
変形労働時間制とは、労働基準法で定められた法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を、一定期間の平均で満たせばよいという制度です。法定労働時間を超えない範囲であれば、特定の時期に労働時間を長くしたり、閑散期には短くしたりすることが可能であり、労働時間を柔軟に設定できるため、従業員のワークライフバランス向上や業務効率化が期待できます。
本記事では、変形労働時間制とは何か、変形労働時間制の種類、変形労働時間制のメリット・デメリット、変形労働時間制を導入する流れについて解説します。
目次
- 変形労働時間制とは
- 変形労働時間制と裁量労働制の違い
- 変形労働時間制の種類
- 月単位の変形労働時間制
- 年単位の変形労働時間制
- 週単位の変形労働時間制
- フレックスタイム制の変形労働時間制
- 変形労働時間制のメリット
- 従業員のワークライフバランスの向上
- 残業代の削減
- 生産性の向上
- 変形労働時間制のデメリット
- 労働者の負担増加
- 勤怠管理の複雑化
- 労働基準法違反のリスク
- 変形労働時間制を導入する流れ
- 1.勤務状態を調査する
- 2.制度の対象者を検討する
- 3.適用期間・所定労働時間を決める
- 4.就業規則を改定する
- 5.労使協定を締結する
- 6.労働基準法に届け出を行う
- 7.従業員向けの説明会を行う
- 8.変形労働時間制の運用を開始する
- まとめ
- 勤怠管理をカンタンに行う方法
- よくある質問
変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、労働基準法で定められた法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を、一定期間の平均で満たせばよいという制度です。法定労働時間を超えない範囲であれば、特定の時期に労働時間を長くしたり、閑散期には短くしたりすることが可能であり、労働時間を柔軟に設定することができます。
変形労働時間制の導入によって、従業員のワークライフバランス向上や業務効率化が期待できますが、かえって従業員の負担が増加してしまうケースもあります。また、勤怠管理の複雑化にも注意が必要です。
変形労働時間制と裁量労働制の違い
変形労働時間制と混同されやすいものに「裁量労働制」があります。
裁量労働制とは、労働者が自分の裁量で労働時間を決定できる制度です。変形労働時間制との主な違いは、以下のとおりです。
変形労働時間制 | 裁量労働制 |
---|---|
労働基準法で定められた法定労働時間を超えることはできない | 法定労働時間を超える可能性がある |
一定期間の平均で法定労働時間を満たせばよいので、1日8時間以上働いても問題ない | 1日8時間以上働くことはできない |
労働者が自由に労働時間を決定することはできない | 労働者が自由に労働時間を決定できる |
変形労働時間制の種類
変形労働時間制は、次の4つの種類に分けられます。
- 月単位の変形労働時間制
- 年単位の変形労働時間制
- 週単位の変形労働時間制
- フレックスタイム制
それぞれの概要について解説します。
月単位の変形労働時間制
月単位変形労働時間制とは、1ヶ月間の労働時間を平均で法定労働時間以内にする制度のことです。1日8時間労働でない日があったとしても、週平均で40時間未満であれば問題ないため、1日10時間労働や6時間労働などが認められます。
月単位変形労働時間制は、1ヶ月のなかで繁閑が顕著になりやすいケースに適しています。
月単位の変形労働時間制 | |
---|---|
変形労働時間制についての労使協定の締結 | 必要※ |
労使協定の監督署への届出 | 必要 |
休日の付与日数と連続労働日数の制限 | 週1日または4週4日の休日 |
1日の労働時間の上限 | なし |
1週の労働時間の上限 | なし |
1週平均の労働時間 | 40時間(特例44時間) |
時間・時刻は会社が指示する | 必要 |
出退勤時刻の個人選択制 | なし |
あらかじめ就業規則等で時間・日を明記 | 必要 |
就業規則変更届の提出(10人以上) | 必要(10人未満の事業場でも準ずる規程が必要) |
※ 労使協定の締結または就業規則などで定めることにより導入が可能
出典:厚生労働省 徳島労働局「変形労働時間制」
