間開始時点で従業員が200名おり、1年間で20名が退職した場合は、離職率は(20÷200)×100で10%となります。
離職率が高い業界
離職率は業界によって大きく差があり、特に以下の業界では離職率が高い傾向がみられます。
- 宿泊業・飲食サービス業
- 生活関連サービス業・娯楽業
- サービス業(他に分類されないもの)
- 教育・学習支援業
- 医療・福祉
ただし、同じ業界でも企業によって労働環境や待遇は大きく異なるため、個々の企業の状況を見ることが大切です。
宿泊業・飲食サービス業
宿泊業や飲食サービス業は、全業界の中でも離職率が高い傾向にあります。
離職率が高い理由としては、営業時間の関係から早朝や深夜、休日勤務などの不規則な勤務シフトが発生しやすく、ワークライフバランスを保ちにくい職場環境であることが挙げられます。
それに加えて、賃金水準が比較的低いことも多いため、労力に見合った報酬が得られないと感じて離職してしまうケースが少なくありません。また、パート・アルバイトが占める割合が高い業界でもあり、人材の流動性が高くなる傾向にあります。
生活関連サービス業・娯楽業
生活関連サービス業や娯楽業も離職率が高い業界の一つです。美容院や理髪店、クリーニング、フィットネスクラブ、映画館やテーマパーク、パチンコ店などが該当します。
離職率が高い背景には、労働時間が不規則で長時間労働になりがちな勤務体系が離職の原因に挙げられます。また、接客業ではクレーム対応や立ち仕事が多いわりに報酬が低いケースも多く、長期的に働くメリットが見出しにくいと感じて離職するケースもみられます。体力的な負担も大きく、心身の疲労から離職につながる場合もあります。
サービス業(他に分類されないもの)
サービス業(他に分類されないもの)には、廃棄物処理業や自動車整備業、機械等修理業、職業紹介・労働者派遣業などが該当します。
職種によってさまざまな要因がありますが、廃棄物処理や自動車整備などは、現場での作業負担が大きい職種です。事故やケガのリスクもあり、安全が十分に配慮されていない職場では、早期離職につながる要因となります。
派遣業においては非正規雇用が多く、雇用の継続性に不安を抱く人も少なくありません。また、派遣先とのミスマッチによる早期離職の原因となっています。
教育・学習支援業
教育・学習支援業は、小中高などの学校教育に限らず、学習塾の講師や予備校・英会話スクールのスタッフなども該当します。
塾や予備校では夜間や週末の勤務も多く、生活リズムを保つのが難しい場合があります。また、学習塾や専門学校、大学の非常勤講師などでは非正規雇用が多いことも離職率の高さに影響しています。
医療・福祉
医療・福祉分野では介護職や看護職の離職率の高さが課題となっています。
医療や介護の現場では常に人命や健康を預かる責任が伴い、緊張感のある業務が多いことに加え、夜勤やシフト勤務も多く、不規則な勤務になる傾向にあります。
また、介護スタッフは利用者の身体介助など重労働も多く、体力勝負の側面があります。一方で、介護や福祉領域では賃金水準が他産業に比べて低めである場合が多く、社会的に重要な仕事であるにもかかわらず十分な報酬が得られないという不満が離職につながるケースがあります。
離職率が高い職場の傾向
離職率が高い企業や職場には、共通して見られる傾向や問題点があります。ここでは、離職率が高い職場の特徴をいくつか紹介します。
人間関係の問題が多い
職場内の人間関係は、従業員が「働き続けたい」という意欲に直結する要素です。上司や同僚との関係が悪かったり、ハラスメントが横行していたりする職場では、精神的なストレスから離職につながるケースもあります。
また、チーム内で助け合いの精神が欠如していたり、責任の押しつけ合いがあると、個々の負担が大きくなり、疲弊して働く意欲を失ってしまうこともあります。
労働条件や待遇への不満が多い
長時間労働が常態化していたり給与が低かったりすると、従業員の不満となって離職につながります。
