人事労務の基礎知識

【年末調整:2021年の変更点まとめ】2019年から2020年からの変更点もあわせて解説

監修 河島 桃世 特定社会保険労務士

【年末調整:2021年の変更点まとめ】2020年から何が変わったのかを徹底比較・解説
2021年の年末調整は2020年と比べて大きな変更点はありません。

しかし、2020年には税法改正に伴う大きな変更点が多々あり、2019年からの変更について、理解されていない方も多いのではないでしょうか。

また、国税庁は2020年から電子化を推進する方針を明示しており、2021年の年末調整ではこの流れが加速するでしょう。

2021年の年末調整をスムーズに進めるためには、2019年から2020年にかけての税法の大改正に伴う年末調整の変更点を正確に理解しておくことが大前提となります。

本記事では、おさらいとして2020年の年末調整と2019年の年末調整を比較し、どのような変更があったのかを解説するとともに、2020年から強化された年末調整の電子化についても解説します。

目次

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2019年から2020年の変更点のおさらい

2019年から2020年の年末調整での主な変更点は次のとおりです。

参考・引用元:国税庁「年末調整がよくわかるページ(令和3年分)

税務関係書類の押印義務の変更点

行政手続きにおける印鑑の使用が2020年後半に廃止されることが発表されました。

これにより、2021年4月1日以降、税務署長等に提出する年末調整の税務関係書類も、原則として押印が不要となります。年末調整に必要な税務関係書類としては、各種扶養控除等申告書や、退職所得の受給に関する申告書などがあります。

令和2年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(押印有)

令和3年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(押印無)
参考・引用元:国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(令和3年4月)

給与所得控除の変更点

2020年の年末調整からは2019年と比べ、給与の収入金額に対する給与所得控除額の計算方法に変更がありました。

給与の収入金額(A)
給与所得控除額
給与所得控除額
改正後改正前
1,625,000円以下550,000円650,000円
1,625,000円超
1,800,000円以下
(A)×40%-100,000円(A)×40%
1,800,000円超
3,600,000円以下
(A)×30%+80,000円(A)×30%+180,000円
3,600,000円超
6,600,000円以下
(A)×20%+440,000円(A)×20%+540,000円
6,600,000円超
8,500,000円以下
(A)×10%+1,100,000円(A)×10%+1,200,000円
8,500,000円超
10,000,000円以下
1,950,000円
10,000,000円超2,200,000円

参考・引用元:国税庁「給与所得控除

この変更に伴い、年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表も改正されていますので、令和2年分以降の年末調整は上記の参考資料をご利用ください。

【関連記事】
給与所得控除とは? 給与所得控除の意義と計算方法を解説

基礎控除及び所得金額調整控除の変更点

① 基礎控除の変更点

2020年以降は基礎控除額が変更され、2019年までは合計所得金額に制限がなかったのに対し、所得が2,500万円を超える人は基礎控除が受けられなくなりました。

また、所得が2,500万円以下の人の基礎控除額も段階的に変更されました。

合計所得金額基礎控除額
改正後改正前
24,000,000円以下480,000円380,000円
(所得制限なし)
24,000,000円超
24,500,000円以下
320,000円
24,500,000円超
25,000,000円以下
160,000円
25,000,000円超0円

② 子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除が創設されました

その年の給与収入金額が850万円を超える給与所得者で、本人が特別障害者に該当する方、23歳未満の扶養親族がいる方または特別障害者である同一生計配偶者若しくは扶養親族がいる方の総所得金額を計算する場合、給与収入金額(その給与の収入金額が1,000万円を超える場合には、1,000万円)から850万円を控除した金額の10%相当の金額を、給与所得の金額から控除します。

(注)所得金額調整控除には、上記の控除のほか、給与所得と年金所得の双方を有する人に対する所得金額調整控除(以下「所得金額調整控除(年金等)」といいます。)もありますが、年末調整においては、所得金額調整控除(年金等)の適用を受けることはできません。

ただし、確定申告により所得金額調整控除(年金等)の適用を受けようとする方が、年末調整の際に「給与所得者の基礎控除申告書」等で合計所得金額を計算する場合は所得金額調整控除(年金等)を考慮して合計所得金額を計算する必要があります。

③「給与所得者の基礎控除申告書」及び「所得金額調整控除申告書」が新設されました

上記①及び②の改正に伴い、「給与所得者の基礎控除申告書」及び「所得金額調整控除申告書」(注1)がそれぞれ新設されました。

令和3年分給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
画像引用元:国税庁「令和3年分給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書