年単位の変形労働時間制
年単位変形労働時間制とは、1年間の労働時間を平均で法定労働時間以内にする制度です。
たとえば繁忙期には1日10時間労働、閑散期には1日6時間労働といった調整が可能です。ただし、1年間の労働日数は280日、1日の労働時間は10時間、1週間の労働時間は52時間までに制限されています。
年間において、特定時期のみ繁忙期があるケースなどに適しています。
年単位の変形労働時間制 | |
---|---|
変形労働時間制についての労使協定の締結 | 必要 |
労使協定の監督署への届出 | 必要 |
休日の付与日数と連続労働日数の制限 | 週1日※1 |
1日の労働時間の上限 | 10時間 |
1週の労働時間の上限 | 52時間※2 |
1週平均の労働時間 | 40時間 |
時間・時刻は会社が指示する | 必要 |
出退勤時刻の個人選択制 | なし |
あらかじめ就業規則等で時間・日を明記 | 必要※3 |
就業規則変更届の提出(10人以上) | 必要 |
※1 対象期間における連続労働日数は6日(特定期間については12日)
※2 対象期間が3ヶ月を超える場合は、回数などの制限がある
※3 1ヶ月以上の期間ごとに区分を設けて労働日や労働時間を特定する場合は、休日、始・終業時刻に関する考え方、周知方法などの定めを行う
出典:厚生労働省 徳島労働局「変形労働時間制」
週単位の変形労働時間制
週単位変形労働時間制とは、1週間の労働時間を平均で法定労働時間以内にする制度のことです。
たとえば、月曜日から木曜日まで1日10時間労働し、金曜日から日曜日までの3日間は休むといった働き方が可能になります。ただし、週単位の変形労働時間制は30人未満の小売業、旅館および飲食店業に限られています。
また、週単位変形労働時間制においては、所定労働時間は1週間あたり40時間以内、1日あたり10時間以内と定めて、超過分は割増賃金を支払うことになります。
日ごとの労働時間を少なくとも1週間前に書面によって通知する必要などもありますが、日による繁閑が予測しづらいケースに適しています。
週単位の変形労働時間制 | |||
---|---|---|---|
変形労働時間制についての労使協定の締結 | 必要 | ||
労使協定の監督署への届出 | 必要 | ||
休日の付与日数と連続労働日数の制限 | 週1日または4週4日の休日 | ||
1日の労働時間の上限 | 10時間 | ||
1週の労働時間の上限 | なし | ||
1週平均の労働時間 | 40時間 | ||
時間・時刻は会社が指示する | 必要 | ||
出退勤時刻の個人選択制 | なし | ||
あらかじめ就業規則等で時間・日を明記 | なし | ||
就業規則変更届の提出(10人以上) | 必要 |
フレックスタイム制の変形労働時間制
フレックスタイム制とは、コアタイムと呼ばれる一定の時間帯に労働時間を集中させる制度です。
たとえば、コアタイムを10時から16時に設定する場合、それ以外の時間帯は労働者自らが自由に労働時間を決定できます。
フレックスタイム制の変形労働時間制 | |
---|---|
変形労働時間制についての労使協定の締結 | 必要 |
労使協定の監督署への届出 | なし |
休日の付与日数と連続労働日数の制限 | 週1日または4週4日の休日 |
1日の労働時間の上限 | なし |
1週の労働時間の上限 | なし |
1週平均の労働時間 | 40時間(特例44時間) |
時間・時刻は会社が指示する | 必要 |
出退勤時刻の個人選択制 | あり |
あらかじめ就業規則等で時間・日を明記 | なし |
就業規則変更届の提出(10人以上) | 必要 |
変形労働時間制のメリット
変形労働時間制を導入することで、具体的にどのようなメリットがあるのか説明します。
従業員のワークライフバランスの向上
変形労働時間制を導入すると、従業員は自分のライフスタイルに合わせて労働時間を調整できます。
子育てや介護をしている従業員が、規定の労働時間に縛られずに無理なく働けるといったケースが想定でき、従業員のワークライフバランス向上が期待できます。
残業代の削減
変形労働時間制を導入すれば、閑散期は従業員が働く時間を減らし、反対に繁忙期は増やすなどの調整ができます。閑散期と繁忙期で業務量の差が大きい職場の場合、無駄な残業代を削減しやすくなります。
生産性の向上