自分の働きに見合う報酬が得られないと感じれば、より条件の良い会社を求めて転職を考えるでしょう。加えて、貢献度に見合わない報酬体系や昇給の見通しが立たない状況では、モチベーションの低下が避けられません。
実際、離職率が高い職場では労働時間や給与など待遇面で問題があり、離職を考えるきっかけになることが多い傾向にあります。
仕事内容の不満が多い
入社前に思い描いていた仕事内容と実際の業務内容とのギャップが大きいと、「こんなはずではなかった」と早期に離職してしまうことがあります。
また、仕事が単調すぎてやりがいを感じられなかったり、自分のスキルや強みが活かせない業務ばかりだったりすると、モチベーションが下がって転職を検討する従業員も増えるでしょう。
離職率が高い職場では、従業員の適性に合わない業務を任せたり、役割が不明確で達成感を得づらいなど、仕事への不満が蓄積しがちです。「この仕事を続けても成長できない」と感じた従業員は、将来に不安を覚えて離職してしまうでしょう。
キャリアアップに不安がある
自社で働き続けても昇進・昇格などのキャリアアップの見通しが立たない場合は、転職を検討する従業員が増える可能性があります。
人事評価や昇進の仕組みが不透明だったり年功序列が強かったりと、公平にキャリアを積めない状態では、離職する傾向が高くなるでしょう。
教育研修制度も不十分でスキルアップの機会が乏しいと、成長意欲の高い従業員は「ここにいても成長できない」と感じて転職を決意しやすくなります。
経営・組織文化への不満が多い
会社の経営方針や組織風土に対する不信感も、離職につながる大きな要因です。
たとえば、経営陣の意思決定が現場の実態とかけ離れていたり、会社の将来性に疑問を感じたりする状況では、従業員は自社に留まることに不安を覚えます。
従業員の意見が無視されるワンマン経営や成果より年功を重視する古い風土では、居心地の悪さを感じて離職してしまうことも考えられます。
離職率を下げるための対策
離職率の高さに悩む企業でも、適切な対策を講じることで従業員の離職率を改善することが可能です。
ここでは、離職率を下げるための対策を紹介します。
採用段階でのミスマッチを防ぐ
採用の段階でミスマッチを防ぐことは離職率を低下させるポイントです。応募者に対して仕事内容や職場環境を率直に伝え、自社の求める人物像と合致する人材を採用する工夫をしましょう。
求人票や面接で仕事のやりがいや厳しさを率直に説明したり、社内の雰囲気が伝わるよう会社見学や在籍中の従業員との座談会を実施するなどが考えられます。また、適性検査やインターンシップを活用して人材と仕事のミスマッチを減らすことも有効です。
採用時にお互いのミスマッチを減らすことで、「入ってみたら想像と違った」という早期離職を防止できます。
コミュニケーションを活性化させる
職場のコミュニケーションを円滑にし、人間関係を良好に保つことも離職率防止には欠かせません。たとえば、定期的な1on1ミーティングで上司と部下がじっくり対話する場を設ければ、悩みや不満が早期に発見され、早期離職を防ぎやすくなります。
また、社内イベントや雑談スペースの活用、フリーアドレスやチャットツールなどの導入で、部署を超えた横のつながりを促進するのも効果的です。
加えて、経営層が理念や会社の方向性を直接伝える「社内報」や「タウンホールミーティング」などの機会も、帰属意識を高めるうえで有効となるでしょう。
労働条件や待遇を改善する
労働条件や待遇の改善は、従業員の離職率を低下させる最も有効な取り組みです。長時間労働の是正や休暇制度の創設、ノー残業デーの導入などの制度面と勤怠システムの見直しなどの運用面の両面で対策を講じましょう。
また、給与水準についても定期的に見直し、従業員の貢献度や市場相場に見合った形で反映させる必要があります。福利厚生面では、住宅手当や食事補助の導入、育児・介護支援制度、資格取得補助など、多様なニーズに応える制度の導入が有効です。
働き方の多様化にも対応し、テレワークやフレックスタイム、時短勤務など柔軟な勤務制度を整えることで、ワークライフバランスの実現を後押ししましょう。