2020年以降の年末調整で基礎控除又は子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受けようとする所得者は、その年の最後の給与支払日の前日までに「給与所得者の基礎控除申告書」または「所得金額調整控除申告書」を給与支払者に提出しなければなりません。

(注)1租税特別措置法第41条の3の4第1項に規定する申告書をいいます。以下同じです。

2 国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp)に掲載している「給与所得者の基礎控除申告書」及び「所得金額調整控除申告書」については、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」(3様式の兼用様式)となっています。

④ 源泉徴収簿の様式変更

源泉徴収簿に、「所得金額調整控除額⑩」欄、「給与所得控除後の給与等の金額(調整控除後)⑪」欄、「基礎控除額⑲」欄が追加され、「扶養控除額、基礎控除額及び障害者等の控除額の合計額⑯」欄が「扶養控除額及び障害者等の控除額の合計額⑱」欄に変更されました。

これらに伴い、令和元年分の源泉徴収簿の「扶養控除額、基礎控除額及び障害者等の控除額の合計額⑯」欄に基礎控除額を記入していましたが、令和2年分以降の源泉徴収簿では「基礎控除額⑲」欄に記入することになりました。

令和3年分給与所得・退職所得に対する源泉徴収簿
画像引用元:国税庁「令和3年分給与所得・退職所得に対する源泉徴収簿

<源泉徴収簿の変更点>
源泉徴収簿の令和2年度の変更点

左:令和元年分 源泉徴収簿(抜粋)、右:令和2年分 源泉徴収簿(抜粋)


参考・引用元:国税庁「昨年と比べて変わった点|基礎控除及び所得金額調整控除に関する改正

【関連記事】
泉徴収簿とは? 書き方・作成方法

各種所得控除等を受けるための扶養親族等の合計所得金額要件等の変更点

同一生計配偶者、扶養親族、源泉控除対象配偶者、配偶者特別控除の対象となる配偶者、勤労学生の合計所得金額の要件がそれぞれ10万円ずつ引き上げられました。

扶養親族等の区分合計所得金額要件
改正後改正前
同一生計配偶者480,000円以下380,000円以下
扶養親族480,000円以下380,000円以下
源泉控除対象配偶者950,000円以下850,000円以下
配偶者特別控除の対象となる
配偶者(注1)
480,000円超
1,330,000円以下
380,000円超
1,230,000円以下
勤労学生750,000円以下650,000円以下

(注)

  1. 配偶者特別控除額の算定の基礎となる配偶者の合計所得金額の区分についても、それぞれ10万円引き上げられています。
  2. 上記のほか、家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例について、必要経費に算入する金額の最低保障額が55万円(改正前:65万円)に引き下げられています。


ひとり親控除及び寡婦(寡夫)控除に関する変更点

① 未婚のひとり親に対する税制上の措置

給与所得者がひとり親(現に婚姻をしていない人又は配偶者の生死の明らかでない一定の人のうち、次に掲げる要件を満たすものをいいます。以下同じです。)である場合には、ひとり親控除として、その年の合計所得金額から35万円を控除することとされました。

  • イ その人と生計を一にする子(注1)を有すること
  • ロ 合計所得金額が500万円以下であること
  • ハ その人と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる人(注2)がいないこと
(注1)その人と生計を一にする子とは、他の人の同一生計配偶者又は扶養親族とされている人以外で、その年分の合計所得金額が48万円以下の子をいいます。

(注2)その人と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる人とは、次の人をいいます。
  • その人が住民票に世帯主と記載されている人である場合には、その人と同一の世帯に属する人の住民票に世帯主との続柄が世帯主の未届の夫又は未届の妻である旨その他の世帯主と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる続柄である旨の記載がされた人
  • その人が住民票に世帯主と記載されている人でない場合には、その人の住民票に世帯主との続柄が世帯主の未届の夫又は未届の妻である旨その他の世帯主と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる続柄である旨の記載がされているときのその世帯主

② 寡婦(寡夫)控除の見直し

寡婦の要件が以下のように改訂され、寡婦(寡夫)控除がひとり親に該当しない寡婦に係る寡婦控除に改正されました。

  • イ 扶養親族を有する寡婦について、上記①ロの要件が追加されました。
  • ロ 上記①ハの要件が追加されました。
    また、「特別の寡婦」に該当する場合の寡婦控除の特例が廃止されました。