変形労働時間制では、業務量にあわせて労働時間を調整できます。人的なリソースの配分を最適化させやすくなり、生産性の向上が期待できます。
変形労働時間制のデメリット
変形労働時間制の導入によって生じる可能性があるデメリットについて説明します。
労働者の負担増加
変形労働時間制を導入すると、夜勤や休日出勤を前提とした勤務体制になる場合もあります。従業員の負担が増える可能性がでてきます。
勤怠管理の複雑化
変形労働時間制においては、時期によって所定労働時間が変動します。勤怠管理が複雑になりやすく、管理職や労務担当者の手間が増える可能性があります。
労働基準法違反のリスク
変形労働時間制の導入後、管理が行き届いていないと法定労働時間を超えた労働につながる可能性があり、労働基準法違反になるリスクがあります。
労働基準法に違反することがないように、就業規則上の明確なルールの設定とマネジメントを行いましょう。
変形労働時間制を導入する流れ
変形労働時間制を導入する流れを、ステップごとに解説します。
1.勤務状態を調査する
まずは従業員の勤務実績を調査し、繁忙期と閑散期を特定します。具体的には、過去の勤怠データを分析して、業務量の変動を調査しましょう。
この調査によって、どの時期に労働時間を調整する必要があるかを把握することで、変形労働時間制の導入の可否を判断できます。
2.制度の対象者を検討する
次に、変形労働時間制を適用する対象者を決定します。
繁忙期と閑散期の労働時間の差が大きい部署や職種から選定するのがおすすめです。業務の特性や従業員の勤務状況を考慮して選定しましょう。
3.適用期間・所定労働時間を決める
対象者を選定したら、適用する期間や所定労働時間を設定します。
繁忙期には労働時間を長く閑散期には短くし、全体として法定労働時間を超えないように調整します。この段階で、具体的な時間配分を明確にします。
4.就業規則を改定する
変形労働時間制を初めて導入する場合、就業規則の改定も必要です。
新たに設定する労働時間や対象者、適用期間などを規則に明記し、従業員への周知も行いましょう。これによって、社内における制度の透明性を確保し、従業員からの理解を得ることができます。
5.労使協定を締結する
変形労働時間制を導入・運用する際には、従業員代表との労使協定の締結が必要です。
この協定には、変形労働時間制の適用に関する詳細な内容を盛り込み、双方の合意を得なければなりません。協定の内容は後述する労働基準監督署への届け出にも必要になります。
6.労働基準法に届け出を行う
就業規則の改定や労使協定の締結が完了したら、労働基準監督署に届け出を行います。
この手続きは法的に義務付けられており、適切に行わなければなりません。また、36協定も必要に応じて提出します。
7.従業員向けの説明会を行う
制度の導入にあたり従業員向けの説明会を開催し、周知を行います。
説明会では、変形労働時間制の目的や運用方法、メリット・デメリットについて詳しく説明し、従業員の理解を深めることが重要です。従業員からの質問にも丁寧に対応しましょう。
8.変形労働時間制の運用を開始する
1〜7までのステップを経て、変形労働時間制の運用を開始します。
運用開始後は、実際の運用状況を定期的に見直し、必要に応じて改善を行いましょう。従業員の意見を反映させることで、制度の効果を最大限に引き出せます。
まとめ
変形労働時間制を導入することで、従業員のワークライフバランス向上や業務効率化が期待できますが、適切な制度設計や運用ができない場合は、想定していた効果が得られないのに加えて、法令違反とみなされる可能性もあります。
変形労働時間制の導入を検討する際は、本記事で解説した内容を参考にしてください。
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よくある質問
変形労働時間制とは?
変形労働時間制とは、労働基準法で定められた法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を、一定期間の平均で満たせばよいという制度です。
詳しくは記事内「変形労働時間制とは」をご覧ください。
変形労働時間制の種類は?
変形労働時間制には、月単位の変形労働時間制、年単位の変形労働時間制、週単位の変形労働時間制、フレックスタイム制の4種類があります。
詳しくは記事内「変形労働時間制の種類」で解説しています。