公正な評価とキャリア支援を行う
公正で納得感のある人事評価制度を構築し、フィードバックも丁寧に行うことで評価に対する不振や不公平感を払拭できます。
また、将来のキャリアを提示し、具体的にどのような成長機会や役職が目指せるのかを明確にしましょう。社内研修や資格取得支援などを通じて、従業員のスキルアップを後押しする仕組みを作ることも重要な取り組みです。
働きがい・エンゲージメントを向上させる
従業員が「この会社で働き続けたい」と思えるようにするには、仕事へのやりがいや企業へのエンゲージメントを高める施策も離職率改善に有効です。働きがいを向上させるためには、従業員の仕事が意味あるものだと実感できる環境作りが大切です。
定期的なエンゲージメントサーベイや従業員満足度調査(ES調査)を行い、現場の声を把握したうえで改善につなげましょう。
また、成果を出した従業員を表彰する制度を設けたり、自由に意見を言える心理的安全性の高い職場づくりを進めたりすることも働きがいの醸成につながります。
離職を防ぐための具体的なステップ
従業員の離職を防ぐには、問題が顕在化する前に「辞めたい」と思う要因を取り除き、働きがいや居心地のよい環境を構築することが重要です。
ここでは、不必要な離職を防ぐための具体的な4つのステップを解説します。
1.退職理由のヒアリングと分析
離職防止の第一歩は、なぜ従業員が辞めるのかを正確に把握することです。退職する従業員に対して、形式的なアンケートだけでなく、退職面談などで丁寧なヒアリングを行うことが重要です。
ヒアリングの際には、従業員が本音を話しやすいように、信頼関係を築き、安心できる雰囲気をつくる必要があります。質問は給与や待遇だけでなく、人間関係や業務内容、企業文化など、多岐にわたる項目について深掘りしましょう。とくに具体的なエピソードに焦点を当てることで、表面的な理由の奥にある本質的な問題点が見えてくることがあります。
ヒアリングで得られた情報は、個別の事例として終わらせるのではなく、組織全体で集計し、分析しましょう。たとえば「上司との関係性」が離職理由の上位を占めるのであれば、マネジメント層の育成が課題として浮上します。あるいは「期待していた業務と違った」という声が多いのであれば、採用時の情報提供や配属のミスマッチが考えられます。
これらの分析結果をもとに、課題の優先順位をつけ、具体的な改善策を検討します。分析を通じて特定の部署や役職、入社時期に偏りがあるかなどの傾向を掴むことができれば、より効果的な施策を講じられるでしょう。
2.オンボーディングと教育体制の強化
新入社員の早期離職を防ぐうえでは、オンボーディング(新入社員の受け入れプロセス)の質が重要になります。単なる入社手続きやオリエンテーションで終わらせず、戦略的に設計されたオンボーディングプログラムを実施することで、新入社員のエンゲージメントを高め、組織への定着を促進します。
効果的なオンボーディングとしては、以下のような例が挙げられます。
項目 | 詳細 |
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企業理念やビジョンの浸透 | 企業が何を目指し、どのような価値観を大切にしているのかを明確に伝えることで、新入社員は自身の仕事が組織全体にどのように貢献するのかを理解し、帰属意識を高めることができる |
期待役割の明確化 | 新入社員が自身の業務内容や目標を具体的に理解し、何を期待されているのかを明確にすることで、不安を軽減し、早期に戦力化を促す |
人間関係構築のサポート | チームメンバーや部署内のキーパーソンとの交流機会を設けることで、新入社員が孤立することなく、スムーズに人間関係を築けるよう支援する。ランチミーティングや歓迎会なども有効 |
また、入社後の教育体制強化も欠かせません。従業員は、自身のスキルアップやキャリア成長の機会を求めています。OJTによる現場での実践的な指導をはじめ、研修や資格取得支援制度、将来的なキャリアパスの提示なども行いましょう。