③ 令和2年分以降の年末調整の際の申告

上記の改正点①および②は、令和2年分以降の年末調整から適用され、改正による改正前後の控除に関する適用判定のフロー図は以下のとおりです。

フロー図において、〔改正後〕の「年末調整時の申告」欄が「必要」となっている方は、令和2年分以降の年末調整の際にその異動内容を申告する必要があります。令和2年の最後の給与支払を受ける日の前日までに、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を、給与支払者に提出してください。

令和3年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
画像引用元:国税庁「令和3年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書

改正前の「未婚のひとり親(寡婦(夫)、特別の寡婦に該当しない人)」に該当する方が、適用判定の結果、「ひとり親」に該当する場合は、以下の記載例を参考にして、「寡婦」、「寡夫」又は「特別の寡婦」欄を「ひとり親」に訂正するなど、適宜の方法により申告してください(給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の「左記の内容」欄への記入は不要です)。

〔記載例〕扶養控除等(異動)申告書(ひとり親に該当する場合)
(令和2年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書)

(月々の源泉徴収時)当初申告 → (年末調整時)異動申告
令和2年分扶養控除等(異動)申告書|ひとり親に該当する場合の記載例

【改正前後の控除に係る適用判定のフロー図】
ひとり親控除及び寡婦(寡夫)控除の改正(2020年)前後の控除に係る適用判定のフロー図

(注) 改正前「寡婦(特別の寡婦を除く)」に該当していた方が、上記適用判定により、「寡婦」に該当する場合において、その人と生計を一にする子を有するときは、「ひとり親」(控除額:35万円)に該当し、年末調整の際にその異動内容を申告する必要があります。

引用:国税庁「昨年と比べて変わった点

④ 令和2年分の源泉徴収簿の記載

ひとり親に該当する旨の申告があった場合等には、以下の記載例を参考に、「扶養控除等の申告」欄や欄外の余白などに「ひとり親」と記入してください。

(注)改正前の「寡夫」または「特別の寡婦」に該当する方が、上記適用判定により「ひとり親」に該当する場合、令和2年分以降の年末調整では、「ひとり親」であることを申告する必要はありませんが「ひとり親控除」が適用されますので、源泉徴収簿の訂正漏れにより年末調整に誤りが生じることのないよう、十分ご注意ください。

〔記載例〕源泉徴収簿(ひとり親に該当する場合)
令和2年分源泉徴収簿(ひとり親に該当する場合)の記載例
参考・引用元:国税庁「昨年と比べて変わった点|ひとり親控除及び寡婦(寡夫)控除に関する改正

2021年の年末調整では、「扶養控除等(異動)申告書」と「源泉徴収簿」の様式がひとり親控除に対応した書式に更新されていますので、その書式に沿って記入をしていけば、特別な対応は必要ありません。

各様式は、国税庁ホームページ「令和3年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」、「令和3年分給与所得・退職所得に対する源泉徴収簿」からダウンロードすることができます。

住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の特例の変更点

住宅ローン控除とは、住宅をローンで購入したり、バリアフリーや省エネなどのリフォームを行った場合に、税金の還付を受けることができる制度です。

適用期間は13年間で、正式には「住宅借入金等特別税額控除」といいます。2021年の税制改正では、以下の要件を満たした上で令和3年12月31日までに入居すれば、特例措置の対象となります。

住宅借入金等特別控除の適用要件

  • 新築または取得した日から6ヶ月以内に居住用として使用され、適用を受ける各年の12月31日まで居住者が継続して居住すること
  • 床面積が50平方メートル以上で、床面積の2分の1以上が専ら自己の居住のために使用されていること
  • 特別控除の適用を受ける年の所得金額の合計が3,000万円以下であること
    ※特例特別特例取得の場合、床面積が40平方メートル以上50平方未満で、かつ合計所得金額1,000万円以下となります
  • 10年以上にわたる10年以上のローン返済を行うもの(住宅の敷地の用に供する土地等を住宅とともに取得するための借入金を含む
  • 中古住宅の場合は、耐震性能を満たしていること(その他にも条件があります)
  • リフォームの場合は、工事費用が100万円以上であること(その他にも条件があります)

<契約期限と入居期限>

種類契約期限入居期限
新築(注文住宅)2020年10月1日から
2021年9月30日まで
2021年1月1日から
2022年12月31日
分譲住宅
中古住宅の取得
増改築等
2020年12月1日から
2021年11月30日

2020年以降は、住宅借入金等特別控除申告書も電子データでの提出ができるようになりました。

参考・引用元:国税庁「認定住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)

【関連記事】
【年末調整】2年目からの住宅ローン控除申請の書類の書き方(記入例つき)

2020年(令和2年)10月からの年末調整手続きの電子化に向けた取組

国税庁は、2020年から国として年末調整の電子化を推進する方針を明示しています。

具体的には、令和2年分以降の年末調整から、生命保険料控除、地震保険料控除、住宅借入金等特別控除に係る控除証明書等について、勤務先への電子データ提供が可能となり、年末調整手続の電子化施策が実施されます。

参考・引用元:国税庁「年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)

年末調整電子化とは

国税庁が目指す年末調整の電子化とは、従来の「電子申請」から一歩進んだ取り組みです。

2019年以前も、年末調整の結果である源泉徴収票や法定調書合計表をe-Taxで税務署に提出したり、給与支払報告書をe-taxで各自治体に提出したりすることは可能でした。従来、このような紙ベースの書類を電子申請に置き換えることが「年末調整の電子化」であると認識されてきました。

一方、2020年の年末調整から導入された「年末調整の電子化」は、年末調整の全工程を電子化することを目指しています。具体的には、以下のようなイメージです。

従来型の年末調整年末調整電子化
保険料などの
各種控除証明書の入手
保険会社等からの郵送によるマイナポータルや保険会社等のHPからデータで取得
各種申告書の作成紙に記入国税庁または民間企業が開発した年末調整システムのインターフェースに入力
各種申告書の提出紙で提出電子データで受領、またはクラウド上で共有
年末調整計算の実施紙の申告書の記載内容を給与計算ソフトに手入力の上、計算を行う電子データを給与計算ソフトにインポートないし、クラウド上でシームレスに連携されて自動計算
税務署や市区町村への
年末調整結果の提出
紙または電子申請原則として電子申請
従業員への
源泉徴収票の配布
紙で配布データで送信かクラウド上からダウンロード

従来の年末調整には、紙の申告書を使用していたため、従業員ごとに申告書を配布・回収する必要がありました。また、申告書の記入方法が非常に複雑なため、事前に記入方法を指導したり質問に答えたりする必要がありました。

令和2年以降の年末調整からは、従業員自身で保険会社のウェブサイトやマイナポータルなどで控除証明書などの書類を電子データで入手し、年末調整書類として提出できるようになりました。また、企業は従業員が控除証明書と一緒に年末調整書類をデータで提出できるようにすることで、年末調整の手続きを効率化することができます。

マイナポータルとは

マイナポータルとは、政府が運営するオンラインサービスです。行政手続きの検索や、育児・介護などのワンストップサービスのオンライン申請、行政機関からのお知らせなどを受け取ることができる、自分専用のサイトです。

参考:内閣府「マイナポータルとは

年末調整電子化のメリット

年末調整電子化は、従業員と会社の双方にメリットがあります。

従業員にとってのメリットとしては、システムのインターフェイスを利用して各種申告書を作成することで、手書きの申告書に比べて申告書の作成が大幅に簡略化されることが挙げられます。特に、保険料や扶養関係の控除額の計算が自動化されるメリットは大きいでしょう。

また、紙の保険料などの控除証明書を紛失した場合、保険会社等に再発行してもらわなければなりません。しかし、証明書を電子的に提供・管理すれば、紛失のリスク自体を回避することができます。

会社側のメリットとしては、以下の4点が上げられます。

  1. 各種申告書を配布したり回収したりする手間が無くなること
  2. 記入の際の疑問点について従業員からの質問が減ること
  3. 紙で回収した情報を給与計算ソフトへ入力する手間が無くなること
  4. 紙の申告書や証明書の保管コストが無くなること
年末調整電子化することで、多くのメリットを享受することができます。

年末調整電子化に向けた準備

年末調整電子化に備えるためには、以下の3つのステップで取り組むと良いでしょう。

STEP1 利用ソフトウェアの決定

まず、年末調整電子化に使用するソフトウェアには2つの選択肢があります。

一つは、国税庁が提供する「年末調整控除申告書等作成用ソフトウェア」を利用する方法と、もう一つは民間企業が開発したクラウド上で年末調整を行う機能を持つソフトウェアを利用する方法があります。

国税庁のソフトウェアの最大のメリットは、無料であることです。しかし、クラウド型ではないため、使用するには各従業員がソフトウェアをダウンロードする必要があります。また、管理者が進捗を管理する機能もなく、全従業員のデータをcsvで一括出力して給与計算ソフトに取り込むこともできません。

国税庁のソフトウェアは、従業員の年末調整の申告書作成の効率化を目的としたものであり、管理者の業務を含めた年末調整業務全体の効率化を目的としたものではありません。

一方、民間のソフトウェアを利用する場合は、すでに導入している給与計算ソフトの機能の一部としてクラウドの年末調整機能を利用することができますし、自社システムに対応したサービスを選択することで選択肢が広がります。