これらの取り組みは、新入社員だけでなく、既存の従業員に対しても有効です。従業員が「この会社で成長できる」と感じられれば、離職の選択肢は自然と遠ざかります。
3.メンター制度などのフォローアップ
とくに若手社員や中途入社の社員にとって、入社後の慣れない環境での孤独感や不安は、早期離職の大きな要因となります。これを防ぐためには、メンター制度などの定期的なフォローアップが有効です。
メンター制度は、新入社員や若手社員に対して、年齢や社歴の近い先輩社員を「メンター」としてつける制度です。メンターは、業務上の質問だけでなく、会社生活における悩みや人間関係の相談など、メンターにとっては話しにくい内容についてもサポートします。
また、入社後の一定期間には、人事担当者や直属の上司が定期的にフォローアップ面談を実施することも大切です。業務の進捗状況だけでなく、職場への適応度や困っていること、不満などを聞き取るとよいでしょう。
フォローアップ面談の目的は、問題を早期に発見し、適切なサポートを提供することです。場合によっては、部署異動や業務内容の調整など、具体的な改善策を検討する必要があるかもしれません。従業員に「会社が自分に関心を持ってくれている」「困った時には助けてくれる」と感じてもらうことで、エンゲージメントの向上が期待できます。
4.マネジメント層の育成
従業員の離職理由として多く挙げられるのが、「上司との関係」をはじめとする人間関係です。そのため、マネジメント層の育成は離職防止において重要な要素といえます。
マネジメント層には、単に業務を管理するだけでなく、部下の成長を支援し、モチベーションを高め、チーム全体のエンゲージメントを向上させる役割が求められます。具体的なスキルとしては、コーチングスキルやフィードバックスキル、傾聴力、共感力、心理的安全性への配慮などが挙げられます。マネジメント層への研修を通じて、これらのスキルを体系的に習得させることが重要です。
また、マネジメント層自身のストレスケアやエンゲージメントも、部下のエンゲージメントに直結するため、マネジメント層へのサポートも忘れてはなりません。「この上司の下で働きたい」「このチームで成果を出したい」という感情を醸成できれば、結果として不必要な離職を防ぐことができるでしょう。
まとめ
離職率は、企業の職場環境や経営課題を客観的に示す大切な指標です。離職率が高い場合、その裏には人間関係や待遇、キャリア支援など、さまざまな課題が潜んでいる可能性があります。
大切なのは、離職率という数値をただ追うのではなく、その背後にある課題に真摯に向き合い、従業員にとって安心して働き続けられる環境を整えていくことです。
離職率防止の取り組みは、従業員の満足度や定着率を高めるだけでなく、企業全体の生産性向上やブランディング強化にもつながります。まずは、自社の現状を客観的に分析し、小さな改善から一歩ずつ始めてみましょう。
よくある質問
離職率とは?
離職率とは、特定の期間内にどれだけの従業員が企業を退職したかを割合で示す指標です。人材の流出度合いや職場環境の健全性、従業員の定着状況を数値として把握できるため、多くの企業が重要な指標として離職率を活用しています。
離職率が高い場合はコスト増や企業イメージの悪化などリスクが伴いますが、業界や企業の成長段階によって最適な水準は異なります。
詳しくは、記事内の「離職率とは」をご覧ください。
一般的な離職率はどれくらい?
厚生労働省の調査によると、令和5年(2023年)の常用労働者全体の離職率は15.4%です。ただし、業種や雇用形態によって差があり、パートタイム労働者では23.8%、一般労働者では12.1%とされています。
業種別では宿泊業・飲食サービス業や生活関連サービス業などは特に高い傾向があります。ただし、同じ業界でも企業によって労働環境や待遇は大きく異なるため、個々の企業の状況を見ることが大切です。
詳しくは、記事内の「日本における離職率の現状」で解説しています。