給与計算ソフトには、従業員側の申告書作成を効率化するだけでなく、管理者が各従業員の申告書の提出状況を把握できるダッシュボード機能や、未提出者に督促メールを送信する機能などが搭載されているのが一般的です。民間のソフトウェアの導入にはコストがかかりますが、年末調整業務全体の効率化の点では費用対効果が高いと言えます。

どれだけ年末調整を効率化したいかが決まれば、当然どのソフトウェアを利用すべきかが決まります。従業員の申告書作成だけを効率化したいのであれば国税庁のソフトウェアを、年末調整の作業を一気に効率化したいのであれば、民間企業のソフトウェアを使うと良いでしょう。

STEP2 事前準備

次に代表者のマイナンバーカードの取得やe-Tax/eLTAX利用手続きなどの事前準備を行います。

年末調整の電子申告のために必要なもの・事前手続きは以下の4つです。

  1. マイナンバーカードの取得
  2. カードリーダーの購入
  3. e-Tax(イータックス)の利用者識別番号手続き(国税)
  4. eLTAX(エルタックス)の利用者ID手続き(地方税)

【関連記事】
年末調整の電子申告をしよう!オンライン申請のメリットと方法|電子申告に必要なものと手続き

STEP3 従業員への周知と社内体制作り

使用するソフトウェアや、代表者のマイナンバーの取得、e-Tax/eLTAX利用手続きなどの事前準備など、年末調整の会社の方針が決まったら、使用するソフトウェアを従業員に周知します。

申告書を提出する従業員の協力がなければ、年末調整の電子化をスムーズに実現することは難しいでしょう。従来の紙ベースの年末調整からの変更点や使い方を丁寧に説明する必要があります。

具体的な例としては、まず社員会議を開催し、年末調整の全体的な作業の流れを説明します。同時に、不明な点があればいつでも相談できるように、社内に相談窓口を設置し、従業員が疑問に思った時にいつでも相談できる体制を作ります。

【関連記事】
年末調整の電子申告をしよう!オンライン申請のメリットと方法

年末調整申告書の電子データ受領に関する変更点

従来、従業員から年末調整申告書を電子データで回収する場合は、「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を税務署に提出し事前に承認を受ける必要がありましたが、令和3年4月1日以降に従業員から年末調整申告書をデータで受け取る場合は、申請の必要がなくなりました。

ただし、従業員から年末調整申告書及び控除証明書等を電子データで受領を受けるためには、電磁的方法により情報を受領するために必要な措置と、電磁的方法により情報を提供する者の氏名を明らかにするために必要な措置が必要です。

年末調整手続において事前承認が必要なく電子化できる書類

  1. 扶養控除等申告書
  2. 配偶者控除等申告書
  3. 保険料控除申告書
  4. 住宅ローン控除申告書
  5. 基礎控除申告書
  6. 所得金額調整控除申告書
  7. 保険料控除証明書(生命保険料(新・旧)、個人年金保険料(新・旧)、介護医療保険料及び地震保険料に限ります。)
  8. 住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除証明書
  9. 年末残高等証明書

また、電子データで提供された年末調整に関する書類は、税務署長から提出を求められた場合を除き、提出すべき年の翌年の1月10日から7年間保存しなければなりません。

参考・引用元:国税庁「年末調整手続の電子化及び年調ソフト等に関するFAQ(令和3年6月改訂版)

まとめ

年末調整の作業はますます複雑になっており、2020年の年末調整を紙ベースで行うことで、多大な負担を感じていた企業は多いのではないでしょうか。

確かに年末調整電子化のシステムを整えるのは負担が大きいですが、一度システムを導入すれば、その後の年末調整の実務は大幅に簡素化されます

所得税法の改正により、2020年以降は年末調整の電子化やクラウド化に手が回らなかった企業も多いと多いますが、2021年には年末調整の電子化に積極的に取り組んでいただきたいと思います。

監修 河島 桃世 特定社会保険労務士

日本年金機構(旧:社会保険庁含む)に15年勤務後、社会保険労務士に。
「人事労務freee認定アドバイザー」社労士事務所。就業規則、労務問題の対応だけでなく、バックオフィス(クラウド給与計算、勤怠管理システムやテレワーク導入など)の効率化の為に積極的にIT導入支援を行っています。
行動指針でもある「私たちは”しません”5つのこと」を掲げている個性的な事務所です。

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